第一話 黄金の来訪者1
屋根裏部屋で大爆発が起きた。
いや、正確には違う。
屋根裏部屋で爆弾でも爆発したかの様な、腹の底を嫌に震わせ響く轟音が聞こえ、その直後に不安になるレベルで家が揺れた。
天井から細かい埃も落ちてくると言う、ありがたいおまけ付だ。
さらに追い討ちをかける様に、甲高い少女の声で想像を絶する位に口汚い内容の、まるで世界を呪い祟り倒すことも辞さないと言う物騒な気概に溢れた、罵り詰る言葉が聞こえてくる。
ついでに飛んだり跳ねたりぶつかったり倒れたりする音も続く。
何が起きているか想像もつかないが、地獄の様な有様は理解できた。
いつもこうだ、と優雅な朝食の時間に別れを告げる様に珈琲を一口。
この家では家主のせいで頻繁に、と言うわけではないが不思議なことが度々起こるが、今朝の屋根裏部屋から響いた爆発音は近年稀に見る不思議だとも思う。
朝飯を食べてたら屋根裏部屋から爆発音が響いてガキの罵倒が聞こえてきた。
下手なコメディドラマよりも胡散臭くて鼻で笑われる内容に思わず苦笑が漏れる。
嫌な予感しかないし関わりたくない気持ちが胸に溢れて留まることを知らないが、しかし事態をこのまま放置していても、更に良くない方向に転がっていくだろう。
カップの中の珈琲を飲み終える頃には、屋根裏部屋のドタバタも治っていた。
重くて上げたくない腰を無理やり上げリビ、ング兼ダイニングの部屋を出て軋む古い階段から二階に上がり、廊下の突き当たり、壁に立てかけてある梯子を上る。
何かがドタバタと跳ね回っていたからか、舞っている塵と埃に咳き込む。
そろそろ掃除もしてやらんとな、と意を決し天井を押し開く様にして扉を開けると、所構わず踊る様に舞う埃に更に顔をしかめた。
小さな物置として化している屋根裏部屋は凄惨たる有様。
いつも薄暗い小部屋はバッチリと屋根が抜け落ちており、しっかりと朝の日差しを取り込んでいた。
笑ってしまいたくなる現実を突きつけられ、そして後片付けの大変さを憂いて思わず顔をしかめた時、朝日を背にして立つ人影を見つけた。
「おい、誰だ?」
思わず尖った声を投げかけると、気持ちの良い朝の日差しを背に人影はこちらに振り向いた。
その姿に息を飲み、思わず見惚れる。
「オレの名前はザジ。南の大陸にて“雄々しき太陽”の名で信仰を集める、大陸と大空の覇者たる黄金の魔竜だ」
八重歯が覗く勝気な笑み。
燃える炎の様な真紅の瞳。
太陽を閉じ込めた輝きを持つ金色の長い髪。
健康そうに日焼けした張りの良い褐色の肌。
腕を組み、胸を張り、瓦礫の山に仁王立つ、夏の太陽の様な小柄な全裸の少女。
「何が信仰だ馬鹿野郎! 人様の家を壊した挙句に全裸とはいい度胸だ!」
腹の底から少女に向かって吠える。
それが藍染坂旭の日常をぶち壊した小さな侵略者との出会いだった。






