3・海軍の無茶ぶりに困惑する
九六艦戦の試験は良好だったが、現場からは多くの不満点が出されていた。
初期には複葉の方が良いというような風潮もあって単葉機への不信感も存在したらしいが、試験が進み、複葉機との模擬空戦が行われると事態は一変した。
ひらひら舞う複葉機こそが戦闘機には向いているという現場の声を消し飛ばすかのようにあっさり九六艦戦、いや、まだ試作途上なので九試単戦だった。が勝利を収めた。
速度が遅い機体はそれだけで勝利から遠のくという事を見せ付ける格好となった。史実の九六艦戦だともっと旋回性能が良いのだろうが、俺の設計は史実よりゲーム優先の高速機だから、旋回性能を満たすためにこの時点で空戦フラップを導入している。あの機構は特別なものではないので作ることは可能だった。いや、カイゼンの影響で技術的に数年進んでいることも影響しているのかもしれない。
それが可能ならとまたぞろ引き込み脚を蒸し返してみたのだが、今更再度のやり直しは認められないという。
そこで、陸軍側の競作には新設計の引き込み脚を提案してみたのだが、いまいち中島の機体に適う性能とはならなかった。速度は500km目前なのだが、いかんせん、アッチの旋回性能が良すぎた。速度を優先したのが拙かったんだろうか?
そんなことをやっているときにドイツから手紙が来た。俺には身に覚えがない。
かといって、堀越さんの記憶にもそれらしいものが無いのだから良く分からない。
手紙の内容だが、どうも欧米派遣のときに手紙の送り主であるドイツ人に会ったのだという。が、記憶にはない様だ。俺も知らん。
そして、彼とは将来的に全金属機が普及すれば8mmクラスの機銃は効果が無くなり、必然的に13mm前後に移行するだろうという話をしたらしい。
ただ、空間に余裕のある旋回機銃ならともかく、戦闘機用の固定機銃ともなれば、その容積や重量が制限されてしまう。既存機への導入となればなおさらだというのは考えるまでもない話だった。
ならばどうしたら良いか。8mm級の既存の機銃並みのサイズにしてしまえば良いだろうという事になる。ただ、性能を考えれば、既存の弾薬でそれを行うには無理があるので、新たな専用弾薬が必要ではないか。
そんな話をしたんだそうだ。知らんけど。
そして、件の人物はそれを実現する機銃を開発したのだが、ルフトバッフェが相手にしてくれないんだという。
つまり、日本で何とかしてくれという内容だった。
それこそ知らんがなと思ったが、基本仕様が書かれたそれは、MG131の仕様だった。日本であの電気式がうまく行くのか、MG17のように機械式だからと言ってバネを造れるのか心配ではあったのだが、とりあえず返事を書いて送っておいた。
そんなことがあって少し後、十二試艦戦の元になる要求仕様が届く、そこにはやはり、20mm機銃の搭載という項目が存在している。
そして、正式な書類が来た時には、無いものねだりという言葉がぴったりの内容で届いた。
そして、現場の声というモノについても結局はアレもコレもという意見を言われるだけで、では、何を造ればいいの?という状態で話にならなかった。
正直、そんなにアレもコレもというなら、今すぐ誉やR-2800を用意してくれと言いたくなるような内容ばかりだった。
速度が欲しいのは当然だろう。そりゃあ、空戦性能も欲しいだろう。大陸奥地へ向かうのならば長大な航続力も必要だろう。
が、それをすべて満たそうとすれば、誉を積んで、空力的に洗練させた機体、そう、空冷P51を作るしかない。ないしは、マーリンかDB600系でそのものを作り出すかだ。
だが、昭和十二(1937)年の日本の技術力では2000馬力の空冷エンジンや1700馬力の液冷エンジンなど土台無理というモノ。
ないならないなりの性能で妥協すれば良いのだが、それが出来ないのではどうしようもない。で、20mmについては否定的な意見も出て議論は躍りに踊った。
そして、そんなところにドイツからの返信があった。欲しいならすぐにでも現物を送れるというのだ。
そして俺は、その機銃を海軍に提案した。
「以前、欧米へ派遣された際に知己を得たドイツよりの便りで、政府が相手としない13mmの新型機銃があるそうです。現在の7.7mmより少し大きく重いだけなので、20mmの替わりとして使うには適しているかと思います。炸裂弾もあり、20mmに匹敵する威力は出せるとのことです」
そう提案すると疑いながらも実物を見たいという話になり、購入が決められた。
日本に着いた機銃を見るなり、そのサイズと重量に驚く人々。50口径クラスと変わらないエリコンFFですら重量23kg、長さ1.3mを超える。それに対し、重量わずか17kg、長さは1.2m弱しかない。サイズ、重量共に30口径と変わりがない。
射撃試験において、若干20㎜に劣るものの、威力がある事は確認された。
「これを機首、主翼に4丁とすれば、機銃重量は変わらず、威力と弾数においては事実上優るという訳か」
などと皮算用する者も出てきた。
懸念された電気式機構についてだが、七試艦戦の時点から行ったカイゼンの影響で製造が出来なくもないというレベルであることが分かった。
ならばと、史実通りの機銃搭載型と13mm4丁型の二種類を設計することになった。