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虐待

作者: Eru-taiko

恋愛とか部活という、青春系イベントになんの縁もなかった俺は、少し人とは違った生徒だった。そんな俺の学生生活を振り返りたいと思う。まず、小学校の頃は、物静かで一般的な生徒だった。一年生では、給食ではしゃぐ阿保な友達を尻目に一人で食べ終わり、昼休みには夢中になって白黒のサッカーボールを追う同級生の騒がしい声を聞きながら本を読み、下校時には誰とも話すことなくそそくさと家路に着いた。家に帰ると両親が家にいる。何の仕事をしているかとかは聞いたこともない。知りたくもなかった。帰ってきてランドセルを置くと早々に父に呼び出された。父は苛立った様子で「いつもより帰りが遅い」だかなんだかいちゃもんをつけて俺を殴ってきた。いつものことだからと割り切って無表情で耐えていると、「態度が気に食わない」と言って、俺の顔面を思い切り蹴り飛ばした。そのときは流石に涙が出てきた。助けを求める目で母を見ると、目を合わせたにもかかわらず助けるそぶりを見せなかった。その後、父の機嫌も収まり、攻撃もしてこなくなった。父は、「腫れるとバレるから冷やしておけ」と乱暴な口調で母に言った。母は無言でタオルを持ってきて、僕の顔を冷やしてくれた。その頃はみんなこんな風に家では受けているんだ。学校ではみんな嘘の笑顔で過ごしているんだ。と思っていた。2年生でも同じような毎日だった。1つだけ違うのは、担任が変わったことだ。新しい担任は、熱血系の先生で、精神論で突っ走る感じだった。嫌気がさして、学校にも行きたくなかった。だが家にいると乱暴な仕打ちを受ける。仕方なく学校に行くと、例の先生に目をつけられ、「どうしたんだ?喧嘩でもしたか?」と語りかけてきた。なんでもない、と答えていたが毎日続くのでそれはもう嫌だった。3年生になっても同じ担任だった。その頃はもう記憶にない。ただひたすらに嫌だった。学校と家でダブルパンチを食らっていた。4、5年生はそれこそクラスから浮いて、友達もいなかった。家では、なぜか毎年体が屈強になる親父にずっと同じような仕打ちを受けていた。6年生で始めて立ち向かった。いけると思った。だが親父の力は信じられないほど強くて、全く歯が立たなかった。その晩、いつもよりも多めに殴られた。中学生になると、筋肉もついてきた。殴りかかるチャンスを毎日狙うようになっていた。それでも親父には歯が立たなかった。ある時、学校をサボって親父の後をつけてみたことがあった。親父は歩いて廃墟と化したビルの中に入っていった。その中には強そうな男が10人はいて、その男たちが一斉に親父に殴りかかっていった。あっという間に相手を倒した親父は足早にビルを出た。俺は、親父の強さの秘密を知ってしまった気がした。この人には勝てないと思った。だが、勝たなければ俺の身がもたないとも察した。その日から俺は両親の目を盗んで筋トレに励んだ。寝る寸前の30分の時間を筋トレに費やし、学校の余った時間もずっと筋肉を鍛え続けてきた。中2になると、それなりに筋肉もついて、挑む回数も多くなった。その度に俺は親父にコテンパンにされてきた。いつしか親父は倒すべき相手であり、絶大な恐怖心を抱く相手になった。その時は自分でも笑ってしまうぐらいおかしかった。あの親父が倒すべき相手になるとは。中3では、進学など考えもしていなかった。就職先なんてすぐ見つかると思ってたし、実際調べたらすぐ見つかったからな。そんなことよりも俺は親父を倒すために鍛え続けていた。いつの間にか身長も追いついていて、筋肉だって負けず劣らずって感じだった。それでも勝てないのは何故か、馬鹿なりに考えてみたら、実戦経験がないことにたどり着いた。そこで俺は実戦を積むため、前に親父を尾行した時に行った、あのビルに向かった。行ってみるとやはり巨体の男が数人いて、あれに立ち向かうのかと思うと怖くなった。逃げ出したくもなった。それでもあの憎い親父を思うと行かなければいけなかった。俺は震える足で奴らに立ち向かった。結果は惨敗。一人も倒せなかった。その夜だけ、親父は何もしてこなかった。それから毎日のように放課後、あの場所へ行って戦うようになった。あの場所には毎日ランダムに人が来ていた。平均的には2、3人だったはずだ。俺は通い続けるうちに自分の攻撃が当たるようになっていることが分かった。そして、中3の10月に巨体の男を3人倒せた。嬉しかった。涙が止まらなかった。ボロボロのまま家に帰ると、親父がいた。泣いている俺を目にして、少し驚いた様子だったが俺を殴ってきた。不思議と痛くは感じなかった。その次の日、俺は親父に殴りかかった。親父の攻撃は遅く見えた。俺のパンチが面白いぐらい親父の腹に当たる。圧勝だった。その後俺は親父に、「これが俺の親父への反抗だ」と言った。親父は何も言わなかった。それから親父は何もしてこなくなった。毎日が生き生きしていた。そして、中学校の卒業式が終わって家に帰ると、親父がいた。親父は俺を呼びつけると、こう言った。「卒業おめでとう」俺は耳を疑った。「俺は何をしてあげられた?俺はお前が小学校の時から何をしていた?」親父がこんなことを言うのは初めてだった。「今更戻せるとは思ってはいないが、許してほしい。俺のこれまでの悪行を。」親父が俺の前で初めて泣いた。母がどこからか出てきて言った。「その人ね、あなたが小学校の頃から毎晩のように部屋で泣いていたの。なんで泣いているのか聞いたら、俺は息子に何もしてあげられていない。虐待しかしていない。だが、ストレスが毎日溜まって仕方がないんだ。どうしようもなくて息子に手を上げる。その夜も泣いて、また手を上げる。どうしようもないんだ。って言ってた。」そのとき俺は夢を見てるのかと思ったよ。急に親父が泣き出して許してほしいって言ったかと思いきや、母が親父が毎晩泣いてたって?信じられるわけがなかった。あの怖くて憎くて強かった親父が?頭がおかしくなった。それから俺は家のものを荒らし始めた。どうしようもなかった。ただ、急に告げられた真実を自分が信じられなくて、自分の中に抑えられなくて、周りのものに当たっていた。その時ふと感じた。親父もこんな感じだったのか。自分の不甲斐なさを信じられなくて、それが抑えきれなくて、俺に手を挙げていたのか。俺は親父に手を差し出した。「これからは今までのことを全て無しにして、いい親子で過ごそうぜ。俺はあんたのことは完全には許せないが、そうやって全てを許しきれない、抑えきれないところもあんたの遺伝だからな。これからよろしくな。」親父は俺の手を取って泣きながらずっとありがとうありがとうと言っていた。その夜の飯はいつもより美味く感じた。それから俺も親父も真っ当に生きて、今では一緒に酒を飲みに行く仲になったぜ。と俺は目の前にいる彼女に言った。彼女のお腹の中には俺と彼女の赤ちゃんがいる。彼女はその話を聞いて、「私たちの赤ちゃんは大事に育ててよー?」と笑いながら言った。俺たちは来週入籍予定だ。親父みたいに育てたくはないが、親父みたいに子供に憧れられる存在になりたいと思った。

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