第85節 サッシー王国側からの攻撃
あけましておめでとうございます。
ことしもがんばってとうこうします。
でも、せめこまれてからのとうこうはかんべんです。
きょうは、そんなおはなし。
それでは、どうぞ。
<異世界召喚後35日目夕方>
場所:ヨーコー嬢王国ウーバン領ウーバン村
視点:伊藤嬢王
ここ最近、コソナ領に対して魔王軍が連日、攻撃を仕掛けてきています。
その影響で、戦える戦力はみんな、コソナ領の国境地帯に出払っているの。
つまんない。
孤独。
「嬢王の間」という張り紙が貼ってあるウーバン駅の駅長室で、私は黄昏てた。
孤独といっても、静かなわけじゃないの。
近衛騎士として、配下にマインウルフが7匹、毎日賑やかにしている。
近衛騎士団だけが、実質的に私の配下。
村には普段、大岩井さんが可愛がっている元村民のマインウルフが大量にいるのだけれども、今は国境の防衛で忙しくて30匹くらいしかいない。
あとは、領主のパトリシアさんの息子さんにあたる、ゴーレムが1体。
ここだって、北は帝国と国境を接しているのに。
でも、北にあるウーバン山脈の一部の険しく鋭く尖った雪山を超えてくるのは無理。
自然の要塞だって野中が言ってた。
だから、大丈夫だよって。
ぜんぜん大丈夫じゃないよ。
異世界にひとりは寂しいよ。
でも、みんなも国境を守るために頑張っているんだし、私も耐えなくちゃ。
人恋しくなったから、パトリシアさんに頼んで、今日は一緒に夕ご飯することにしました。
みんなで食べた方が美味しいから。
食料も、料理もいろいろできるから。
近衛騎士団の団長さんは、もともと、パトリシアさんの夫で、村長だったの。
だから、近衛騎士団全員をつれてきたら、家族団欒。
元気な息子達に、パトリシアさんも大喜び。
普段はマインウルフの姿でいるのに、パトリシアさんの前では、マインエルフに変身するの。
いい格好しぃ。
そんな和気藹々の夕ご飯が終わって。
みんなで暖炉のそばで温まっていると。
冬には似つかわしくない、花火の音が3発。
村の西門の方からしたの。
これは、村の西門を守っているゴーレムさんが発した、緊急避難信号。
村人達には、この音がしたら、直ちに避難することって言ってあるの。
ちょうど、よろず屋に夕ご飯が足りないと食料をたかりに来ていた親分達もいて。
村人達は、トロッコとかで急いで村から脱出し始めました。
ここまで、いろいろな外敵に襲撃されてきたので、避難は素早かった。
行き先は常にガーター町って決めてある。
野中が言うには、あの町が一番強固だって。
元山賊団の親分達には、ピストン輸送で対応してもらう手筈になってる。
親分が、村から元アジト前まで。
そこからワーランドまでと、ワーランドからガーター町までを別の子分が。
それぞれトロッコを動かすことになっている。
一番きついのは、高低差のある親分の区間。
でも、子分が2人、一緒に自転車的なトロッコを漕いで、スピードアップしていた。
登り坂でも、車輪から火花を飛び散らさせて、ヒャッハーするのはすごい。
あとで、ロッコちゃんとかラストちゃんにこってり叱られる未来が見えるけど。
領主の館でそれを見ながら、順調に避難が進んでいるのを確認していて。
近衛騎士団の団員達は、ゴンザレス団長を残して、状況の把握に飛び出していて。
そして、1匹、助六だけが帰ってきたの。
「じょうおうへいか! てきしゅうです! でかいいのししいっぱいです!」
まだ、言葉を上手に話せない助六だけれど、精一杯伝令をこなそうとして。
そう言って、また、すぐに戻って行きました。
この町、残念なことに、西門周辺には木でできた柵しかない状態。
だから、大きなイノシシがたくさん来たら、すぐに入り込まれちゃう。
それより一番怖いのが、人的被害と食料の被害。
イノシシは、雑食で、大きなイノシシだと平気で人間も食べちゃうし。
村人の保存食も、たくさん来たなら食べ尽くしてしまうだろうし。
もう、この時点で、無事に済むと言う未来は考えるべきじゃなくて。
「嬢! みんな避難したぜ! 乗んな!」
領主の館の前で、西門の方を見ていた私たちに、声がかかりました。
親分が、素早い仕事で、村人達をピストン輸送し終えたみたい。
なら、私たちも撤退しなきゃ。
でも、ゴーレムさんと一太郎達が。
「イトー。行くぞ!」
私の腕を掴んで、トロッコまで運んで無理矢理乗せたのは、ゴンザレス。
一緒にパトリシアとグラニーも乗った。
「親分、出してくれ!」
「おま! ゴンザレスの子分は!」
「子分じゃない! 息子達だ! あいつらなら大丈夫だ! 出してくれ!」
「お、おう。これが最終便だからな! お前ら気合い入れろよ!」
「がってんだ!」
「一生ついていきます!」
そうして、私たちも、ガーターの町に向けて避難するのでした。
ところが、最終便の私たちのトロッコは、ワーランドの駅で強制的に止められてしまいます。
駅のところに木が生えていて、先に進めません。
いえ、あれはドライアドさんです。
ドライアド族の族長、ニースさんでした。
「みんなであわてて、どこにいくの?」
ああ、たしかに。
みんなで慌てて避難していたので、何があったのか知りたいと。
「さっき、花火、鳴ってたから。避難するようなこと、起こってるの? 仲間だから、ちゃんと助けるよ?」
満面の笑みで、こちらを見てくるニースさん。
線路上からどいてくれる気配は一切ないので、拒否権はないみたい。
「西の山から、大きなイノシシ達が雪崩れ込んできたの。いま、マインウルフで、避難完了までの時間を稼いでいるところ。」
「ちょっとまっててね。見てみる。」
木から、人間っぽい形に変形すると、近くにあった大きな木の上まで登って、ウーバン村の方を眺めていた。
「あ、ダメだよ。マインウルフ、早く引かせないと、全滅しちゃうよ!」
「大丈夫じゃ。遅滞戦闘するように言うてあるのじゃ。馬鹿なりに、死なないようにいい含めてあるのじゃ。」
ニースさんの警告に、ゴンザレスが余裕を見せた回答をしていた。
遅滞戦闘しているのは、全てゴンザレスの息子達。
ゴーレム1体にマインウルフ6匹。
人間の形をしていないとはいえ、息子達が心配じゃないはずないのに。
つよがり。
つよがりだよね。
だって、強く握ったての拳、真っ赤になっているから。
「そうだけど。相手は1000匹以上居るよ? あと、指揮官っていうか、悪魔とか魔族もちょっとはいるみたいだよ? 1匹と10匹ってところかな?」
ニースさんの中では、悪魔も魔族も匹単位なんだと、ちょっと驚いていたけど。
それでも「全滅しちゃうよ?」と言っていたと言うことは、まだ、全滅していないって言うこと。
「状況は?」
「ゴーレムが頑張ってる。殴って1匹ずつ殺してる。あと、マインウルフたちは、なんか、岩石魔法の間違った使い方をしている。」
「え?」
「西門の前に、半径5メートルくらいで高さ10メートルくらいの円柱を作って、その上から魔法で戦っているよ? 確かにあれなら、イノシシの攻撃は受けないけど。でも、ゴンザレスは遅滞戦闘って言っていたよね? 息子達、遅滞戦闘って専門用語、理解できていないんじゃないかな?」
あ!
そうだよね。
言葉をあまり覚えられていないマインウルフの息子達は、「遅滞戦闘」とか言っても、わからないよね。
ゴンザレスさんが、顔面蒼白になってく。
「そうじゃった。あいつら、馬鹿なんじゃった。マヌエルくらいは、わかっておると思っておったのじゃが。」
ちなみにマヌエルというのは、ゴーレムの本名。
彼は、元々人間で、死にそうだったところを助けるために、魔法を使ってゴーレムの中に魂を封じ込めるという荒技を使ったため、あんな姿になっているが、言葉はよく知っているの。
お話しできないけれど。
だめ。
だめよね、それじゃ、伝わらない。
ニースが木の上から実況する。
徐々に倒されていく大きなイノシシ型モンスター。
でも、数が多すぎる。
村の中にいっぱい入り込まれて、建物は破壊され始めた。
魔族達も、破壊魔法を使って、村を蹂躙し始める。
そして、悪魔が、破壊魔法をマインウルフたちの足場に使って、安全地帯を削りに来た。
破壊される側から、足場を作り直して対抗するマインウルフたち。
結構、頑張る。
1000匹はいた大きなイノシシ型モンスターが半減した頃。
村には颯爽と黒い軍団が入り込んできて、どんどん壁を作り始めていました。
援軍が来た!
<異世界召喚後35日目夜>
場所:ヨーコー嬢王国ウーバン領ウーバン村
視点:大岩井
すんごい勢いでコソナ砦に入ってくる、むさい男がいました。
すぐに、リザード族に取り押さえられます。
見たことのある男ですね。
ああ、元山賊団の男です。
「姐さん! ウーバン村に魔王軍がきやがりました! 助けてくだせぇ!」
「どこから? 北の山を越えたとでもいうのですか?」
「西から、西の山越えで、大イノシシが大量に! ゴンザレスんとこの息子達が頑張ってるけどありゃダメだ! 村人の避難は、さっき終わったけどよう、このままじゃ、ここまで攻め込んで来るのも時間の問題でさぁ。」
考えている余裕はなかった。
「半分。半分出します。コソナの守備は、国境警備隊と、新隊員たちに任せます。ワングマン! ワングマン!」
「はい。ここに。」
「大隊出動です。あなたはここに残って、金山から来た新隊員を使って、国境を守ってください。同時にこちらを攻撃されたらおしまいですから。」
「わかりました。それでは、大隊を準備させます。」
「いえ、伝わったものから、先に行くように伝えてください。」
「わかりました。」
そういうと、ワングマンはマインウルフに変身して、変な抑揚のついた遠吠えをした。
街中にいた黒い影、マインウルフ達が、西に向かって走り出していた。
「これで、元ウーバン村民だったマインウルフ軍団は、大隊規模でウーバンに向かいました。団長はいかがしますか?」
「私が、出ます。」
そう言って、伝令にきた元山賊団の男を捕まえると、砦前からトロッコを出させました。
というよりも、いつの間にこんなところに線路が?
国境の壁に沿って、しっかりと線路ができているじゃありませんか。
ラストちゃん。
忙しい中でも、自分の趣味を忘れない。
恐ろしい子。
そして、トロッコは、かなりのスピードでウーバンに向かっていた。
鉱山に入って気がついた。
私の後ろが無駄に明るいことに。
ああ、なんてこと。
わたしの後ろには、ライトエレメントのエナジナーさんが鎮座していました。
だめじゃないですか。
国境警備隊長ですよ? あなたは。
持ち場に戻って欲しいところです。
もちろん、言って聞いてくれる相手ではありませんので、無駄なことは言いませんが。
「何も言わないのか?」
「来た以上は、戦っていただきますよ?」
「もちろん。」
椅子に大きく足を開いてふんぞり返って座っている。
私の目がおかしいのでなければ、綺麗な女性に見えるのだけれども。
しかも、全裸の。
女性がそういう座り方をするのは下品だし、私が女性だといっても目のやり場に困るので、自粛していただきたいのですが。
だって、元山賊団の男が、気になってさっきから、何度も無駄にこちらを振り返るのですから、安全運転を妨害してもいるんですよ?
言っても無駄なんでしょうね。
トロッコは、ウーバン村北側に到着しました。
元山賊団の方には、トロッコごとお引き取り願いました。
「姐さんが残るなら、俺も!」
とか、エナジナーさんをエロい目でガン見しながらいうので、すぐに帰ってもらいました。
「状況は?」
ウーバン駅の周りには、高い壁が作られていて、線路の分だけ壁が開いていました。
そこから入ってこようとするイノシシだけを討伐していけばいい簡単なお仕事をしているようですね。
すでに、壁の周辺には、イノシシの大量の死体が転がっています。
保存食にして、輸出しないといけないくらい大量です。
腐る前に処理しましょう。
村人総出で。
「団長。状況は良くありません。」
マインエルフに変身した、マインウルフのキートンが言ってきた。
「どう、よくないのですか?」
「敵は、悪魔1体、魔族12名。大イノシシが1000前後と言ったところです。大猪だけは、残り300まで減らすことができました。半分はゴンザレスの息子達によるものです。今、そこまで村に外壁を作りつつ、救援に向かっているところです。」
そう言うので、壁の上に登って、状況を確認しようとした。
「おやめください。魔族が魔法を放ってきます。我々は、魔法で相殺していますが、団長には無理です。」
「なら、あなたが相殺しなさい。」
「は、はい。」
「上で、もっと詳しい状況を聞きます。」
「わかりました。」
壁の上に登って、絶望した。
村の大半の建物は、瓦礫と化していた。
村中に大きなイノシシが走り回り、掘り返し、建物を体当たりで破壊し、ひどい状況だった。
そのイノシシ1頭に対して、マインウルフが3匹セットで攻撃する。
これが、スリーマンセル? とか言うやつなのでしょうか。
時間はかかっても、1頭ずつ、確実に減っているようです。
この駅から、西門に向かって、即席の岩石魔法による城壁が作られて行っています。
キートンが言うには、微かに見える西門に、変な丸いステージ状になっている城壁があります。
そこから、魔法で攻撃を続ける、マインウルフがいるので、あれがゴンザレスの息子達なのでしょうと。
そして、そいつらの西側にいる、体長3メートルはある人型で羽とツノのあるのが、さっき言っていた悪魔なのでしょうねと。
聞いているだけでも勝てる感じがしません。
でも、単純に考えるのなら、相手の戦力の7割は討伐したことになります。
普通なら、撤退するのが指揮官のお仕事のはず。
あ、でも、そうですよね。
空間魔法で指揮官だけ逃げることができるのですから、かなり数が減るまで戦えますよね。
部下は使い捨てなんですね。
そして、私たちの食料になるんですね。
なんと言うことでしょうか。
「あの悪魔、見覚えがあるぞ? 討ち損ねたか。」
いつの間にか隣に立っていたエナジナーさん。
ちょっと、怖いことを考えていませんか?
「ちょっと待ってろ? すぐに戦局を変えてみせる。」
そう言って、レーザー攻撃しました。
マインエルフの目で見て、やっと判別できるくらいの相手です。
ここから、かなり離れていて、ギリギリ見えるか見えないか。
しかも、夜になって暗い中なんですよ?
あ、なんか爆発しました。
無事着弾したみたいです。
キートンが見たままを解説してきます。
空を飛んでいた悪魔が、視界から消えました。
攻撃されないように、地面に降りたようです。
「ここから、攻撃するのなら、そう言ってくださいな。」
「大丈夫だ。どこから攻撃されたかなんてわかりやしないさ。」
「いやいやいや! ぜったいにバレてますから。あなた、すんごい光っていて目立ちますから!」
もう、どうしましょう。
気がついて、こちらに攻撃にこられたら大変です。
そして、西門の近くから、さらに爆発が発生しました。
「え? まだ、攻撃するんですか? もう、見えていませんよ?」
「む、違うぞ。今のは私じゃない。」
「なら、どこから?」
爆発というと、レイン様を思い起こしてしまいますが、どうでしょうか。
おそらく違うと思います。
連続して、徐々に村の中に爆発の場所が移動しています。
これは。
これは空爆です。
空を見上げても、月の隠れた暗い夜空に雪雲が低く立ち込めていて、相手が見えません。
でも、間違いなく、その雲の上から、爆弾が投下されています。
そしてまた、村が爆破されていきます。
敵の援軍です。
しかも空の上。
雪雲よりもかなり上。
ああ、これは。
これは、カメ鶴とかいうあれじゃないでしょうか。
どうすれば。
どうすればいいのでしょうか。
私、正直もう、だめなんじゃないかと思ってしまいました。
ブックマークありがとうございました。
新年早々、戦いの話で申し訳ありません。
今回は、結構敗色のあるお話しです。
追い詰められてる感を出していこうと言う感じです。
とうとう、危惧していた、サッシー王国側からも魔王軍が攻撃してきました。
どういうことなのかについては、おいおい話で出していきます。
理由はともかく、油断していた方向からの攻撃には、我々日本人は歴史的にも弱く、敗北を重ねています。
代表例は、桶狭間の戦いでしょうか。
そこから攻める奴はいないと、そう油断することが、勝敗を決してしまったと。
それでは、筆者の油断で正月早々敗北を喫していなければ、明日12時すぎに。
訂正履歴
非難 → 避難
初生だとして → 女性だといって
西門 → 南門