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「第四章 悔しい! 」

「あれ? おい……お前」


 オレがレジで会計を済ませると、後ろに並んでいた他の客が突然話しかけてきた。


 何だ? と思いつつ振り返ると、そこには自分がよく知る顔が3つ……串団子のように連なって列を作っていた。


「猿飛ィ……まさかこんなところではち合わせるとはな……」

「偶然だな」

「まさにたまたま」


 オレその3人の顔を見た瞬間に「うっ……」と思わず声を漏らしてしまう。


 なぜならな彼らは、ついさっきグローバルスタジアムで共闘していた《ハンター》仲間だったのだから。


「ライセンスを取り上げられたって話を聞いたけどよ……まさかホントだったとはな……」

「ホントだな」

「まさに真実」


 そう言って彼らは明らかにオレをコケにするような下品な笑い声を上げ始めた。全く同じ顔で肩を揺らしてサラウンドに嘲笑されると、そのムカつきも3倍だ。



 この3人は顔も体格もそっくりで、なおかつ全員ツーブロックの同じ髪型にした三つ子のようなトリオだ。《ハンター》仲間の間では[ツーブロック三兄弟]と呼ばれている。


 実際は生まれも育ちもバラバラの赤の他人同士という衝撃的な事実も、彼らの特異性を際だたせていて、波花姉弟とは別のベクトルで有名な《ハンター》達だ。



「……オレに何のようですか……」


 オレは今すぐ逃げたくなる感情をこらえつつ、彼らに言葉を返した。


「なぁに……《ハンター》を辞めた猿飛の為に、イイことを教えてやろうと思ってな……真面目で勤勉なお前さんのコトだ、《ハンター》を突然辞めさせられて仕事仲間に迷惑を掛けてしまった。だとか思って落ち込んでんじゃないのかい? 」


「……そ……そんなコト……」


「安心しろよ。お前がクビになったって話が広まった時な……ギルド中の《ハンター》達は、み~んな[ホッ]とした顔をしてたぜ」


「え……? 」


「これでもう、ハント中に〈G・スラッグ〉が暴れ出すこともなくなるだろうってなァ。おまけに臭い屁に悩むことも無くなった」

「安堵だな」

「まさにスッキリ」


 その言葉を聞いた瞬間……オレはヘソのあたりから熱を帯びた液体が脳に向かってこみ上げてくる感覚を覚えた……


「だからお前はな~んの心配もせず、気兼ねなく、一般ピィ~プルとして生活できるってもんだ……ホラ、その手に握られてる護身用手榴弾……危なくなったら躊躇無く使えよ? 俺たちがスグに駆けつけて、か弱いお前を……た・す・け・て・やるからよォ~」

「いつでも、どこでも。だな」

「まさに救助」


 ツーブロック三兄弟がそう言って再び笑い声を上げた瞬間、オレは耐えられなくなってしまった。


「ううっ! 」


 オレは羞恥と悔しさで頭がいっぱいだった……もう一秒たりともこの場にいることが出来なくなり、逃げるように店内を飛び出した……


 その時、ずっと我慢していた[屁]も同時にコキ捨ててしまっていたが、そんなコトを気にする余裕すらなかった。


「ハァ……ハァ……! 」


 夕日で濃いオレンジ色に染まる街並みに見下ろされながら、オレは当てもなく疾走した。


 歩道を全力で走るオレに対し、周囲の人々が奇異の視線を送っていたけど、それも気にならなかった。

 ツーブロック三兄弟の言うとおり、オレは身の程を知らずにホンの少しだけ抱いていた……オレが抜けたコトでギルドに迷惑が掛かったんじゃないか? と。


 実際はそんなコトなかった。オレはやっぱり《ハンター》にとって厄介者……ただの足手まといだったのだ。


 それにも関わらず、ギルドに自分の居場所を求め、薄っぺらに分不相応な矜持を抱き続けていたのだ……これがどれだけ恥ずかしいコトか、今の今まで気が付かなかった……


 オレの視界はどんどんボヤケてきていた……わき上がる涙をここまで熱く感じたのは初めてかもしれない。


 あの時……ツーブロック三兄弟にコケにされた時……言い返すなり怒りを露わにするなり出来なかったコトで……自分自身の[器]がどれだけのものなのかをハッキリ示された気がする……


 しょせんオレは……《ハンター》としての立場で取り繕っても、いつまでもどこまでも、しょっぱいままなのだ……


「くそう! くそう! くそォォォォッ! 」


 そしてそのまま20分くらい走り続けただろうか?


 「ハァ……ハァ………………? 」


 気が付いたらオレは人気の無い迷路のような路地裏に迷い込んでいた。


「……あれ……? 」


 さんざん泣き散らかして高まる感情を発散し、ひとまずの冷静さを取り戻したオレは周囲を見渡してここがどこなのかを探ろうとする。


 四方はビルの壁に囲まれていて、乱立するエアコンの室外機の音が心の不安を煽ってくる。元がなんだったのかが分からないほどに朽ちたガラクタや、ビルの窓から放り投げられたかと思われる生ゴミが捨てられて腐臭を放っている。ここが[見捨てられた場所]であることは明らかだ。こんな場所に好んで訪れるのは、ゴキブリと特殊な嗜好を持ち合わせた人間だけだろう。


「……まいったなぁ……」


 日はすでに落ちかけ、薄汚れたビル壁に反射するわずかな夕日の色が唯一の光源だった。


 スマートフォンを取り出して、地図アプリを軌道指せようとするも、電波が弱くてなかなか現在地を表示してくれない……こうなるともう、勘を頼りに動き回るしかなかった。


「《核》を割っちゃうし、ライセンスは取られちゃうし、手榴弾を売りつけられて三兄弟にバカにされるし……しまいには路地裏で迷子だなんて……今日は散々だな……」


 オレは独り言をつぶやきながらヌメった地面を歩き続ける。しかし、行けども行けども周囲は同じようなビル壁しかなく、ますます奥深くまで迷い込んでしまっている気がしてならない。


「……まじかよ……」


 そしてさらに10分ほどさまよって行き止まりに突き当たること数回目。いよいよ心が折れ掛かってきた。


 いっそのこと、店で買った塩幕手榴弾を使って非常信号を発信させてしまおうか? という考えが頭をよぎるが、すぐにその思考を頭の隅に追いやった。そんなコトをしてみろ、ギルド中の笑い者だぞ……


 もうすっかり日は落ちて、ビルの窓からこぼれる光がじんわりと路地裏を照らし始めた。


「急がないと……」


 焦り、危機感を覚え始めて口が渇く。とにかくオレは急いで引き返して再び出口を探し回ろうとその場を振り返った。


「ん? 」


 その時だった。


 オレは一瞬、度重なるストレスで頭がおかしくなったのか? と思った。


 オレが振り返った瞬間、確かにいたのだ。20mほど先にあるT字路を横切ったのだ。


「こんな場所に……なんで? 」


 砂漠でペンギンを見かけたらこんな気持ちなのかもしれない。オレはその時そんなコトを考えていた。

 だってそうだろう? 


 生ゴミの臭いが立ちこめる路地裏で……





 神聖な巫女服を着た少女が歩いていただなんて……誰が信じてくれる? 

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