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エルフ・インフレーション  作者: 細川 晃
第二章 ビッグバン

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ビッグバン28

 一行は、ペガサスに遭遇した。レベルは三百五十。ペガサス四頭から魔結晶を一個ずつ獲得し、各自が十から十一のレベルアップをそれぞれ果たす。

 ウルクナル、レベル三百十一。バルク、レベル百二十五。マシュー、レベル百十九。サラ、レベル百二十。


 ドラゴンの上位種であるレッドドラゴンに遭遇した。レベル六百。

 レベルの高さに目を輝かせたウルクナルが闘いを挑み、天地斬り裂く激闘の末に勝利する。ウルクナルはレッドドラゴンの魔結晶を吸収し、レベルを十八上昇させた。レベル三百二十九。

 アーキタイプゴブリンの大部隊を発見した。数は、およそ三百。

 サラは、ウルクナルの闘い方を真似し、爆発を引き起こす派手な魔法は使わず、魔力の斬撃を飛ばし、地味かつ効率的に始末していく。それでも半数以上に逃げられたが、無傷の魔結晶を百二十個入手した。バルク、マシュー、サラのレベルが三百に到達。肉体の強化が感じられなくなれば魔結晶の摂取を止め、残りの魔結晶は革袋に詰めた。


「どれだけレベルが上がったのか、外でも分かれば便利なのになー」

 ウルクナルのそんなぼやきにマシューが反応した。彼らは飛びながら会話する。

「わかりますよ?」

「え、どして?」

「単純な法則と計算ですよ」

「マシュー、もうそんな法則を、やはり天才……」

「いえ、少し考えれば分かります。――いいですか? このウルクナルが発見したスーパーレベリングには、幾つかの法則があります。法則一つ目、同レベル以下の魔結晶を吸収しても、レベルは上昇しません」

「あ、それは何となく」

「法則二つ目、液体魔結晶から得られるレベルは、魔物レベルの三パーセントです」

「三パーセント。レベル百の魔結晶を吸収すれば、レベルが三得られるってこと?」


「そうです。ただし、レベル九十九のエルフが、レベル百のエリクサーを飲んでも、レベルは一しか上がりません。吸収した魔結晶以上のレベルにはならないということなのでしょうね」

スーパーレベリング。魔結晶は一定の魔力を注ぐことで液体化する。エルフがその液体を飲むと、斃した魔物のレベルを三パーセント取得する。だが、レベルが同数以下の魔結晶を吸収してもレベルアップしない。また、吸収した魔結晶のレベルを超えることはない。

 例一、レベル百のエルフが、レベル二百の液体魔結晶を吸収、レベル百六。

 例二、レベル百のエルフが、レベル百の液体魔結晶を吸収、レベル百。

 例三、レベル百のエルフが、レベル百一の液体魔結晶を吸収、レベル百一。

「このスーパーレベリング、ウルクナルとマシュー、どっちが先に発見したのか分からないな」

 バルクは、スーパーレベリング発見者であるウルクナルが、マシューの講義を興味深そうに傾聴している様が面白いようだ。


ウルクナルは、拗ねたように口を尖らせながら言った。

「実際、その通りだよ。確かに俺は、魔結晶を吸収する方法を発見したけど、それはマシューが色々と丁寧に、自分が解明した魔結晶に関する基礎知識を教えてくれたからなんだ。実際に魔結晶研究を推し進めているのは、今もマシューだよ」

すると我慢しきれなかったのか、サラが口を出す。

「ウルクナル。確かに、マシューの魔結晶研究の功績は輝かしい。魔結晶の地平を切り開いた人物としての地位も不動。だけどね、スーパーレベリングの発見は、彼の一切の栄光と名声を過去のものにするには、十分過ぎる」

「え?」


「だって、そうでしょ? 魔結晶を融解、吸収して、レベルを上げる、言葉にするのもバカバカしい事象の連続、これまでの常識が一切通用しない現象。これが世間に知れれば、人間の優位性は霧散し、人間至上主義に凝り固まった魔法使いの老害共は憤死すると思う。いい? ウルクナル、あなたの発見は、世界を変えるの、それだけ重大な発見なの!」

「そんな、大袈裟な」

「全然! 大袈裟じゃないッ!」

「――ッ!」

 未だに理解していないウルクナルに苛立ったサラは、彼の魔力障壁を強引に貫き、耳元で叫んだ。

「ウルクナル、自覚して、あなたの発見は世界を変えるの。想像して、トリキュロス大平地には、総計で十万のエルフが暮らしているとされている。その全員が、私達みたいに白化するの! 考えて、その時、世界はどうなると思う? レベル三百越えの白化したエルフが十万人存在する世界はッ!」

 ウルクナルに熟考はなかった。サラの言葉を聞いて、反射的に述べる。


「面白そうな世界だな」

「面白い……。んー。まあ、今、各国で虐げられているエルフにしてみれば、面白みのある世界かもね。じゃあ、人間は?」

「……人間」

「エルフは、それで面白いかもしれないけど。人間はどう? 十万人のエルフ全員が、素手でドラゴンを屠れるくらい強くなったら、人間はどう思う?」

「そりゃあ、つまらない。だけどさ、人間だって、俺達と同じ様に、スーパーレベリングすれば問題ないんじゃないか? そうすれば、平等だろ?」

「あなたは――」


 ウルクナルの言葉はサラに自己嫌悪すら懐かせる。次の言葉が出てこなかった。白化したエルフの国を造り、ウルクナルが国王に君臨すればいい。この技術を隠匿し、私達エルフリードが、世界の覇者に君臨すればいい。今度は、エルフが人間を虐げればいい、そんな愚かな考えを巡らせていた自分が恥ずかしかった。ウルクナルだって同じエルフだ。自分だけが辛い思いをしてきた訳ではない。自分かそれ以上に、人間を嫌悪したことがないとは言い切れないではないか。それでもなお、彼は、人間との平等を望むのだ。純真過ぎて、汚れた自分では直視できなかった。悔いるばかりである。

「マシュー、人間もスーパーレベリングができるのか?」と、ウルクナルが尋ねる。

「……断言したくないんですが。現時点では、不可能です」

「どうして?」


「魔結晶を融解させた液体であるエリクサーを人間がどうやって飲むんですか? そもそも何故、魔力操作すらできなかった僕達がエリクサーを飲めたのか、それすら解明されていませんから、もしかすると人間もエリクサーが飲めるのかもしれません。ですが、この千年間、誰一人として、エリクサーを生み出した人間は居ませんし、スーパーレベリングも確立されなかった」

「…………」

「ウルクナル、実はですね、魔結晶に魔力を注ぐという発想は随分前から存在し、実験が繰り返されてきたんですよ?」

「そうなの?」

「はい。ご存知の通り、魔結晶に魔力を注ぐと、凄まじい熱を発します。その温度は、魔物鉄ドラゴンの台座すら溶かしてしまう程なんです。超高温になるので、大変危険な行為だと認識されていました。しかし発熱はすれども、それ以外の変化はなし。研究者の間では、結晶に魔力を注ぐ行為は、骨折り損の代名詞です。並みの億万長者では、数度の魔結晶実験で、資産の全てを食い潰します。莫大な資金を注ぎ込んだにも関わらず成果はゼロ。この実験は、ある種の禁忌だったんですよ」


 禁忌、その言葉にウルクナルの肩が揺れる。心臓が高鳴った。

「ウルクナル、魔結晶に魔力を注いでいると、唾液が普段よりも多く出ませんか?」

「うん、出る」

「それは、僕もです。多分、サラも、バルクも。何故か、魔結晶に魔力を注ぐだけで、えもいわれぬ食欲に突き動かされ、唾液が分泌されるんです。僕達エルフは本能的に、魔結晶が美味しそうだと感じられるんです。これまでの千年間、熱された魔結晶に美味しそうなどという感情を向けた人間は一人も居なかったはずです。魔結晶に関する実験の記録は、ほぼ全て読み尽くしましたが、唾液や味覚などの単語は、一切記されていませんでした。であれば人間は、エリクサーを吸収できないのかもしれません」




 闘いは続く。

 八つ首のドラゴン、ヒドラに遭遇した。レベルは八百、猛烈な治癒再生能力を有し、首を斬り飛ばそうが即時再生する。八つの口から同時に火球を放ち、魔力障壁と持ち前の頑丈な鱗で、生半可な攻撃は通用しない。

 エルフリードの火力を総動員し、力技で斃した。再生する前に焼き払い、押し潰す。それを幾度も積み重ね、磨り潰したのだ。

 驚くべきことに、ヒドラの体内には魔結晶が二個埋まっていた。

 非常に興味深いと、マシューが双子魔結晶の保存を訴えたので、その時は、核爆弾が収納されていた鞄で大切に保管したが。再び遭遇したレベル六百のレッドドラゴンからも、双子の魔結晶が発見された。

 一定レベル以上の魔物からは、複数の魔結晶が得られるらしい。高レベル魔結晶も使わねば宝の持ち腐れと、構わずレベルに変換する。レベル八百と六百のエリクサーを作製するのに、少々時間が掛かった。

 ウルクナル、レベル三百四十七。バルク、レベル二百二十四。マシュー、レベル二百十八。サラ、レベル二百二十四。

 アーキタイプゴブリンの集団と遭遇。


 未踏破エリアに生息するゴブリンと出会ったのは、これで三度目、レベル三百の魔結晶には興味がないので、逃げようかとも思ったが、サラの新しい広範囲魔法の実験台にされた。

 百八十匹のアーキタイプゴブリンが、魔導師級風系統魔法サイクロンボムの前に露と消える。

 角を額に生やした白馬の美しい魔物、ユニコーンの一団を発見。レベル五百五十。水系統の上級魔法を操るが、苦戦することなく十二頭を討取り、魔結晶を十七個獲得。一つを残し、他は全て平らげた。

 グレートデーモンの集団に遭遇。レベル四百五十。Bランク昇格モンスターであるタワーデーモンの上位種である。手に持つバトルアックスは、粗暴にして豪快。一体でも街に放てば、壊滅は免れない。そんな魔物を、エルフリードは苦もなく七体撃破。八個の魔結晶を獲得する。

 ――その後も彼らは魔物との闘いに明け暮れた。

 ウルクナル、レベル六百四十。バルク、レベル六百十七。マシュー、レベル六百十一。サラ、レベル六百十七。

 そして――。


「でけーのが来たな」

 太陽が傾き、地平の彼方に沈みゆくその時。

「――ウルクナル」

「ん? どうしたのバルク」

 日没よりも幾分早く、紅いの陽光が突如遮られた。手頃な岩場に腰を下ろして休憩していたウルクナル達に、一足早い夜が訪れる。

「アレの相手は、俺に任せてくれないか?」

「構わないけど、……負けるなよ?」

「誰に言ってんだ」


 タイタン、レベル一千、証明部位未設定、報酬部位未設定。

 身長五十メートルを超える人型。肉の山。肉の壁。重量、一千八百トン。

 対するバルク。身長二メートル超え、体重百八十キロ。鎧、ハンマー、盾、全装備含めた総重量は三百キロ。

 身長二十五倍、重量六千倍。

 タイタンに挑むバルクはまさに、ゾウに挑むアリである。

 しかしながら、タイタンに立ち向かうバルクの背の大きさは、かの魔物に一切引けを取っていなかった。右手に大槌、左手には盾。金属の塊であるそれらの武装を悠々と掲げ、蛇をも睨み殺す眼光を滾らせ、レベル六百十七に到達したバルクは、魔力障壁すら纏わず、レベル一千の巨人に決闘を申し込む。

 以後、語るに及ばず。



                                   

次は、二章の総括です。

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