第10節 雑魚も多くば強敵となる
マスコットキャラクター、よく少女漫画とかに出ますよね。
可愛かったり、コミカルだったり、あと、変わり種で裏切ったり。
物語を作る上では、いろいろ説明してくれるので有難い存在です。
そんなペットのようなキャラクターを差し込んでみました。
<前回の3行あらすじ>
9階層の登り通路は6階層までつながっていた。やったね!
ところが、その6階層には、登り通路がなかった。7階層にもなかった。
諦めて8階層へと戻る。8階層にも水がつき始めていた。てかやばいよ?
7階層から8階層に戻ってきた時には、すでに胸まで水がついていた。
残り時間は少ない。
そして、お腹も空いてきた。
腕時計を見ると、もう16時。
昼ごはんを食べていないので、だいぶお腹がすいた。
このままではジリ貧だ。
ジリ貧ではあっても、7階層への別の入り口を見つけなければならない。
このままでは水死してしまうからだ。
3人のパーティーは、無言で黙々と進む。
出口があることを信じて。
しばらくすると、出口とは違うが、空気用の立坑を見つけた。
これ、位置的に6階層で見つけたやつとつながっているはずだ。
立坑のそばでは、若干6階層のカビ臭い匂いがした。
そして、水面で見づらいが、下の階層にもつながっているようだ。
つまり、どういうことかというと、通路の脇に大きな穴が開いている状態だ。
立坑は通路上ではなく、通路の脇に斜坑と同じ様に短い通路があってつながっている。
普通に真っ直ぐ歩いていれば落ちる心配はない。
ただ、暗がりの中を壁に手をついて進む、と言った場合には凶悪なトラップとなるだろう。
幸いにして僕たちには、レインの持っている合図燈がある。
光量が十分というわけではないが、立坑にはまらない程度には明るい。
坑道的には、この上はまださっきの行き止まりの坑道であるということ。
まだ少し歩く必要があった。
そして、マインウルフに会うこともなく、登り斜坑を発見した。
水は、僕の顎まで来ていた。
伊藤さんはさすがに泳いでいた。
僕につかまって。
そのまま登り斜坑へ進もうとしたが、視界のはしで何かが光った。
何かがいる? このほぼ水没している階層に?
よく見ると、ちょっと先に何か大きいものがこちらに動いてきている。
万が一に備えて、伊藤さんを登り斜坑に残し偵察に出かけた。
ちょっと進むと大きなストーンゴーレムがいた。
これ、9階層で登り斜坑を塞いでいた奴だ。
水位が上昇したので、ゴーレムは溺れないと思うのだが8階層まで上がってきたようだ。
今は、8階層から7階層への登り斜坑を目指して進んでいるのかもしれない。
「遠目に見て、さっきのストーンゴーレムだな。じゃあ、何もなかったので7階層に進むか。」
「え、ちょっとまってください。あのストーンゴーレム、こっちにきます。」
ゆっくりな動きだった。
ストーンゴーレムは、門番として動かないものだと思い込みも頭の片隅にあった。
でも違ったのだ。
水位に合わせて上の階に来たのなら、これ以上水位が上がれば、別の登り斜坑に移動する。
その可能性を排除しようとする無意識が働いていた。
ストーンゴーレムが両手を前に出しながら、こちらに接近してきた。
今、戦っても勝てない。
というか、戦いにすらならない。
「レイン。逃げるぞ!」
「え、ちょ、まってください。まってください!」
水が鼻まで来ているので、すでに泳いでの移動となり、早くは移動できない。
ストーンゴーレムにはすぐに追いつかれた。
攻撃してこない。
僕もレインも無事だ。
ストーンゴーレムをよく見ると、前に出している両手には、小さな黒い生き物がいた。
子犬だ。
ストーンゴーレムは、その子犬を僕に押し付けてきた。
確かにこのままでは水死してしまうだろう。
このゴーレム、思ったよりも優しい奴なのかもしれない。
と、思っていた頃もありました。
ストーンゴーレムは、まず、僕の頭から帽子を外して水に落とした。
何だその地味な攻撃は? とも思ったが、スキル用の大切な帽子なので慌てて確保した。
そして、その黒くて小さな子犬を大きな石の手で器用につまむと、僕の頭に乗せてきた。
いや、そこじゃないだろ。
最も、泳いでいるので水面から出ているのもそこしかなかったが。
子犬は必死で僕の頭にしがみついている。
爪が頭皮に食い込んで痛い。
いや、これダメな奴だ。
このままでは、頭皮に深刻なダメージが与えられてしまう。
頭皮にHPがあったら、今、ガリガリと削られているに違いない。
このままでは僕も水死体になってしまうので、急ぎ、その場を離れた。
「マスター。それ、どうするんですか。」
「とりあえず、水のない所まで連れて行ってリリースする。」
「えと、ですね。それ、色といい形といいマインウルフのこどもですよ?」
「何だと?」
「やっちまいますか?」
レインは山賊のような表情を作ってこちらを伺う。
子犬改めマインウルフ幼生体が、びくっとして、さらに強くしがみつく。
そして、僕の頭皮にダメージを与える。
刺激しないでほしい。
そんなあほなことを言いながら、登り斜坑に到着した。
ついた頃には、水が天井まであと20センチメートルくらいになっていた。
今回は、まあ、ギリギリ間に合った。
そう思うことにした。
斜坑で待っていた伊藤さんと合流した。
濡れないギリギリのところで立って待っていた。
「髪型、変えたの? その長さは校則的にどうなの?」
風紀委員の伊藤さんが発した第一声はこれだった。
暗くてこちらがよく見えていないらしい。
「いや、子犬拾っちゃった。」
「ひろいました。」
伊藤さんの目が、カッと開いた。
「か、カワイイ!」
いきなり飛びかかってきたので、反射的に交わした。
バッシァーン!
そして僕の斜め後ろで水にダイブする伊藤さん。
今の僕、悪くない。
そう思うことにした。
あと、また、マインウルフ幼生体が、びくっとして、強くしがみついてきた。
そして、僕の頭皮に深刻なダメージを与える。
伊藤さん、可愛いの好きなんだ。
まあ、子犬や子猫が嫌いな人はあまりいないから、不思議じゃない。
不思議じゃないが、ちょっと身の危険を感じた。
それはそれとして、この幼生体を7階層でリリースしようと試みた。
試みたというのは、つまり、できなかった、失敗した、ということだ。
まず、この幼生体、体が小さい割に、凄い力でしがみついている。
つまり、頭から離れないのだ。
人道的にどうかとも思ったが、背に腹は変えられないので無理やり剥がそうとした。
でも、剥がそうとしたということは、つまり、できなかったのだ。
頭皮まで剥がれそうになったので、将来の髪の毛への投資として、諦めた。
最もこのままだと、頭頂部が蒸れてしまうので、頭皮に違うダメージを与えてしまうのだが。
伊藤さんが、はあはあ言いながら、隙を見てはもふもふしようとしてくるので怖かった。
レインは、この幼生体に、僕を取られてご機嫌斜めなようだ。
「で、なまえは、なににするのです? クロとかかわいそうなのでやめてあげてください。」
先回りして、「クロ」を封じられてしまった。
最も、こいつ、この鉱山で初めて出会った、マインウルフのメスだ。
さすがに「クロ」はかわいそうか。
「ステファニー」
「ダメです。」
「ジョセフィーヌ」
「ダメです。」
「エリザベス」
「ダメです。」
散々だ。
僕がつける名前のことごとくを却下される。
じゃあお前がつけろと言いたい。
言いたいが我慢する。
黒いからクロと付けたいところを阻止されたのが地味に痛い。
そのせいで、ちょっとお高そうな犬の名前をつけまくってしまった。
黒くて美しいものを連想してみよう。
……黒百合。
自分の中では、どういうわけだかこれが連想された。
でもクロユリとか、却下されそうだ。
単純にユリ。
これで文句言われないだろう。
「ユリ。これで決まりな。」
独断専行させてもらった。
埒が明かないからだ。
「お前、今日から『ユリ』な。」
幼生体の反応が薄い。
ま、最初はそんなもんだろう。
僕は、ユリを頭皮から外すのを諦めて、登り斜坑を進むことにした。
考え方を変えれば、防御力のある兜を装備したと言えなくもない。
あ、それだと外せないので呪われているか。
7階層まで上がる前に視界に入っていたが、この登り斜坑はまだまだ続いていた。
ズンズン登っていくと、5階層までつながっていた。
いや、鉱山って本来はこうあるべきだろう。
鉱石運ぶの大変だろ、そうじゃないと。
そうして、5階層に入ると、9階層と同じように、他の階層と比べてやや広かった。
いわゆる「主要坑道」というやつだ。
他の階層が幅も高さも2メートルなのに対して、この階層はそれぞれ3メートルはある。
それだけでも息苦しくない。
ないのだが、長所もあれば欠点もある。
レインが天井を照らすと、無数の黒いコウモリがぶら下がっていた。
こちらを凝視しているが、襲いかかってくる様子はない。
キャンキャン!
頭の上で、ユリがコウモリを威嚇し始めた。
「あの、ですね。ざんねんなおしらせがあります。」
「何だ?」
「あのコウモリ、マインバットっていうのです。」
「マインシリーズか。」
「そうです。鉱山ですから。でももんだいはそこじゃないです。」
「問題があるのか?」
「はい。こいつら、全部血を吸いに来ます。」
え、この数で血を吸うの?
もしかして、詰んだ?
詰んだよね、僕たち?
第8節のサブタイトルが微妙にあっていない気がしました。
自分のメモを見ると、書いた当時はわざと合わせていないので注意と書いてありました。
まあ、内容が内容ですし。
スキルはあれですが、そっち方面の話はほぼほぼ入らない予定です。
少なくとも、彼女と彼女のスキルが活躍することはあまりありませんよ?
強力ですが、相手をかなり選ぶものですから。
話の中で条件を満たすのは、無理やりでもない限り困難ですし。