第13節 立坑は40メートルくらいあるようですが使えますか?
RPGとかのボスは何回か変身して強くなります。
その悲壮感とワクワク感がたまりません。
ボスだと思った相手を倒した時、そいつが雑魚に思えるような真のボスが現れる。
そこまでではないですが、今回はそんなお話です。あと、第1章の最終節になります。
<前回の3行あらすじ>
白骨死体を製造したデカブツがいた。4階層への登り通路を塞ぐ形で鎮座している。
3匹のスケルトンオークだった。攻撃、防御、封鎖と役割分担ができていて優秀。
骨を砕くも、10秒かからず復活した。これ詰んでない?
という訳で、詰んでいる状態からの、スケルトンオーク攻略。
さて、正攻法では無理だと解ったので、小狡い方法を考えた。
先ほど、1回だけ盾に防がれずに骨を砕くことができた。
できたのだが、骨自体は折れたにもかかわらず、すぐに元に戻った。
10秒かからなかった。
つまり、物理攻撃は効かないと考えた方がいい。
でも、残念なことに、こちらは物理攻撃しか攻撃手段がない。
普通に考えれば、「詰み」である。
じゃあ、どうするのか。
ヒントは、ゲームだった。
某携帯ゲーム機のオープンワールド系ゲームにおいて、骨の相手をする場合、正攻法以外でも、相手を何とかする方法があった。
崖から突き落とす。
という方法が。
崖なんか、坑道の中にないじゃないか、と言わないでほしい。
崖はないけど、穴はある。
立坑だ。
あれ、かなり下までつながっている。
最も水位が上がっているので、そこまで下じゃないが。
「ユリ、あいつの骨、美味しそうか?」
「ワォん。」
「じゃあ、大きいの一本、とってこい!」
犬は基本的に「とってこい」が大好きだ。
ユリもその例に漏れなかった。
頭上から、ユリが消えた。
一瞬だ。
そしてすぐに頭上に戻った。
口には骨が。
どこの骨だ?
結構長いのだが。
正面のスケルトンオークを見ると、大楯を取り落としている。
これ、腕の骨だ。
ユリに左上腕骨を取られて、大楯を持てなくなったのだ。
嫌がるユリから骨を奪うと、レインにパスする。
レインは、骨を持って飛んで行った。
立坑にぽいした。
しばらく様子を見るが、盗み取って捨てた骨は復活しない。
飛んで戻ってきたりもしない。
次は、右上腕骨を盗んだ。
からん、と音を立てて大剣が床に落ちた。
スケルトンオークAの両腕を奪うことに成功した。
これで、通常の攻撃ができなくなった。
剣を拝借しようと思ったが、重すぎて持てない。
剣と大楯は、レインが鉄道鞄に空間魔法で収納しました。
後で売れるかもしれないからな。
それと、うっかり復活した時に使われるの嫌だし。
こうなると、もう、スケルトンオークとしては蹴るか噛みつくかしかない。
ユリが、大腿骨を順番に盗み取ると、スケルトンオークは移動できなくなった。
上半身だけになったので、首の後ろを掴んで、立坑にぽいしてきた。
こうして、1匹目は片ついた。
ひどいチートだ。
RPGの好きな人に、戦闘中に相手の骨を盗むって言ったら、とっちめられそうなくらいのチートだ。
でも、これが現実のいいところ。
普通のRPGでは、こういう攻撃はできない。
当たり前だ。
難敵が、思いの外弱くなってしまう。
1匹倒すのに30分かかった。
事前の調査にも30分かかっている。
骨を落とすときに、立坑を覗いたら、7階層は水没していた。
いつも通りに、やはり時間がない。
眠そうなユリを酷使して、2匹目と3匹目からも、重要な骨を盗み、最短でバラバラにして、立坑に捨ててきた。
それでも残りの2匹を無力化するのに1時間かかった。
ちなみに、伊藤さんがスキルを使ってみたが、効果がなかった。
まあ、分かってたし。
相手が生き物じゃない時点で、無理だって知ってたし。
さすがにアンデットは無理だったよ。
大剣3本と大楯3枚、兜3個を簒奪した。
そして周辺から白骨死体が使っていたと思われるツルハシ10本を回収した。
レインが飛び回ってこれらのものを鉄道鞄に空間魔法で収納した。
ここまでで一番の大収穫だ。
偉そうにも
「倒さなくても攻略できるのでは?」
と言っていたが、結局のところ方法はアレであるものの倒してしまった。
ある意味詐欺である。
それはそれとして、精神的にはともかく、肉体的にはあまり消耗しなかった。
僕の頭皮だけ、ユリのパーティーアタックにより結構なダメージを受けてしまったが。
上の階層へ進むため、スケルトンオークが守っていた登り斜坑に入った。
この登り斜坑でも、上から水が流れ落ちてきている。
時間制限があることは、忘れないようにしたい。
そうして無言で登り斜坑を登ると、4階層に出た。
今回の斜坑は、1階層分だけだった。
そして、4階層を歩く。
足取りはちょっと軽い。
なぜなら、何だか前方が明るいからだ。
かなり遠くに、次の登り斜坑が見えている。
そこから光が漏れているのだ。
すなわち、出口が近い可能性が高い。
すでに19時を過ぎているので、前の世界と同じで冬ならば、日没後だろう。
それでも光源のない坑道からすれば明るいのだ。
急いで進んだ。
伊藤さんも、さすがに出口の可能性を考えると、急いで歩いた。
夕食の時間だ。
かなりお腹が空いている。
外に出たら、ため込んできた、マインウルフの肉、焼いて食べるんだ。
そんなフラグみたいなことを考えていたが、この階層ではマインウルフに遭遇することもなく、3階層へと進むことができた。
3階層に出ると、距離はあるものの、正面に外界への出口があることが見て取れた。
ここで女神に勝ったと思った。
ザマァである。
殺そうと思った僕たちは、何のことはなく(そんなことはない)無事に脱出できそうなのだ。
これ以上の仕返しはない。
油断というのは、心の緊張の糸がきれたときにやってくる。
助かった、と思った時が一番危ないとよく言われている。
出口に近づくにつれて、とても寒くなってきた。
着ている服は全員未だにずぶ濡れだ。
できれば火を焚いて乾かしたい。
でもここは坑道。
できる限り火気は使用したくない。
遠目にも、外に雪が積もっていることに気がついたとき、先行して出口からちょうど出るところだった伊藤さんが、飛んで戻ってきた。
レインじゃないので、自力では飛べない。
飛ばされたのだ。
出口の外には白い毛に覆われた3メートルくらいの大きなクマがいた。
右前足には赤い血がベットリとついていた。
そして気がついた。
伊藤さんの体からも、血が出ていることに。
内臓がはみ出してるとかはないけど、おそらく重傷であることに。
おい、おまえクマだろ! 冬眠してろよ!
そう思ったが、現実的に目の前のクマは、冬眠していない。
どちらかといえば、寒さに強そうな感じだ。
「マスター。あれ、『ホワイトベアー』です。いわゆる白熊です。」
「で、こいつは強いんか?」
「かなり強いです。」
「伊藤さんも助けたい。」
「おそらく、マスターも助かりませんよ、今のままでは。」
「ユリ」
「キャぅ〜ん」
だめだ。
ユリ的にも無理な相手らしい。
頭の上で尻尾を丸めているのがよくわかる。
それも頭皮に良くないが。
「詰んだ、か?」
「あの女神もどき、さいあくですね。これが上げて落とすのいいれいです。」
伊藤さんがホワイトベアーからの初撃で、致命傷を受けて倒れた。
こちらの攻撃手段は少ない。
というよりも相手が大きい。
大きすぎる。
大きすぎる?
具体的には、坑道に入ってこられないくらいに。
あ、ここ安全地帯なのでは?
「レイン、ホワイトベアーは、坑道に入れないんじゃないか?」
「もしかすると、そうかもしれません。」
「伊藤さんを助けるぞ。」
「はいです。」
坑道の入り口付近に倒れている伊藤さんを抱えると、5メートルくらい内側に運んでから、横たわらせた。
そして、破いて残っていたYシャツを包帯がわりにして、傷口を塞ぐ。
今はそれくらいしかできないが、運が良ければそれだけでも助かる。
女の子としては、体の前面に、こんな大きな傷をつけてしまっては、助かったとしても、心の傷となるだろう。
坑道に入ろうともがいている巨大なホワイトベアーを見ながら、今後はどうしようか途方に暮れるのであった。
ご愛読ありがとうございます。
結構な数の人がご覧になってくださっていることを知り、もっと頑張ろうと思いました。
文章力、もっと鍛えないとですね。
そして、次回からは第1.5章になります。
主人公とは異なる視点での話が5話ほど挟まります。
ザマァするする詐欺とはどういうことなのか、楽しんでいただければ幸いです。