第11節 たくさんの白骨死体は何故ここに?
異世界ものではいろいろな魔物が出てきます。
ドラゴンとか好きです。
でも、面白い特徴のある雑魚敵はもっと好きです。
今回はそんな迷惑な魔物のお話です。
<前回の3行あらすじ>
8階層を彷徨っていたら、ストーンゴーレムに子犬を押しつけられたよ。
って、よくみたらマインウルフの幼生体だったよ。ユリって名前にしたよ。
5階層まできたら、天井びっしりの吸血マインバットが! 詰んだ。
周囲の状況の確認。
危険物等なし。
すいません。
嘘つきました。
周囲に散らばるのは、多数の白骨死体。
服が食い破られているものがほとんどなので、魔物に襲われたのではないか。
そして、彼らの武器は剣でも槍でも弓矢でもなく、一様にツルハシ。
彼らは炭鉱労務者だったのだろう。
単純に考えるなら、天井にビッシリぶら下がっているマインバットの仕業か。
それとも肉を食べるという点に着目してマインウルフか。
もしくは未だ見ぬ、その他の魔物か。
とにかくここには白骨死体になる原因が思いつくだけでもいくつかある。
天井にいるマインバットがとても気になるが、気にしたら先に進めない。
警戒するだけして、前進することとした。
あいつら、血を吸うっていうしな。
「また、横穴。これで上の階層に行けるわ。」
伊藤さんが嬉しそうにいう。
そう。
ちょっと他の階層よりも広いと言っても、こんなにコウモリがたくさんいるところに長居したくはない。
そして、横穴を見ると、何となく予想はしていたが空気穴、いわゆる立坑だった。
竪穴なので、もちろん登ることはできない。
あ、自由落下ならできますよ、お勧めしませんが。
ちなみに下を覗くと、はるか下に水面が見えた。
おそらく7階層の床ぐらいの高さ。
時間的には水没までしばらくの余裕があると考えられる。
ここまで追い立てられるように上の階層に登ってきたので、ちょっと一息つける感じだ。
でも油断できない。
今までのことを考えると、水の増える量は、一定ではない。
早かったり遅かったりする。
そしておそらく、7階層と6階層は、それより下の階層と比べると、狭い。
つまり、水没するまでの時間は、今までよりももっと早くなると思われる。
急ぐべきだ。
お腹も空いているし。
視線が、地面をむいていた。
空腹で、力が出ないと、俯いてしまっていた。
いけない、と胸を張ろうとして、地面をひょっこひょっこ歩くものと目が合った。
マインバットだ。
せっかく空を飛べるはずなのに、こいつは何で不器用に歩いているんだ?
疑問に思って見ていると、足に近づいてきた。
「マスター。噛まれますよ。」
レインが警告してくれて我に返った。
ちょっと可愛いな、なんて思っていたのは秘密である。
「キャー、痛い。イタイ!」
後ろで伊藤さんが足首を噛まれていた。
血を吸われている。
僕は噛み付いてきそうになっていたマインバットを蹴り飛ばそうとした。
でも、マインバットは素早く避けると羽で飛んで、天井にぶら下がった。
え、飛んだなら、3次元で攻撃したら圧勝じゃないの、こいつら。
マインバットは思いの外、バカだった。
伊藤さんの足を噛んで血を吸っていたマインバットは、血を吸いすぎて動けなくなっていた。
地面に、コテンと倒れてしまっている。
でも、吸いにきたのは1匹だけ。
僕の方に至っては、逃げてしまった。
集団で襲いかかってきたら、一瞬にして全滅だと思うのだが、彼らにはその発想はないようだ。
じゃあ、この白骨死体を作ったのはこいつらじゃないのか?
血を吸うだけなら、ミイラになる。
皮も残るだろう。
でも、おそらく美味しくいただかれているので、やはりマインウルフの仕業と見るのが妥当だろう。
と、その時、頭の上から、ユリが飛び降りた。
伊藤さんの足の血を吸って寝転がっていた、食休み中のマインバットを咥えると、定位置に戻った。
一瞬だった。
この呪いの兜は、まだまだ外れる気配はないようだ。
マインウルフの幼生体であるユリは、マインバットを美味しくいただいていた。
僕の頭にしがみ付きながら。
そこで、納得した。
マインバットがなぜ攻撃してこないのかを。
マインバットはマインウルフに食べられる、被捕食者なのだ。
食物連鎖的に、下なのだ。
もっと狡猾に生きていれば、下克上できるのにとも思ったが、こいつらはとても小さいので、頭も小さい。
きっと、そういう難しいことを考えることが苦手なんだろう。
また、1匹、地面をひょっこひょっこ歩いて接近してくるマインバットがいた。
僕が狙われているようだ。
そして、また、一瞬で消えた。
頭上からは咀嚼音がした。
こいつ、できる!
ユリの攻撃は、今回ほとんど見えなかった。
すごい速さ。
そして、頭皮に深刻なダメージ。
そりゃ、これだけ早く動けば、僕の首と頭皮に負担がかかる。
後、頭上でよだれを垂らしながら食べるのやめていただけませんかね。
こうして、僕たちは、このマインバットだらけの危険地帯を、通過することができた。
もし、ユリを拾っていなかったら、もちろんこの階層でバッドエンドだったのだろう。
仲間って大切だな。
そう思って後ろを振り返ると、伊藤さんが足を2箇所噛み付かれていた。
両足、一匹ずつ、マインバットが噛み付いていた。
手で叩いても、全く離れる気配がない。
そして、お腹が膨れると、ポロっと落ちた。
そしてユリの餌食となった。
「見てないで、助けてよ!」
「いや、僕じゃ、無理だろ。伊藤さんの力でも外せないのに。」
「その犬、もっと早く動かしてよ。何であんただけ守られてるのよ!」
「なんか、懐いちゃって。」
伊藤さんに接近するマインバットには反応しないユリ。
そして、伊藤さんの血を吸って動けなくなっているマインバットを美味しくいただくユリ。
あ、こいつ、間接的に伊藤さんの血をたくさん飲んでる。
狡猾だ!
伊藤さんが、白骨死体の脇からツルハシをとった。
ツルハシで何とかなるなら、こうはならなかったのではないかとも思ったが黙っておいた。
「マスターも、何か武装しますか。いろいろ落ちていますよ?」
「僕もツルハシか? あんまり使いやすくなさそうなんだが。」
「いえ、護身用のナイフとかも少しだけ落ちています。」
「じゃあ、拾って使うか。」
「はい。」
伊藤さんはツルハシが気に入ったようだ。
確かに振り回すと、地面をひょっこひょっこ歩いてくるマインバットが近寄れない。
結構効果的だ。
僕とレインは、白骨死体から、ナイフをいただいた。
僕は、30センチくらいの万能ナイフ的なちょっと長いのを。
レインは、10センチくらいの果物ナイフ的な短いのを。
それぞれ持ってみた。
直接攻撃にはあまり役に立ちそうにないが、これで、マインウルフ対策にはなるだろう。
マインバットには、あまり効果を期待できないが。
なので、小型のツルハシも一つ、拝借しておいた。
今後、何かと使うかもと思ったからだ。
そうして、ユリが定期的に吠えて威嚇したり、伊藤さんが大きなツルハシを振り回して威嚇したりして、それ以降はマインバットに血を吸われることはなくなった。
それでも、定期的に何とか血を吸おうと接近してくるのもいる。
それは、ユリに美味しくいただいてもらった。
だいぶお腹がいっぱいになったようで、気がつけば、頭上から寝息が聞こえてきた。
幼生体の割には、結構大きないびきをかくのね。
女の子なのにね。
いや、食べすぎてお腹が大きくなっているのと、疲れたのが原因かもしれない。
この階層で一番活躍したのは、紛れもなくユリだった。
寝てからも、その「歯軋り」で威嚇されたマインバットは、攻撃してこなかったのだから。
「マスター、驚愕の事実です。」
「どうした?」
「ユリ、マインウルフじゃないかもです。」
「いや、色といい形といい、マインウルフだろ。小さいけど。」
レインが、ユリに向けて両手の指でファインダーを作り、覗いた。
「判定結果を言います。」
「どうぞ。」
「上位種のハイドウルフでした。」
「で、それは強いんか?」
レインが、さらにファインダーで覗き込む。
むむむと、頑張っている声がする。
「この小ささで、すでに成体のマインウルフより強いです。」
「具体的に。」
「ステータスで言えば、全てがほぼ2倍。素早さだけで言えば20倍くらいあります。」
「なるほどね。あの常識外れのスピードは、そもそも種が違ったのね。」
「いえ、上位種です。ウルフ種の中でのほぼ最上位種です。」
「これ、大きくなるの?」
「なります。」
「大きくなったら、僕ら、餌になってしまうのでは?」
「さ、先に進みましょう。」
レインは問題を先延ばしにした。
精霊のくせに日本人的思考回路だな、おい。
そして、4階層への道が見えてきた。
ご一緒に何か、門番のようなものも見えてきた。
ちょ、でかい。
3メートルはあるよ。
この階層、マインバットだけじゃなくて、それ以外でも殺しにきてるな、そう感じた。
女神め!
今度こそ詰んだか……。
PVの数を確認する手段があることに、昨日の夜、日付が変わる寸前に気がつきました。
結構な数の方に見ていただいていることにびっくりです。
なら、もう少し頑張ってみます。
多少なりとも皆様の糧となれますように。
ちょっと自宅で小躍りして喜んでいる自分に対して、有頂天にならないように反省。
いろいろな意味を込めて今日も3連投してみます。