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女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第7.5章 運命のダイヤモンドクロッシング
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第32話 クエストを強いられているんだ

冒険者にはクエストを選ぶ権利があります。

パーティーの得意不得意とレベルに応じたクエストを選ぶのも、冒険者の腕の見せ所です。

でも、時折、強制クエストなる、回避できないクエストもあるんですよね。

もちろん、分不相応なクエストとなることもありますよ?

今回はそう言うお話です。

それでは、どうぞ。

<異世界召喚後34日目午前中>

 場所:サッシー王国ベーレン辺境区女神教総本山

 視点:猿渡さるわたり


 目を覚ますとそこは牢屋の中だった。

 石の床に寝ていた影響で頭が痛い。

 身体中、凝り固まっていて節々が痛かった。

 風邪とかひいていないよな?


 蝋燭か何かが牢屋の外にかかっているのか、少しだけ明かりがある。

 それを手がかりに、 周囲の状況を確認した。


 出入り口のある一面は全て鉄格子。

 そして他の3面と床、天井は石材でできていた。

 窓などなく、不衛生な匂いと糞尿の匂い。

 寝具などひとつもなく、唯一あったのが木のおけ。


 これ、もしかするとあれだ。

 おまるみたいなものだ。

 トイレの代わりなんだろう。

 まあ、たしかに床にしたくないからな。


 寝てる時汚れそうだし。

 それで、こんな匂いか。

 納得し、憤慨した。

 人権侵害も甚だしい。


 近くに仲間もいなかった。

 あの3人は大丈夫だっただろうか。

 あと、残されたキャラバンはちゃんと逃げ出してくれただろうか。

 心配だ。


 まあ、今は自分の心配をすべきだろう。

 このままでは、極刑とか言って殺されかねない。

 ならば、脱走か。

 再び、周囲の状況の確認からだな。


 異常なし。

 そう、異常なし。

 脱出できそうな異常が見つからない。

 当たり前か。


 石でできた床も天井も壁も、隙がない。

 何か文字が彫ってあったりもしない。

 映画みたいに外れたりもしないし、抜け穴もない。

 もちろん、換気ダクトとかもない。


 なら、鉄格子をなんとかする一択だ。

 今のところ、見回りの兵士もいない。

 それどころか、近くの牢屋に入れられている人もいなさそうだ。

 鉄格子の向かい側は、石壁になっていて、牢屋になっていない。


 だから、視界内に他の収監者を見出すことができずにいた。

 仲間と離されたのもまずいが、服以外の道具やお金を取り上げられたのが大きい。

 流石に冒険者タグはそのままだった。

 このタグには、キャッシュカード機能的なものがあった。


 少額ならギルドに行けば、預けてあるお金が手に入る。

 無一文、と言うわけではないが、それもここを無事出られればの話だ。

 脱出する算段がつかないまま悩んでいると、神官が来て、牢屋から出された。

 話しかけても反応しない。


 人形のような相手だった。

 本当に人間だろうか。

 ちょっと心配になっていた。


 木の手枷をはめられたまま、連れてこられたのは、お偉いさんの部屋。

 すでにパーティーの3人はその部屋にいた。

 虚な目をして立たされていた。

 そして、その向かい側に立っていたお偉いさんは、僕たちをここまで連行した区長だった。


「君たちのパーティーには、1つ、クエストを受けてもらいたい。冒険者なのだから、簡単だろう? まあ、ギルドを通せないようなクエストだ。もちろん非正規。なんなら報酬もない。」

「いや、流石にそんなクエスト受けないだろう? どこから突っ込んだらいいかわからないくらいたくさんの無理がある。」

「知っている。そして、君たちは、この依頼を受けざるを得ない。なぜなら、受けなければ待っているのは『死』だ。」

「処刑、ということでいいのか?」

「いいや、私たちはこれでも『女神教』の重鎮だ。人をあやめるとか、そんな大それたことをしたら、女神様に罰せられてしまうよ。まあ、女神様は寛大だ。実際には処罰するだけで許してくれるだろうが。」


 そう。

 こいつらは、「女神教」とかいう宗教の重鎮らしい。

 人殺しを良しとしないのは、ラッキー以外の何ものでもない。

 もう、殺される一択だと思い込んでいたのだから。


「もうじき、この辺りに魔王軍が攻め込んでくるという情報がある。女神教の重要施設であるここが、魔王軍に占拠されるのは、どうにも具合が悪いんだよ。」

「まあ、そうだろうな。でも、それは、僕たちとは関係のないことだ。」

「本当にそうかな? 奴らは残忍で狡猾だ。大魔王に人間の魂を捧げるために、ひたすら人間を殺して回っているやからだ。牢屋にぶち込まれた君たちに、抵抗することはできないだろう。」

「それは、遠回しに死刑宣告か?」

「いやいや、あくまでも、例えばの話だ。魔王軍が攻め込んでこなければ、君達が殺されることはない。もうそろそろ、私の依頼したい内容が読めてきた頃じゃないかい?」


 遠回しな言い方だが、わからない方がおかしい。


 魔王軍が攻めてくる。

 冒険者がいる。

 依頼したいことがある。


 この3点セットで、依頼内容が全然関係のないことだったら、かなりぶっ飛んでいる。


 魔王軍が攻め込んでくると、牢屋にいる僕らまで殺される。

 つまり、その手前にいるはずの、この区長や教団関係者も皆殺しになると言うことだ。

 冒険者に依頼したい内容など、手にとるようにわかる。

 そして、それこそが死刑宣告に近いものだった。


「魔王軍の討伐依頼。と、いったところだろう?」


 区長は、机に足を放り出して椅子に踏ん反りかえると、両手を叩いて喜んでいた。


「いい、いいよ、キミ。頭の回る冒険者は大歓迎だ。なに、討伐とは言わない。君たちは、魔王軍の侵攻を阻止してくれるだけでいい。」

「阻止だけ、か。」


 それだけでも、当然、死刑宣告に近い。

 討伐よりはまあ、ランクは下がるが。

 でも、結果は変わらないと予想できる。


「この辺りには、キミたちのいた町の他にも北に村が3つあってね。その1町3村が、我が教団の管轄下なんだよ。まあ、軍事的には公爵領が守ってくれることになっているんだがね。キミたちの見た通りの結果だよ。」


 依頼を受けなくても待つのは死。

 依頼を受けても、待つのは死。

 ならば少しでも生存確率の高い方を選ぶべきだろう。


「ちなみに、返事を聞かせてくれるかな。」

「受けよう。というか、受けなければお前も僕も死ぬことになるんだろう?」

「ご名答。私たちは運命共同体、と言う訳だ。ああ、もう、手枷は外してもいいよ。」


 その言葉に、部下達が、僕たちの手枷を外す。

 そして、装備品やお金、道具類を返してくれた。


「大丈夫なのか? 武器まで返して。ここで、お前を切ることだってできるんだぞ。」

「大丈夫ですよ。できませんから。」


 悪い予感しかしない。


「ちなみに、反抗的な態度は取らない方がいいですよ? 私の敬虔な部下達が、あなたのいたキャラバンに物騒な魔法をかけていますから。」

「なんだと?」

「殲滅魔法でしょうか。あなた方が反抗的な態度を取ったり、私に危害を加えようとすると、あのキャラバンの人たちは、行動不能になりますよ? 全員。」

「そんな訳あるか! 捕まった時に、そんなことしている余裕はなかったはずだ!」

「あらあら、女神様の力を甘く見ない方がいいですよ?」


 すごい悪い笑みだ。

 嘲笑だろう。

 完全に僕らを見下して笑っていた。

 この笑顔、見たことがあるような気がする。


「そ、そんなこと言うのなら、その女神様とやらを出してみろよ!」


 ニィィッと、区長の口角が上がった。



「私が、その、女神ですが何か?」



 区長は机に足を放り出したままの姿勢で変身を解いた。

 王宮で見たスケスケ女神が、ぎりぎり大事なところが見えない姿勢で踏ん反りかえっていた。

 おっさんがしているとどうでもいいが、美女がやっていい姿勢じゃないことがよくわかった。

 とにかく、エロい。


 そして、エロいと思う以上に、悔しい。

 完全に、女神の手のひらの上だった。

 せっかくお城から逃げ出したのに。

 女神からは逃げられなかった。


 顔が真っ青になった。



「お久しぶりですね、逃亡者の皆さん。私のこと、もう忘れていたり、していませんよね?」


 ああ、忘れない。

 僕の親友を、死地へ追いやった、暗黒女神だ。

 腹黒なのだから、あそこもさぞ黒いことだろう。

 どことは言わないが。


「私がここにいると言うことの意味、分かりますよね? 貴方にとっての人質は、あなた方異世界の人全員。そして、この世界から元の世界への帰還。クエスト、結局受けるしかなかったんですけどね。でも、わたくし、こういうやり方は、女神として相応しいと思わないのですよ? あなたもそう思うでしょう? ですから、せめて、建前でもと思って、寛大な気持ちで。」


 女神が何やら言い訳をしていた。


「御託はいい。野中達を魔物の巣窟に転送しただけでは飽き足らず、今度は僕たちを魔王軍と直接戦わせる。なんとも女神らしい、簡単なお仕事じゃないか。そっちは指示するだけだしな。」

「そんなに反抗的な態度を取ってもいいのですか? 仲間がひどい目に遭いますよと、警告しましたよね? なら、そうですね、あなた、ちょっと苦しみなさい。」


 そう言うと、江藤が表情を変えてお腹を押さえて、床に倒れ、のたうち回る。

 悲鳴をあげないのは、抵抗しているからなのか、そう言う魔法なのか。

 そして、江藤は泡を吹いて気絶した。


「反抗的な態度を取ると、ひどい目にあってしまうんですよ。わたくしとしては、心苦しいのです。でも、この地域に住む人たち全員の命と魂がかかっているのです。これも仕方のないことなのです。ああ、そうですね、たねあかしをしましょう。おなか、おへその下あたりをご覧になってください。」


 言われて、服をめくって確認する。

 なんか、タトゥーが入っている。

 ピンク色に光っているハートを基調としているが禍々しい感じの文様だった。


「猿渡さんが大好きな例のタトゥーですよ? 女の子にも同じところに同じようにつけてあります。あなた方が、私に何か反抗的な言動をすると、この魔法陣が発動して、なんらかの効果が発生します。まあ、猿渡さんには説明する必要、ないでしょうけれども。」


 いやいやいや。

 なんてものをつけてくれたんだよ。

 ぼく、男なんだけど。


「猿渡さん。3回です。3回、私に反抗したら、あなたの魔法陣は本来の効果を発揮できるようになります。そうですね、もう1回反抗したのであと、2回ですね。あらあら、もうすでに1回分、影響が出始めていますね。可愛らしいです。私の魔法も、まだまだ使えるじゃないですか。」


 気絶から復活していた江藤さんも含めて仲間3人が、僕を見て笑いを堪えている。

 周りにいる女神の部下に至っては、堪えもせず指を指して笑っていた。 

 でも、何が起こったのかは、わからない。

 自分自身では。


 しかし、予想はつく。


「猿渡くん。だいぶ可愛くなっちゃったよ? ほとんど女の子にしか見えないよ?」

「うんうん。かわいいな。羨ましいくらいだ。」

「ああ。私もこれくらい可愛ければ、男の一人もいたんだろうが。」


 嫌な評価だった。

 つまり、今の僕は「おとこの娘」状態らしい。

 装備品も何も変化していないのに。


 待てよ。

 ということは、あと3回で女になる、そう言うことなのか。

 いや、あと2回か。

 まずいぞ。

 これはまずい。

 あと、野中に再会したら、絶対に指を指して笑われる。


 冒険者として、ステータスにも影響が出るだろう。

 力も弱くなるだろうし、そうじゃなくても低い身長がもっと低くなっている可能性も否定できない。

 なんて事しやがる。

 絶対に許さん。

 身長のことだけは、絶対に許さない。

 僕の逆鱗に触れたな!



 僕は、仲間3人に抱えられて、その区長の部屋を退出させられた。

 そのままだと、今日のうちに女の子になってしまっていたことだろう。

 いい仲間を持ってよかったよ、まったくこんちくょう!



「で、どうする?」


 牢屋ではないが、狭い部屋を1つ貸し与えられ、慎ましい教団らしい食事を与えられた。

 肉は入っていなかった。

 あと、給仕というか、なんでもしてくれる召使いのように人が一人ついた。

 名目はともあれ、どう見ても監視員だった。


「やるしかないだろ。まずは、情報収集からだ。この辺りの地図をもらってこよう。」


 その監視員に地図と、予想される魔王軍の規模を資料としてくれと要求した。

 監視員の女性は、言われることを予想していたのか、すでにその2つを持っていた。

 わかっていて出してこないあたりが、女神クオリティー。

 最初は、この監視員も、女神が化けているんじゃと疑ったが、どうやらそこまではしないらしい。

 でも、名前を聞いても教えてくれないし、話しかけても返事をしない。

 給仕に徹して、会話はしてくれないようだ。


 もらった地図には、すでに、敵勢力が書き込まれている。


 まず、位置関係から。

 今いる教団施設は、レーベン辺境区の区都グレイトフィール町の西の山中にある。

 レーベン辺境区そのものは、マッカース公爵領の北に位置する。

 グレイトフィール町を一番南に南からグレイトソーンの村、グレイトアローの村、そして、北の帝国との国境にフィール・ド・エッジの村があった。 


 この間、入ろうとして被害に遭ったのが、一番南のグレイトソーンの村。


 おい。


 もうすでに、魔王軍は、グレイトソーンの村まで来ているじゃないか。

 地図上では、まだ、国境を超えていないことになっている。

 もちろん、かなり古い情報だ。

 もしくは、意図的に、古い情報を掴ませてきている可能性もある。


 頭にくるが、抑えよう。

 僕のちっちゃくされてしまった息子の命がかかっている。

 他のことはどうでもいいという訳じゃないが、このままでは、僕の小さな息子がさらに小さくされて、行方不明になってしまうかもしれない。

 魔法が発動するような女神への反抗は、絶対にダメだ。


 いきなりドアが空いた。


「ああ、そうそう。言い忘れていました。」


 女神様だった。


「そのお腹の魔法陣、1日5回。私に祈りを捧げないと、発動しますから。」


 4人とも、キョトンとしてしまった。

 反抗しないだけじゃダメなのかい!

 どこの宗教だよ!


 あ、ああ。

 女神教って、本当に宗教だったのね。

 女神の自称じゃなかったのね。


「えっとですね。日の出前に1回。朝食前に1回、昼食前に1回、日の入り前に1回、夕食前に1回です。私のいる、南の方に向かって直立した姿勢から腰を90度近くまで折り曲げて、目を瞑って頭を下げて祈りを捧げればオッケーです。」


 満面の笑みだった。

 何がそんなに嬉しいのか理解に苦しむ。

 その表情を見て満足そうに女神は言い添えた。


「女神様から直接教えられるのは、光栄なことなんですよ?」


 そう言って嘲笑していた。

 めちゃくちゃ殴りたい!

 挑発しているんだな?

 僕のことをどうしても女の子にしたいんだな?


 どうどうどう!

 おおお、落ち着け僕。

 女神の思う壺だ。

 しかし、どうしてこうなった!


 決戦の日は、確実に近づいていた。

ブックマークありがとうございました。

読者の方もPVもかなり増えて、嬉しい限りです。


さて、本文の話です。

久しぶりの女神様です。

しかも結構喋ります。

こんな話し方だったっけ? と、訂正を入れながら執筆したのですが。

なんか、自分の中でしっくりこない女神様。

いや、文章自体はノリノリで書いていたんですけれどもね。

あと、猿渡と女神様は掛け合わせてはいけないと反省しています。

後悔はしていません。

それでは、女神様のせいで消されていなければ、明日も12時すぎに。


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 指を刺して → 指を指して

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