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エルフ・インフレーション ~終わりなきレベルアップの果てに~  作者: 細川 晃
第四章

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革命の予兆7

 同日、同時刻。

 最強の呼び声高い冒険者パーティ・エルフリードの象徴であり、英雄と呼ばれるに至ったウルクナル達四名が、武器防具を装備し、科学研の敷地内にある飛行場の、巨大な格納庫の前に集結していた。

「こうしてみんなが城壁の外で揃うのって久しぶり」

「ここ五年ばかり本当に忙しかったからな、全員の予定が揃うなんて年に一度か二度だ」

「マシューは機械に頼り過ぎて、空の飛び方忘れちゃったんじゃない?」

「そんなことありませんよ。僕は努力家ですから、影ながら飛行訓練は続けていました」


 今回の彼らの目標は、未踏破エリア最深部、トリキュロス大平地の残された最後の秘境の探索である。本当の意味での前人未到エリアに彼らが初めて足を踏み入れるのだ。故に、選抜されるのは少数での最高戦力、冒険者パーティ・エルフリードの創設者達に絞られる。

「本当に、護衛を付けなくてよろしいのですか?」

 ウルクナル達の後方には、心配顔のナタリアがいた。当然彼女は、今回の遠征に反対の立場である。

「日帰りだしね、絶対に今日の夜までには帰ってくる」

「その言葉忘れません。ウルクナル、絶対に守ってくださいね」

「わかってる」

「おーい、ウルクナル! 出発するぞ!」


 科学研の敷地内にある第三格納庫。

 その格納庫から現れたのは最新鋭の一千トン級飛行艦であった。

 滑らかでありながら鋭角な船首と流線形の船体。魔物鉄ホワイトドラゴンを基本とした合金を船殻とし、その防御力は飛行戦艦エルフィニウムにすら匹敵する。

 全長四十メートルの船体には、魔法研で大爆発を起こしたものと同型の、毎秒一千万の魔力を絶えず生成可能な次世代型魔力炉が搭載されている。――当然、改良は済まされており、爆発することはない。

 この炉は、飛行戦艦エルフィニウムに搭載されている魔力炉一基と同等の出力でありながら、体積は十三パーセントに抑えられており、体積比で考えれば約八倍の出力を誇る。

 魔法と科学、トリキュロス大平地に存在する英知の粋が結集し、融合した艦と言えるだろう。

「行ってくる」


「……はい」

 ナタリアに挨拶を済ませたウルクナルは、地を蹴って甲板へと舞い降りる。

 艦上部に設けられた背の低く小型の艦橋には、操縦席と副操縦席、四つ座席が設けられていた。半円形の艦橋前面はガラス張りで、外の景色が一望できる造りとなっている。

「座席に座ってください。シートベルトもお願いします」

 単に未踏破エリアに向かうのであれば、飛行艦など必要ない。自前の魔力と原初魔法でどこにだって飛んで行けるだろう。だが、前人未到の地を調査するには、肉眼だけでは情報収集に難があり、精度も悪い。なので、獲得したデータの信憑性を裏付ける為にも、最新鋭の機材が大量に必要なのだ。

 しかしそういう機械は、精密であるが故に壊れやすく、かつとても大きい。いかなる衝撃からも守り、複数の巨大な機材を遥か彼方の調査区域に持ち込むには、この堅牢な装甲で守られた飛行艦が必要だった。


 飛行艦は航行しながら上昇を続け、王都は後方で手のひらサイズにまで小さくなる。

「高度八千メートル。時速八百キロ。魔力炉正常」

「ソニックブームもありますので、もう少し王都から離れたら加速しましょう」

 マシューは操縦、サラは計器を担当し。ウルクナルとバルクは呑気に窓の外の風景を眺めていた。

「エルトシル帝国国境を通過」

「では超音速航行に移ります。ウルクナル、バルク、席に座っていてくださいね!」

「はーい」

「うーい」


 飛行艦に納められた魔力炉が、毎秒一千万の魔力を生み出す全力運転に入る。艦尾の巨大なスラスターから劫火が噴出し、莫大な推進力を発生させた。

「はははっ、スゲー加速だ!」

「体が、座席にめり込むっ!」

 艦の加速力にご機嫌のウルクナルとバルク。普段から、高速で空中を飛びまわっている彼らだが、機械に全てを任せた急加速には慣れていないようだ。過激なジェットコースターにでも乗っているかのように高揚しているのだろう。

「最高速度に到達」

「その速度を維持してください。これなら数時間で目的地に到着できます」

「時間掛かるなー、俺一人の方が早いよ」

 と、ウルクナルがぼやくとバルクが言った。


「お前だけ先に到着されたら、データを得る前に地形とか原生林とかが滅茶苦茶になっちまうじゃねえか。どんな生物が生息しているのかも一切分からねえから、未踏破エリアの奥には、単独では向かわないって前に約束したじゃねえか」

「わかってるよ」

 溜息を吐きながら、ウルクナルは座席にもたれかかった。

 白化し、膨大な魔力と原初魔法を自在に扱う能力を得たことで、かつてエルフと呼ばれていた者達の行動半径は何千倍何万倍と広がった。


 その気になれば、自前の魔力エンジンを吹かしてどこへだって行けてしまえるが。未踏破エリアは、トートス王国という籠の中で生まれ育ったエルフリード達の想像を超えて広大で、まだ見ぬ超高レベルモンスターが数多く生息している。また、単独行動しているところを狙われ、ガダルニアによって捕獲されてしまうことも十分に考えられる。

 無用な犠牲を出さない為にも、バルク達は、未踏破エリア最奥はエルフリード最強の存在ウルクナルですらまだ足を踏み入れてはいない場所なので、決して立ち入ってはならないと、部下達に言い聞かせてるのだった。

 レベルがどれだけ上昇したからといって、己を過信し過ぎては必ず足元をすくわれるのが、この世界なのである。




 ウルクナルが大人しく備え付けのモニターで映画鑑賞などをしていると、艦は減速を始めた。

「到着しました。ここが、トリキュロス大平地で暮らす人類が、誰も踏み入れたことのない地です」

「おー。と言っても、景色はこれまでの未踏破エリアと変わらないな」

 窓の外を眺めたウルクナルは、実に冷めた感想を述べた。それはバルクも同じようで、特に感嘆すべきところも見受けられない。地上を闊歩する魔物も、アーキタイプゴブリンやフレイムギャロップがせいぜいである。


 レベルが十兆一千億のウルクナル、六百五十億のバルク、数十億のマシューやサラにしてみれば、狩る価値もない魔物ばかりであった。

「特に危険もなさそうですし、船を地上に下ろしましょう」

 艦はゆっくりと降下を始め、底部のスラスターから火を噴き土砂を巻き上げながら着陸する。

「着陸成功。サラ、魔力エンジンは切らないで、魔力障壁の展開を続けてください」

「わかった」

「マシュー、もう降りていいか?」

「もう少し待ってください。周囲の地形を記録して地図を作製しますので」

 マシューは艦橋を出て精密機械が収納された区画へ向かう。

 ウルクナルは暇なので、マシューの後を追うことにした。階段を下り、いくつかの分厚い隔壁を通り抜けると、科学研謹製の最新鋭機器で埋め尽くされた空間に出た。

 部屋の温度は空調によって低く設定され、吐く息も白い。


「マシュー、まだ?」

「もう少しです。……できました」

 機械から吐き出された一メートル四方の用紙には、周囲の地形が事細かに描写され、高低差までもが正確に書き込まれていた。

「……ん?」

 地図を広げていたマシューは首を傾げる。

「どうしたの?」

「いえ、クレーターのようなものが映り込んでいまして」

「クレーター?」

「ええ。ここから南に百キロの地点に、妙に深いクレーターがあるんです」

「気になるの?」

「はい、少し」


「だったら、そこを皆で見に行こう。まだ午前中だし、時間はあるでしょ?」

「そうですね。周囲に脅威となりえる魔物の反応もありませんし、クレーターに向かいましょうか」

 ようやく未踏破エリア最奥の地を踏みしめたウルクナル達は、マシュー先導のもと、クレーターがあると思しき南の地へと空を飛んで向かう。クレーターまでは百キロ離れていたが、音速の数十倍で飛行できる彼らにしてみれば、近所のスーパーマーケットに足を運ぶのと大差ない。

 艦を離れて一分と少し、クレーターに到着した。

「これは、隕石によるクレーターではないですね」

 まるで火山の火口のような巨大な穴の淵に立ち、マシューは呟く。

「わかるのか?」

「はい、このすり鉢状のクレーター。まるで、地中奥でなにかが爆発したかのような深さです。宇宙から降り注ぎ、地上と激突する隕石ではこうはならない。それに……」

 マシューはホバリングしながら、クレーターを降りる。ウルクナル達も後を追った。クレーターは直径の割にとても深く、上部から最深部を見降ろすと、切り立った崖の縁立っているように感じられた。

「クレーターの直径は一キロってところ?」


「はい、町や村ならスッポリ入ってしまう範囲ですね。……また、それほど古いクレーターではなさそうです」

「どれくらい?」

「推測の域をでませんが、百年か二百年か……。千年以内であることは確かです」

「へー」

「…………」

「反対側も見てきます。サラ、サンプルを回収したいので魔法をお願いします」

「まかせて」

 二人は興奮気味に飛び去って行く、きっと研究者の血が騒ぐのだろう。

「……百年、二百年」

 バルクですら少年のように瞳を輝かせ、壁面を手で撫でているなか、ウルクナルだけが虚空を眺めてボソボソと呟く。


 彼は、マシューの言ったクレーターが形成されであろう年数に強く引かれた。

 呼吸が荒く、早くなる。

 故郷の村で農作業に勤しんでいた百数十年前の日々が、つい昨日のことのように感じられる。耳には轟 音、目を閉じれば眼窩からは強烈な輝きが去来した。

 そして鋭い頭痛にも見舞われ、ウルクナルは頭をさする。

「どうしたウルクナル、顔が真っ青だぞ」

 バルクが心配そうに声を掛けるが、ウルクナルは見向きもしない。空中をフワフワと飛びながら、クレーターの底に降りていく。

「おい、ウルクナル!」

「どうしました?」

 バルクの声を聞きつけたマシュー達が飛んできた。


「ウルクナルの様子が変なんだ。顔が病人見たいに真っ青で、呼んでも返事もしない」

「ウルクナルが変なのはいつものことですけど、確かにアレは……」

 穴の最深部に降り立ったウルクナルは、百五十年間積りに積もった土砂を原初魔法によって掘り返す。その突飛な行動に、バルク達も降りてきた。

「おいおい、ウルクナル。どうしたんだよ」

「なにか見つけたんですか?」

「ここを掘ればいいの? 私も手伝おうか?」

 三人が話し掛けるが、ウルクナルは反応を示さない。黙々と、原初魔法によって生み出したスコップで土砂を掘り返す。強靭な腕力と無尽蔵の体力を兼ね備えたエルフリードであるウルクナルは、休むことなく土を掘り続けた。


 ウルクナルは、強大な魔力を振るって一挙に掘り返そうとはせず、丁寧にスコップで堀進める。その一心不乱な姿に触発され、三人も当てのない発掘作業に加わった。

「なーウルクナル、何か目的があるなら教えてくれよー。マシュー、何か見つかったか?」

「いえ、土くればかりです。魔物の骨もありましたが」

「ねー、そろそろ戻らない? 日帰り予定なんだしさ」

 不平を垂れながらも、バルク達三人は発掘作業を止めなかった。無駄口どころか溜息の一つも吐かず、取り憑かれたかのように土を掘り返すウルクナルを放っておけなかったのだ。

 数十分後、バルクが地面にスコップを突き刺すと、金属音がした。

「――ん? 何だこれ?」

「何か出ましたか?」

「ああ、人工物っぽい。銀色の金属板が出てきた」

「見せてください!」


 バルクのもとに、全員が詰め寄った。ウルクナルまでもが作業を中断して走り出す。

「これは……」

 マシューは、バルクが持つ出土物を見て驚愕した。金属製のようだが、高熱に晒された蝋燭のように一部が融解している。しかも、板の表面には自分達が使用しているのと同じ文字が、打ち出し方式で刻まれていたのだ。

「七、八、三、二。何でしょうこの数字――」

「――!」

「あ、おい。ウルクナル!」

 ウルクナルは、マシューの手から金属板を強引に奪い取ると、食入るように数字を眺めてブツブツと呟く。流石に我慢ならなくなり、バルクはウルクナルの肩を掴んで強引に引き寄せる。一言嫌みを言ってやろうと思ったのだ。だが、バルクの嫌みは振り向いたウルクナルを見た途端、喉の奥から出てくることはなかった。

 ウルクナルは、大粒の涙をこぼしていたのである。

「……バルク」

「……何だよ」


 涙はウルクナルの頬から絶えず流れ出る。

「やっと見つけた。見つけたんだ、本当の故郷を」

 嬉しいのか、悲しいのか、ウルクナル本人にも分からなかったが、温かい涙は途切れない。バルクは何も言わずに、彼が落ち着くのをじっと待っていた。




「つまり、ウルクナルは昔ここに住んでいたのか」

「うん、そうっぽい」

「……ぽいって」

「しかたないじゃん、記憶が曖昧なんだから」

 時刻は昼過ぎ、押し寄せる感情の波も治まり、ウルクナルは落ち着いた様子で事情を皆に話した。普通なら、ありえないと一蹴されてしまいかねないウルクナルの昔話だが、そこは数々の一般常識を薙ぎ払ってきたエルフリード達である。安易に結論を急ぐのではなく、自分達の知識と照らし合わせて考え抜く。

「では、情報をまとめてみましょう」


 マシューは、ウルクナルが断片的に話した過去の記憶を時系列順にまとめ上げ、手帳に書き出した。

 ウルクナル曰く、詳しくは覚えていないが、昔の自分はプロトタイプ七八三二と呼ばれ、ガダルニアの研究施設のような場所で暮らしていた。

 そこには、白化する前のエルフが大量に収容され、日々過酷な人体実験が繰り返されていた。ある日、施設に強力な魔物が来襲し、施設が破壊される。その隙に、ウルクナルを含む大量のエルフが逃走。当初、百数十のエルフが逃走したらしいが、無事に合流できたエルフは三十名、レベルは一から数百と振れ幅が大きかったらしい。

 実験エルフ達は、未踏破エリアを放浪した後、現在のクレーターの位置に小規模ながら村を造る。その村の名はテラというらしいが、ウルクナル自身も名称の意味はわからないようだ。マシューやサラの知識の中にも該当する単語は存在しない。

 施設出身のエルフは総じて魔力貯蔵量が多く、高度な知識と原初魔法を扱う能力が具わっており、数ヶ月で村は急速に発展する。エルフ達は快適な暮らしを手に入れ、生活は安定していた。だが、平和な暮らしは半年と続かなかった。


 ガダルニアが村を発見し、掃討作戦が開始される。何千もの巨大なロボットが投入され、エルフ側も奮闘したが、数的不利を覆すには至らなかった。

「そして、ウルクナルは脱出ポットによって村を脱し、トートス王国の辺鄙な村の近くに不時着した、か」

「脱出する際、エルフの村……テラが目も開けられない強烈な光に包まれた、ですか。私達が今立っているクレーターは、その時できたものだとウルクナルは言いたいんですね?」

「うん」

 ウルクナルは、出土した自分のナンバーの刻まれた金属片を摩りながら頷く。


 その後もサラによってクレーター底部の発掘が進められ、大量の金属部品が出土した。艦に積み込んだ機材によると、この金属は、魔物鉄レッドドラゴンと貴金属と希土の合金であるらしい。非常に強靭な金属であり、最新のホワイトドラゴン合金にも一部勝っているという。合金を開発したマシューが悔しがっていたのは言うまでもない。

 バルクが口を開く。

「……なるほど、大体はわかった。このクレーターと見たこともない合金、この二つが、ウルクナルの証言が正しいと裏付ける証拠になる。俺はウルクナルの話を信じようと思う」

「バルク……」

「今にして思えばウルクナルは、レベル一の頃からやたらと魔力が多かったり、突然エルフリード化の方法を教えてくれたりと色々あったからな。信じられないの一言じゃ、俺自身が納得できない」

 大量の未知の合金を魔法で浮かび上がらせながら、サラが口を挟む。

「私も、ウルクナルの話は信じてもいいと思っているんだけど、そうなるとウルクナルって今年で何歳になるの?」


「……え?」

「だって、このクレーターができたのは百年以上年前なんでしょ? それどころか、研究施設に収容されていた頃の記憶も、わずかだけどウルクナルは持ち合わせてる。ウルクナルって本当は何歳?」

「あれ? かなり前からトートス王国の辺鄙な村で農作業してたとか。俺言わなかったっけ?」

「言ってない。初耳」

「うそ。そうだったっけ。……ごめん」

 サラは、どうしてそんな大切なことを今まで忘れていたのかと大きなため息を吐きながら再度質問する。

「で、ウルクナルは本当のところ何歳なの?」

「うーん。百七十歳前後かな? 冒険者登録の時はまだ昔の記憶が思い出せてなくて、適当に答えたんだ」


「……ウルクナル、あなた自分の寿命については考えたことはある?」

「寿命? まあ元エルフなんだし、五百年とか、長くても八百年とか?」

 サラは、まだ気付かないウルクナルに溜息を吐きながら、グイッと顔を寄せる。サラは彼の白磁のようにくすみ一つなく、つきたての餅のように真っ白で柔らかな頬を凝視した。

「……鼻息がくすぐったいんだけど」

 サラは、至って真剣に言葉を紡ぐ。

「――ウルクナル、あなたの外見は依然として第二次成長期に差し掛かった少年にしか見えない。いかに長寿のエルフであろうと、百七十歳を数えて外見が十代中頃なんてのは考えられないの。寿命は人間の十倍前後もあるエルフだけど、染み、しわ、筋肉の衰え、そういった老化は決して止まらない」

「サラは何が言いたいの? もっと簡単に言ってよ」


「……エルフは老化するのが遅くても、体の成長は早い。それなのに、ウルクナルの肉体は誕生から百七十年が経過しているのに、ずっと少年のまま。老化以前に成長段階で止まっている。私は、ウルクナルが不老なんじゃないかって考えているの」

「おいおい、高レベルエルフが長生きするって話はよく聞くが、それでもせいぜい数百年加算される程度だ。俺達がいくら高レベルだからって……不老になるはずが……まさか俺達も不老なのかッ!?」

「バルク、気付いたみたいね。そう、高レベルのエルフは寿命が長い。これは人間にも当てはまる。まあ、人間の場合はレベル百に到達していても平均して数十年延長って程度だけど、エルフはレベル五十に到達しただけで数百年と寿命が延びる。この基準に現在の私達のレベルを当てはめて寿命を導くと……」

「や、やめてくれ。恐くなってきた」


「まあとにかく。私達は、半永久的な生を手にしている可能性が高い。以上、ウルクナルの年齢から推測した超高レベルエルフリードの寿命に関する考察でした。ま、確固たる証拠があるわけでもないし、私達の寿命に関してはこれから何百年と掛けて、気長に経過観察していくしかなさそうね」




 トイレに行くと言い残し、ウルクナルは一人艦に向かった。

 クレーターの縁に立った三人は、地平の彼方を眺めながら、ウルクナルについて話し合う。

「ウルクナルは、自分の知っている二百歳近いエルフとはまるで違うから、……まだちょっと信じられないのよね。いや、違うか。現実をうまく飲み込めていないって言った方が、適切かな?」

「ええ、サラの気持ちは僕もわかります。エルフでも、それだけ歳を重ねればだいぶ落ち着いてきますからね。この年齢も、ウルクナルの自己申告ですし。ですけど彼は、嘘が下手だ。彼はきっと、百七十歳以上なのでしょう」


 銀髪になった彼らにはもう当てはまらないが、緑のエルフにとっての百七十歳は、人間で言うところの十代後半から二十代前半に相当する。であるならば、何故ウルクナルの言動があんなにも子供っぽいのかと言えば、それは彼が、まだ幼いからだ。

 通常、肉体と表裏一体の関係にある精神は、肉体の成長によって育まれ、肉体が老いれば精神もまた老いていく。――その逆も然り。肉体は、精神の成長よって育まれ、精神が老いれば肉体もまた老いていくのだ。


 ウルクナルは、精神が成長する前に、肉体の成長が止まってしまったのだろう。しかも、他のエルフよりもずっと早い段階で。

 だがそれは言い換えると、ウルクナルは今も、成長の途上にあることを意味する。彼は幼いが、同時に若くもあるのである。

 心技体。

 心が精神、技は技術、体がレベルを示すとするならば。ウルクナルの技と体は、レベルの上昇と、弛まぬ研鑽によって極まりつつある。

 ウルクナルの精神が真に成熟した時こそ、彼の武は今よりも一層飛躍するはずなのだ。

 三人の会話は続く。

「百七十歳か……。百七十歳の自分なんて想像もできないわね」

「実例なら、いつも見ているではありませんか」


 マシューの言う実例とは、ウルクナルのことであろう。サラは顔を歪ませた。

「ウルクナルみたいな百七十歳は嫌よ。目指すならナタリアね。彼女みたいな二百歳になれれば最高」

「それにはまず、自分の部屋を定期的に片付けないとだな?」

「…………」

 何も言い返せないサラは、黙って頬を膨らませるしかなかった。

 その一分後、ウルクナルは戻る。




「日帰りの調査にしては、大変多くの情報が得られました。ウルクナル、王都に帰還しますか?」

 太陽はまだまだ頭上に輝いているが、ナタリアに夜には帰ると明言した手前、時間に余裕はない。

 三人は、リーダーであるウルクナルの判断を仰ぐ。

「もう少しここに留まろう。まだ何かあるかもしれない。サラ、多少荒くてもいいから、強力な魔法でクレーターの土砂を退かしてくれないかな?」

「お安い御用!」


 土系統の上位魔法を発動させ、地面の砂と土を川のようにクレーターの上部に移動させる。手で掘るよりも効率的だが、出土品を傷つける可能性があったので、使用を控えていたのだ。だが、出土物が高強度の金属製がほとんどであることを知ったので、こうして少々荒くも手早く堆積物を動かしているのである。

 魔法行使によって、土砂の大蛇が鎌首をもたげ、気だるそうにクレーターの壁を這いあがっていく。次々と地中から姿を表すのは、銀発色の残骸だ。十数分で全ての堆積物は排除され、出土物の山が太陽の輝きを受けて燦然としていた。


「何かあるかな?」

 そう言って手近な部分を探すが、目ぼしいものは見当たらない。全て入念に調べたいウルクナルだったが、時間的にも余裕はなかった。そんな彼の背中に漂う物悲しさを察したのか、マシューが提案してくれる。

「この量ならば、積載可能です。全員で手分けして運び込みませんか? 貴重な物があるかもしれません」

「よっしゃ! 力仕事なら任せてくれ!」

 全身に魔力を滾らせたバルクは、運搬役を名乗り出た。

「わかりました。僕は艦に戻って、格納ハッチを開いてきます」

「じゃあ、俺とサラで周囲の警戒だ」


「レベル四桁の魔物だと私達の相手にもならないけどね」

 ウルクナルは空中から監視するために飛び上がり、ぼやきながらサラも続く。バルクは、出土物を魔力障壁で包み込むと、魔力の助けなしに瓦礫の山を持ち上げた。体を魔力障壁で覆ってはいるが、腕力の補助には魔力を一切消費していない。レベル六百五十億に到達したバルクにしてみれば、軽量な合金など発砲スチロールも同然だ。

「ほっ、ほっ」

 軽快な大股でクレーターの曲面をスイスイと駆け上る。

 艦橋の操縦席に到着したマシューが、アイドリングしていた魔力炉の出力を引き上げる。浮上した艦は、クレーター付近まで航行し、再び着陸した。ただ、クレーターに近過ぎると艦の重さで崩れる危険があるので、バルクには数十メートルを余分に歩いて貰う必要があったが、彼は特に気にはしていないようだ。

 クレーターへ向け後部ハッチが開かれ、十数トンの瓦礫の山を担ぐバルクをマシューが出迎える。

「お疲れ様でした」


「ふー、いい汗掻いたぜ」

 格納庫内に押し込められた出土物の山は、魔力障壁でまとめられたまま魔力で紡いだローブで固定された。丁度、蜘蛛の巣が張るように、格納庫の壁と積荷とが繋ぎ停められているようだ。ゆっくりとハッチが閉じていく。

「周囲三百キロに目ぼしいものはありませんし、探索する十分な時間もありません。元々の目的が、地形調査と生息生物のレベル確認だけだったので、これ以上成果を欲張る必要はありません」

「まあ、ウルクナルも俺が運んだ分で満足してくれただろうから、データの取り忘れや測定ミスがないかを再度確認して、撤収準備を進めればいいんじゃないか?」

「そうですね、わかりました。ウルクナルにも伝えてください」

「あいよ」

 艦内へ走っていくマシューを見送った後、バルクは首を逸らして空を見渡した。

「あいつらどんだけ高く……」


 どうやら二人は雲の上を飛びまわっているようだ。雲の切れ目から鮮やかな青色の魔力光が輝いている。二つの輝きは、お互いを追いかけ合うように、空を自在に駆けまわっていた。バルクは何遊んでんだと呟きながら、体を浮かび上がらせる。

「全く、あいつら……」

「ば、バルク!」

 ロケットのように両足に膨大な魔力を収束させていると、血相を変えたマシューが艦から飛び出してきた。ただ事ではなさそうな雰囲気に、両足に充填していた魔力を霧散させる。どうしたと尋ねる前に、マシューは言う。

「新種の魔物が大量に現れました! レベルは一千万、上空三キロに数万匹、なおも増大中!」

「何ッ!?」

 サラが放つ幾本ものメガ・レイが空を塗り潰す。戦闘は既に開始されていた。


 ――その生物は、クラミドモナスに似ていた。

 クラミドモナスとは、楕円体の細胞から二本の鞭毛を生やし、体内に葉緑体を有する緑色の単細胞生物で、池や湖の淡水に生息している。体調は鞭毛を含めても四十マイクロメートルと非常に小さく、ウルクナル達の尺度で考えるならばレベル一以下の実に弱々しい生物だ。

 そのはずなのだが。


「何なんだこいつらッ!」

「もしかして、ガダルニアが新しく生み出した生き物ッ!?」

 細胞膜の中の緑色の葉緑体、遺伝子情報を包み込む核膜、二本の鞭毛。

 そういったクラミドモナスの特徴こそ継承していたが、その体長は優に一メートルを超え、鞭毛の長さも含めれば二メートル以上に達している。

 四十マイクロメートルであったはずのクラミドモナスが、二メートルにまで巨大化し、空を多い尽くすほど大量に現れたのだ。

「――このッ、離れろッ!」


「ウルクナルッ!」

 レベル一千万のクラミドモナス三十匹が、ウルクナルへ突進する。

 極超音速の拳を振るい、半数を打ち払うが、残りに接近を許されてしまう。鞭毛がウルクナルの体に纏わり付き、彼を拘束した。直径五センチ程の鞭毛だが、相当に強固で、いかにウルクナルであろうと、三十本の鞭毛で雁字搦めにされては、抜けだすのにどうしても時間が掛かってしまう。即座に渾身の魔力で鞭毛を十本二十本と引き千切るが、時間切れだった

 クラミドモナスがまばゆく発光した瞬間、大爆発を引き起こす。一斉に炸裂し、爆風はまるで対戦車ミサイルのような指向性を持ってウルクナルの魔力障壁を刺し貫く。

「……っ、うっ」


「――ウルクナルッ」

 サラはとっさに魔法を行使し、彼の全身に穿たれた弾痕のような深い傷を治癒させた。

「ありがとう。サラ、魔力障壁を厚くするんだ。生半可な障壁だと貫いてくる」

「そうみたいね、数も多いし」

 周囲に浮遊するクラミドモナスのレベルは一千万。それに対してウルクナルは二百億もの魔力を障壁に注ぎ込み安全を確信していたのだが、いささか認識が甘かったらしい。ウルクナルは一兆の魔力を投じて障壁を再構築。襲い掛かる魔物を次々と屠り去った。

 サラも慌てて障壁に大量の魔力を回し、ウルクナルに負けじと、サラは十億の魔力を消費してX級魔法ギガ・レイを連発する。数百万度にも達する光線は、射線上のクラミドモナスをことごとく消滅させた。

「サラ! ウルクナル!」

「加勢に来たぞッ!」


「マシュー、バルク!」

 魔物の包囲網の中に躊躇なく飛び込んできた二人、バルクは愛用の槌と盾を、マシューは銃器を手にしていた。サラは嬉しそうに彼らの名を叫ぶ。

「――おらッ!」

 バルクはウルクナルと共に、襲い掛かってくる魔物を叩き潰す。

 マシューは貯蔵魔力の半分を魔力障壁に回して防御を固め、非魔法武器で攻撃する。彼が手にする長大な銃からは、実弾ではなく、光の槍が連続して発射されていた。光の槍は密集するクラミドモナスを一挙に数十匹刺し貫き、致命傷を与えていく。

 マシューが手にしているのは、いわゆるビーム兵器と呼ばれる代物だ。


 しかしながら、全てがマシューお手製ではない。この装置でビームを放つには、重金属粒子を光速の一パーセントまで加速させる為の莫大な電力が必要となる。魔力を使えば同様の効果を得られないこともないのだが、これにも莫大な魔力を消費する為、全貯蔵魔力を障壁に傾けられなくなる。

 そこで用いられたのが、ガダルニアの置き土産だ。鹵獲したレベル十億の装甲機械兵に内蔵されていた小型常温核融合炉をビーム兵器の動力源として流用しているのである。

 今すぐにでもエルフリード隊の正式装備にしたいところだが、小型かつ常温で動作する核融合炉の製造技術など持ち合わせがなかった。

 バルクは悪態を吐く。

「こりゃあ、キリがねーな」

 奇妙な自爆攻撃を仕掛けてくる魔物であろうと、所詮はレベル一千万。自爆するという手の内さえわかれば、トートス王国の最強戦力たるエルフリードの前ではクラミドモナスなど相手にもならない。千、五千、一万と撃破を重ねた。


 しかし――。

「どうして、数が減らないの……っ」

 数十分に渡って戦闘を続けたにも関わらず、依然として魔物はウルクナル達の全周囲を覆い尽くしたままだ。しかも減るどころか、逆に増えてすらいる。

「……分裂しているようです」

 するとマシューが明瞭な答え提示してくれた。

「マシューどういうこと?」

「アレをみてください」

 マシューが指差す先では、目を疑うような光景が繰り広げられていた。

 細胞が分裂するように、体の中央に線が走り、クラミドモナスが一体から二体へと分裂したのだ。それは犬が、目の前で二匹に分裂したかのような衝撃をウルクナル達に与えた。

 菌類や微生物なら珍しくもない細胞分裂による自己増殖だが、目の前の魔物は一メートルもあり、細胞分裂によって繁殖するような生物にはとうてい見えない。

「何なんだよ、こいつらは……!」


「わかりません、こんな奇怪な生物、どの書物や文献にも記されていません。育成用、解剖用、標本用で最低三匹は捕獲したいですね」

「マシューが普段通りで私は安心した」

 無駄口を叩いていても状況は好転しない。数が増え過ぎて手に負えなくなる前に、敵を殲滅する必要があった。

「サラ、久しぶりにアレをやろう。キングオークの城を吹き飛ばした時みたいに、俺の魔力を使ってさ!」

「……懐かしいじゃない。わかった、行くわよ!」

 このレベルになってまでウルクナルの魔力に頼るのは魔法使いとして少々癪だが、魔力が足りないのだから仕方がない。

「皆、私の真下に移動して! 全部消し飛ばしてやるッ!」

「あ、あ! ちょっと待ってください、捕獲を――」

「X二級火系統魔法、――テラ・レイッ!!」


 テラ・レイ、一兆もの魔力を注ぎ込んで発動される魔法だが、今回はウルクナルの魔力をサラが借りて発動させたので、倍の二兆もの魔力が消費された。

 その威力は当然凄まじく。

 テラ・レイの下位魔法、ギガ・レイやメガ・レイを遥かに凌ぐ。

 それはもはや、光線というよりも照射に近い、太陽光が直上から降り注ぐかのような光の奔流だった。

 サラは杖を敵集団へ向け、その場で一回転し、三百六十度全方位に魔法を照射する。

 敵の大部分を吹き飛ばし。残存したクラミドモナスが増殖する前に、ウルクナルが残りを掃討した。

「ふー、どうにか間に合った」

 一方マシューは、魔力障壁を使ってクラミドモナスを三匹捕獲しご満悦だ。

 密閉された空間に入れられるとクラミドモナスは大人しくなるようで、ピクリとも動かない。空気も吸わないようである。

「それにしても、こいつら本当に何なんだ。やっぱり、ガダルニアが生み出した魔物なのか?」

「僕は違うと思います」


「どうしてだよ」

「……何と言うか、方向性が違うんですよ。ガダルニアが造り出す魔物はどれも人の形を模していました。それに、増殖能力を有していたとしても、今更僕達にレベル一千万の魔物なんて送り込むでしょうか? 僕がガダルニアだったら、初めからレベル百兆の無限に増殖する魔物を送り込みますよ」

「確かに、下手に高レベルの魔物を俺達にけしかけても、斃されてレベルアップされるだけだけだもんな。俺達を斃すなら、ウロボロスみたいな飛び抜けて高レベルの魔物を大量投入するはずだ」

「……第二のガダルニアが存在するって線はどう? ガダルニアは超大国だから一枚岩じゃなくて、別派閥があの緑の魔物を私達にけしかけた。そうは考えられないかな?」

 二人の側で会話を聞いていたサラが、自分の考えを述べる。だが、彼女の意見も所詮は憶測の域を出ない。これ以降彼らに発言はなく、時間ばかりが過ぎていった。

「腹減ったなー。この魔物食えないのかな?」

「はー、ウルクナルを見ていると深刻に考え込むのが馬鹿らしく思えてきます」

「まったくだ。ウルクナルは能天気過ぎるかもしれないが、俺達は少し神経質過ぎるのかもな」

「ウルクナルと私達で丁度吊り合いが取れているんじゃない?」

「違いない」


 笑い合う三人。彼らの真剣な立ち話は、ウルクナルのぼやき一つで中止となった。

 彼らは昼食を取ることにした。

 近くの空を滑空していたレッドドラゴンを撃ち落とし、メインディッシュとするべく調理を開始した。

 ウルクナルが原初魔法で首を刎ね、部位毎に分け、昔から愛用しているナイフでブツ切りにして串焼きにする。レッドドラゴンの肉は柔らかく、脂も乗っている。肉にうま味が多く、塩と胡椒だけで十分食べられるのだ。

 焚き火で肉を炙ると、脂が溶けて滴り落ち、ジュウジュウとよい音を立てる。香ばしい匂いも立ち上り、肉の味を五感で感じられた。

 先の戦闘で魔力を大量に消費したウルクナル達は、日が傾くまで食べ続け、レッドドラゴンを一頭平らげてしまう。彼らの食事量の多さは、レベルが上がるにつれて拍車が掛かってきているようだ。

 太陽が黄色く輝く頃、一向は艦に乗り込み、大量の成果を抱え王都へと帰還した。


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