夜間部
編入手続きに必要だという書類を揃えて提出したその日の夜。ボクは先生に連れられて、旧校舎の前に来ていた。
「ここ、立ち入り禁止のはずですよね?」
「あぁ、普通の奴らはな」
どこからどう見てもボロボロで、今にも幽霊が出そうだ。こんなところに入るなんて危ないんじゃ?
「えーと、あったあった。神楽、新しく学生証渡されたよな?夜間部の方の学生証をこのポストに入れてくれ」
先生はさびだらけのポストを指差した。ボクは先生の言うとおり、校章が昼間部と左右反対になっている学生証をポストの中に入れた。
その瞬間。
「!」
ボロボロだったはずの校舎が、年季の入った趣のある校舎に姿を変えた。
「…な…え…?」
「まあ最初は驚くわな。普通の人間が間違えて入らないよう、魔法がかかってるんだよ。…おっと、学生証忘れるなよ」
先生はポストから学生証を取り、渡してくれた。それを受け取りながら目の前の校舎を見上げる。
「こっちが生徒玄関、あっちは職員玄関な。それじゃ入るぞー」
先生に続きボクも校舎の中に入る。すると見覚えのある金髪が、靴箱の影からひょこっと現れた。
「あ!」
「こんばんは神楽くん!また会えましたね」
にこにこ笑いながらセラは駆け寄ってきた。初めて会った時と違い、黒いローブを脱いでいるから一谷高校のセーラー服であることがよくわかった。
「どうしてセラがここに?」
「鈴城先生から教えてもらったんです。知ってる顔がいた方が安心するだろうって」
「そういうことだ。あとはよろしくな。先生はもう眠い…じゃない、仕事がまだあるからな」
「先生、本音駄々漏れです」
あくびをこらえながら先生は去っていった。残されたセラと僕は、ひとまず学校内を回ってみることにした。
「どうですか?教室の位置とか覚えられそうですか?」
「うん、まあ。ところでまだ時間大丈夫なの?」
「HRまであと30分もあるから大丈夫ですよ」
人のいない中庭のベンチに並んで腰かける。顔を上げれば、星空が綺麗に見えていた。
「あとで職員室に行って神楽くんのクラス聞かないとですね」
「ああ、そういえば聞いてなかったね」
「同じクラスになれると良いですねぇ。あぁでも、わたしのクラス人多いから無理かなぁ」
「気になってたんだけど、夜間部は学年ってないの?1組から6組の教室しかなかったけど」
校舎は主にA棟、B棟、C棟に分かれていて、端同士にあるA棟とC棟に教室があった。B棟は理科室などの実習のための教室が集中していた。食堂と体育館はB棟から伸びた廊下の先にあった。けどそれだけで、学年により教室が異なっているようには見えなかった。
「仰るとおり、学年はないんです。人外の方だと年齢という概念すらない方もいますから、学年で分けることがそもそもできないんですよ」
「なるほど…それもそうか」
たしかに創作物でもそんなイメージ強いかも。
「あ、そうだ!神楽くん、部活に入る気はないですか?」
「部活?」
「もし良かったらなんですけど、わたしも入ってる文芸部に入りませんか?神楽くんの話はもうすでにしてますから、きっと受け入れてくれますよ!」
「部活か…」
今まで考えたこともなかったな。ずっと帰宅部貫いてきたし、心機一転して入ってみるのも良いかもしれない。
「まず見学からでも良い?」
「はい、もちろんです!…っと、そろそろ時間ですね。授業が終わった頃に迎えに行きますから、それまで待っててくださいね」
「うん」
部活という響きに心なしかウキウキしながら、ボクはセラと共に職員室に向かった。