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ミスト=フォーザード

「ここですね」


紙にあぶり出しのように刻まれた地図を見ながら、セラは改めて場所を確認した。目の前には古びた教会が建っている。

扉を開けるとギイィ…と音をたてた。


「失礼しまーす…」

「あら、よく来たね」


教会の扉の向こうには、物が散乱しごちゃごちゃとした空間が広がっていた。床には至るところに魔法の道具や、散らばった本のページなどが散乱し、足を踏み入れるスペースが見当たらなかった。


「あの、ミストさん」

「何?あぁ、ごめん散らかってて。床に落ちてるのはほとんど要らないものだから、踏んでも大丈夫よ」

「そういうわけにもいきませんよ…。ミストさんにとっては要らないものでも、他の魔者にすれば喉から手が出るほど欲しいものなんですよ?」

「喉から手、か。面白いよねーそのたとえ。今度つくってみようかな、喉から手が出るホムンクルス」

「どこのホラー映画ですか…」


仕方なくセラは、空いてるスペースを自ら作りながら進むことにした。ページやゴミなどを掻き分けながら、なんとか目的の人物のもとにたどり着いた。


「改めてようこそ、セラ」


目の前の女性ーミスト=フォーザードは優しく微笑んだ。色素の抜けきった髪の毛を無造作に束ね、白衣をよれよれのシャツの上に羽織ったミストは、手に持っていた試験管を揺らす。


「それは?」

「ラムネ。食べる?」

「いただきます」


一見宝石のようなそれを口に含むと、シュワァ…と音をたて口の中で溶けた。今まで口にしたこともないその食感に、セラは目を丸くした。


「おいしいです」

「それは良かった。これなら商品化できるかな」

「新商品だったんですか?ミストさんにしては珍しいですね。お菓子を作るなんて」

「この前担当した顧客からリクエストがあってね。おいしく薬を飲めるものはないかって。それで思い付いたのがこれ」


ミストは試験管をこんこん、と指でつついて鳴らした。宝石のようにしか見えないラムネに、セラは首を傾げる。


「それでどうしてラムネを作ることになるんです?」

「このラムネは熱を加えるとゼリーみたいになるんだ。んで、こんな風に薬を包める」


手の熱でゼリーのように変形したラムネで、近くにあった錠剤を包み込む。するとまたラムネは宝石のような外見に戻った。


「あとはこれを飲むだけ。そうすればラムネの中の薬ごと溶けて、唾液ごと飲み込むだけで薬を飲んだことになる。甘味を強くして苦味を抑える魔法がかかってるから、どれだけ苦い薬でも苦味を感じることなく薬を飲めるってわけ」


その説明を聞いて、セラはあからさまに目を輝かせた。


「すごいです!お子さんとかに良さそうですね」

「元々この注文したのが子どもだからね。いやーまさかこの私が魔薬以外を作ることになるとは思わなかったね」


ははっ、とミストは楽しげに笑った。ここでセラは当初の目的を思い出した。


「っと、そうでした!わたし、ミストさんに用事があって来たんです」

「ま、そうだろうね。セラがニーアを同伴しないでここに来るなんてそれ以外ないだろうし」


ミストはラムネの入った試験管を置き、セラに向き直った。


「で、どうしたの?」

「はい、実はー…」


セラはこれまでの経緯を話した。主に理人の呪いについて話している間、ミストは何を考えているのかよくわからない表情でセラの話を聞いていた。


「なるほど、呪者か…」


話を聞き終え、ミストはぽつりと呟いた。


「このご時世に呪者に会えるなんてね。禁止令が出てるのに、命知らずなやつもいるもんだ」

「どうしたら呪いは解けるのでしょうか?」

「まあ解く方法はシンプルだよ。呪いをかけたやつを見つければいい。セラなら魔力感知ができるから、不可能ではないでしょ?」

「でも、日本にいるとは限らないじゃないですか」

「んー…まぁそれもそうか。そうだなぁ、今度私の植物園に来る?」

「え!?」


ミストの植物園と聞いて、セラは思わず目を見開いた。

ミスト=フォーザード。彼女は魔者の中でも有名な魔女である。400年は生き続ける不死の魔女という二つ名でも有名だ。

そんな彼女は、魔者の中でも実力者のみがその称号を得られる《魔術師同盟(ナンバリングザード)》に名を連ねるほど、魔法の技術が優れ莫大な薬や植物の知識を有している。その彼女が経営している植物園。そこは魔者達から宝の山と呼ばれるほど、貴重な植物のみが植えられていることで知られている。

もちろんそんな場所に軽々と行けるわけがなく。ミストに選ばれた者のみが行けるのだ。


「ほ、本当に良いんですか!?だって…」

「あーいいよいいよ。その代わり、ちょっとした条件があるけど」

「条件?」


ミストはうなずく。


「一つ、私からの依頼を達成すること。もう一つは、植物園にその呪者の子も連れてくること。その子が嫌だって言うなら無理に連れてこなくていいけど」

「それくらいなら良いですけど…」

「じゃあ決まりね。依頼は後でニーア経由で出すから。植物園に来れる日も追って連絡するから」

「何から何までありがとうございます」

「いいよいいよ。私だってセラの師匠みたいなもんだしさ。用事はこれで終わり?」

「はい」

「それじゃ、また今度ね。今からこのラムネの調整に入るから」

「わかりました。失礼しました!」


セラはミストに頭を下げて、教会から出ていった。

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