師匠という人
更新が遅くなってすみません。周りがバタバタしていたのと、ネタが思い付かなくなって遅くなってしまいました。今後も毎週更新は続けたいと思いますが、更新ができない週もあると思います。どうかご了承下さい。
「神楽くん、おししょーに会いに行きませんか?」
授業も終わり、いつものように部室に向かっていると、突然セラが現れボクの手を握りこう言った。おししょー…月見草を採りに行った時に言っていた人か。
「いきなりどうしたの?」
「今日、おししょーが珍しく予定がないとのことでしたので、会ってみたらいかがかなと。というか会ってくださいぜひ!」
「わ、わかったわかったわかったから。手離して顔も近づけないで!」
身を乗り出してきたセラをなんとか押しやり、ボクは安堵のため息を吐く。いくらセラとはいえ、こんなに近付かれると迫られている時を思い出して、気分が悪くなる。最近はセラからもらった薬のおかげで迫られることなんてなくなったけど、それでも僕の中には立派なトラウマとして強く根付いている。
「?神楽くん、顔色悪いですよ。どうかしたんですか?」
「あぁいや、何でもないんだけど…でもできれば、あんまりボクに近付きすぎないでくれるかな。ちょっとトラウマが…」
「…あ、そうですよね…。すみません、軽率でした。体調が悪いのでしたら、今日行くのやめにしますか?」
セラはボクの様子で察したらしく、こちらの顔色を伺いながら尋ねてきた。
「いや、大丈夫だよすぐ良くなったから。それにボクもセラの師匠に会って話を聞いてみたいし。連れてってもらえる?」
「はい、もちろん!ではまーさん、よろしくお願いしますね」
「え?うわっ!」
いつの間にか木場さんがボクの隣に立っていた。何なんだこの二人は、心臓に悪い…。
「…了承した。神楽、アレルギーはないか?」
「アレルギー?いや、特にないですけど…それが何か?」
「…着いてくればわかる」
木場さんはそう言うなり、ボクらに背を向けて歩き出した。その後ろを、セラと二人でついていく。
「ローブ着てないってことは、今日は飛ばないの?」
「はい、まーさんがいますから!」
(なぜここで木場さんが出てくるんだろう)
考えていると玄関に着いた。
「…着いたな。乗れ」
玄関を出ると、木場さんは一声狼のように鳴いた。するとその瞬間、巨大な体躯の狼が、僕らの前に現れた。
「な、え、え!?」
「驚きましたか?」
「そりゃ驚くよ!え、これ木場さん!?」
『グルルルル…』
「これとは何だ、って言ってますよ」
「あ、す、すみません…」
もう一度改めて目の前の狼を見つめる。金色の体毛に金色の瞳…木場さんもそういえば金髪に金の瞳だった。そういうところは変わらないんだな、と共通点を見つけ少し安心した。変化前の姿とのギャップ…いやギャップと言って良いのかわからないけど、とにかく変わりようが激しくて、何かしら共通点を見つけておきたかったのだ。
「今日はまーさんに乗っていくんです。神楽くんにイヌアレルギーがあったらやめようって話になってたんですけど」
「あぁ、だからアレルギーがあるか聞いたんだね…」
『ウォンッ』
「その通りだ、ってまーさんが」
「なんでセラは木場さんの言ってることわかるの?」
「まーさんはわたしの下僕ですから」
…。黙ってセラから離れる。
「ちょ、そんなあからさまにどん引かないでください!魔者は下僕がいて当たり前なんですよ!?それにまーさんの家系は代々わたしの家系に仕えてきた家なんですから!」
「ソノ下僕ッテナニ」
「下僕とは名ばかりで、わたしたち魔者を支えるのが役目なんです!もうなんでカタコトなんですか!?木の影に隠れるのやめてください!」
「いやだって、突然女王様みたいなこと言うからセラ怖くて…」
「怖がらないでくださいよ!もう…わたしの先祖はですね、木場さんの先祖の狼を助けたんです。それがきっかけで、わたしの家の魔者を助けるって契約をしてるんです」
「そっか、そういういきさつがあるなら…」
「もー…なんか行く前から疲れました…。ほら、行きますよ!」
二人で木場さんの上に乗り込んだ。
たどり着いた先は、町外れにあるこじんまりとした一軒家だった。童話にでも出てきそうなレンガ造りの家で、木々に囲まれているのと相まってメルヘンな空気が漂っていた。
「まーさんお疲れ様でした!」
僕達が降りた瞬間、木場さんはまた元の人間の姿に戻った。肩に手を当てて、腕をぐるぐる回している。
「ボク、重くなかったですか?」
「…問題ない」
「狼の姿だと筋力が跳ね上がるらしいですからね。それじゃあ入りましょうか!」
セラはドアの横に付けられているベルを鳴らした。こんなところまでメルヘンだ。
「はーい。あ、晴夏。お帰り」
ドアを開けて出てきたのは、今まで見たこともないような美しい男性だった。
光の加減で金にも銀にも見える髪。優しそうな光を宿した瞳は、ルビーのように輝いている。声は耳に心地よい低音で、見た目の若さとは少し釣り合わないように感じた。
「ただいまです、おししょー!」
「この人がセラの師匠?」
「?君は…あぁもしかして、晴夏が言ってた神楽くん?そっか、君がかー。まぁ上がっていってよ。おや、今日は木場くんも来ていたんだね。久しぶりだねぇ」
「…お久しぶりです、スリーザード卿」
木場さんは姿勢を整え、ゆっくり頭を下げた。
「…もしかして、セラの師匠って偉い人なの?」
「魔者の中でも選ばれた人しか入ることのできない、魔者の同盟に名を連ねてるんです。だから偉い人と言いますか、実力を上と認めてるからあんなに緊張してると言いますか」
「そっか、狼って実力社会なイメージあるもんね…」
小声でボソボソ話していると、スリーザードさんは不思議そうに僕らを見ていた。
「どうかした?上がらないの?」
「あ、今行きます。えっと…スリーザードさん?」
「ニーアでいいよ。さ、入って入って。今お茶を入れるから」
セラと木場さんに続いて家の中に入る。中は本棚だらけで、本棚のない壁には魔法陣の描かれた紙が貼られている。オカルトめいた家だ。
「神楽くんはハーブ平気?私のお気に入りのハーブティーを入れようと思うんだけど」
「あ、はい。大丈夫です」
「おししょー、手伝います!」
セラはぴょんっと椅子から立ち上がって、ニーアさんのいるキッチンに向かった。僕と木場さんが残された。
「…」
「…」
「…あ、あの」
「…?」
「ここって、セラの家なんですか?」
「…ああ」
「…」
「…」
会話が続かない。他に話のネタはないか、うんうん唸って探すが何も思い付かない。
「…セラは」
「!?何ですか!?」
突拍子もなく開いた口に、思わず警戒してしまったのは許してほしい。
「…お前と会ってから、楽しそうだ」
「…え?」
「…セラはお前に会うまで、魔者に理解のある人間に会ったことがなかった。修行に本腰を入れる前の小学校ではともかく、中学校では魔法の修行にふけるセラをクラスメイトは馬鹿にしたそうだ。だが、セラは優しく頑張り屋だ。普通の人間となんとか仲良くしようと努力して…その結果お前に出会えた。初めは普通の人間と聞いてうまくやれるか心配だったそうだが…その心配は無用だったと、嬉しそうに言っていたよ。これからも仲良くしてやってくれ。神楽が初めての人間の友達だからな」
「…!それはもちろんですよ。ボクにとっても、セラは初めての友達なんですから」
そう返せば、木場さんは心なしか微笑んだように見えた。
「お茶持ってきましたよー!あれ、二人とも何話してたんですか?」
「いや、なんでもないよ」
「…そうだ」
「?」
クエスチョンマークを浮かべるセラを横目に、ボク達は笑い合った。