第80節 空の支配者
波状攻撃とか、飽和攻撃とか。
する側ならもちろん、ざまぁ要素満載ですが、さて、される側ではどうでしょう。
それが、今回のこの辺りの話を作ったコンセプトです。
負けたらデッドエンドなので、負けるわけにもいきません。
今回はそんなお話です。
それでは、どうぞ。
<異世界召喚後31日目午後>
場所:ヨーコー嬢王国コソナ領オールドコソナの町
視点:大岩井
こんにちは、大岩井です。
今日は朝までなぜか海から攻めてきた魔王軍と対峙するお仕事に従事していました。
撃退後に昼前まで祝勝鍋パーティーが開かれていましたので、もう、眠いです。
それを押して、サンコソナから、なんとかオールドコソナまで帰ってきました。
コソナ砦にある国境警備隊の寝室で、爆睡してしまいました。
仕方がありませんよね。
だって、夜通し仕事をしたのですから。
そして、目を覚ましたときには、また、面倒なことになっていたのですが。
伝令のマインウルフというかエルフも、呆れていました。
はあ、もう、諦めました。
<異世界召喚後32日目未明>
場所:ヨーコー嬢王国コソナ領オールドコソナの町
視点:野中
ガルダ族の族長、キングパンサーに拉致されてしまった。
今、彼らの新しい拠点となったオールドコソナにある灯台の屋上にいた。
もちろん、今日も今日とてエレメント族は飽きもせず踊り狂っている。
かなり、キレッキレのダンスだ。
音楽があれば、もっといいのにと思うのは、科学の進んだ日本での生活の弊害だろうか。
ちなみにこの塔は、屋上と、その1階層下までしか制圧が完了していない。
他の階層は、魔物蔓延るダンジョンだ。
キングパンサーの力無くして、地上に戻ることはできない。
なお、エレメント族にご助力いただくと、僕の体は蒸発してしまう可能性大。
試してみたいとは決して思わない。
連続して襲撃があったので、もちろん今日も魔王軍が来るだろう。
そう予想する、異種族の重鎮たち。
僕としても同様の意見だった。
3度目の正直という言葉もある。
今日こそ突破するぞと、相手はかなり気合が入っているものと考えられる。
さて、どう攻めてくるか。
「ノナカ! うしろ! うしろ!」
踊り狂っていたエレメント族たちが踊りをやめて、人のことを指差してきた。
真後ろを見ようと思ったけれども、エレメント族たちの指は、斜め上、結構上を指していた。
「何も、見えないんだが。からかったのか?」
実際晴れた夜空には、星が瞬いているだけで何もない。
雲ひとつない、快晴の夜空だった。
微妙に動いているのは旅客機か何かだろう。
「いや、よく見ろノナカ。夜空に動く星があるだろ!」
いや、あるけど。
だから、ジャンボジェットかそこらだろ?
いやいやいや!
ないよ!
異世界にジャンボジェットとかないよ!
「あの、動く光はなんだ? 元の世界にはよくあるものだったので、うっかり見逃したが。」
「鳥の群れだよ! あの高さを飛ぶのは、ただの渡り鳥じゃない。敵襲だ!」
灯台から放つエレメント族たちの激しい光を、上空から反射する姿だった。
それも、かなりの上空。
実際には白い光の点くらいにしか見えない。
それもそのはずで、とても高い上空だった。
国境の壁の上に配備しているマインウルフたちの攻撃魔法が届かない程度に。
灯台としては無駄に高い、この塔よりも遥か高くに。
高度にして、1000メートルは超えているのではないだろうか。
飛行機のないこの異世界で、上空をゆっくりと動く、よく見るとたくさんあるその星たち。
それは、おそらく魔族たちだった。
前回の教訓を活かして、国境には十分な距離をとっているご様子。
流石のマインウルフたちも、上空遥か上の匂いまではわからないだろう。
ということでさっそく動こうとしたけれども、ガルダ族の族長、キングパンサーが苦々しく言い放った。
「僕たちはね、この空の支配者だって豪語して、実際にそうだった時代もあったんだよ。でもね、そんな僕たちでも、あんなに空高くまで、飛ぶことはできないんだ。もちろん普通に考えれば、僕たちにできないことを魔族が魔力を使ってできるとも思えない。だから、あれは、本当の『空の支配者』が来ていると見ていいね。」
「なんなんだ? そいつは?」
「カメ鶴だよ。ぱっと見は普通の鶴なんだけどね。長生きなんだよ。1万年以上生きる魔物でね。魔法抵抗値がかなり高いから、上空に対して遠距離攻撃をしても無駄なんだよ。そもそも彼らは一番高くて7000〜8000メートルくらいまで上空を飛べるからね。」
でも、防御はともかく、脅威ではないと思うけどね。
「あ、キミ、カメ鶴を舐めているね。防御は、攻撃が届かないということと魔法抵抗値の問題で、厄介なのは分かると思うんだけどね? 彼らの本当の怖さは、その攻撃力だよ。カメ鶴は、空から強力な爆弾を投下してくるんだ。」
「なんだと? 空爆じゃないか!」
「そう。空爆。しかも、止める手段がないからやられっぱなしだよ。もうそろそろ、爆弾が投下されるんじゃないかな。」
悠長なことを言っている場合じゃなかった。
キングパンサーが言うには、卵を産むように、地面に落ちた衝撃で起爆する強力な爆弾を投下してくるそうだ。
今回は、相手の作戦が成功した。
砦もオールドコソナの町も、空爆され、火の手が上がっている。
水と氷のエレメント族が、魔法ですぐに消し止めていた。
なんなら、空中で優しくキャッチしていた。
なお、キャッチできた爆弾は、レイン先生の爆弾の残弾として、有効活用されるらしい。
と、そこで、爆弾大好きっ子のレイン先生がいないことに気がついた。
10分くらい続いた空爆が徐々に少なくなって、終わった。
流石に卵を産むようなタイプの攻撃だ。
1羽で1発が限度なのだろう。
見た感じでは、100羽くらいだったので、丁度弾切れ。
本拠地に帰って、別の集団がまた来て、を繰り返されたらまずい。
ただ、爆弾は、残弾を補充できる性質のものじゃない。
次の空爆まで、この集団に関しては、1日から2日は、帰ってこないだろう。
実際、こちらから手を出せず、一方的に爆弾を投下され、しかもその威力はかなりのものである。
エレメント族のように、命の意味が普通の生物と異なる者でもないと、安易にキャッチできない代物だ。
「あれは、ほんとなら爆弾でもなんでもない。ただの無精卵なんだよ。あいつらは1日1回は産卵するからね。有精卵は爆発しないんだよ。無精卵の中身が空気に触れると、大爆発する、そう言う成分でできているらしいよ。」
「じゃあ、卵を狙って無精卵をつついた蛇とかは、爆発するってことか?」
「そうなるね。だから、カメ鶴の卵を狙うやつはいないのさ。自殺行為だからね。もちろん、有精卵を狙えばいいけど、当然、親が抵抗するしね。」
「完全無欠だな。すごい進化だな。」
「魔物だけどね。」
地球上にあんな物騒な生き物、いなくてよかったと、ほっと胸をなで……おろせない。
だって、僕は今、この世界から脱出できないのだから。
「弱点は?」
「ない。」
「いやいやいや。あるでしょう?」
「まあ、あるにはあるけど。今はない。」
「どういうことだ?」
やはり、弱点はあるらしい。
しかも、キングパンサーはそれを知っている。
なら、攻略すればいい。
「地上にいるときは、物理攻撃に劇弱。おっとりしているから、簡単に捕食される。肉の方は、流石に爆発しないしね。地域によっちゃ、寿命を伸ばす薬の材料として、乱獲されてるくらいだしね。」
「マジか?」
「どっち? 寿命のこと? それとも乱獲されているってこと? 両方ともマジだよ?」
なんていうか、ちょっと不憫な鳥だった。
もちろん、卵を孵化させるためには、地上に巣を作るのだろう。
なら、一番弱い条件で、卵の孵化に挑むことになる。
飛んでいれば最強なのに、地上に降りたら最弱とか。
ああ、それで『空の支配者』なのかと。
そんなふうに考えていたら、夜空から、ゆっくりとした流れ星が。
いや、墜落してくるカメ鶴だろう。
仲間割れか?
目を凝らしてみると、その墜落してくる鳥の数は、徐々に増えていた。
仲間割れにしては妙だった。
でも、この暗がりの中、上空で何が起こっているのかは知り得ない。
エレメント族の皆さんは、落下してきたカメ鶴も回収していた。
一様に、頭を爆破されていた。
あ、これ、見たことがある気がする。
あれだよ。
ホワイトベアーだよ。
ということは。
つまり。
こいつらをやったのは。
「ただいまなのです! マスター! 褒めてくれてもいいのですよ!」
顔を煤だらけにした精霊レインが、僕たちの元に戻って来た。
「れ、レイン様。まさか、レイン様自ら、カメ鶴を討伐なさったのですか?」
キングパンサーが、驚いて聞いていた。
「正解なのです! ライトエレメントたちもできると言っていたのです。でも、仕事を奪ってやったのです。落下させるから、回収するように、指示を出したのですよ? 高性能爆弾と、長寿になる秘薬の素。両方ゲットなのです!」
いや、レインは精霊だから、寿命とかないじゃん。
エレメント族もそうだけどさ。
「たっぷり料理してやるのです。マスターの寿命、びっくりするくらい延ばすのですよ?」
「え? ちょっと待って? 縁起物とか、言い伝えとか、そう言う意味じゃなくて、本当に寿命が伸びるの?」
「そうなのです。効果がないのに乱獲とかされないのですよ?」
「養殖とかすればいいのに。」
「鶏小屋で買うと、ストレスで卵を蹴って、大爆発するのです。他の卵も誘爆して、クレーターができたのです。絶対に、鶏小屋では飼ってはいけない鳥なのですよ?」
「マジか?」
「マジ、なのです。」
確かにそうだよな。
こう言う性質の鳥、捕まえて増やそうとか、みんな試すよな。
初めに試したやつは、消し飛んだって訳か。
なんて残念な人生。
しかしあれだな。
こっちの世界で空爆されるとは思っていなかった。
平和な日本では、空爆されることはなかったけれども。
あ、いや、日本だって、戦争中は米軍に空爆されていた訳だし。
なんなら、中国軍とかロシア軍とか近くを飛び回っているから、うっかり誤射とか言って、空爆してくるかもしれないしな。
それはそれとして、レイン先生は、本気を出すとそんなに高く飛ぶことができるんだな?
恐ろしい子。
戦いは、これで終わったと、そう思っていた。
しかし、戦いは、始まってすらいなかった。
「野中さん。モンスターはやっつけられましたか? 攻撃が効かない相手なので苦労されていると思いますが。」
「あ、ああ。やっつけた。レイン先生が100匹ほど。エレメント族の皆様が、落ちたモンスターを全部回収してくれた。」
「回収ですか? そんなことができるのしょうか。無理だと思いますが。レイン様が、何か特殊な魔法を使われたのですか?」
「いや、普通に爆弾で。強いて言えば物理攻撃だな?」
「え? 物理攻撃は効きませんよ? 効果なしです。魔法攻撃、特に炎系の攻撃が有効だと教わりましたが。」
「いや、魔法攻撃が効かないんだろ? 間違いなく、物理系の攻撃で討伐しているぞ? なんなら、そこのエレメント族たちに、死骸を見せて貰えばいい。」
「だから、死骸なんて、」
エレメント族の摘んでいた、カメ鶴を見て、大岩井さんは慌てた。
「なんですか? この鶴のようなモンスターは?」
「だから、レイン先生が討伐した、カメ鶴だよ。100羽くらい討伐した。食べると寿命が本当に延びるらしいぞ?」
「野中さん。戦闘はまだ終わっていません。マインウルフたちの鼻に引っかかったのは、そういうモンスターではありません。エレメント系のモンスター、ポイズンミストとエビルミストです。毒を撒き散らす危険なポイズンミストと、瘴気を撒き散らして、魔族が住みやすく、人間が生きていけない環境に変えてしまう、エビルミストです。数にして合計100くらい。」
隣で聞いていた、ファイアーエレメントが声をかけてきた。
「それは、どこの話だ? すぐに燃やし尽くしてやろう。」
「匂いの方向からして、また、サンコソナだと。急いで行かないと。」
「よしわかった。」
僕と大岩井さんは、馬車的なものに乗って、隣町まで急いだ。
空を飛ぶファイアーエレメントの方が、馬車よりも移動スピードが速く、どう見ても先に到着しそうだったのだが。
サンコソナに着く前に、温泉にかかる橋の周辺が、既に瘴気で黒くモヤがかかっていた。
「社長さん。この黒いモヤ、エビルエレメントの擬態です。燃やしてやりましょう。」
ファイアーエレメントはそう言うと、橋の上で激しく踊った。
すると、黒いモヤが次第に晴れていき、最後の最後で断末魔の叫び声が聞こえた。
「ゆるさん! 絶対に許さんぞ!」
ファイアーエレメントは似たような性質の種族と言うこともあり、エビルミストたちを効率よく発見し、そして燃やし尽くしていった。
今にして思うと、ミャオー王国の騎士団だったら、という仮定で考えることに罪悪感を感じるくらい、恐ろしいことだった。
つまり、僕たちが国境警備隊を配備するのが1日でも遅れていたら、今頃はこの辺りも魔王軍の侵攻をにより蹂躙されていたのだろう。
ミスト系モンスターにせよ、カメ鶴にせよ、一般人に、どうこうできる相手じゃない。
王国の国境警備隊だったら、多数の死傷者が出た上、領土を回復できないくらい荒らされていたのだろうと。
運が良かったと。
そう、しみじみ感じる、夜明けなのでした。
評価ポイントとブックマークありがとうございました。
あと、大量の誤字報告もありがとうございました。
結構な時間がかかりましたが、対応させていただきました。
さて、本文のお話です。
魔王軍の指揮官側からすると、地上戦力で攻めてもだめ、海上からの襲撃も防がれた。
じゃあ、どこから攻めればいいんだ?
そうなりますよね?
陸・海、と来たら、どう考えても空が出てくるのは自然なことです。
そして、普通の相手なら、飽和攻撃となるような一方的な攻撃手段を使ってきた訳です。
本文の通り、被害は少なかったようですが。
じゃあ、次はどんな手を使えばいいんだよ!
ここまでやったんだ絶対に陥落させてやる!
おそらくそんなふうに、意地になって攻撃してくるのではないでしょうか。
年末にもかかわらず、筆者も意地になって、明日も12時すぎに。