暗黒時代19
「それでは、ブラックベアーの報奨金と、買い取り金額を合計した金貨三十四枚、それからDランクに到達したことを保証する証明書をお渡しします。お納めください」
「ありがと、ナタリア」
ブラックベアーとの死闘を繰り広げた日の翌日。昼過ぎ。
戦闘の疲れからか、昼前まで熟睡していたウルクナルは、鍛錬し、銭湯に行き、昼食を食べ、昼時が過ぎてから、商館に顔を出したのである。昨日の冒険で得た成果を、手の中に収めた。
ギルドカードも更新され、ブラックベアーを討伐したお陰か、ウルクナルはレベル十八へと急上昇。ちなみに、バルクはレベル十四、マシューはレベル十一へそれぞれレベルアップを果たしていた。
「それとさ、ナタリア。パーティに名前を付けて、それを正式に登録することとかって出来たりするのか?」
「はい、ウルクナル様がDランク冒険者に昇格されましたので可能です」
ナタリアは、カウンターの下から用紙を取り出し、ウルクナルの前に提示する。記入事項を一つ一つ指し示し、説明した。
「ここに、パーティ名を。ここにはパーティ創設者、つまりリーダー名を。その下の横線の入った空欄には、パーティメンバーの名前を記入してください」
「…………」彼は硬直していた。
字が書けないことを失念していたウルクナルは、振り返ってヘルプを呼ぶ。
「マシュー助けて!」
「そうだろうと思っていました」
商館入口付近のいつものソファ、そこに腰かけていたマシューが、苦笑いを浮かべながらカウンターに向かう。彼はスラスラと記入し、書き上げた。
「パーティ名、エルフリード」
ナタリアは、大量の紙が挟まれた分厚い冊子を取り出すと、同名のパーティが存在していないか確認する。これで、既に同名パーティが登録されていた場合、再検討しなければならなかった。緊張の一瞬である。
「……重複無し、問題ありません。パーティ創設の手数料として、金貨三枚を頂きます」
不本意ではあるが、この時ばかりはエルフリードのマイナーさに安堵した。
「はあ、よかった。……はい」
金貨三枚とかなりの高額な手数料だったが、ウルクナルは躊躇なく手渡す。ブラックベアー討伐で得た資金があるからだ。
「確かに。では、正式なパーティを結成する上での特典をご説明します。商会が認可した冒険者パーティは、一個の組織として認められ、商会に加盟する三カ国、その各都市の土地を購入する権利が与えられます。また、上限無制限の口座を一つ開設できる権利、道場を開く権利が与えられます。詳しくは、こちらの冊子を。これ以上の詳細をご希望の場合は、王国図書館または書店で、入門書を閲覧、または購入するか、各種資格を取得したプロフェッショナルへの相談をお勧めします」
「あ、うん。わかったよ」
降り注ぐ言葉の豪雨にウルクナルが溺れていると、マシューはナタリアに質問する。
「あの、土地を購入できるということは、その土地で武器の製造販売や研究開発を行っても良いということですよね? 商会にはどの程度のお金を納めれば良いのでしょうか」
彼の手には受け取った冊子があり、既に速読によって読破された状態だ。冊子に記述された知識は全て、マシューの脳内に保管されていた。
「マシュー様は危険物取り扱いの資格を――」
「一級まで取得しています」
「それなら問題はありませんが、土地を購入される際には、資格書の提示を求めます。質問の納入金の件ですが、金額は利益の額で激しく上下します。王都に拠点を持ち、商いをする場合は、毎月の利益を商会へ申告する義務が発生し、これによって納入金の額が決定します」
「なるほど。では――」
と言った感じで、マシューとナタリアが延々と会話を続けるので、暇になったウルクナルは、バルクの待つソファに腰を下ろした。
バルクの頭には包帯が巻かれていて、しばらく安静にしていなければならないらしい。ウルクナルは今日も森へ出掛けるつもりだったが、彼の様子を見て断念した。
「駄目だ、マシューとナタリアの会話について行けない」
「気にするなウルクナル。あの二人の頭の良さは本物だ。俺達とは、格が違う。ついて行けなくて当然だ」
「気にはしてないんだけど。……俺も字ぐらいは書けるようになりたいな、と思って」
「……ウルクナル、熱でもあるのか?」




