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妖刀 菊一文字黒姫

蓮は真っ黒い水面に立っており、波紋が広がっている。

 夜中の様にどす黒い空には、妖しく光る三日月が浮かんでいた。

 水面には所々に大小様々な菊の花が浮かんでいる。

「藤二郎とうじろうさーん!......誰もいない、ここはどこだ?」

 蓮が向いている方向の水面から波紋が広がり始める。

 すると突如水面から水しぶきを上げて、巨大な黒い錦鯉にしきごいが飛び出した。

 そして鯉は空中で重力に反し、空中を泳ぎ始めた。

 その黒い錦鯉の身体には菊の模様があった。

 空中を泳ぎ蓮の目の前で止まり、顔を見つめる。

 蓮は丸呑みされそうな程大きい鯉を臆さず見つめ返した。

「貴方は何者ですか?」

「妾の名は黒姫くろひめ。この刀、菊一文字きくいちもんじに宿りし者。」

 鯉が口をパクパクされると、とても落ち着いた女性の声が反響して聞こえた。

「菊一文字!? あの伝説の名刀ですか?」

「知っておるのか......もしやお主、日本から連れてこられた人の子か?」

「ええ、創造主と名乗る老人に...」

「なるほど、それで今は人では無くなったと。お主のその角...鬼か。ふふふ。」

 黒姫くろひめは蓮の周りをゆっくりと、泳ぎ回った。

 そして蓮の背後にまわり鯉は黒髪を長く伸ばした、日本人然とした美しい20代くらいの女性の姿になり、悲しそうな顔をして蓮の背中にそっと触れた。

「お主、妾が惚れた男に驚くほどよく似ておる。 ああ...総司殿、懐かしき名だ。あの人も鬼の子と呼ばれていた。」

「総司殿って......新撰組の沖田総司ですか?」

 蓮が振り向くと、黒姫くろひめは触れていた手を離して蓮の周りをゆっくりと水面を歩く。

 歩くたびに波紋が広がる。

「妾を作りし刀鍛冶の則宗のりむねは刀の我と会話できる男だった。その則宗のりむねに刀として誰に仕えたいかと、己が作る刀に聞くのじゃ。妾が則宗のやつに聞かれた時総司殿の名を言った。すると則宗のりむねは当時、あまりにも高い値のついた妾を総司殿にタダで譲ったのだ。」

「当時、菊一文字則宗はとても高価で新撰組でも手が出せない代物だったそうですが。 そういう事だったのか。」

「ふふふ。則宗のりむねの奴。人が刀を選ぶのでは無く、刀が人を選ぶのだとよく言いっておった。だから刀に好かれぬ者には高い金額をふっかけてあったものよ。」

 黒姫はまた蓮の顔を見つめている。

「ふふふ、誰かと話したのは久しぶりでつい夢中になってしまった。お主があまりに総司殿にとてもよく似てるものだからつい。お主、名は何と言う?」

「蓮です。」

「そうか、蓮か。」

 そう言って再び黒姫は蓮の正面つ。

「蓮よ、本来お主の様にこの場所で元の身体の形を保ち、存在する事が出来た者は居なかった。我に触れたものはみな我に飲まれた。」

「だからさっきのゴブリンはあんな風に、おかしくなっていたのか。」

「力を持たぬ者に、過ぎた力を与えればそうなるのか。それとも力を得ると言うことがそう言う事なのか。

 我に触れた者は皆狂ってしまったり、総司殿の様に身体を蝕んでしまう。」

 黒姫の足元から広がる波紋が乱れる。

「じゃが蓮には総司殿以上に適性があるのかもしれん。どうじゃ? 妾はお主になら使われてやってもよいぞ?」

 黒姫くろひめは何かを強い感情を我慢する様な表情で、手を握りしめていた。

 蓮はその顔を見て少し驚いたが、微笑んで答えた。

「是非俺に使わせてください! 俺にはこの世界で守りたいものが沢山あります。これから先さらに力が必要になるでしょう。だから俺には貴方が必要です。」

「ふふ、そうか! 誰かに使えるのは久方ぶりじゃ......」

 黒姫くろひめは笑顔でそういうと、先程の大きな真っ黒い身体に菊の模様がある錦鯉になった。

「外で蓮のことを呼んでる者たちがいる......ではまた。」

「待って!」

 そう言って真っ黒な錦鯉は勢いよく、水しぶきを上げて水中に潜った。

 そして雫が落ちる音が聞こえた瞬間に、蓮の足元から広がる波紋に合わせて闇に包まれていった。

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