1・それはいつものように
今日も調子が良い。周りはまあ、いつも通りバラバラだな。心配してはいけない。
ゲーム開始。
敵を求めてフルスロットルにする。速度計がどんどん回る。気が付けば時速730㎞。まあ、さすがに実際にそうはならなかっただろう。増槽という抵抗があるし、その他の条件も重なる。
何より、高度を無視して速度が出るのがゲームだからだ。
海面速力と高度8千メートルあたりでは普通に100㎞程度の差が付く。いや、過給方式で速度がガタ落ちしたり、プロペラや翼によっても変わってくる。F8Fとゼロ戦が同じように最高速度を出せるわけではない。高度によって個々に性能差が出るのだが、そこはゲーム。
さて、敵機のお出ましだ。
「シーフューリーか。大戦に間に合わなかったから対戦記録は無いが、ゲーム上は組みしやすい。プレイヤーにもよるが、俺にとってはそうだ」
相手はどう思ったのか突っかかってきた。まあ、速度はほぼ互角。逃げようにも逃げられないのだから仕方がない。これが烈風なら容易に逃げられただろうし、このクラスにゼロ戦は出て来ない。
当然のように空戦フラップを手動で操作。自動では機動に付いて来ないんだから仕方がない。
まるでタイプするようにキーボードを操作して機体を旋回させ、フラップも動かす。お互い似たようなサイズの機体ではあるが、コイツは空戦フラップを自在に操る事で零戦ともやり合える。そりゃあ、廃な零戦は何を持って行っても無理だ、アイツらネジが無いからな。ゲームだから機体強度云々も関係ない。
そんな異種戦はともかく、同クラスの戦いでなら、迅電で敵わない敵は居ない。
敵は見事に誘いに乗ってきた。もしかして初心者?いや、このクラスに来て初心者は無いだろう。自動フラップならば、シーフューリーの機動は正解だ。が、相手が悪かったな。
スルっと相手の内側に回り込む。気が付いたようだが、もう遅い。機銃をポンと連打してやるだけで良い。
4条の火箭がシーフューリーへと伸びる。回避の暇なくエンジンからコクピット、主翼を撃ち抜いていく。
あたりを見回して次のターゲットを探すとF8Fが横切って行った。
追われているのかと思ったが、そうではないらしいので追いかける。どうもすでに被弾していて残りMPは僅からしい。たまに居るんだ。最後まで残るためにわざと空戦を挑まず時間切れを待つ奴が。
どうやらこちらに気が付いていないらしい。暢気に旋回を始めたところへ一連射して撃墜する。
おっと、残り時間がないらしい。
戦果は二機。シーフューリーに時間を費やしてしまったらしいな。せっかく戦果があるのに負けてしまうのはもったいない話だ。
次の機体を選んで再度ゲームを始める。
次に選んだのは零戦だ。正直、俺は苦手だ。ここには廃が多すぎてやってられん。
当然のようにゲーム開始前の画面で確認するとほぼ零戦ばかり。コレだから嫌なんだよ。他の機種などお呼びではないというイカレたこの状況。まあ、仕方がない。
千馬力程度のクラスでコレに勝てる機体などない。何を気が狂ったのか13mm機銃6丁という火力にも問題がある。
が、火力があるからこそ、勝負も一瞬で決まる訳だが。これでこの機体にエリコンFF積んでくれていたらどれだけ良かっただろうかと思ってしまう。
開始早々、絡まれた。
逃げられるだけ逃げたが、どうしようもなかった。撃墜されるまで僅かに2分。ここはそんな世界だ。
しかし、何だろうな零戦という機体とそれに対するこの執着は。何やらとんでもないものを見せられた気分だ。
俺は分かってるが、ゲームやってる連中はまるで知らないだろうな。このゲームの日本機が、とくに海軍機がまるで改変されてしまっている事実を・・・
後先考えずにやって思う事。
「まさか、こんなことになるとは思わなかった」
を地でいってしまった感はある。
あれは昨日の話だ。いつものように空戦ゲームをやっていたのだが、基本的に零戦しかない海軍機に半ば嫌気がさしていた。オンラインに廃が多いのもだが、それ以上に「次」が無いのが嫌だった。
そんなことを思いながらゲームを終えた時だった。
「なるほど、零戦以外の日本海軍機が欲しいと?」
意味が分からなかった。
ブラックアウトした画面にオッサンが現れたんだ。どう考えてもおかしいじゃないか。
「驚くのも無理はないか。で、どうしたい?」
平然とそんなことを言うオッサンを唖然と眺めるしかなかった。
「まずは、烈風かな?」
おっさんはそう言った。
「それとも、零戦自体かな?」
確かに、俺としてはもっと早く金星ゼロをどうにかしてほしいとは思った。
なにより、ネットの万能辞書でよくあるアレには腹が立った。
なにが、海軍に良い顔をしようとしただ、いい加減にして欲しい。
「そうかそうか、では、お前がなり代わって満足のいく機体を設計して来ればいい」
オッサンはそんなことを言い出した。頭大丈夫か?と思ったね。