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ソラからの使者14

「二体目、来るぞ!」

「攻撃の手を緩めるな!」

 エルフリード部隊が撃破したクローバー型宇宙植物の断片が、王都上空で拡散し、バケツをひっくり返したかのように街へと降り注いでいく。


 しかし、王都をまるごと覆う都市防衛用魔力障壁が、残骸の侵入を許さない。

 障壁の表面を走る高温の炎が、残骸を瞬時に焼却していった。

 二体目撃破から十秒。

 三体目のクローバー型宇宙植物を隊員達が視認する。

 全長十キロメートル、レベル五百兆のクローバー型宇宙植物を、平均レベル四兆のエルフリード戦闘員三千名が取り囲む。


 エルフリード戦闘員は、空中で戦列歩兵の如く横一線の隊列を組み、体内の魔力を収束して放つことで一斉攻撃を加え、王都へと落下してくる宇宙植物の巨体を魔力の奔流によってズタズタに引き裂いていく。


 宇宙植物はレベルこそ高いが、一切の魔力障壁を展開しておらず、おまけに体組織も脆い。

 ガダルニア侵攻でのウロボロスなどとは、比較にならないほど脆弱なのである。

 フェムトマシン・魔力は地球の英知そのものであるため、宇宙植物が魔力を行使できないのは当然だ。だがもし、宇宙植物が魔力の恩恵を得るようなことがあれば、人類に勝ち目など、万に一つとしてありえないだろう。


「また来るぞッ!」

 三体目の撃破から数秒と置かず、同型の四体目が出現する。

 戦闘部隊は焦らず同様に撃ち滅ぼした。

 休む暇などない。同サイズのクローバー型宇宙植物が続々と降下してくる。

 二体同時に出現した次は、三体同時、四体同時と、一度に出現する数も増え続け、途切れる気配は一切感じられなかった。


 これには精鋭たるエルフリード戦闘員も動揺を隠せない。

「ちっ、どうなってるッ!? 何なんだよこいつらッ!」

「これだけ倒しているのにまだ増えるのッ!?」

「……まさかガダルニアが?」

「それはない。あの国にはもう俺達と争えるだけの戦力はないはずだ」

「じゃあ、この気持ち悪い生物は何なんだッ!」

 敵を撃破するごとに自身のレベルは急激に上昇し、魔力にも十分な余裕がある。

 それでも、エルフリード達に余裕はなかった。


 戦況は防戦一方そのもの。

 同時出現数は十、三十、五十と増え。

 出現から敵増援までの時間的間隔すら徐々に狭まる。

 圧倒的な物量は部隊の処理能力を凌駕し、いつの間にか、空は地平の彼方まで宇宙植物によって完全に塞がれ、地上は夜中と変わらないまでに暗くなった。

クローバー型宇宙植物はなおも増え続ける。


 前線のエルフリード達は、この行き詰った状況を打開するための起爆剤を欲した。

 ところが今のトートス王国には、国防の支柱たる彼らが誰もいない。

 結果、一撃で戦況を打開可能な大規模儀式魔法が行使できず。

 戦況を見通す優秀な頭脳、敵軍を単独で撃滅する無双の猪武者、無条件で信頼できる現場指揮官を欠いたエルフリード隊の士気は下がり続けた。

 ただ、今の王国に起爆剤がないわけではなかった。


「司令部より、エルフリード隊へ通達。ただちに現戦域から退避せよ、繰り返す、ただちに現戦域から退避せよ」

 都市防衛の中枢たる司令部より、最前線にて戦う全エルフリード戦闘員へ退避命令が下された。

「退避ーッ!」

 全部隊の撤退が完了した直後。

 TNT百メガトン相当の核融合ミサイル三千発が地上より放たれ、空を覆い尽くすクローバー型宇宙植物の群れへと向かってゆき、上空にて強烈な衝撃波を伴いながら三千もの太陽へ生まれ変わる。

地上が一瞬で焦土と化したが、魔力障壁を展開していた王都やエルフリード達に被害はない。


「……すげえ」

 上空にひしめいていた宇宙植物は綺麗に消え去っており、一時的とはいえ取り戻された陽光を浴びながら、誰もが感嘆した。

 三千発のミサイルを放ったのは、第二世代型戦闘用外骨格エンデット三千機で構成された部隊である。

 エンデット部隊は、通常の機体よりも二回りは大きい深紅の機体を先頭にして、空中にて密集隊形を維持していた。

「コリン総隊長代理と、ジェシカ副総隊長はどこですか?」

「ここに」

「……やはり来てしまわれたのですね」


 深紅の機体の外部スピーカーから発せられた音声は、コリンとジェシカだけでなく、この場の多くのエルフリード達に驚きをもたらした。

「うそ、シルフィール様?」

「えっ!?」

 まさか、王女自ら部隊を率いて、戦場に出てくるなど考えもしなかったのだろう。

 深紅の機体――シルフィールは、向けられた多くの視線に応じて頷くと、外骨格を自動操縦モードにした上でハッチを開放する。


「――殿下っ!?」

 最前線の空で機体のハッチを開くという、常識では考えられないシルフィールの行動に、誰もが目を見開く。

 彼女の肩口でそろえられた、金色の髪が風になびき、陽光を浴びて輝いた。

 そしてあろうことか、彼女は持前の脚力でコックピットから機体の肩へと飛び乗ると、堂々と胸を張って腕を組んだのである。

 地上一千メートルで、突風をものともせず直立する様は、まさに仁王が如しであった。

 彼女の纏う外骨格用のパイロットスーツが、まるで誇示するように、厳しい修練を耐え抜いた強靭な肢体を浮き上がらせている。

 その無駄のない研ぎ澄まされた肉体は、まぎれもなく戦士のそれであり、蝶よ花よと育てられるのが当然の、一国の王女のものではなかった。


 今、この場の全員の視線が、シルフィールに集まっていた。

 シルフィールは、機体の肩に飛び乗ることで、自分に顔を向けさせ、自分の言葉を集中して聞かざるを得ない状況を演出したのである。

「皆さん聞いてください」

 彼女の声で我に返ったエンデット部隊は、空を飛べることを利用した十段重ねの立体的な四列横隊をとり、まるで直方体を形作るように整列する。

 エルフリードの隊員達も、われ先と彼女の近くに集まった。

 幼い頃から教練機関に通い詰めていたシルフィールにとって、エルフリード部隊に所属する隊員は、共に身心を鍛え、技能を磨き、同じ釜の飯を食ったともがらであり、ガダルニア侵攻という鉄火の間をくぐった戦友である。

 一方エルフリード達も、シルフィールの人となりに感銘を受けており、その容姿も相まって、男女問わず憧れを抱く者も少なくない。

 そんなウルクナル達とはまた違った憧れの存在の登場に、隊員達は一時色めくが、すぐに彼女を心配し始めた。


 いわば幼馴染でもあるエルフリード達には、シルフィールの妙に無表情な顔が、泣いてしまいそうなのを隠すべく、必死になって口をつぐんでいる時のものに見えたのである。

 シルフィールは感情を押し殺し、毅然とした態度で、淡々と言葉を発する。

「もう知っている方も多いかもしれませんが、つい先ほど、エルトシル帝国並びにナラクト公国の首都が消滅しました」

「――!」


 今、彼女の言葉で隣国の首都の消滅を知った者達は、驚きのあまり息をとめた。

「あの生物、宇宙植物が、両国の首都を滅ぼしたのです。報告によれば首都は跡形もなく。死者の数は、首都の人口とほぼ同じである可能性が高い」

 エンデット部隊がトートス王国の人間のみで構成されているのに対して、エルフリード隊員のおよそ半数が、エルトシル帝国やナラクト公国からの移民だ。


 長年虐げられ、いい思い出など一つもない祖国ではあったが、生まれ育った故郷であることには変わりない。両国の首都が消滅したと聞いて、小さく声を漏らす者、口を両手で覆い隠す者、一筋の涙が頬を伝う者、清々したと思う者、エルフリード達の反応は様々だったが、皆一様に心の奥底に大きな風穴を開けられた気分だった。


 再度上空に出現し始めた敵影を、シルフィールは手で示しながら言う。

「アレらは、ガダルニアが生み出した魔物ではないそうです。そしてこの惑星に生息するどんな魔物とも姿形が異なります。……ですがそんなことは、今の我々には関係ありません。ただひたすら、襲い来る化け物を撃滅するのみです。これは一種の魔物大進行だと考えてください」

 核融合ミサイルの一斉発射は、一時しのぎにしかならなかったようだ。

 上空の敵影が急激に増殖していく。

 数があまりに多く、まるで黒い霧だ。


 一メートルから数十メートル程度の小型種を合わせれば、総数は百万にも届くだろう。

 そして恐るべきことに、奴らの群れの中には、全長百キロメートルに達する個体まで存在していた。

 その全長百キロメートルの個体は、シダ植物の葉に似た形状をしている。

 中央の茎の左右に、小さな葉がびっしりと生えた複葉で、やはり色は、クローバー型と同じくドドメ色。触角のような器官や、気孔のような器官も変わらず存在しており、気孔からは絶えず、無数の小型種を放出している。


 小型種には、クラミドモナス型、ゴニウム型、ボルボックス型が確認できた。

 ゴニウム型は、八個のクラミドモナスが密集した個体で、全長二メートル。

 ボルボックス型は、数百ものクラミドモナスが球形に集まった個体で、全長三十メートルに達する。

 以後、この三種を総称して『プランクトン級』と呼称するようになり、現在確認されているクローバー型とシダ型は『リーフ級』と呼称するようになるのだった。


 陰った空を睨んだシルフィールは、外骨格の肩から降りてコックピットに体を滑り込ませると、ハッチを閉じ、現在の自動操縦から手動操縦へ戻した。

 機体に異常がないか確認しつつ、現場指揮官である二人を再度呼ぶ。

「コリン、ジェシカ」

「――はっ!」


「私は大規模戦闘での指揮経験が豊富ではありません。エンデット部隊の指揮は、あなた達の方が適任だと私は考えます。引き受けてくださいますか?」

「お任せください!」

 二人の一糸乱れぬ敬礼に、シルフィールは頷く。

やはりその動作にも機体は連動し、スーパー・エンデットの頭部が頷いた。

「任せます。エンデット部隊全機、現時刻をもって、エルフリード隊の指揮下に入れ」

「了解!」

 三千機のエンデットが敬礼するのを一望し、シルフィールは上空を向く。

「それでは私は、遊撃に移ります」

「――!」

 ジェシカが駄目だと叫ぶより早く、彼女の操る深紅の機体は、遥か上空へと飛び立った。

 その鮮烈な赤は、宇宙植物の群れにすぐさま混じり、もはや機体を目視することも叶わない。




 メインスラスターを最大出力で吹かし、機体を急加速させる。

「ううッ」

 全身に圧しかかる猛烈なGに肺が押され、口から空気が漏れた。

 スーパー・エンデットの機体重量を相殺するために、重力制御機関が莫大な電力を要求し続けるが、内蔵された四基の核融合炉が生み出す電力を考えれば、微々たるものである。


「うっ、く」

 機体は発進から数秒で、地球における第一宇宙速度に達し、なおも加速していく。

 レベル三桁のシルフィールでもってしても、気を抜いた瞬間に気絶しかけない殺人的な加速によって、脳に血が行き届かず、視界が急激に暗くなる。

 耐Gスーツの役割をも兼ねる外骨格用のパイロットスーツを着用していなければ、彼女とて失神していただろう。


 シルフィールは歯を食い縛りながら、視界が暗転するブラックアウト寸前の状態で、機体各部に備えられた姿勢制御用のバーニアスラスターを小刻みに噴射し、針の穴を通すように、プランクトン級の群れ合間を飛行、標的と定めたシダ型宇宙植物へと接近する。

 スーパー・エンデット、地球における第二宇宙速度を突破。

 高度が上昇するに連れて、空の青が宇宙の黒へとグラデーションを変化させていく。


 現在の高度、一千キロメートル。

 標的、シダ型宇宙植物まで十万メートル、減速せず。

「邪魔ダアアッ」

 行く手にクローバー型宇宙植物が現れようとも一切減速せず、むしろ加速しながら、四つ葉の合間を すり抜け、標的へと突き進む。

 この時、機体は地球における第三宇宙速度を突破する。


 一万メートル、減速せず。

 魔力障壁、最大出力で展開。

 一千メートル、減速せず。

 全エンジン出力最大。

 フル・スロットル。

 メインスラスター及び、各部の姿勢制御用バーニアスラスターが機体後方を向き、一斉に純青の炎を噴く。


 吶喊。

「アアアアアアアアッ!」

 こともあろうにシルフィールは、今なおプランクトン級の放出を続けるシダ型宇宙植物の気孔へと機体もろとも飛び込んだ。内部組織をキロメートル単位で引き裂きながら突き進むと、先を見通せないほど広大な円筒形の空洞へとたどり着く。


 空洞の内壁には、ハチの巣に見られるような六角形の仕切りが無数に設けられ、スーパー・エンデットのヘッドライトが照らし出す範囲を隙間なく覆っていた。

 六角形の仕切りは、半透明の膜でふたがされており、内部には多くのプランクトン級宇宙植物が格納されている。見渡す限り、どこまでも続く六角形の仕切りの全てに、宇宙植物が種類別に数十から数千ほど納まっていたのである。


 総数は、いくら少なく見積もっても五百万は下らないだろう。

 ここが、病巣であった。

「はぁー、はぁっ、はぁー」

 シルフィールが外部スピーカーをオンにしたことで、彼女の荒い呼吸が機体から漏れ聞こえてきた。

「かえせ」

 ノイズ混じりのくぐもった声が、空洞内に響く。

「……かえしてよ」

 彼女の左頬を血涙が伝う。猛烈なGに晒されたことで眼球の毛細血管が破裂し、血が涙と共にこぼれ落ちたのである。

 事ここに至って敵の侵入を察知したのか、内部のプランクトン級宇宙植物が、半透明の膜を突き破り、空洞内へあふれ出てきた。


「お前ら、はぁ、お前らなんか、はぁ、お前らなんかに……っ」

 シルフィールは、カレンとカトレーヌの笑顔を思い浮かべながら、両肩と両足の機体装甲を展開し、内蔵された四基のミサイル発射装置を解放する。

「――ああアアあアアッ」

 絶叫と共に核融合ミサイル十一発が同時に発射された。

 ミサイルは、白煙を噴きながら指定された目標に向かって直進する。

 ミサイル発射と同時に、シルフィールは最大加速によって来た道を引き返し、融合反応が開始する前に宇宙植物の体内より脱出した。


 脱出の直後、十一発の核融合ミサイルが、シダ型宇宙植物の体内で炸裂する。

それは一・一ギガトンのTNT爆薬が炸裂したのと同等のエネルギーであり、シダ型宇宙植物は下手な風船アートのように膨れ、破裂した。

 その瞬間、天文学的な経験値がシルフィールに流れ込み、肉体が急激に強化されていく。


 リーフ級シダ型宇宙植物。レベル一千兆。

 プランクトン級ボルボックス型宇宙植物、総数三万。レベル三百億。

 同ゴニウム型宇宙植物、総数四十万。レベル八千万。

 同クラミドモナス型宇宙植物、総数八百万。レベル一千万。


 これが純粋なエルフリードなら、数千兆単位でのレベルアップとなるだろう。

 ところがシルフィールは、アルカディアの惑星環境に適応するため、微細な魔結晶と、ほんのわずかにエルフの遺伝子を有しているだけの人間であり、その経験値収集効率は、エルフリードより遥かに劣る。


 それでも、彼女のレベルは急激に上昇した。

 シルフィール、レベル一兆へと到達。

 レベル三桁から十三桁への飛躍は、彼女の精神を自然と高揚させた。

 シルフィールは、外骨格に頼りながら魔力を凝縮して具現化させ、刃渡り一キロメートルにも達する光の剣を一振り生み出すと、機体に貯蔵された魔力を惜しげもなく消費し、宇宙植物の群れに斬り込んでいく。

 ゼロから百、百からゼロ、そんな殺人的な急加速と急停止の連続に、機体と肉体の双方が悲鳴を上げる。

「ヴッ、――ゥアアァアアァアッ!」

 シルフィールは悲鳴を上げそうになる度に、血を吐くような咆哮を上げ、戦場を縦横無尽に駆け抜ける。


 スーパー・エンデットの巨体からは想像もつかない敏捷性によって、宇宙植物の突進や、自爆による爆風、伸ばされる幾億もの触手や鞭毛を完璧に回避し、文字通り命を燃やしながら剣を振り、外敵を討ち滅ぼす。

 戦闘開始から十五分、コックピット内部で最初のアラームが鳴る。

 パイロットの視界として機能する高精細モニターに、腕部の整備を推奨するピクトグラムが出現した。

「――ちっ」

 想定よりも、機体の損耗が激しい。彼女が機体性能を十二分に引き出したことで、想定以上の負荷が各部にかかっているようだ。

 だが、まだ戦える。


「ハァアアァアアアァッ!」

 現在の高度、一万二千キロメートル。

 宇宙を『海』と表現するのであれば、この惑星アルカディアにおける高度一万二千キロメートルは波打ち際、つまり宇宙の渚である。

 シルフィールは、おびただしい宇宙植物によって占領されつつあるトリキュロス大平地の遥か上空、その宇宙の渚を奪還すべく、剣を振るう。

 彼女の獅子奮迅の働きによって、地上へ降下する宇宙植物の数は大幅に減少していた。

 今のところ地上の戦闘部隊から死傷者は出ていない。


 一人の犠牲者も出すことなく、戦闘部隊は大小合わせ数億もの宇宙植物を撃破しているが、シルフィールは現状を微塵も楽観視していなかった。

 彼我の戦力差が不明である以上、かりに百億の宇宙植物を撃破したとしても、戦況が優位にあるとは到底思えないのである。

 機体の頭部から荷電粒子砲を連続して放ち、都合五体目のシダ型宇宙植物を撃破すると、またしてもアラームが鳴り響く。


「はぁっ、はぁっ」

 荒い呼吸を繰り返しながら、冷静さを取り戻す。

 シルフィールはうめくように呟いた。

「……ほんと脆い機体、まるで私そのものね」

 機体の二面図がモニターに表示され、各部が黄または赤に染まっている。

 黄色は中破、赤色は大破を意味しており、モニターには現在表示されていないが、黒色であれば喪失を意味する。


 機体各部が放電し、灰色の煙が腕部から上がっていた。

 スーパー・エンデットは、機体構造が強度不足であり、その高すぎる魔力出力と機動性能により、ただ操縦するだけで、機体そのものが急速に自壊していくのである。

 そのため現在、宇宙植物の攻撃を一撃も受けていないにも関わらず、機体は中破状態なのであった。

 シルフィールは、戦況と機体状況とを天秤にかけ、決断する。


「まだ、大丈夫」

 そう彼女が決めた瞬間、スーパー・エンデットが呼応するように、内蔵する八つの炉から、最大出力の魔力と電力が供給された。

 魔力で具現化させた刃渡り六百メートルの剣を二振りたずさえ、宇宙植物の雲海に斬り込んでいく。

「奴らの本体はどこ……っ」


 シルフィールは戦闘を継続しながら、外骨格に備えられた各種レーダーを駆使し、宇宙植物を無尽蔵に生み出し続ける元凶を探し出そうするが、それらしい敵影は確認できなかった。

 シダ型の宇宙植物すら、同時に二体や三体と行く手に立ちはだかる。

 全長百キロメートルのシダ型宇宙植物すら、小型のプランクトン級と同様、大量に生み出された一個体に過ぎないのだ。


 宇宙植物は、より高い高度、つまり宇宙空間にて、河のような帯状の群れを形成しながら、この惑星に攻め寄せてきている。シルフィールは、その帯状の群れを追っていけば、奴らの本体とでも言うべき存在へ辿り着けるだろうと考えた。

 ところが、ここで時間切れとなる。

 騙しだまし操縦していた機体が、ここにきて限界を迎えたのである。

「――!? 左腕が……っ」

 モニターに表示された機体二面図の左前腕が、黒色に染まっていた。

 機体の左腕、その肘より先が脱落したのである。


 シルフィールは単独で三十分近く戦況を支え、王都へ飛来する宇宙植物を半減させていた。

 だがその代償として、機体の各部にガタが来ており、第二核融合炉と第一第三魔力炉の出力が異様に低い。また、激しく動かし続けた両腕の関節が摩耗し、左腕に至っては前腕部から喪失、これが致命的であった。

 シルフィールは、ようやく離脱を決意し、トートス王国の司令部へと通信を入れる。

 モニターに、女性オペレーターの顔が表示された。


「……こちらシルフィール、機体整備のため帰投します」

「了解しました。これより都市防衛用の魔力障壁を一部開放しますので――」

 オペレーターはやっと、通信相手が第一王女シルフィールであることに気づいたようだ。

「で、殿下っ!? 血がっ!? ただちに救護班を――」

「不要です」

 予想通り、シルフィールの頬に残る血涙の痕に動揺し、オペレーターが衛生兵を呼ぼうとしたので、彼女は強く断った。

 彼女が通信を終えようとすると、聞き覚えのある声に呼び止められる。

「王女シルフィール」

 割り込むようにしてモニターに映ったのは、トートス王国発展の真の立役者と目されているナタリアだった。

 彼女が席を譲るように言うと、女性オペレーターは緊張した面持ちで、通信装置の前から飛び退いた。


「ナタリア、どうして司令部に」

「招集されたのです。今は、不在のマシュー科学研局長に代わり、王都司令部の司令長官の任に就いています」

「なるほど。それで、用向きはなんですか?」

 シルフィールは、一部解放された都市防衛用の魔力障壁をくぐり、身の安全を確保する。

「まずは、これを見てください」

 ナタリアは司令長官として振る舞いながら、話を進めていくのだった。

 外骨格の内部モニターにモノクロ画像が表示される。


「司令部は現在、この戦局を打開すべく大規模な反攻作戦を計画しており、王都防衛にあたっているエルフリード隊より強襲部隊を捻出しようとしています」

 モニター上の画像は不鮮明であり、細部までは確認できないが、そのシルエットは根元から切り倒された広葉樹、もしくは『ブロッコリー』に似ていた。

「モノクロ画像に映っているのは、惑星アルカディアより二千三百万キロメートル離れた月軌道上に存在する全長五百キロメートルの構造体です」


「――!」

「王女シルフィールには強襲部隊に参加し、この宇宙植物の母艦と推測される構造体の破壊に協力してもらいたいのです。ただスーパー・エンデットでは、機体強度の問題から、月軌道には到達できないでしょう。そこで、宇宙植物が密集している地上から高度三万キロメートルまでの露払いを行ってほしいのです」

「――任せてください、司令」

 シルフィールは即答した。

 示された揺るぎない意志に対し、ナタリアは静かに頷く。


「詳細な作戦計画は、追って通達します。――質問はありますか?」

 するとシルフィールは、どこか言い辛そうにしながら尋ねた。

「あの、作戦に関する質問ではないのですが。アレクト国王は今、地下に、司令部にいるのですか?」

「いいえ。アレクト国王は司令部にはおりません」

「え?」

 非常時には司令部にいるはずの、父アレクト国王の声が聞きたかったシルフィールは、ナタリアの予想外の返答に目を見開く。


「王都住人を置き去りにして、国王である自分が地下に隠れるのは許されないと、スベルバー軍事大臣らと共に、今も王宮に」

「そう、ですか」

 自分が何を言ったところで、アレクト国王はテコでも動かないだろう。

 父が自分と同じく頑固な性格なのを知っているシルフィールは、口を閉ざすしかなかった。


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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます! 丁度書籍版を読み終わったところなのでビックリしました。
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