第7話
………。
トントン。
なにかに頭を刺激される。
「う……ん。うん?」
意識が覚醒されてきた。
ライラックさんたちのキャンプに混ぜて貰ったんだったな。
夢だったらよかったのだけれど、まだ覚めないらしい。
2~3秒ボーっとしていると再度、頭を足で小突かれる。
「起きなさい。ライはもうテントの外よ。」
マヤさんが言う。
…マヤさんはライラックさんと事をライと呼ぶんだな。
3班に分かれて夜番をすると言う話だから2~3時間眠れただろうか。
お礼を言いテントから出る。
ライラックさんはテント前の焚き火で暖をとっていた。
今が何月なのかわからないが、夜中は随分と冷えるんだな。
「おう。起きたか。」
「……今日の出来事で緊張したのか、いつのまにか寝ていました。」
心なしかライラックさんも眠そうだ。
「すぐに眠れるっていうのは野宿に関しては才能だぜ。」
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夜の間は随分と暇なので火の番をしながらポツポツと話をしていく。
「今日は災難だったな。」
「ええ、びっくりしてます。……が、心のどこかでワクワクしている気がします。」
そう、自分が思っているほど絶望を感じていないのだ。
長い間読み込んでいたなろう小説のお陰だろうか。
初っぱなスライム転生よりは随分イージーなはずだ。
「ワクワクか。大分ポジティブだか、冒険者には必須条件だな。」
冒険者か。街に行ってギルドみたいなものがあれば登録してみようかな。
戦闘経験かないと所属できないだろうか。
「冒険者ですか。なるには何か資格が必要なんですか?」
「ああ、冒険者ギルドに登録しなければならない。商業ギルドみたいに個人の保証の必要はないがな。」
やっぱりあるんだなギルド。
異世界人の知識なのだろうか、管理する側が独自に開発したのだろうか。
会話が途切れて暫くだってから気になっていることを聞いてみた。
「そういえば、俺たちの会話が成立されていますが、これもスキルの恩恵ってやつでしょうか?」
「ああ、これは魔法だな。マヤが常時発動してくれているんだ。」
なんと。異世界あるあるの異世界翻訳とかではなく魔法で会話が成立してるのか。
「お前の世界はどうかしらないが、こっちの世界にはいくつもの言語がある。マヤの魔法はお互いの伝えたい気持ちを魔素を通して繋げるもの。………、って言ってたかな。」
魔素…。魔法の素ってことかな。
便利な魔法があるんだな。外国語を覚える必要がない。
魔法を覚えるために必要なことがあるのかもしれないが。
「翻訳魔法ってことですか。俺としてはありがたいものですね。」
「ああ。言葉がわからなかったら真っ先にお前を切っていただうな。」
ライラックさんが眉間にシワを寄せながら言う。
…。マヤさんに心の中で感謝を伝える。
朝起きたら直接言おう。
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………ォォン。
遠くから何かが聞こえる。
「ッチ。ついてないな。ウルフかもしれん。」
「魔物ですか?」
「ああ。テントの奴らを起こしてきてくれ。この時期、ウルフなんかの魔物は発生しにくいんだけどな。」
ライラックさんのぼやきを背中で受けつつテントに走っていく。
「ふあーーあ。……俺は今日は完全休養だったはずなのに。」
「そういうなって。ウルフかもしれん。数は未定だ。繁殖期でもなければ冬眠前ってわけでもないから多くても8~10匹ってところかな。」
こっちの生き物の生態系はわからないが、春後夏前ってところなのかな。
ってそんなこと考えてる場合じゃないな。
「ライラックさん。俺、戦闘経験がないんですが、どうしたらいいですかね。」
ライラックとシュウさんが落ち着いてるものだか、こっちだって自然に落ち着いた行動ができる。
「お前はいいよ。お客様ってところだな。俺たちに任せてくれ。」
かっちょいい!
頼れる男って感じた。
4人パーティーのリーダーだとこのくらいどっしり構えてないと成り立たないのだろうか。
「せっかく立派な剣持ってるんだから一応構えときな。いくらお客様でも魔法職の女の子の後ろに隠れているんじゃ様にならんよ。」
シュウさんお得意の茶化しだが、目が本気だ。
冗談ではないのだろう。
「ミザリーは回復職よ。手足が千切れても原型があればくっつくわ。」
励ましているのかもしれないが、マヤさんの言葉は妙に生々しい。
「安心してくださいね。ライラックだったらウルフの4~5匹1人で片付けちゃいますから!」
ミザリーさんが元気付けるように言ってくれる。
両手でガッツポーズをとるミザリーさんが可愛らしくて少し勇気がでてくる。
「1人でウルフ5匹ですか。すごいですね。」
日本だと狼1匹と戦うのだって難しいだろうに。
「そ。ライラックの取りこぼしを俺が倒して、万が一の時はマヤが事前に発動した設置方魔法でなんとかなるよ。」
皆はいつも通りって感じだ。
安心できる!
よーし。もしも1匹くらい飛び出して来たって俺のゼットソードで、たたっ斬ってくれる!
まだ戦闘にならなかったとさ まる