秘め事
警備小屋に帰ってきた後、蓮は結局備品の整備や掃除をやらされてその日のお勤めは終了した。
そ夜間の山の巡回は蓮を抜いた3人で行われた。
そしてその後は何事もなく夜が明けて交代の時間になり、蓮の今日のお勤めは終わりを迎えた。
蓮達は空が白んできて、霧が立ち込めた村に戻ってきた。
村の中は静まり返っており、石畳に沿って等間隔に置かれた灯籠は火が消えていた。
蓮は三人と別れて家に帰った。
(ただいま......)
小声で言いながら玄関から入り、草履を脱いだ。
台所から料理をする音が聞こえてそちらに向かう。
母の藤花とうかが厨房に立っていた。
「お帰り蓮。あら......?」
「ただいま、夜食ありがとう。 それから薬品は渡しといたよ。」
「ありがとうね。」
「おう、」
そう言って蓮は自室に向かって庭が見える廊下を進むと、あくびをしながら歩いている祖父の一犀いっせいとあった。
「おはよう爺様」
「おお、おはよう! ん? お主、どうやって一夜にしてそこまで魔力が増大したんだ?」
「あ......任務でキングゴブリンを退けたからかな?」
「ふむ......そうか。」
「じゃ、そろそろ俺眠いから。 また後で。」
「うむ。」
そう言って立ち止まっている一犀いっせいの横を通り過ぎた。
自室で羽織を脱ぎ、手拭いなどを持ってからまた家を出た。
そして薄ら霧が出ている道を進んで、蓮の家から近い所にあるお湯屋に向かった。
お湯屋に着き蓮は瓦の屋根がある入り口に入り、店番のお婆さんに料金を払ってから脱衣所に入る。
誰もいない脱衣所で蓮は帯を解き着物を脱いで、刀を棚に置いた時に、
「ほう! まるで日本の銭湯に似ておるな!」
黒姫が女性の姿で歩き回り、辺りを見回していた。
「黒姫のその姿は俺以外の他の人にも見えるの?」
「もちろんじゃよ。」
「じゃあ今はまだバレないように気をつけてよな。ここ男湯だし。」
「分かっておるわ。」
そう言って黒姫は帯を緩めて着物を脱ぎ始めたので、蓮は慌てて、
「ちょっと! 流石に俺がいるんだから脱がないで!」
「そう堅い事いうな。」
「せめて女湯に入って!」
「全く。そういうウブな所も総司殿に似ておるな。」
黒姫は脱ぐのをやめて再びおひ帯を締め直す。
「まったく......大人しくしててくださいね。」
「はいはい。」
少し不満そうな顔をして黒姫は消えた。
蓮は手拭いを持って外の風呂に出た。
ここの露天風呂は大小不揃いの石で床や壁に敷き詰められた所だった。
岩で出来ている壁の向こうから朝日が見え始めていた。
蓮は風呂桶でお湯を汲み、身体を流してからゆっくりと湯が立ち込める湯船に浸かった。
鬼人は人間よりも熱に耐性がある為、嵐花村らんかむらのお湯の温度はだいたい50℃以上になっている。
汗を洗い流し温まった頃に蓮は顔を赤くして風呂から上がった。
蓮は身体を拭き浴衣に着替え、刀を腰に差して家に帰った。
自宅に戻り、冷えた床板の廊下を進んで障子を開けて自室に入った。
刀をタンスの横に立てかけて羽織や着物を脱ぎ、タンスからゆったりとした浴衣を取り出して着替える。
そして布団を敷いてから刀を枕元に置いた。
布団の中に入り目を瞑る。
(妾のことは皆には言わないのか......?)
黒姫くろひめが蓮にしか聞こえない声で語りかけてくる。
(ああ、みんな心配するだろうから。特に藤二郎さんとかすごく迷惑かけそうだし。)
蓮も魔力に意識をし、水面に広がる波紋を意識して念じて話す。
(今はこれでいいのかも知れんが、いつかは知れ渡るぞ?)
(その時は俺が黒姫くろひめを使いこなせてるっていう信頼があると思うから、その時までは秘密かな。)
(なるほどな......)
(もう寝るね。)
(ああ、すまなかったな。)
(黒姫くろひめは眠らないの?)
(妾は生まれた時から睡眠は必要なかったのじゃ。故にもし蓮が寝首を掻かれそうになっても、妾がいれば安心じゃぞ?)
(ははは、ありがとう黒姫黒姫。おやすみ。)
(礼などいらんさ。)
蓮は瞼を閉じた。呼吸がだんだんゆっくりになる。
腹部がゆっくりと、一定のリズムで揺れる。
そうして眠りに落ちる。




