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4・どうしても歴史を変えることはできない

 二種類の設計を行うが、その前に決めなければならないことがある。


 エンジンを何にするかだ。


 速度を最優先にしたければ馬力のある火星を使えば間違いない。


 とんがった性能にしたくないならば金星を使えば無難な機体を作ることは可能だ。


 よく間違われているのがここだろう。


 日本には大馬力エンジンが無かったから非力な栄で戦闘機を造った?


 いったい彼らは何処を見て何を言っているのだろうか?日本には金星やハ5、火星と言った当時、十分に大馬力のエンジンが存在している。


 戦闘機だから小径を使うのが常識だ?


 九六艦戦や九七戦の寿は直径が1280mmあった。ちなみに、金星は1220mm程度、ハ5で1255mmだ。少なくとも、金星やハ5を用いれば、前世代程度の直径の外径になる。これより大きいのは1340mmある火星だけだ。


 あくまで、瑞星や栄が異常に小径なだけで、日本にも他国並みの1250mm前後のエンジンは存在したし、馬力も1200~1500馬力がこの当時で見込める存在だった。


 つまり、機体の余裕をつくりたければ、金星やハ5を使えばそういう機体を開発することは造作も無かったことになる。

 問題があったとすれば、他国とは違い、とにかく小型というモノに拘り過ぎた事だろう。後追いという点では確かに間違いではないのかもしれない。

 例えば、零戦パクリ説で話題になるV-143などはR1535を装備しており、直径も瑞星や栄と似通っている。


 しかし、小型エンジンであり、時代の趨勢が千馬力越えを迎える中では既に役目を終えたという状態であり、米国では次世代へと主力が移り変わっていく途上でもあった。


 仮に、そこを誤解して小径こそ戦闘機エンジンと曲解したのだとすれば、やはり、世界の趨勢から遅れ、世界の失敗を繰り返さないと気が済まない日本人のサガなのかなぁと思う。


 で、だ。


 今回の要求には長大な航続力というのがある。それを達成するには、21世紀の乗用車がダウンサイジングして燃費を稼いでいるように、小排気量の小型エンジンが良いに決まっている。


 そのため、設計においても二案を用意しておいた。


 性能が無難な金星搭載機と一応、海軍の無いものねだりを高次元で実現した瑞星搭載機だ。


「なるほど、金星を使えば速度は出る。数値上、空戦能力も悪いとは言えないだろう」


 海軍の面々は金星搭載案の仕様書に対して一様にそう返答している。


「しかし、これでは速度はあるが、本当に九六艦戦に勝てるのかね?いや、馬力で引き離せたとしてだ」


 そう言って否定する意見がある。旋回率や旋回半径と言った数値ではそうだろう。しかし、史実で後に零戦を負かす機体たちは全て同じように旋回性能が零戦ほど良くはない。速度。もとい、馬力でそこをねじ伏せたり、零戦の欠点を突いて勝ちに行くわけだ。わざわざ同じ土俵上で勝負をする必要はない。


「これは確かに速度はある。火力も問題ない。が、九六艦戦よりも悪いとは言わないが、陸攻の直掩が可能なのかね?」


 そう、様々なモノを盛り込んでいるために高性能ではある。零戦でいえば武装面では五二型、金星搭載という意味では五四型に当たる機体だ。

 後から金星を載せたわけではないので航続力は五四型よりはあるが、三二型と比してどうかと言われたら言葉に詰まる。

 つまり、お眼鏡にかなわないという訳だ。旋回性能についても、計算値の上で九六艦戦に対し「悪化」が示されているので喜ばしくないんだろう。


 そこで瑞星搭載案の仕様書を見せる。


「コレだ!コレだよ!!」


 みんな大喜びだ。


 そりゃあそうだろう。全幅は11mに抑えたが、翼面を弄って面積は稼ぎ出したので、三二型強の面積値を実現している。その為、翼面荷重も120kg/㎠を切る値になっているので、計算上の数値は悪くない。金星と瑞星というエンジンの違いと燃料搭載量の差で、機体重量は300kgは最低でも変わってしまう。良くなって当然だ。


 つまり、海軍の求めるものは軽くて長距離飛べる機体という事なんだな。


 当然だが、俺が以前にエンジン関係の資料を渡した関係で、金星の出力は史実より高い。実用化した3型で850馬力、零戦搭載が想定された4型では1100馬力を発揮する。瑞星もその恩恵から950馬力ある。制式化の頃には1200馬力も夢ではない。つまり、史実の栄よりも高出力になる訳だ。


 機体にも大幅に違いがある。生産時の工程数がP51の三倍だとか言われている問題を大きく改善している。

 本当なら中島がやるはずの厚板外板を採用した。これによって桁材や補強材を細かく配置することなく強度を出せる上に、リベット数を三割程度減らせる。板が厚くて重くなるという事は無く、余分な補強やリベットが減るので、重量は変わらないか軽いくらいだ。更に、リベット数や細かな桁材や補強材を減らせるので量産性も上がる。


 そして意外な動きもあった。


 陸軍の戦闘機試作に一二試艦戦をベースに陸軍機としての仕様書をでっち上げて提出したら、機銃に興味を持たれた。機体に関してはその性能や可能性などまるで見向きもしていない。

 調べてみたら陸軍はこの頃に一社指名で中島に戦闘機の試作を命じている。そりゃあ、三菱ばかりに偏ってはダメだという考えが働いたんだろうな。


 それはそうと、機銃について興味を持った陸軍の思考は酷く合理的だった。


「このドイツ製機関砲は実に良いですな。固定機関銃の寸法を少し大きくしただけでほぼ違和感なく載せられる。今後の金属機の普及を鑑みれば実に良い選択だ」


 そう言って海軍に共同契約を申し込んでいる。海軍はそれを渋っている様子だった。


 陸軍が変わったのはカイゼンの影響だと聞かされた。なんでも、戦車や装甲車で付き合いがあるので、陸軍にもその考えは広まっているようで、海軍よりも元から現実的な考え方をする陸軍での普及は早かったらしい。そして、面子がどうのよりも、目の前にあるこの機銃をそのまま陸軍で使えるならばと考えたのだという。渋る海軍をカイゼンと規格統一という、この頃に陸海軍だけでなく、日本中に広がりだした魔法の二言で黙らせて頷かせたらしい。

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