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女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第8章 オーバーランしても後退禁止ってなぜ?
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第92節 ネトラレ山の砦と野湯包囲網

新章です。

ネトラレ山とその西側が中心となる章です。

ネトラレものではありません。

ちなみに、ネトラレ山の名前の元ネタは、伊豆半島南部のロープウェイのあるあの山です。

今回は、前章最終節のつなぎになります。

そして温泉のお話です。

それではどうぞ。

<異世界召喚後38日目昼>

場所:ヨーコー嬢王国ウーバン領ネトラレ山山頂

視点:クロウ(ダークエレメント)


注意:一人称視点のクロウは、かなり重度の厨二病患者です。


 ネトラレ山の山頂決戦は、俺たちの勝ちだったのか負けだったのか。

 それは、当事者の俺たちが決めることじゃない。

 後世の歴史が語ってくれるだろう。


 ノナカの最後の一撃は、シルバースライムのカタリナが鎖帷子からレイピア状に変形しての、特殊な刺突攻撃。

 カタリナの「HP継続減少攻撃」スキルが炸裂した。

 最初の攻撃がヒットしさえすれば、カタリナが抜け落ちるまでは継続してHPを削ることができる。

 重要なのは、この削られるHPが、固定数値だったと言うこと。


 悪魔フリドラには、「HP反比例効果」というスキルがあって、HPが1割を切ると、そのHP減少率に反比例して、攻撃力と守備力が倍増すると言うチートスキルがあった。

 一気に残り1割以上のHPを削らない限り、絶対にやられない系のスキル。

 まさに、チートの中のチート。


 あと10数えます、とか言っている時に、

「1、2、3、4、5、6、7、8、9……、9.1、9.2、9.3…」

 とか言い出すようなもの。

 実質的にHP無限と変わりない。


 正直なところ、この強敵に出会った時に、そんな悪い予感がしていた。

 雪山で、氷雪系の悪魔。

 普通に考えれば、普通だ。

 強いけれどもそれだけ。


 大したことはない。

 なら、何かあるはずだと。

 注意深く相手のスキルや特殊効果を観察していて、よくわかった。

 精霊のラスト殿が、HPを残り5%まで物理攻撃で削ってくれたことで確信できた。


 それに対して、有効となったのはカタリナの固定数値ダメージ攻撃。

 もう、この攻撃しか、有効打がなかった。

 そんなスキルがあるとは知らなかったし、教えられてもいなかった。

 たくさんの戦いを経て、シルバースライムにしては珍しくレベルが上がっていた。

 レベルアップで、習得したのか?


 固定数値自体はスズメの涙程度。

 通常なら、そう、通常なら強敵相手に意味のないカススキル。

 だが、この状況だけは違った。

 このスキルだけが、状況を打開できるスキルだった。


 しかし、問題は、そのスズメの涙程度の継続ダメージで、膨大なフリドラの残りHPを削り切ること。

 その条件として、フリドラの変形したレイピア的な武器が刺さったままでなければならない。

 刺したノナカは、すぐに投げ捨てられた。

 即座にこの作戦も失敗だったと思った。


 投げ飛ばされたノナカを見て、物理防御も攻撃も貧弱なモンドが動くとは思っていなかった。

 ホーリーエレメントは、ライトエレメントや俺と同様に、物理的実体に乏しい。

 水をかき混ぜられるように、本体をかき混ぜられると、消失の危機に晒される。

 消滅したところで時間をおけば普通に復活するけれども。


 相手の悪魔は、俺の見立てでは俺と同じ暗黒属性だった。

 なぜなら、暗黒属性限定の回復魔法が効果を発揮したから。

 そしてそれゆえに、モンドは、フリドラが名前に反して「暗黒属性」だと看破できた。

 つまり、属性的に、攻撃が無効になるはずと。


 フリドラにしても計算外だったのだろう。

 まさか、物理の貧弱なエレメント族が、直接攻撃をしてくるとは思っていなかっただろう。

 正しい状況判断ではなかったけれども。

 この状況下でさえなければ妥当な判断だっただろう。

 モンドは、神聖属性。


 日陰が光を消すことができないように、神聖属性に暗黒属性直接攻撃は効かない。

 ともすれば逆にダメージを喰らいかねない。

 攻撃しようとした手を咄嗟に引っ込めたフリドラは、そのことに気がついた様子だった。

 モンドは、貧弱であれど、カタリナの変化したレイピアを掴んで、フリドラの体にさらに差し込む。


 残りHP1%。

 詰んだ。

 チェックメイトだ。

 そう思っていたところに、今まで何度も辛酸を舐めさせられてきた、悪魔達の最後の手段。


 転移魔法の詠唱。

 流石にフリドラも無理を悟ったようだ。

 ただ逃げられたのでは芸がない。

 嫌がらせ、ハラスメント攻撃くらいしかできないけれども。

 その耳に、心にダメージを与えるべく、ささやいてやった。


「転移して逃げても、HPの減少は止まらないぜ?」


 フリドラの表情が、なくなる。

 そして真っ青になったフリドラは、自分の誤算に気づいたようだ。

 しかし、魔法の詠唱は終わっていたので、転移魔法が発動する。

 カタリナとフリドラは一緒に消えてしまった。


 カタリナは刺さったまま。

 転移場所次第では、そのまま討伐完了だろう。

 モンドは一緒に転移させられなかった。

 当然だが、それでも残念でならない。


 相手に逃げられた。

 これは、失態だった。

 ノナカがもし投げられていなければ、局地的な魔封じの魔法道具で、転移は防げただろう。

 そうすれば討伐は確実に完了できていた。


 でも、逆に考えれば、カタリナが一緒に転移している。

 あの、殺しても死ななさそうな、実際に殺すのはとても難しいシルバースライムが、一緒に転移している。

 本来、魔法耐性100%なのだから、転移魔法の効果はないはずなんだが。

 どんな悪どい技を使ったのかは、今の時点ではわからなかった。


 転移先は、おそらく敵の本拠地。

 カタリナが無事帰還できれば、敵の本拠地が割れる。

 だいぶ先になるだろうが、本拠地を襲撃することが可能になる。

 敵の本拠地の壊滅。


 俺、何だかゾクゾクしてきたぞ。



 パチパチパチパチ



 周囲から、氷を叩きつけるような微妙な拍手が集まってきた。


「すごいな、初めて見たぞ。ホーリーエレメントとダークエレメントの連携攻撃なんて。」

「ほんとだよ。長生きはするもんだな。」

「おまえら、どんな関係だよ?」


 集まってきていたのは、アイスエレメントやスノーエレメントそしてライトエレメント。

 近くで、俺たちの戦いの様子を伺っていたのだ。

 自分たちの縄張りに、変なのが来たんだ。

 様子を見ない訳にはいかないのだろう。


 少しは手伝ってくれてもよかったのだがね。


「クロウもモンドもありがとう。これで、ネトラレ山の平和は守られたわ。ウーバン山脈を管理する精霊として、感謝します。」


 氷雪系エレメント族に囲まれて、かなりの耐寒重装備で着膨れした山神様やまのかみさまがそう言ってきた。

 いつのまにかいなくなっていたと思ったら、ご近所のエレメント族をスカウトしていらしたらしい。

 そう言うの、抜け目ないよね。


山神様やまのかみさまに頼まれたんだよ。だから、ご近所のエレメント族みんなで、山頂に砦を作って、もう、あんな悪魔がうっかり蔓延ることのないようにするよ。山神様やまのかみさまに心配かけられないからね。」

「そうだぞ? 山の中のエレメント族、できるだけ集まって、山頂近くに拠点を作るんだ。たまに山神様やまのかみさまも遊びに来てくれるって言うから、暇じゃなくなるよね。」


 山神様やまのかみさまの実行されたこの仕事は、思いの他、重要だった。

 氷雪系だけかと思っていたら、ライトエレメントも一人いた。

 これだけバラエティーがあれば、初期段階なら不心得者を追い払うこともできるだろう。

 そもそも、エレメント族に反抗する種族っていうのも珍しい。


「次、ここに来た時には、休憩できるようにしておくよ。君たちは、山神様やまのかみさまと一緒に、西へ降りるんだろう? なんか最近人間以外が幅を利かせているから、完全消滅させられないように気をつけるんだぞ?」

「さっきの奴らか?」

「山からは出ていないからわからない。ただ、おそらくあいつらの仲間じゃないのか? 村に住んでいた人間達が、ネトラレ山の麓まで逃げてきているからね。」


 ということは、村には人がいないということ。

 魔王軍に占領されているということなのだろう。


「モンド。急ぐぞ。ノナカたちだけでは危ない。」

「わかっています。私がそれを言おうとしていたところです。」

「じゃあ、山を降りたあたりでまた会いましょう。」


 山神様やまのかみさまはそう言うと、エレメント族達と新しい砦について相談を始めていた。

 俺たちは、風のように静かに、山を降って行った。

 


<異世界召喚後38日目昼>

場所:サッシー王国レーベン辺境区ネトラレ山山中

視点:野中のなか


「次右なのです!」

「おう、わかった!」

「マスター、もっとスピードを出せ! 親分くらいに!」

「ふざけるな、死ぬぞ!」

「ん、安全運転。追っ手はいない。」

「次左なのです。崖から落ちたら死ぬのですよ!」

「お、おう!」


 慌てて、そりを左にターンさせる。

 目の前は崖だった。

 危なく、アイキャンフライしてしまうところだった。

 映画だと、よくある光景だけど、ふつうにやったら即死だからね。


「そのまま真っ直ぐなのです。」

「そりが嫌な音を立て始めているんだが。」

「ん、寿命。もう少しだけもつから。」

「このスピードでばらばらになったら、おしまいだぞ?」

「大丈夫だ。マスターのことは、ラストが抱きしめて守る。」

「いやいやいや。それじゃ、助からないから。」

「なっ! そこは女騎士に抱きしめられるのを喜ぶところだろ! くっ、無礼な!」

「マスター! また、左なのです! ユーキャンフライなのです!」

「飛ばねーよ!」


 慌てて左にターンする。

 そして、ターンした先も崖だった。

 そりが空を飛んだ。

 ウィーキャンフライだった。


 ゴスン!

 嫌な音を立てて、川の対岸に着地した。

 そりは止まらない。


「そのまましばらく真っ直ぐなのです。もうすぐふもとなのですよ?」

「だいぶ傾斜も緩くなってきたし、スピードも落ちてきたな。」

「マスター、もっとだ。もっとスピードを出すんだ! 気合いで!」

「そりだからな? 気合いでどうにかならないからな?」

「ん、もうそろそろ限界。」



 しばらくそりが滑走した後、平坦な森の中に入って止まった。

 止まると同時に、完全に分解して壊れた。

 予定通りの寿命だった。

 最後に空を飛んだのがいけなかったらしい。


「もう、だいぶ麓だな。地図的には、結構国外に入り込んだしな。」

「近くの村、もうやられているかもです。」

「それもそうだが。」


 ラストが騒がずに袖を引いてきた。


「ロッコが凹んでいる。優しい声をかけてやってくれ。」


 ロッコが、バラバラになったそりをかき集めて凹んでいた。

 静かに泣いていた。


「ん。大丈夫。ちょっと、お別れしていたとこ。」

「そうか。……そうか。」


 レインが、バラバラになったそりの残骸を空間魔法で収納する。

 一行は、歩いて先へ進もううとして、皆で唖然とした。


「ま、マスター。あ、あれは、アレは何だ? 煙か? 人がいるんじゃないか? 炭焼き小屋とか?」

「ま、待て。必ずしも友好的とは限らない。ユリ? どうだ? 行けそうか?」


 ハイドウルフのユリは、興味なさげに首を縦に振った。

 進むことに問題はないらしい。

 ただ、ユリ自身はあまり乗り気じゃない様子。

 これ、前もあったな。


 大きな一枚板の高い岩を避けて回り込み、煙の出ているあたりに出た。

 視界が開けて、煙の出本が理解できた。


 温泉!


 しかも、人が手を加えていないであろう、野湯だった。

 なるほど、ユリが乗り気じゃないはずだ。


 ユリは、あまりお湯が好きじゃない。

 お湯浴びを拒否こそしないが、体を洗ってやると、仕返しに至近距離で体を振ってくる。

 こちらもずぶ濡れになるのだ。


 異世界にはドライヤーとかないから、こんな寒空の下で温泉に入った日には、毛皮が凍る。

 絶対に入りたがらないだろう。

 ユリの気持ちはよくわかった。


 それでも、安全確認をしてくれたユリに感謝をして、頭を撫でていた。


「マスターも早くするのです!」

「一番風呂は、このラストがいただいたぞ!」

「ん、温まる。マスターもすぐ入る。」


 精霊達は、躊躇なく温泉に浸かっていた。

 いや、温度とか成分とか、周囲の安全性とかをだな。


「ばふぅ。」


 ユリに服を引っ張られた。

 いや、流石にそんな簡単には脱がされないよ?

 まあ、そう言う意味じゃなくて、見張っとくとかそう言う意味なんだろうけど。

 だから、無駄にそんなとこすんすんするんじゃありません。


 まあ、犬ってそう言うところ、匂い嗅ぐの好きだからね。

 エロい意味じゃないだろうし。


 服を脱いで、野湯を囲む岩の上に置くと、その脇にユリが寝転んだ。

 ああ、そうだろうな。

 雪も止んだから、温泉に触れている岩石は温まっている。

 きっと、それなりに暖かくて気持ちがいいのだろう。


 ユリの顎が平らな岩に乗る。

 10秒もたたないうちに、ユリは目を細めて、寝そうになっていた。

 見張りしてくれるんじゃなかったのかよ。

 仕方がないので、温泉に入りつつ、僕が見張ることにした。


「マスター、ユリにばっかりかまっていないで、こっちに来るのです!」

「そうだぞ? 犬に気があるのかと不安になるだろう? こっちに来るんだ!」

「ん、ここ、ここでいい。」


 あぐらをかいて、ユリの乗っている大きな一枚板に背を預けてお湯を楽しんでいたら、そのあぐらの上にロッコが座ってきた。


「あ〜! ロッコずるいのです! レインもするのです!」

「抜け駆けとは卑怯な! 自分だけいい子するとは!」


 うるさかった。


 岩に顎をつけて目を瞑っていたユリが、いきなり立ち上がった。

 岩の向こうに向かって吠え始める。


 精霊軍団は、魔法か何かで、すぐに服を着て、ユリの隣に立っていた。

 いやいや、そんな早着替えできんから。


「マスター、早く着替えるのです。敵襲かもですよ?」

「ぐずぐずするんじゃないぞ?」

「ん、手伝う。」


 ロッコがレインから布をもらっていた。

 タオルの代わりなのだろう。

 急いで体を拭くと、というか拭かれると、慌てて服を着た。


 僕が服を着るのを待っていたかのように、物陰から人が現れてきた。

 というか、完全に、温泉ごと包囲されていた。

 総勢30人程度か。

 完全に防寒対策の取れた服装だったが、どう見ても冒険者ではなかった。


 普通の村人に見える。


「おぬしら、何者じゃ?」


 ぱっと見で若者だらけの中、一人だけ混じっていた年配の男が、僕たちに声をかけてきた。


「ここはわしらの村の、秘湯ゆみやの湯じゃ。勝手に人の村の温泉に入っているんじゃないと注意しに来たのじゃが……。見たところ、人間は一人だけのようじゃな?」


 なぜ見抜かれたし。


 これが、ネトラレ山西側の住民とのファーストコンタクトとなるのだった。

ブックマークありがとうございました。


本文は読んでの通りです。

後悔はしていませんが、モンドとクロウは、今後抱き合わせでの出番が増えそうな予感。

使いやすいコンビではあります。

戦闘とかどうするんだよとかいう不安はありますが。

さて、不安で眠れない夜を過ごして、寝過ごすことさえなければ明日も12時すぎに。


訂正履歴

 僕たちの → 俺たちの

 パラバラ → バラバラ ※ 以上2件誤字報告ありがとうございました。

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