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エルフ・インフレーション  作者: 細川 晃
第四章 革命の予兆

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革命の予兆11

「全艦、正面に一斉射ッ! 撃ちまくれッ!」

 劈く雷鳴、奔る雷光。

 飛行戦艦エルフィニウムに艦載された三連装の砲塔二基。合計六つの砲門から、膨大な魔力を押し固め生成された砲弾が、音を遥か後方に置き去りにして一斉に飛び出した。

 砲弾は、それぞれが定めた標的へと命中し、レベル一千億にまで強化された装甲機械兵の魔力障壁とその下の装甲を食い破る。敵機の主機は致命的なダメージを受け、機体から光が漏れたかと思うと、轟音と地響きを伴いながら爆散した。


 砲撃はそれだけでは終わらない。

 王都周辺の地下ドックから浮かび上がった二十隻のエルフィニウム型の戦艦が、旗艦に続けと、一斉に艦砲射撃を行う。怒涛の百二十連射は、敵機にことごとく命中し、百二十機ものガダルニアの装甲機械兵が食い千切られ、大爆発を起こす。

 空中に浮遊する計二十一隻の飛行戦艦は、敵陣へと斬り込むエルフリード戦闘員と連携して、敵集団に対し縦深攻撃を行い、ガダルニアに対し優勢を勝ち取りつつあった。

 だが、彼らの優勢は脆くも崩れる――。

 突如、一筋の黒色の線が戦場を駆け抜けた。黒い光線は、エルフリード艦隊十二番艦の右舷から艦首、そして左舷を撫でるように一閃。十二番艦の砲撃が止んだ。

 直後、視界の左で閃光が瞬く。


「十二番艦、轟沈」

 冷淡な顔立ちをした女性エルフリードのオペレーターが、信じがたい報告を告げた。

「――ッ」

 怖気が背筋を駆け抜ける。

 二枚におろされた戦艦は、切断面から火を噴き、地面と激突する前に大爆発を起こしてその役目を終えた。

「魔力障壁はどうしたッ!」

「ダメです。最高出力にも関わらず貫かれました」

 どうにか退避した船員の魔力障壁が、黒煙に煙る戦場で淡く輝く。

「死傷者はッ!」


「……死者八名」

「――――」

 死んだ。エルフリードが、仲間が、初めて死んだ。覚悟はしていたはずなのに、マシューの心には無数の風穴が空いてしまう。涙が流れないのは、脳が焦げてしまいそうなアドレナリンのお陰だろう。

「怯むなッ! 一斉射続行! あの攻撃を王都に直撃させてはならないッ!」

 泣き言を垂れる前に、指示を出す。激を飛ばした。

「ペタ・インパクト発射用意、――目標ウロボロス、撃てッ!」 




「やってくれる……」

 四散しながら地へと落下する十二番艦の燃え盛る残骸を眺めながら、戦場の最前線でバルクは呻くように呟いた。

 最前線は激戦を極めていた。飛び交う光線、後方からの艦砲射撃に、敵機の爆発と爆風。途切れることのない地響き。

 エルフリード達の怒声は絶えず。至るところで、助けを呼ぶ悲鳴がする。

 エルフリード隊総員三千二百名。平均レベル百二十億。

 現在、総員の三分の二、二千名が最前線でガダルニアの軍勢と戦闘を繰り広げていた。残りの一千名は王都を覆う巨大魔力障壁発動装置や、エルフリード艦隊の武装に魔力を注ぐ役割を任せている。


 第二次ガダルニア侵攻の戦力は、レベル一千億の装甲機械兵三万機、レベル一千兆の劣化問題を解決したウロボロス百体。その遥か後方には、補給基地として機能する飛行空母の集団。

「とにかく動き続けろッ! 狙い撃ちにされるぞッ! 負傷者が出た場合は、即座に後退だッ!」

 空中を自在に飛び回り、機械兵を殴り潰しながら、右耳に装着したスティック状の通信端末で全隊へ命令を下す。今回は、敵とのレベル差も鑑み、五人一組となって一機の装甲機械兵に当たるよう命令をくだしている。だが、それでもレベルの差は埋められないようで、前回のエルトシル帝国での戦闘とは比べ物にならない被害を被っていた。

 第二次ガダルニア侵攻の戦端が開かれて、現在一時間。

 戦死者八十四名、行方不明者二十三名。


 エルフリード隊の平均レベルは幾十倍にも上昇し、ガダルニアに多大な損害を与え、戦いには勝っている。だが、犠牲が出続ける。流血が止まらなかった。

「――――」

 今、バルクの目の先で、また一人、エルフリードの命が潰えた。王都への魔物大進行時からの古参。まだエルフ機関が存在せず、ウルクナル式道場でエルフリード化を済ませた道場第二期生、二十名の一人、グルカである。

「グルカ……?」

「え、グルカちゃん?」


 彼女と同じく道場第二期生であるルークとマリーは、ウロボロスの光線の直撃によって跡形もなく消し飛んだ親友の名を呼ぶ。彼らはグルカの死を受け入れられず、茫然と戦場のただ中で立ち尽くしていた。

 彼らと班を組んでいるエルフリード二名が、ルークとマリーを叱咤する。

「何やってるお前らッ、動き続けろッ、死にたいのかッ!?」

「だ、だって、グルカが。グルカが居ないんだ、どこにもッ!」

「しっかりしろッ、グルカは死んだんだ!」

「し、死んだ?」


 人もエルフリードも、他者の死体を見て初めて、その人物が死んだのだと実感できる。ルークとマリーは、未だグルカの死を認識できていなかった。ウロボロスの一撃によって、グルカの体は一片残らず吹き飛んでしまったのだ。蒸発してしまったのである。

 ルークやマリーにしてみれば、一瞬目を放した隙に、唯一無二の親友が姿を消したように感じられただろう。魔力切れを起こしたグルカは、地上の物陰で、魔力が回復するのを待っているのかもしれないと、彼らは彼女がまだ生きていると信じ込んでいる。妄想と現実との耐え難い相違に、錯乱しているのだ。

 バルクは彼らのもとへ向かい、迅速に命令を下す。

「人員補充も含めて後退を許可する、お前らはルークとマリーを連れて行け」

「はいっ!」

 比較的冷静な同じ班の二名が、呆けた二人を強引に引っ張り、前線から離脱する。

 事前の命令通りの適格な判断だ。


 装甲機械兵の頭部を引き抜いていたバルクは、盾を構え魔力障壁を厚くし、退避する彼らの前に立つ。

「お前達の退路は俺が確保する。さっさと行け!」

「バルク先生、グルカが、グルカがどこにも居ないんですっ! 探さないとっ!」

 涙一つ浮かべずに、ルークは後退しながら叫んだ。グルカの死に気付いていない彼には、悲しみの感情すら到来していないのだろう。バルクは、感情の抑制に努め、淡々と揺るぎない事実を伝える。

「……ルーク、グルカは死んだんだ」

「――ッ」

 マリーはもう、グルカの死を確信したようだが、依然としてルークは彼女の死を受け入れられていないようだ。この精神状態では、今後更に激化すると容易に想像できる戦場に、ルークを出すわけにはいかない。このままでは、ルークは確実に死ぬ。

「ルーク、マリー。お前達は後方の魔力障壁維持部隊に配置転換だ」

「そんな、何故ですッ!? 納得できませんッ!」


「ルーク、お前は今酷く混乱している。俺にはそう見える。だから、前線には出せない、これは命令だ。後退して王都の守りを固めてくれ」

「――了解、しました」

 ルークは口から飛び出そうとする様々な言葉を、鬼のような形相で飲み込むと、命令に従って後退した。バルクは四名が前線から完全離脱したのを確認すると、再び混沌とした最前線に身を投じる。

バルク、レベル二百二十四兆。煮えたぎる怒りと、渾身の魔力を愛用の槌に注ぎ込む。

「――オッラアッ!!」

 両足裏の魔力ロケットエンジン、体長二メートルの巨体、剛腕、京を数える膨大な魔力が合わさり、ウロボロスの魔力障壁にバルクのハンマーが激突した瞬間。

 レベル一千兆に到達するウロボロスの、体長三十メートルにも及ぶ巨体が、バルクの一撃によって宙を舞い、二キロ彼方へと吹き飛んだ。この一打は、ウロボロスの胸部に露出した魔結晶を打ち砕く。レベル一千兆の化物は、結晶が砕かれた瞬間からミイラのように干乾び、無数の塵となって大地に降り積もった。


 レベル百兆分の経験値が、バルクの体内に流れ込んでくるのと同時に、魔力も流入する。

「…………」

 間欠泉の如き勢いで噴き出す魔力、干乾びていた魔力の大海は蘇り、瞬く間に飽和し、体外へとあふれ出る。 

 レベル三百二十四兆、三京の魔力を一点に凝縮し、次のウロボロス目掛け、渾身の一撃を振るう。




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