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女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第6.5章 この冒険ハードモードにつき要注意
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第29話 チートスキルでも歯が立たないハードモード

チートスキルや万能なスキル。

どこまで使っていいのか、どこまで使えるのか。

限界を知りたいと思うことは多いと思います。

今回は、そんな話です。

それではどうぞ。

<異世界召喚後11日目夜:ミャオー王国東部/猿渡視点>


 僕はこの異世界に来て、高校生から研究者にクラスチェンジした。


 え? 何を言っているのか分からないって?

 いや、元の世界でもたまにいるじゃないですか?

 超高校級の天才とか。

 飛び級で大学生になる人とか。


 僕はそこまで自惚れてはいないし、高校生に未練ないわけじゃない。

 でも、異世界から帰ることができない限り、そもそも高校生としての意味はない。

 すっぱり諦めて、研究者となった。

 そもそも、異世界の職業クラスシステム上の話だしね。


 この研究者という職業クラス、性能がちょっとおかしい。

 神官の説明では、賢者への最短ルートチケットのようなものだという。

 研究者からクラスアップして魔法学者に。

 魔法学者からクラスアップして賢者に。


 通常、賢者となるには、神官のクラスで上位クラスまで登り詰め、回復魔法や光系統の魔法を極めて、さらに魔法使いのクラスで上位クラスまで登り詰め、各種魔法を極めた後に初めて賢者へとクラスチェンジできるのだそうだ。

 ちなみに、このルートで賢者となった者は、ほとんどいないそうだ。

 なぜなら、人間には寿命があり、このルートで賢者になるには、少なく見積もっても80年から100年、魔法に専念する必要があるからだ。


 じゃあ、賢者になった頃にはヨボヨボのおじいさんじゃないか。

 というより、なる意味があるのかと。

 そう、もうその年齢でクラスチェンジする必要性があるのかと。


 答えはシンプルだった。

 答え 1 意味がないのでクラスチェンジしない。

      これが凡人の人間の考え方。

      もちろん、賢者になろうとする者に凡人はいない。

 答え 2 当然のようにクラスチェンジする。

      だって、人生かけてきたんだぜ?

      見栄も名誉もあるしな?

 答え 3 そこまで魔法を極めたんだから、そもそも寿命の方を何とかする。

      ほとんど、このルートで賢者になったものが取った手段。

      当たり前と言えば、確かにそうなのだが……。

      もしかして、人間、やめちゃっていませんか?



 なんか、その欲望、とても人間らしくていいのだが。

 賢者としてはどうなのだろうという感じだ。

 それでは、研究者の話に戻ろう。


 そんなチートクラスではあるのだが、性能は、超劣化版の賢者。


デメリット 1

  中級以上の魔法は使えない。

  中級以上の魔法を使いたいならクラスアップしなさい的な縛り。


デメリット 2

 ステータスは、MP以外に補正がかからない。

 うっかりすると普通の人だ。

 戦闘の役に立たなさそうだ。


 でも、逆にメリットだってある。


メリット 1

 装備制限がかからないこと。

 思ったよりも地味に効く。


 職業によって、得意な武器があるけれども、装備できない武器もある。

 防具もそうだ。


 ところが、「研究者」なのだ。


 その名の通り、研究をする者。

 道具も装備も、一通り使えなければ研究のしようもない。

 べつに、研究者は魔法の研究をするだけに特化しているわけじゃない。

 何の研究をするのも自由だ。


 日本国憲法的に言えば、学問の自由だ。

 つまり、どんな道具でも使えて、どんな装備でもそれが職業専用装備であってもお構いなしで装備できてしまうのだ。


 他の職業だと、無理やり装備した時の、能力値の低下補正がない。

 もちろん、どの装備品でも、上昇補正もないけれども。

 しかも、クラスアップすると、この制限がかかってくる不思議。


 同様の制限なしのクラスは、賢者のみ。

 上位クラスの学者系クラスでは、若干の低下補正がかかる。


メリット 2

 初級基礎魔法が使えること。

 研究者を研究者たらしめる、一番の特徴。


 おそらくこれが一番チートでかつ一番使いこなしにくい能力。

 レベルが一つ上がると、一つだけランダムで基礎魔法を習得する。

 ただし、初級魔法のみだ。

 初級だの基礎だの、訳がわからないと思う。


 まず、初級というのは、威力のこと。

 僕がレベル1で習得した基礎魔法の「火」魔法なら、初級の縛りがあるので、せいぜいキャンプファイヤー程度の大きさの炎が限界だ。

 中級、上級、超越魔法の順で驚くほど威力が上がるらしい。


 ちなみに、中級魔法クラスになると、木造平家の一軒家を一瞬で火に包むくらいの威力があるらしい。

 何それ怖い。

 上級、超越魔法なら、どうなるのさ?

 神官から、その説明は拒否された。


 自らが賢者となり、それらの魔法を操って、自らの目で確かめよと。

 お前の成長の芽を摘むことはしないと。

 いや、意地悪しないで教えて欲しかった。


 そして、基礎魔法の基礎の意味は、そのまま、基礎となる魔法という意味。

 火系統の攻撃魔法であるファイアーでは、お湯を沸かすことはできないし、松明の代わりにすることもできない。

 せいぜい、火種となるくらいが限界だ。


 逆に、火系統の生活魔法である、ライターでは、松明の代わりにすることができる。

 もちろん攻撃魔法としてはほぼ意味はないし、お湯を沸かせるほどでもない。


 いや、それ、光魔法じゃないの?

 そうも思うのだが、光系統の魔法は、神官じゃないと習得できない。

 魔法使いには無理なのだ。

 もちろん、光系統の魔法でのライトなら、同じように松明の代わりになるらしい。


 このように、通常の魔法、基礎魔法に対して専用魔法と言われることがあるが、こいつらは、応用が効かない。

 「火」の基礎魔法は、「火」系統の魔法なら、どんなことでもできる。

 ファイアーの代わりにもライターの代わりにもなる。


 だったらみんな、そっちを習得するよね?

 絶対に便利だからね。


 ところが現実は厳しく、そして過酷だ。


 まず、この基礎魔法、習得できるクラスがとても少ない。

 そして、専用魔法なら、難しいことを考えなくても攻撃魔法なら攻撃用に、生活魔法なら生活用に、姿を変えて一瞬で作用する。

 ところが基礎魔法にはそういう便利な専用化する機能がない。

 だから便利なのだが、じゃあ誰が専用化するのか?

 もちろんそれを術者自身が自分で魔法陣的に理論構築して、専用魔法のように再現できなければ専用化できない。


 つまり、使うMPも同じなら、使った結果も同じ。

 見た目は何ら変わることのない基礎魔法と専用魔法の結果。

 しかし、基礎魔法を戦闘などで使いこなせる人間はほぼいない。

 それが研究者でもだ。


 使いこなせるものも、自分の習得した膨大な基礎魔法のうちの1つか2つに特化して、というか、その基礎魔法を研究し、完全に自分のものとすることで、そうしているのだ。



 今回、僕は、レベル2で「生物」魔法という、訳のわからない基礎魔法を習得した。

 皆さんも訳がわからないと思う。

 普通のRPGとか、ラノベとかでの魔法って、火とか水とか風とか土とか、とにかく対象がわかりやすい。

 いや、生物魔法だって、わかりやすいですよ?

 相手は生物なんでしょ?


 でも、じゃあ、生物をどうする魔法なの?


 そう、僕は、ここで大きな勘違いをしていたことに気がつき、基礎魔法の怖さを思い知った。


 「生物」魔法は、「生物」を対象としたあらゆる魔法が使えるということ。

 「生物をどうする魔法なの?」という発想自体が間違っていた。

 どうするかは、術者次第。

 術者の発想と力量が問われているのだ。


 そして、それに気がついて、重傷を負い、死にかけている人間も、「生物」なのだから、この魔法で何とかできるはずだと。

 恐る恐る使ってみた。

 意味はわからずとも、感覚的に、人間を「直す」ことができると分かった。

 でも、この魔法でできることは、「癒す」とか、「治す」じゃなさそうだ。

 なぜなら、自分の頭の中に出てきた、大怪我をした人間のイメージは、パズルのピースが飛び散った状態に見えたのだ。

 だから、MPを消費して、そのピースを、一つ一つ、正しい位置に戻して行った。

 間違った位置に戻したら、おそらく一発でアウトだろう。

 命のかかったパズル。

 心も体も、MPもすり減らして、それに取り掛かった。


 しかし、もちろんこれは初級魔法。

 パズルが5割程度埋まったところで、魔法が解けてしまった。

 もちろん、再度かけてみたが、効果はなかった。


 それでも、命に危険がないところまで回復させることができていた。

 話ができる状態まで回復したのだから僥倖だ。



「娘を救ってくれて礼を言いたいところなんだが、この商隊キャラバンに、死にそうな重傷者があと3人ほどいるんだ。生きているのは、みんなそんな感じだが。いけるか?」

「MPがありません。休憩して、少しでもMPを回復させてからになります。」

「そんな悠長なことは言っていられない。なにしろ『死にそう』なんだからな。HPを回復させる薬は尽きていても、MP回復薬になるものならある。かなり高価な品だが、命には代えられない。この『クワイ汁』を飲むといい。」


 そう言って、魔法薬であると思われる、透明な瓶を渡してきた。

 中には、ちょっと茶色がかった白い液体が入っていた。

 迷わず飲んだ。

 薬らしい、デンプン的な粉っぽさと苦味のある液体だった。


 MPが僅かながらも回復していくのが分かった。


「魔法道具を専門に扱う、うちのキャラバン隊員が開発したMP回復薬だ。あまり売れていないんだが。効果の方は保証する。回復する量は少ないし、腹に溜まるので、多用はできない。でも、3人回復させるくらいにはなるか?」

「一瓶分のMPで一人回復させる。できるところまでやるだけだ。どのみち、初級魔法の縛りで、完全回復させることはできないみたいだしな。」

「そうか、やってくれ。」


 街道から外れて休憩、というか、野宿の準備をしていたところで、他の馬車で寝ている重傷者に魔法をかけた。

 最初に案内された馬車には、若い女性が寝ていた。

 隊長が言うには若いけど優秀な魔道商人で、魔法道具の専門家なんだそうだ。


 最初に回復させたがったのは、若い女性で体力がないからと言うこともあった。

 でも、それが主じゃない。


 彼女の名前は「クワイ」。

 さっき飲んだ魔法薬の開発者だ。

 なんなら、材料はあるので、彼女さえ復活すれば、作ることができる。

 材料も高価ではあるらしい。


 しかし、そんなことよりも、彼女の技術が、比較にならないほど価値があったのだ。

 もちろん、そうは言っていても、本心はキャラバンの一員として、大切であるということだったのだが。


 価値を見出されなければ救われない世の中。

 隊長が、僕にそれを伝えてくる気持ちがわからないでもない。

 平和な世の中でも裕福なの世の中でもない。


 そのことが伝わってくる一言だった。


 そして、生物魔法により、彼女の壊れたパズルを元に戻す作業に入った。

 正直間一髪だった。

 シンシアの時でも、パズルのピースが1割ははまっていた。

 おそらく、それが正常な部分を表しているのだろう。


 クワイ嬢のそれは、あと数ピース。

 しかも、見ている目の前でハズレかけている。

 そして、あっさりとハズレ落ちた。


 慌ててMPを込めてハズレ落ちるのを抑え込んだ。


 死んでないよね?


 一応、息も脈もある。

 ギリギリだけど。


 そして、シンシアの時と同じように、パズルのピースを探して嵌め込む。

 シンシアよりも年齢が高い分なのか、ピースが多い。

 その上、もとよりあるピースが数ピース。

 はめるのはとても難しかった。


 悩んでいると、また、はまっていたピースが外れかける。


 その度に、ハズレ落ちるのを抑え込んだ。


 二つの作業を並行して実施するのは効率が悪い。

 その上間違ったところにははめられない縛りだ。

 なにしろ、一度はめたら、勝手に外れない限りは外せない。


 だから、盤外で、端のピースをある程度くっつけて、四隅の間違いないピースを頼りに一気にはめた。


 そこで、彼女は目を覚ました。

 同時に、こちらはMPが尽きた。

 正直、パズルのピースは全体の2割も埋まっていない。

 重傷であることには、変わりない。


「あなたは?」

猿渡さるわたり。研究者だ。『生物』の基礎魔法であなたをいじった。死ぬ寸前だったところを、HPで言えば1〜2割のところまで回復させた。体に違和感はあると思う。調子は?」

「さ・い・あ・く!」


 か細い声で、しかし、棘のある返答だった。


「まさか、私がなりたくてもなれなかった『研究者』に生きている間に会うことができるなんて。最悪以外の何物でもないわ。」


 魔道商人のクワイは、横たわったまま、僕を罵倒し続けた。

 言葉の内容を気にしなければ、まあ、回復したようなので、次の人に移行した。

 若い見習い商人の少年2人を回復させてそのまま疲れたので、馬車で爆睡した。



<異世界召喚後12日目午前中:ミャオー王国東部/猿渡視点>


 朝起きて、シンシアに言われた。

 一晩寝てMPが回復していた。


「ママを助けることはできませんか?」


 遺体が、馬車のうしろに乗っていた。

 死体を冒涜するようでやりたくはなかったが、魔法を使ってみた。


 魔法自体は使えた。

 でも、もちろんパズルのピースは一つとしてハマっている物はなく、それ以前に、はめるべき外れているピースが見当たらない。

 つまり、MPを使用する対象が存在しなかった。


 そこで、思いついてしまった。

 この魔法で、ピース自体を作ってしまえばと。

 そうすれば、ピースがはまった状態で、僅かながらにも回復するんじゃないかと。

 思いついたら即行動。


 僕が、新たなピースを作ろうとして、複製のピースを2つ3つ作ることができた。

 これだけでMPの半分を持っていかれた。

 そして、嵌め込む。


 そこからの記憶がない。


 気がついた時には、おでこに濡れた布を置かれた状態で寝ていた。


「ここは?」

「キャラバンの中です。ママ、助かりませんでした。一度、びくんってなりましたので、確認しましたが、死んだままでした。」

「僕は?」

「びくんってなった時に、崩れ落ち流ように倒れられました。すごい熱でしたので寝かせていただきました。」


 夢の中で。

 夢の中で戦っていた。

 「死神」と。

 あれは、やってはいけない領域の魔法だったようだ・

 寝ている間、夢の中で死神の大きなカマに、何度も首をはねられた。

 全身汗まみれだった。

 もう、あれは封印しよう。


 一応、確認のため、母親のパズルを魔法でのぞいてみると、3つ光る偽物のピースがはまったままだった。

 もちろん、はまってしまった以上、外すことも叶わない。

 外れそうな気配もない。

 これは、どう言う状態なんだろう。

 HPを確認する手段がない以上、呼吸と心拍がない以上、死んでいると考えるしかなかった。

 でももしかすると。

 死神に警告されるような、おおそれたことをしてしまった可能性があった。

 ので、とりあえず、そっとしておくことにした。


 気を取り直して、再びクワイの元を訪れ、重傷をなおそうと奮闘した。

 罵倒されながらもパズルを4割くらいまで埋めて、死なない程度の状態まで回復させた。

 元気になったクワイに、なぜか一発殴られた。

 起きたままの相手だと、外れているパズルのピースが定期的にシャッフルされるので、効率がとても落ちる。

 昼前までかかってしまった。


 


 

 その後、馬車に乗せてあったキャラバンの死体をその森に埋めて、皆で弔った。

 生き残ったのは8名。

 若い子が多かった。

 死に溢れたこの世界で、死の意味を理解できないほど幼い子はいなかったのが幸いだった。


 隊長の意向で、隊長の妻だけは、教会まで連れて行き、弔ってもらうことになった。

書いていて、どこまで突っ込んで書いていいのかと、迷いました。

初級魔法でここまでできてしまったと言うことはどう言うことなのか。

筆者側は、常に悩みを抱えながらです。


これは、医療行為でも同じことが言えます。

どこまで医療行為が許されるのか。

法的には逆に、許される限りの医療行為をすることが医師には義務付けられています。

宗教的に、思想的に、それを拒む家族もたまにいるのです。


それでもなお、医療行為をすることになる訳なのですが、それは一体誰のためなのか。

患者本人のためになるのか?

医師自身が、国から罰せられないための保身にはなっていないか。

なんなら、患者のためではなく国のために医療行為をしてはいないか。

逆に、患者のためにではなく、家族のために医療行為を止めてはいないか。


昨日は、時間調整の影響で13時の投稿になりましたが、明日も12時すぎに。


訂正履歴

 森にを埋めて → 森に埋めて

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