表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/224

第13節 立坑は40メートルくらいあるようですが使えますか?

RPGとかのボスは何回か変身して強くなります。

その悲壮感とワクワク感がたまりません。

ボスだと思った相手を倒した時、そいつが雑魚に思えるような真のボスが現れる。

そこまでではないですが、今回はそんなお話です。あと、第1章の最終節になります。

<前回の3行あらすじ>

  白骨死体を製造したデカブツがいた。4階層への登り通路を塞ぐ形で鎮座している。

  3匹のスケルトンオークだった。攻撃、防御、封鎖と役割分担ができていて優秀。

  骨を砕くも、10秒かからず復活した。これ詰んでない?



 という訳で、詰んでいる状態からの、スケルトンオーク攻略。

 さて、正攻法では無理だと解ったので、小狡い方法を考えた。


 先ほど、1回だけ盾に防がれずに骨を砕くことができた。

 できたのだが、骨自体は折れたにもかかわらず、すぐに元に戻った。

 10秒かからなかった。


 つまり、物理攻撃は効かないと考えた方がいい。

 でも、残念なことに、こちらは物理攻撃しか攻撃手段がない。


 普通に考えれば、「詰み」である。


 じゃあ、どうするのか。

 ヒントは、ゲームだった。

 某携帯ゲーム機のオープンワールド系ゲームにおいて、骨の相手をする場合、正攻法以外でも、相手を何とかする方法があった。


 崖から突き落とす。


 という方法が。

 崖なんか、坑道の中にないじゃないか、と言わないでほしい。

 崖はないけど、穴はある。

 立坑だ。


 あれ、かなり下までつながっている。

 最も水位が上がっているので、そこまで下じゃないが。



「ユリ、あいつの骨、美味しそうか?」

「ワォん。」

「じゃあ、大きいの一本、とってこい!」


 犬は基本的に「とってこい」が大好きだ。

 ユリもその例に漏れなかった。


 頭上から、ユリが消えた。

 一瞬だ。

 そしてすぐに頭上に戻った。

 口には骨が。

 どこの骨だ?

 結構長いのだが。


 正面のスケルトンオークを見ると、大楯を取り落としている。

 これ、腕の骨だ。


 ユリに左上腕骨を取られて、大楯を持てなくなったのだ。

 嫌がるユリから骨を奪うと、レインにパスする。

 レインは、骨を持って飛んで行った。

 立坑にぽいした。


 しばらく様子を見るが、盗み取って捨てた骨は復活しない。

 飛んで戻ってきたりもしない。


 次は、右上腕骨を盗んだ。

 からん、と音を立てて大剣が床に落ちた。

 スケルトンオークAの両腕を奪うことに成功した。

 これで、通常の攻撃ができなくなった。


 剣を拝借しようと思ったが、重すぎて持てない。

 剣と大楯は、レインが鉄道鞄に空間魔法で収納しました。

 後で売れるかもしれないからな。

 それと、うっかり復活した時に使われるの嫌だし。


 こうなると、もう、スケルトンオークとしては蹴るか噛みつくかしかない。


 ユリが、大腿骨を順番に盗み取ると、スケルトンオークは移動できなくなった。

 上半身だけになったので、首の後ろを掴んで、立坑にぽいしてきた。


 こうして、1匹目は片ついた。


 ひどいチートだ。


 RPGの好きな人に、戦闘中に相手の骨を盗むって言ったら、とっちめられそうなくらいのチートだ。


 でも、これが現実のいいところ。

 普通のRPGでは、こういう攻撃はできない。

 当たり前だ。

 難敵が、思いの外弱くなってしまう。


 1匹倒すのに30分かかった。

 事前の調査にも30分かかっている。

 骨を落とすときに、立坑を覗いたら、7階層は水没していた。

 いつも通りに、やはり時間がない。


 眠そうなユリを酷使して、2匹目と3匹目からも、重要な骨を盗み、最短でバラバラにして、立坑に捨ててきた。

 それでも残りの2匹を無力化するのに1時間かかった。


 ちなみに、伊藤さんがスキルを使ってみたが、効果がなかった。

 まあ、分かってたし。

 相手が生き物じゃない時点で、無理だって知ってたし。

 さすがにアンデットは無理だったよ。


 大剣3本と大楯3枚、兜3個を簒奪した。

 そして周辺から白骨死体が使っていたと思われるツルハシ10本を回収した。

 レインが飛び回ってこれらのものを鉄道鞄に空間魔法で収納した。

 ここまでで一番の大収穫だ。


 偉そうにも

「倒さなくても攻略できるのでは?」

 と言っていたが、結局のところ方法はアレであるものの倒してしまった。

 ある意味詐欺である。


 それはそれとして、精神的にはともかく、肉体的にはあまり消耗しなかった。

 僕の頭皮だけ、ユリのパーティーアタックにより結構なダメージを受けてしまったが。


 上の階層へ進むため、スケルトンオークが守っていた登り斜坑に入った。

 この登り斜坑でも、上から水が流れ落ちてきている。

 時間制限があることは、忘れないようにしたい。

 そうして無言で登り斜坑を登ると、4階層に出た。

 今回の斜坑は、1階層分だけだった。


 そして、4階層を歩く。

 足取りはちょっと軽い。

 なぜなら、何だか前方が明るいからだ。


 かなり遠くに、次の登り斜坑が見えている。

 そこから光が漏れているのだ。

 すなわち、出口が近い可能性が高い。


 すでに19時を過ぎているので、前の世界と同じで冬ならば、日没後だろう。

 それでも光源のない坑道からすれば明るいのだ。 


 急いで進んだ。


 伊藤さんも、さすがに出口の可能性を考えると、急いで歩いた。


 夕食の時間だ。

 かなりお腹が空いている。

 外に出たら、ため込んできた、マインウルフの肉、焼いて食べるんだ。


 そんなフラグみたいなことを考えていたが、この階層ではマインウルフに遭遇することもなく、3階層へと進むことができた。


 3階層に出ると、距離はあるものの、正面に外界への出口があることが見て取れた。

 ここで女神に勝ったと思った。


 ザマァである。


 殺そうと思った僕たちは、何のことはなく(そんなことはない)無事に脱出できそうなのだ。

 これ以上の仕返しはない。



 油断というのは、心の緊張の糸がきれたときにやってくる。

 助かった、と思った時が一番危ないとよく言われている。



 出口に近づくにつれて、とても寒くなってきた。

 着ている服は全員未だにずぶ濡れだ。

 できれば火を焚いて乾かしたい。

 でもここは坑道。

 できる限り火気は使用したくない。


 遠目にも、外に雪が積もっていることに気がついたとき、先行して出口からちょうど出るところだった伊藤さんが、飛んで戻ってきた。

 レインじゃないので、自力では飛べない。

 飛ばされたのだ。


 出口の外には白い毛に覆われた3メートルくらいの大きなクマがいた。

 右前足には赤い血がベットリとついていた。


 そして気がついた。

 伊藤さんの体からも、血が出ていることに。

 内臓がはみ出してるとかはないけど、おそらく重傷であることに。


 おい、おまえクマだろ! 冬眠してろよ!

 そう思ったが、現実的に目の前のクマは、冬眠していない。

 どちらかといえば、寒さに強そうな感じだ。


「マスター。あれ、『ホワイトベアー』です。いわゆる白熊です。」

「で、こいつは強いんか?」

「かなり強いです。」

「伊藤さんも助けたい。」

「おそらく、マスターも助かりませんよ、今のままでは。」


「ユリ」

「キャぅ〜ん」


 だめだ。

 ユリ的にも無理な相手らしい。

 頭の上で尻尾を丸めているのがよくわかる。

 それも頭皮に良くないが。


「詰んだ、か?」

「あの女神もどき、さいあくですね。これが上げて落とすのいいれいです。」


 伊藤さんがホワイトベアーからの初撃で、致命傷を受けて倒れた。

 こちらの攻撃手段は少ない。

 というよりも相手が大きい。


 大きすぎる。


 大きすぎる?


 具体的には、坑道に入ってこられないくらいに。


 あ、ここ安全地帯なのでは?


「レイン、ホワイトベアーは、坑道に入れないんじゃないか?」

「もしかすると、そうかもしれません。」

「伊藤さんを助けるぞ。」

「はいです。」


 坑道の入り口付近に倒れている伊藤さんを抱えると、5メートルくらい内側に運んでから、横たわらせた。

 そして、破いて残っていたYシャツを包帯がわりにして、傷口を塞ぐ。

 今はそれくらいしかできないが、運が良ければそれだけでも助かる。


 女の子としては、体の前面に、こんな大きな傷をつけてしまっては、助かったとしても、心の傷となるだろう。


 坑道に入ろうともがいている巨大なホワイトベアーを見ながら、今後はどうしようか途方に暮れるのであった。

ご愛読ありがとうございます。

結構な数の人がご覧になってくださっていることを知り、もっと頑張ろうと思いました。

文章力、もっと鍛えないとですね。

そして、次回からは第1.5章になります。

主人公とは異なる視点での話が5話ほど挟まります。

ザマァするする詐欺とはどういうことなのか、楽しんでいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ