第1節 女神様から恩寵を授かる そして嘲笑の的となる
とりあえず、書いてみましたので、投稿させていただきました。
もし、よろしければどうぞ。
嘲笑される描写は、自分の心が折れない程度にマイルドなのでそういうのが好物の方は注意してください。
現在、僕「野中 浩平」の目の前には、神々しい女神様が立っている。
頭がおかしいんじゃないかとか言わないでほしい。
本当に女神様なのだから。
腰まである天使の輝きを放つふんわりとした金髪。
はっきりとした目鼻立ち、その目は見ていると飲み込まれるような碧眼。
美人というのはこういう人を言うのだと教科書に書かれるような、魅力のある顔。
そして、細くしなやかな腕と対照的に豊かな胸、きゅっとしまった隙のないウエストは、艶かしく男を虜にする曲線を描いて女神様の完璧なナイスバディを形作っていた。
その肢体を包み込むスケスケかつ艶々と光る白い薄絹が、目のやりどころを困らせる。
見えてはいけない部分は何故か奇跡的に見えない。
そして、女神様の腕の動きに合わせて魅惑的に揺れるその大きな双丘。
まさに神の奇跡である。
目の前の美しい煌びやかな女性は、本当に、本当に女神様なのである。
ちなみに、女神様とは聞いているが名前はまだ聞いていない。
僕たちは、その女神様の前に集められていた。
僕たちとは、高校のクラスメイト30人と担任の先生のことだ。
突然の事態に、いまだ何が起こっているのかわからない。
が、とにかく不思議なことに女神様や他の人と言葉が通じる。
そして僕たちは女神様に順番に呼ばれて、授かった「恩寵」について説明を受けてた。
「恩寵」
聴き慣れない言葉である。
まず最初に僕たちの状況と、その「恩寵」について、説明があった。
説明をしたのはこの国の王様だそうだ。
その説明によるとこうだ。
この国の魔法使いの召喚魔法と女神様の力によって、この世界に僕たちは召喚された。
僕たちはその召喚と同時に、女神様から「恩寵」を授かっている。
そう、僕たちはクラスごと異世界召喚されてしまっていたのだ。
王様は、突然の召喚で申し訳ないと言いながらも、横柄に説明をする。
その説明では、「恩寵」とは特別な力のことを指すらしい。
その「恩寵」を持つことで、この世界の人よりも高い能力を発揮できるようだ。
例えば「恩寵:アタッカー」であれば、戦士として攻撃特化の能力と技能が。
例えば「恩寵:ブリザードクイーン」であれば、氷の魔法使いとしての能力と技能が。
「あなた方を召喚したのは、大魔王が復活したからです。」
女神様は、淡々と経緯を説明し始めた。
「こちらを見て下さい。」
そこには大きな時計のようなものがかかっていた。
見たままを言えば禍々しいデザイン。
時計と同じで長針と短針があった。
ただ、おそらく時計とは異なるのだろう。
「これは、終末時計です。大魔王によって人類が滅ぼされるまでの時が示されています。」
こちらの世界の文字が何を指しているのか分からないが、2つの針は、共に6時の方向を指している。
「こちらの、長い方の針が、滅亡まで150日であることを指し示しています。」
長い方の針は、きっちり6時の方を指しているので、おそらく1周で300日という計算だ。
「短い方の針は、あなた方勇者の生存数です。」
短い方の針は、6時よりも少し7時側よりである。
32人召喚されているので、6時で30人と言ったところか。
「最も、この終末時計は、マジックアイテムという訳ではありません。神のお告げを分かりやすく伝えるために設置したものです。」
神のお告げと言うが、この場では裏をとることができない。
とりあえず、そう言う情報がある、と言う知識でいいだろう。
損はないからな。
「大魔王は、北の果てからやって来ました。」
悩んだ表情で、そう切り出した。
「海に囲まれた北の大地には、ノルトシー王国という国がありました。そのさらに北の果てからやって来た大魔王とその配下たちは、1ヶ月ほどでノルトシー王国を蹂躙し、滅亡させたのです。」
女神様は鎮痛な面持ちで話を続けた。
「今では、ノルトシー王国の白く美しい王城が、大魔王の根城と化してしまいました。」
国王が話を補足する。
「まあ、安心するが良い。ノルトシー王国のある大地は、この国とは海を隔てている。大魔王もすぐには侵攻してはこれないはずである。そこで、まだ間に合ううちにと貴殿ら異世界の勇者を召喚した。このままでは1年持たないとのお告げだ。済まないが協力してほしい。」
国王は殊勝にも言葉ではそう言うが、態度は横柄で、こちらを見下している感じが凄い。
国王ともなると、人に頼み事をするにしても、頭を下げる訳にも行かないのだろう。
「それでは、お一方ずつ『恩寵』についてお話しします。名前を呼ばれたら、私の前にいらして下さい。」
女神様がそう言うと、名前順というわけでもなくランダムに、クラスメイトが呼ばれて、恩寵についての説明をされた。
女神様は「恩寵」の名前とその説明をされていた。
これは、本人もそうだが、この場にいる全員に向けて説明される。
今のところ、対大魔王という意味で有益な「恩寵」が告げられていた。
そして僕の番が来た。
「次の方、ノナカ。私の前へ。」
女神様に呼ばれた。
「……野中さん、……あなたの……恩寵は……『トレイン』……です。……『トレイン』?」
女神様は、御自分で御与えになっておきながら、恩寵に戸惑っていらっしゃるようだ。
「……『トレイン』。……『トレイン』?」
今までは、こんなカンペを2度見するような言い方はしていなかった。
いや、実際に女神様には僕の前に恩寵が文字で表示されているのかもしれない。
そういう視線を感じる。
そして、僕の少し手前に焦点を合わせた目で、「トレイン」と噛み締めるように、確かめるように女神様は呟く。
そして、女神様が一瞬光った。
今までにこのようなことはなかったのだが。
不安になって、思わず聞いてしまった。
「女神様、その『トレイン』という恩寵は、戦う上でどのように活用できるのですか?」
僕は、至って真面目に、女神様の目を見てそう尋ねた。
女神様は、中空を見るようにして、僕の恩寵を感じ取っている。
そして破顔した。
プッと吹き出して笑い始めたのだ。
「『トレイン』って、何? 初めてなんですけど、こんな恩寵?」
周りがざわつく。
転移してきてすぐなのでわからないが、おそらくここはこの国の王城の中。
それも謁見の間のような厳粛な場所のようである。
そこで女神様が嘲笑する。
「あなた、元の世界では『鉄オタ』だったのでしょう? こんな恩寵に恵まれるなんて。」
その通りなのだが、周りの視線が痛い。
ちょっと待て、「鉄オタ」という単語、何故この世界の女神様が知っていいるのか?
この世界にも「鉄オタ」がいるのか?
しかし「トレイン」という恩寵。
どう考えても、戦闘に役立つとは考えにくい。
「あなたの恩寵は、鉄道関係に必要な高い能力とスキルが手に入ります。」
と言いつつも、まだ、笑いを堪えられないようだ。
説明こそ、他のクラスメイトと同じようになされた。
しかし、である。
「あと、この能力を発動するのに必要な『鉄道鞄』を与えます。」
黒くて硬い、四角いダイヤルロックのついた鞄を渡してきた。
今までの恩寵の説明で、アイテムが渡されたのは初めてである。
鞄を見ると、取っ手のところに可愛いマスコットキャラクターらしい人形がついている。
首のチョーカー的なものから伸びている紐でつながっている。
これ、鞄を持ったら、首吊り人形みたいになるよ。
そして、ツッコミどころはまだある。
人形としてはでかい。
大体30〜40センチメートルくらいはある。
鞄の高さをちょっと超えている。
だから、正確にはぶら下がっていない。
あと、紺色の制服っぽい物を着てる。
ちょっと女神様に似ているのはどういうことだろう?
鞄を渡し終えると、女神様は深刻な顔を「作って」、最後通牒を放った。
「でもね、この世界に『鉄道』はないの。ぷークスクス。異世界で『鉄道』って。」
この言葉に愕然とした。
この世界には「鉄道」が無い。
能力や技能が手に入っても、それを活かせる環境がない。
根本的問題として、この「恩寵」でどう戦えというのだろうか?
「女神様、僕は確かに『鉄オタ』ですが、その『恩寵:トレイン』でどう戦えと?」
「バカね。聞いていなかったの? 鉄道で戦えるわけがないじゃない。 あなたの世界の鉄道、よく思い出してみて。 変身合体とかじゃなくて、リアルな鉄道のこと。 どこかに、大魔王をやっつけられる要素、あったかしら。 ないわよね、ないわよ。そんなもの。 あなたは『ハズレ』なの。 大魔王と戦う能力も技能もないの。ぷー、クスクス。こんなこともあるのね。」
終いには、腹を抱えて笑い始めた。
せっかくの美人と威厳が台無しである。
あんまり激しく笑うものだから、激しく揺れる双丘。
そして、チラチラ見えてしまっている、見えてはいけない部分。
クラスの男子たちと兵士のみなさん、そして国王まで視線を奪われている。
もちろん僕もだ。
「はい、次。」
頭の中は、ピンク色にされてしまったが、目の前は真っ暗になった。
なぜ、僕だけ。
続いていくクラスメイトたちの恩寵の説明。
そして、強力な恩寵を説明されるたびに歓声が上がる。
僕は、もうクラスメイトの視界には入っていなかった。
「『ドレイン』の間違いじゃないかな?」
そう、声をかけてきたのは、風紀委員の伊藤さんだった。
さらさらの髪から、甘くていい匂いがした。
柔和な顔。
囁くような優しい声。
でも、本性はそうじゃない。
僕のクラスの風紀委員。
普段は、他人に対して鬼のように厳しい女の子だ。
「『ドレイン』なら、相手の能力を吸収したりする魔法使いかもしれないよ?」
そう言って伊藤さんは、うなだれる僕の顔を覗き込みながら、そう慰めてくれた。
人をバカにするようなことを人一倍嫌う、潔癖な伊藤さんらしい。
そして、その伊藤さんに慰められて、ちょっと回復していたところで事件は起こった。
「『ドレイン』じゃないから。無駄話しないで。じゃあ、イトー。前へ。」
女神様は、不機嫌な声で伊藤さんを呼んだ。
「伊藤さん。あなたの恩寵は『ヤオイ』です。」
間髪入れず、他の人と同様、すぐに恩寵の名前を告げられた。
ん?
「ヤオイ」って何だ?
初めて聞く単語だ?
この世界特有の言葉なのか?
もしくは、字頭からすると……
「矢追い:ヤオイ」
矢のスピードにも勝るほどの俊敏が与えられるのではないだろうか。
何しろ、彼女は文化部に所属しておきながら、100メートル走は女子で一番だ。
ここまでの流れで、特技や趣味が「恩寵」に影響しているようだ。
とするならば、おそらく物理攻撃系のそれではないかと思った。
その時は、そう、推察していた。
クラスメイト女子の一部がざわついている。
女神様は、僕の時より、より一層複雑な顔をしている。
いや、あれは僕の時と同じ、ダメな顔だ。
せっかくの美しい顔が、眉間のしわで台無しである。
そして、女神様に「恩寵」を告げられた伊藤さんは、立っていられず、崩れ落ちていた。
絶望の表情を浮かべて。
伊藤さんにはその「ヤオイ」の意味が分かっているのだろう。
しかも、あまり良い「恩寵」ではないようだ。
「伊藤さん。その、あのね、これ、女神様的には説明したくないんだけど。フヒッ。」
「これ以上、追い詰めないで下さい。」
崩れ落ちた伊藤さんを、女神様は嘲笑したりはしなかった。
ただ、汚いものを見るような嫌悪の表情で、睥睨するだけであった。
そして、そんな伊藤さんを、クラスメイトの女子たちは、遠慮せず嘲笑した。
「何? 伊藤ってそっちなの? オタクなの? キモい。」
「キモい。 女神様にキモオタ認定されるって、どんだけよ。」
「あれで風紀委員って、学校、舐めてるんじゃないの?」
バッサリである。
自分なら、これ、心が複雑骨折して、復活できなさそうである。
女神様は、それから一呼吸おいて、サディスティックな顔で声高らかに言い放った。
「『恩寵:ヤオイ』は、」
「あー、聞こえない! 聞きたくない!」
伊藤さんは両手を耳に当てると、頭を振って現実から逃避しようとしていた。
「『ヤオイ』は、『ヤオイ』に関する能力が向上して、」
「あー、あー、女神様! それ以上は!」
「『ヤオイ』に関するスキルが手に入ります。」
伊藤さんは、女神様に激しく抵抗するも、説明されてしまった。
しかし、この説明だけでは、「ヤオイ」が一体何なのか、全く分からない。
「あなたも『ハズレ』ね。」
その吐き捨てるような女神様の一言で、「恩寵:ヤオイ」が、戦闘系の能力ではないことがはっきりとした。
世間受けというよりは自分受けを重視して書いています。
もし、続き読んでみたいなと思われたら、しばらくお待ちください。
のんびり不定期ですが、程々に投稿していきます。