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序章 不穏

 -記録A106-

「時刻0607記録開始します。…とんでもないものを見つけた。世界中では可能性こそ示唆されていたものだ、誰もこんなものを信じてくれないだろう…。どう、説明すればいいのだ…[ノイズ]奴との接触は…なっ!…こっちに気づ……近づい…来る!記録はここに残して…今はここから…誰か……[ノイズ]ウワァァァァァ!クルナァァァ!……[ノイズ]」


 会議室内に重い雰囲気が漂っている。円状の机のある広い会議室が狭く感じる。当然だ部屋の四隅にあるスピーカーが何かが砕ける音と共に死を思わせる男の叫び声を響かせていたからだ。誰も話し出す気配がない。なんだこれはという顔をしている。

 入り口の近くに座っていた気難しそうな男が立ち上がる。今回の一件を担当している鹿島(かしま) (ぜん)だ。少し唇を噛み締めてから口を開く

「この記録からわかるように"何か"とは言い切れませんが重大なことが始まろうとしています。いえ…、もう"始まっている"のかもしれません。」

「いきなり入ってきてまずこれを見ろと言われてもねぇ…。」

「この記録は作り物なんじゃぁないのか?こんなの自主制作映画のグループが撮ったと言われても疑わない。」

 鹿島に対し皆一様に批判の声がかけられる。

「まぁ、皆さん落ち着いてください。これは本物の記録です。とある冒険家が、まぁ、名前は調査中のため伏せますが、8月10日に森に落ちた墜落物を確認しに向かった時のものです。その男性は未だ行方不明ですが幾つか興味深い発見がありました。小野さん、資料を皆さんにお配りして。」

 いつからいたのか、少し高圧的な顔をした美人が資料が入ってるであろうボックスを抱えてドアの横に立っていた。彼女は慣れた手つきで皆に20ページほどの冊子を配る。

「その冊子の2ページから6ページまでが現場の写真です。特に注目していただきたいのは5ページ目、その墜落物のあったであろう場所の写真です。」

 皆は揃って5ページ目の三枚ある写真に目を通す。

「この墜落物は落下地点から東方向へと58.5m引きずられた跡がありますが移動した先にそれはありませんでした。しかし、落下地点には墜落物の破片を幾つか採取できました。その物体は未知の物質が含まれていることがわかりました。安直かも知れませんが可能性の一つとして、これらの事柄から私はある仮説を立てました。これは地球外生物が宇宙船を利用してここ地球に墜落したのではないか…と。過去の人々はそれをこう呼んでいました…『UFO』…と。」

 会議室の皆は口々に言う。

「そんなことはありえない!君はや我々を小馬鹿にしているのか!?我々がいる少なくとも周辺の宇宙には生物がいた形跡など全く発見されていなかったじゃないか!」

「お前は自分で何を言ってるのかわかっているのか?今まで発見されたUFOの記録などは全て偽物である事がこないだうちの研究グループによって証明されたばかりではないか!」

「そうだ!つまり"無い"のだよ!この地球にやってくる宇宙からの"UFO"なんてものはな!」

 皆同じように憤慨し声を荒げて馬鹿なことに付き合わせるなと言う。

「皆さん落ち着いてください。まぁ、これは私の仮説です。でも、この事件は確かに存在しています。未知の物質があった、これは事実なんです。」

 ゆっくりとドアから一番離れた所にいた男が立ち上がる。明らかに他の者とは違う空気漂わせる男だ。善に罵声を浴びせていた偉そうな中年の男達は急に静かになった。

「まぁ、今日の報告はこのくらいでいいんじゃないか?調査もどうやらあまり進んではいない様だし…。自主制作にしては良く出来てると思うぞ。俺は嫌いだがな、モキュメンタリーなんて。じゃ、失礼するよ。」

 そういって立ち去ろうとする藍木(あいぎ) 悠緋(ゆうひ)はここの所長、カリスマ性もあって弱冠22歳にしてこの研究所を世界規模まで発展させた若き天才。技術の進歩を大幅にさせたこの時代の先駆者。何を考えているかはわからない感じではあるが、彼は間違いなく才のある人だ。

 彼の興味を引くことができなかった。それは今回の調査には予算があまり当てられないことを示している。

「くそ、予算を貰うための報告なのに…。」

 鹿島は拳を握り締める。藍木が部屋を出ようとすると他の皆も立ち上がりそれにぞろぞろとついて行く。そして直ぐに誰も居なくなった。鹿島が肩を落としていると、いつの間にか小野 優奈が隣に座っていた。

「鹿島さん、今回も駄目でしたね。あまり予算がもらえません。ちょっと信憑性と証拠品が少なかったですね。」そう、冷たく変哲もないことを言う。

「俺に再び現実を伝えるな。わかってるよ。でも、やるしかない。」

 鹿島は机を叩いて立ち上がり資料を回収すると何かを睨む様な形相をしながら少し荒々しく部屋を立ち去った。

「小野、とにかく森の東方向の場所を中心に探すぞ。あの少し東には街がある、そこで何かあったらたまったもんじゃないからな。」

「わかりました。鹿島さん、今回は燃えてますね。」

 小野は無表情ながらからかう様に言う。

「燃えてるんじゃないぞ、急いでいるんだ。これは現実に起こり続けているからな。何かが良くない事が起こる前に全てが済めば良いが…。」

 鹿島は額の汗を強く拭った。

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