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[第一章完結] 揺り籠の烙印者  作者: 葦藤 基
第一章 ”剣の英雄”アルフレットの物語
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“剣の英雄”アルフレットの物語

 昔々、この国が生まれる前のこと。

 この地にはアルフレットという名の若者がいました。

 アルフレットは自然の恵みを愛し、家族と共に平和に暮らしていたのです。


 しかし、ある時家の畑が悪い盗賊たちにおそわれて、大事な作物がとられてしまいました。両親や兄弟、姉妹たちの悲しそうな顔を見て、アルフレットは決意をします。


「奪われるのは、僕たちが弱いからだ」


 アルフレットはそう言って、生まれて初めて剣を手に取りました。

 家族のために強くなることを決めたのでした。


 それから月々はめぐり、アルフレットは剣の腕で知らぬ者がいないほど有名になりました。

 そのころになると、アルフレットには二人の親しい友人ができていました。


 一人は魔法の杖を持つジーハ。もう一人は森の弓を持つメルドラン。三人は互いにこれ以上ないと思えるほどの理解者でありました。


 いつも笑顔が絶えない、最高の友人たちであったのです。しかしながら、そんな三人に訪れたのは最悪の悲劇でありました。


 秋の季節の末、メルドランは森の民の長に命を受けました。それは、魔族であるジーハを射殺せというものだったのです。


 もちろん、メルドランはジーハを殺すことなどできはしませんでした。


 メルドランはジーハに理由を話し、「自らを殺せ」とせまり、ジーハが断わりの言葉をつげると同時に自らの頭を矢でうちぬきました。

 メルドランの血を浴びたジーハは怒ります。

 何より大切な友を失ったのです。


 ジーハの親は魔族の長であったので、ジーハは「友のかたきを討ちたい」と頼み込みました。長は頷き、魔族を集めました。


 その後、ジーハと魔族たちは森の民を滅ぼします。一人残らず殺しました。

 ジーハの怒りはたいへんなものであったのです。

 しかし、ジーハは死んでしまう程の大きな怪我をおってしまうのでした。それはどんな魔法でも直すことのできない深い傷でした。


 ジーハの魂が天へと昇る少し前に、アルフレットがジーハのもとを訪ねます。

 アルフレットは遠い処にいたので二人の不幸な時にそばに居られなかったのです。


 アルフレットは涙を流してジーハに謝ります。そんなアルフレットにジーハは言うのです。


「赦すことはない。償いたいのならば二度と我らのような者を作らぬために、強き国を創れ。誰もが友となれる国を創れ」


 そうして、ジーハは命の最期を使いアルフレットの剣に自らの心臓をうめこみました。


 友の力をうけついだ剣を手に取り、アルフレットは国を創るため旅に出ました。


 その旅の道中ではたくさんの辛いことがありましたが、それ以上のすばらしい出逢いもありました。多くの仲間たちを手にすることができたのです。


 旅の終わりに我々のこの国が生み出された時、静かに、アルフレットは息を引き取りました。

 使命に命を使い果たしてしまったのでした。



 森の英雄メルドラン、魔族の英雄ジーハ、剣の英雄アルフレットは今でもジーハの心臓の入った剣と共にこの国を守っています。


 何千年も輝きを保ち続けるその刃は代々ダウルム王家の当主に受け継がれ、国のために役を担っているのです。


 アルフレットはいまわの一言にこう残しました。


「この国に永久の栄光を。友との証に悠久の絆をつないでゆけ」


 それから長い間、我らトキタスアの民はこの言葉を常に胸にかかげ、この国で生きているのです。



     ●◒○・∫・∫・∫・∫・∫・∫・∫・∫・∫・∫・∫・∫・○◓●



「面白かったかい? ウィリ」


 窓のないその部屋には二つの影があり、薄く揺らめく明かりは床の間で重なり合って寄り添う二人をやさしく包み込んでいる。

 小さな影と、大きな影だ。


 読み聞かせを終えたアレヴターウェンは、本を閉じ、何より愛しい弟の顔を覗き込む。

 久しぶりに一緒に寝られるから、と有名な物語絵本を持ってきたウィリディスは、最近贈ったその絵本を気に入ってくれたらしい。

 読んでほしいという一言が言えなくてこちらを窺っていた姿は、若葉の萌しのようで。それはもう身悶えるほどに可愛らしいものであった。


「はい! 三人の英雄さまは大好きなんです! 兄さまはお好きですか?」

「もちろん。兄さまも英雄さまたちは大好きだよ。今、こうしてウィリと共にいられるのはあの人たちのおかげなのだからね」


 アレヴターウェンがそう言うと、腕の中にいる弟の頬が嬉しそうにほころび、同じ色の双眼が優しくアレヴターウェンを見とめた。


 アレヴターウェンは先程まで手の中にあった絵本を静かに枕元へと置く。

 表紙に写るのは剣を持ち、雄々しく戦う一人の英雄。大切な人たちを失ってなお、その人たちのために命を捧げ続けた傑物。……心から尊敬の念を抱く。俺には土台無理な話だ。失うなんて、堪えられるはずがない。

 そう思いながら、アレヴターウェンは弟の柔らかい髪をなでる。そうしているうちに、この子はいつも幸せそうに眠りにつくのだ。


 いつだって想っている。この子は、ウィリディスは自分という、この“兄”という存在に何を求めているのだろう。自分はそれに応えることができているのだろうか。


 色は同じであるはずなのに、俺とまったく似ていない弟。俺の心を癒してくれた、小さな、俺だけの救い主。暗闇を照らす導きの星の輝きがこの子を見守っているかのように、光の世界に生きる者。


「おやすみ。どうか夢の中でもウィリが笑顔であれますように……」


 静かな寝息をたて、腕の中で眠る少年の(こうべ)へ、そっと口づけを贈る。


 魔法の明かりを消すと、部屋の中に暗闇がやってきた。遠くに夜の鐘が鳴り、アレヴターウェンも瞼を閉ざす。

 歩み路が明るいものであるように。願う者の祈りをこの子が知るのは、これから何年も先のはなしである。

お読みいただきありがとうございました。

長い長い物語になります。更新頻度は気まぐれですが、楽しんでいただけたら幸いです。

これ以降は最終話まで前書きも後書きもありません。

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