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「第二章 数字は如実」

『本日13時20分頃、建設中のグローバルスタジアムに〈G・スラッグ〉が一体現れました。発見したのは休憩中の作業員の一人で、その時〈G・スラッグ〉は鉄骨を溶かしながら体内に取り入れていた最中だったようです。その隙に作業員を全員避難させ、ギルドより派遣された《ハンター》達の手によって無事駆除された模様です。作業員、《ハンター》共に死者は出ませんでしたが、今回現れた〈G・スラッグ〉は体長10m級の大型で、国内での観測で確認された物では最大の大きさでした。日に日にその数と大きさを増加させていく〈G・スラッグ〉の存在に、住民は不安を隠しきれない様子です……』


 テレビに映るニュースキャスターが必要以上に大げさなニュアンスでさっきの出来事を報じている……無事に倒すことが出来たんだから、わざわざ見ている人を不安にさせるようなコトを言わなくてもいいのに……


 それに、野を荒らし、人々を襲う大ナメクジを成敗したってのに、《ハンター》の姿があまり映っていなかったのも不満だ。


 いや、別にオレが映ってないかな~なんて期待してたワケじゃないんだけど……せめて今回のハンティングで一番活躍した波花リトナさんぐらいは大きく取り上げて欲しかったな……なんて思っただけで……


『…………君! 』


 日々を〈G・スラッグ〉の恐怖から逃れて生活しているのは《ハンター》のおかげなのに、動物愛護だのなんだのとイチャモンをつけるばかりで、尊敬の念をもう少し抱いてくれたっていいのに……


『……夏君! 』


 ああ、それにしても……リトナさん……凄かったなぁ……


 強いし、カッコいいし……それに、美人だし……あの人に会えたコトを思い出すだけで、今すぐ死んだっていいって思えるほどの高揚感がみなぎってくる……


『……火夏君!! 』


 ……でも……そんな素敵な人に……オレはなんてコトを……


 あろうことか……ほとんど0距離の射程から……屁をかましてしまうなんて……合わせる顔がないよ……もう次に会うことなんてほぼ無いのだろうけど……


「火夏君! 猿飛火夏君!!!! 」


「は、はいッ!? 」


 部屋に響き渡るしゃがれ声が鼓膜を刺激し、オレの意識は現実へ引きずり戻された。


「全く、人の話を聞いているのかねアンタ? ボーっとしくさって! 」


「す……すみません! 」


 今オレを叱責しているのは、ハンター組合集会所・東京都御土牟ゴドム市支部の人事部長である。


やや太り気味の体型に合っていないピッチリとしたスーツと丸いフレームのメガネ、そして綺麗に分けられた七三分けがトレードマーク。


 オレは今日、グローバルスタジアムでの一件から撤収した後、すぐにこの人から直接の連絡を受けて呼び出され、今こうして集会所の会議室にて、長テーブルを挟んで二人っきりで面談をしていた最中だった。


「……キミは自分が今どういう立場にあるのか理解していないようだね」


 人事部長はそう言ってリモコンを手に取り、垂れ流されていたテレビの電源を落とす。会議室には静寂が生まれ、服がこすれ合う音がハッキリと聞こえるほどに無音だった。


「猿飛火夏君……キミは《ハンター》になってどれくらい経つのかね? 」


「はい……ちょうど半年ほどになりまッス」


「そうか」と言って人事部長は手元の液晶タブレットを手に取り、慣れた手つきで操作してしきりに視線を左から右へと動かし続けた。


「火夏君……ギルドの事務職である私を含め、《ハンター》とそれに関わる人間の存在意義とはなんだね? 」


「はい。2年前より突如現れて人々の生活を脅かしている〈G・スラッグ〉の駆除を主として市民の安全を守ると共に、それから得られる《核》を採取し、未だ生体が謎に包まれている〈G・スラッグ〉の研究に役立てることです。それらの職務を全うし、報酬を得て生活を送る者。それが《ハンター》及びギルドの存在意義です」


 オレの言葉を聞いた人事部長は、メガネを外してハンカチでレンズの汚れを拭き取りながら言葉を返した。


「そういうトコロだけはしっかりとしているんだな」


「ありがとうございます! 」


 ボクの返事に対し、人事部長はため息を一つもらし、キレイに磨かれたメガネをかけ直すと、そのレンズ越しに鋭い視線をこちらに向けた。


「今日のコトは全て聞いたよ。なんでも、せっかく倒した10m級スラッグの《核》を落として割ったらしいね、キミは」


「それは……ハイ……自分の不注意でした」


「キミだって分かっているよね。《核》は《ハンター》にとってボーナスなのさ。ハント報酬に加え、《核》を無傷の状態で研究所に提供すれば、それに応じた報酬が得られる……さらには未知な部分が多い〈G・スラッグ〉の生体を調べる上で重要な役割を担っているその重要アイテムを……キミはドジって壊してしまった。今回の《核》は10m級の希少種だ……その重要性が分からないワケではなかろう? 」


「はい……」


 こうして人事部長から分かり切った話をネチネチと聞かされて、オレはほんの少しだけ怒りを覚えてしまったけど、それだけのミスをしてしまったことは紛れもない事実なのだ……言い返す言葉は見つからない。


「それにね……今こうして調べて見たところ……キミは《プロハンターライセンス》を所得して以来、半年間の間に30件もの〈G・スラッグ〉ハントに同行しているけど……」


「ハイ! その他にも、重要施設の警備やスラッグ多発地帯への偵察等……積極的に《ハンター》としての職務を全うしていると自負しています! 」


 オレが自信満々にそう言うと、人事部長は目頭を指で挟み込むような仕草を取り、液晶タブレットの画面をオレに見せつけた。


「キミの勤務態度は賞賛するがね……数字というモノは決定的な事実を語ってくれるもんだ」


 液晶には、オレのプロフィールと思しき内容が画面に映し出されていて、さらには[成功率15%]という文体がコレでもかと大きなフォントで示されている。


「すみません……この15%というのは一体? 」


「わからんのかね? 簡単だよ。キミが同行したハントの成功率だ。他と比べて極端に低い」


「そんな……」


「……他の《ハンター》からも苦情が来ていてね……どういうワケか、キミと一緒に〈G・スラッグ〉をハントしようとすると、獲物が突然暴れだし、凶暴になるコトが多いのだとか」


「それは、単にたまたまタイミングが悪くて……」


「いいや違うね。言っただろう。数字は如実に語るもんだ……おそらくキミは気配を消すコトにかけては絶望的な腕前なのだろう。だから15%なんて低い数字を叩き出すのだ」


 悔しいけどここまで全て人事部長の言うとおりだった。


 今日もそうだった。技術的なのか体質的なのかは不明だけど、確かにオレは〈G・スラッグ〉を刺激する、ある種の才能を持ち合わせているらしい……


「それでだ、猿飛火夏君。これまでの戦績や、クレームの数を踏まえて、ギルドは残念な決定を下さなければならなくなった」


 人事部長は突然立ち上がると、パイプ椅子に座ったままのボクの左肩にポン! と、右手を置き、こう言った。


「キミには《ハンター》としての仕事に対し、長い長い休暇を与えることにした」


「休暇……? オレ……そんなモノはいりませんよ! 《ハンター》として、まだまだやり残したコトがいっぱいあるんです! だから……」


「わからんのか? 」


 肩を握る人事部長の手に力が込められた感触を覚えた。


「キミにもわかる言葉で言わなかればならなかったな……つまり、キミは[クビ]だ」


「クビ……? 」


「まだわからんのかね? クビだよ! クビ! キミの《ハンターライセンス》を剥奪するってことだ! 」


「ちょっと待ってくださいよ! そんな! あんまりだ! オレはこんなコトで《ハンター》を辞めるワケには……! 」


 ボクも立ち上がり、人事部長の両肩を掴んで、ライセンス剥奪を撤回してもらうように訴えた。


「キミがしたことはそれだけ重いコトなのだ! 《A級ハンター》である、波花リトナと、その弟である波花ムウの活躍を無に返しようなコトをしでかし、あまつさえオナラまで見舞うとは言語道断だ! 」


 オレは人事部長のその言葉を聞いた瞬間、思わず顔をほころばせてしまう。


「ムウ……波花ムウって……あの時スナイパーとしてリトナさんを援護してた人ですか? 通りで雰囲気がただ者じゃなかった気がしたんですよ! 感激だなぁ……あの時、オレは波花姉弟と一緒に仕事をしていたってコトなんですね! 」


 オレは遅れて味わった感動を素直に口に出して喜んだ。しかし、目の前の人事部長の顔は茹でダコのように紅潮し、整えられた七三分けを寝癖のようにどんどん乱れさせ、内に秘めた感情をわかりやすく表現していた……


「荷物をまとめてさっさと出て行け! この恥さらしの役立たず! 二度とギルドの敷居を跨ぐんじゃねぇぇぇぇッ!! 」


「ちょ! 待ってください! チャンスを! もう一度チャンスをくださいよ! 」


「お前に残されたチャンスなんてねぇ!! この能なしの屁コキ野郎ォォッ! 」



 こうしてオレは今日……念願だった《ハンター》の資格を失い、屁が臭いだけのニートとして新たな道を歩まなければならなくなってしまった。

   

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