例えばの話
【Twitter企画32作目】
「例えばの話をします」───
例えば僕が人を殺したとする。場所は学校の体育館裏。包丁でザクッと殺っちゃった僕は返り血を浴びた。誰にも見られないように深夜に殺したとする。
さて、そんな僕はこのあとどうするだろう。
どうすればいいんだろう。
僕の殺した彼はみんなの敵だった。
いつもみんなの弱みを握っては自分のいいようにした。
僕もその被害者だった。
そんな奴を殺してしまったとする。
警察に行って理由を話しても無理だろう。
友達の家に行ってもこの姿じゃあ受け入れてはくれないだろう。
大丈夫。これは例えばの話。
例えばの話なんだからなんでも僕の都合のいいようにできるんだ。
僕は偶然学校前の道を歩いていた僕と同じくらいの背丈の女性に向かって手に持っていた包丁を向けて言った。
「僕に服をください」
彼女はその場で服を脱いだ。そして僕も同時に脱いで彼女にあげた。物々交換だから問題はない。
彼女にはこのことを言わないように念を押してからすぐに家に行くように言った。
僕は彼女が向こうへ行くのを待ってから反対側へ向かってゆっくり歩いた。
ほら、こうやって都合のいいように進めることができる。
包丁は都合よくあった大きめのポケットの中に奴の服でくるめて仕舞ってある。
大丈夫。ここまで来ればもう完璧だ。
これは例えばの話だからなにも起きない。これから先にあるのは僕の望んでいた世界。
でも、これは例えばの話。
僕の都合のいい話でもなかった。
時には都合の悪いことも起きたりするんだ。
僕が歩いていると偶然そこを巡回していたパトカーに目をつけられた。
警察に声をかけられた僕は仕方なくその場で歩みを止める。
警察官は僕の身長から中高生と判断したんだ。
「君どうしたの?こんな遅くに。お母さんやお父さんは?」
僕は警察官の質問に答えた。
「すこし散歩に出てただけです。お母さんは死にました。お父さんは単身赴任で僕は実家でひとり暮らしです」
ちなみにあと1キロで僕の家だった。
「そうか。じゃあお兄さんたちが送ってあげよう」
僕は答えた。
「大丈夫です。あとすこしなので」
そうして歩き出した。
「気を付けるんだよ」
存外あっさりとしたものだ。
そして僕は家に着く。
明日からは僕の望んだ世界。
これは例えばの話。
警察官と別れてから家に着く間になにかあったとしても僕が例えなければいいだけ。
警察官が彼女を見つけて話を聞かれたとしても僕が例えなければいいだけ。
僕が奴の死体を処分しているのを誰かに見られていたとしても例えなければいいだけ。
僕が捕まったとしても僕が例えなければいいだけ。
───「これは例えばの話です」
「証言は以上です」
僕は向かい合う警察官に言った。
「そうか。じゃあお兄さんが送ってあげよう───」
警察官は厳しい顔で言った。
「───警察署まで」
ども。ミーケんです!
今回は今年最初の短編なのですよ!
しかし、やっぱり短いですね。
こういうものを短編の中でもショートショートと呼ぶらしいです。
まぁ、それはいいとして。
今回の短編についてです。
この短編の主人公である『僕』は一人称からはわかりづらいと思いますが女の子です。
そして、その『僕』はある男子を殺しました。
理由は『僕』からは言いづらいのでしょう。
ミーケんである僕もその意思を汲んで黙っておきます。
短編についての解説はここで終わり。
では、また次の機会にどーぞ。