第87節 同時多発攻撃
同時に多数の人から話しかけられることってありますよね。
何を言われているのかふんわりとは理解できていても、的確に答えを返すことができません。
なぜなら、耳で聞き分けることはふんわりとはできたとしても、口は一つしかありませんから。
同時に聞けても、同時には返事ができません。
返事をされた順番で、へそを曲げるのはやめて欲しいものです。
というか、話しかけるのは、一人ずつにして欲しいものですね。
今日はそんなお話です。
それでは、どうぞ。
<異世界召喚後35日目夜>
場所:ヨーコー嬢王国コソナ領オールドコソナの町
視点:野中
オールドコソナは海沿いの街でもあり、火の手が上がっても水ならすぐそばにある。
という考え方は、日本の科学文明に毒されている証拠だった。
いくら近くに大量の水があっても、消火する道具がない。
それじゃあ、使えない。
トロッコで国境警備隊本部の脇を通過したときには、すでに本部の建物も国境の壁も、爆破された後だった。
ただの瓦礫に成り下がっていた。
今回の空爆は、だいぶ攻撃精度がいい。
前回との違いはなんだろう。
そもそも、レインが苦戦している。
いつもなら、これくらいのカメ鶴、あっさりと全滅にして来るはずなのに。
地味に減っているので、上空で活躍はしているのだろうが、見えない分心配だ。
やられて墜落して来るんじゃないだろうかと、不安になる。
オールドコソナの住民達は大丈夫なのだろうか。
とにかく、なぜか無事であった線路が続く限り、コソナ砦に急いだ。
線路に沿ってあったはずの国境の壁が、綺麗に瓦礫にされている。
もっとも、国境線が隣町のイツナになったので、ここに国境の壁があること自体に、あまり意味はない。
そうか、そういうことか。
視界に、爆撃で半壊しているコソナ砦が見えてきた。
さきほど、気がついたことが2点。
1つは、オールドコソナの住民のこと。
そもそもそれほど住んでいなかった住民だが、つい先日、戦禍を逃れて、亡命してきたイツナの住民が住んでいた。
でもその人達は、この間、イツナを国境の壁で囲ってからは、イツナに戻っていた。
つまり、そういう被害者はでていない。
そして、それ以外の住民は、戦闘要員がほとんどだ。
自分の身は自分で守れる系の頼もしい住民達だ。
もう一つは、なぜ、ここまで攻め込まれているのに、効果的な反撃ができていないのかということ。
原因は、国境線が動いたこと。
うっかり忘れていたけれども、国境警備隊は、国境にはりついて警備する兵士たちだ。
なら、国境が動いたら、国境警備隊もそれにしたがって移動するだろう。
大原則を忘れていた。
街を守る戦力は、今、ほとんどで払っていた。
それにもかかわらず、なんとか反撃しているのは、なぜか大量にいたマインウルフ達の活躍。
そういえばたしかに、ウーバン村に出発する前の段階で、すでにかなり集結していた。
何かの予感があったのか。
それともたまたまか。
それを知っているのは、彼ら自身でしかない。
あとでそれとなく、聞いてみよう。
全滅して聞けないとか、そういうことを考えるのはやめておこう。
結局、わかったことと言えばそれだけだが、逆にいえば、いくら暴れても大丈夫。
そういう環境になりつつあるということ。
味方をかき集めて、なんとか体制を立て直したい。
コソナ砦前に到着すると、半壊した砦で、防衛線を張るマインウルフ達と接触できた。
実質的に王国兵士団の副団長にあたるワングマンが、伝令達に指示を出していた。
「ノナカ殿。ウーバンは、どうでしたか?」
「やられた。逃げ帰ってきた。ここもダメか?」
「おそらく、こちらの方がダメでした。こんなことになるのなら、お引き止めしておくべきでした。結果論ですが。」
「状況は?」
「はい。オールドコソナにどんな魅力があるのか分かりかねますが、魔王軍は、戦力の出し惜しみをするのをやめたみたいです。海から、空から、地中から、もちろん地上からもせめこまれています。合計1000といったところでしょうか。」
内訳を知りたかったが、とりあえず、無事な味方がどれだけいるか。
それを知りたかった。
「こちらは?」
「味方戦力は、われわれマインウルフ軍団が、120。うち半数は負傷して、怪我の手当てをしています。砦の中で。爆撃に耐えてはいますが、あと数発打ち込まれたら、負傷兵ごと終わりになります。」
「場所は変えられないのか?」
「他に無事な建物がありません。灯台くらいです。」
「続けてくれ。」
灯台が無事だというのが解せない。
もっとも、中には多数の魔物が住んでいるので、確かに同士討ち的な面もあるのだけれども。
「はい。たまたま灯台でサボっていた、ファイアーエレメントが5体。踊り狂っていたので、呼び寄せました。一緒にいたスライム属5体も、多少は戦力になるかと。ホワイトスライム2体が、負傷兵に回復魔法をかけまくっています。」
「そんなのいたのか?」
「国境警備隊は、気がつくと隊員が増加していて把握しきれません。そして、オールドコソナにおける現有戦力は以上です。」
なんだか、少ないような気がする。
国境警備隊が出払っているのが大きい。
隊長のライトエレメントが、爆撃で戦闘不能なのも大きい。
しばらく休めば普通に復活するらしいけれども、しばらくの定義が曖昧だ。
なにしろ悠久の長い長い歴史を生き抜いてきたエレメント属。
しばらくというのが1万年規模でも、不思議はない。
まあ、頭のいいライトエレメントのことだ。
僕らの定規に合わせて、言葉を選んでくれていることと思う。
「敵戦力の詳細を。」
「はい。まず、空から。カメ鶴とかいう、空爆野郎は、カウントできません。見えませんし聞こえませんし、匂いませんから。ただ、私ではなく、ファイアーエレメントの言うことには、50前後だろうと。赤外線透視的には。ただ、そのカメ鶴を、ミスト種の魔物が護衛しているようでして。」
「護衛がいると、なんかまずいのか?」
「ファイアーエレメントさん達は、ミスト種が、カメ鶴の卵の投下先をうまくコントロールしている節があるというのです。今回、あまりにも精度が高すぎます。砦も、集中的に爆撃されていますし。国境の壁も、そこだけ爆撃されていますし。」
「それで、レインが苦戦しているんだな。」
納得の答えだった。
レインが苦戦する訳だ。
前回と条件が違うのだから。
簡単には、倒せないのだろう。
しみじみ感じてしまった。
レインの有り難みを。
少なくとも、彼女がいなければ、カメ鶴への対応はお手上げだった。
そして、ウーバン村では、その爆撃により、マインウルフ軍団の半数以上が負傷し、大岩井とライトエレメントが戦闘不能に陥っていた。
早急になんとかしなければいけない。
「そうですね。次は海上戦力。というか、上陸してきた戦力です。泳いできたのは、普通の大きなイノシシの魔物です。上に魔族を1人ずつ乗せていました。イノシシ100に魔族100。あと、指揮官と思われる悪魔が一人います。この間と同じように、イノシシは上陸後戦力外になりました。」
「なんて贅沢な攻撃方法なんだよ。」
「とにかく、悪魔と魔族が大量に入り込んできて、レイン様もいない。やられっぱなしです。われわれの岩石魔法も、空を飛ぶ魔族相手には、あまり効果は期待できませんし。」
疑問があった。
やつら、空を飛べるのに、なんでわざわざ海の上をイノシシに乗ってきたのかと。
もしかすると、とんでもない馬鹿なんじゃないのだろうかと。
「あ、あー。魔族は空を飛べますが、長く飛んでいるとMPが枯渇してしまうので、そんなには長く飛びませんよ? 岩石魔法をかわすのにはとても有効ですけれども。」
心を読まれていた。
顔に出ていたのだろう。
ちょっとくやしい。
「地下戦力として、例のワーム型の魔物が見つけただけでも20体。あと、作った穴から魔族が100。そして、例によって悪魔が1体。おそらく、この悪魔も指揮官です。」
また、悪魔だった。
そして、増える魔族。
まずいな。
レインがいないなら、魔族相手は自殺行為だ。
「ウーバンから山越えで、イノシシ軍団と悪魔1体、魔族100くらいも到着しているのか?」
「その通りです。」
現時点で把握できている敵戦力。
指揮官の悪魔 3体。
悪魔の配下の魔族 300人。
カメ鶴 50羽。
大イノシシ 200頭。
大ワーム 20匹。
合計573。
1000とか言っていたような気がするのだが。
「ワングマン。失礼だが、単純計算で600弱しかいないぞ? 1000とか言っていたけど。」
「そうなんです。問題はそこなんです。」
ワングマンが、可愛い美少女エルフ顔を悲しい顔にして、残念な報告をしてきた。
「海から来た悪魔1体がいますよね?」
「イノシシに乗ってきたやつな?」
「はい。そのイノシシ頭の悪魔は、自分で泳いできたようですが。」
「イノシシ頭だけに体力有り余っているな?」
「それもすごいのですが、その悪魔、召喚師でして。無限に大イノシシを召喚しまくってきます。」
なんということでしょう。
それなら、計算が合わないのも、概算で1000というのも分かるよ。
これから、増える計算なんだね?
召喚魔法の限界を察するに、1000くらいで止まってくれないかなという、希望的観測なのね。
わかります。
「よく、120匹の新入り軍団で、ここまで持ち堪えたな?」
「壊されたところから、また、魔法で壁を作りました。私たちマインエルフにクラスアップした者は、もう少し精度を上げた魔法を使って、、壁の中に空間を作って、防空壕的な壁も作っています。すぐに破壊されるのですが、それでも、命は助かりますから。」
「いや、それにしたら、カメ鶴の数がおかしくないか? 爆撃されすぎじゃないのか?」
「私も、それは変だと思っていました。しかし、破壊されるのはなにも、空爆だけではありません。ワーム達が地面を耕していく余波で、壊されている部分もあります。」
ワームも、なんとかしないとな。
岩石系魔法が通用しないので、マインウルフには荷が重いからな。
「異種族達は、何をしている?」
「はい。ホワイトスライムは回復魔法を、シルバースライム3体で、海で死にかけている大イノシシにトドメを刺しに。あと、ファイアーエレメントの5体は、敵全体を牽制するように、炎の魔法で応戦しています。たまに炎の矢で、カメ鶴も撃ち落としていますが。」
おそろしいな。
たった5体で、500を相手にするとか。
正気じゃない。
いや、その正気じゃない戦場を用意してしまったのは僕たちだ。
なんとかしないと。
「社長さん。戻ったぜ? なんか、国境の脇とか下とか、小狡く抜かれてすまねぇな。」
戻ってきたのは、アイスエレメント5体とアクアエレメント5体。
「おれたちゃ、この間みたいに、とりあえず、カメ鶴対策でもしておきますわ。」
「あ、ああ。よろしく頼む。空爆が無効になるだけでも、ぜんぜん違うから。」
「任せてくれ。」
援軍。
というか、国境から駆けつけてきた国境警備隊。
空爆を防げるなら、戦闘は、大きく変わって来る。
なんなら、これだけでも戦局が変化することだろう。
僕はそれに期待して、ワングマンに伝えた。
「砦の周りに、一周、強固な壁を作ってはくれないか? 籠城したい。もう、空爆は怖くないからな。」
「はい。しかし、ワームに壊されるのでは?」
「そうか。そう簡単にはいかないものか。」
「しかし、空爆の効果がなくなるのですから、やってみましょう。何かが変わるかもしれません。」
藁にもすがる思いで、戦局が変わることを祈りつつ、作戦変更を告げた。
「反撃開始だ!」
PVが50,000まで行きました。
皆様のご愛読感謝いたします。
正月三が日も終わり、次は七草粥です。
スーパーに、七草粥の元を探しに行こうと思います。
実家周辺では、普通に雑草の如く生えているのですが。
安心して食べられるのかといえば、不安しかありませんが。
それでは、変なものを拾い食いしてダウンしていなければ、明日も12時すぎに。