3. 全寮制未来学園VV②
「行くぞロブスタン」
「仕方がない、相手になってやる!」
二人は同時に足を踏み出した。ロブスタンのはさみ状アームと拳が交差する中、存外に彼と気が合うことを再確認する。――衝撃。殴り飛ばされたのは武彦だった。
気がつけば屋根の外へ投げ出されている。
「ちっ!」
追いすがるはさみ状アームをとっさにつかみ、身体をロブスタンの側面に回り込ませと、そのまま投げ飛ばす。
工場の薄壁をぶち抜いたロブスタンを、今度は武彦が追った。工場内に突貫し、床でバウンドしたロブスタンに肉薄する。
そのときだ。ロブスタンの姿を急に見失った。
爆竹を鳴らしたような音を聞き、それよりも早く敵意を感じ取っていた足が反応する。急回転。背後にロブスタンの姿は……ない。斜めに伸びた影は、自身を含めた二人の存在を示しているのに。
「くたばれ!」
上! 直感的に飛び退く。目前をはさみ状アームが行きすぎ、今の今まで立っていた床に風穴を開けた。武彦も負けてはいない。間断なく蹴りをくり出し、床に刺さったはさみ状アームをへし折る……。
(駄目だ。これはマズい!)
ロブスタンの左腕のアームが変形する。
はさみの内側に複数の歯車が現れ、すぐさま猛回転を始めた。面白アームが電動ノコギリ式にさま変わり。
「死ねい! アンビス!」
エビ型装甲の尻尾の裏で、ボッと短く火が噴かれた。瞬間加速用のスラスター! 頬のすぐ脇を通り抜けたはさみ状アームをつかみ、止められたのは、単に運が良かっただけだった。
「ぐ……! 一つだけ、い、言っておくぞ。お前は決定的なミスを犯した」
「言ってみろ! その三枚舌を歯車に巻き込まないよう、気をつけながらな!」
「君は命名を誤っている。ロブスタン軍曹なんてナンセンスだ!」
「結構! 高度なセンスについてこれんらしい! ならば死ね!」
「さらに二つ目」
「二つ目!?」
「人の通り名を、何度も間違えるもんじゃあないッ! いいかガニ野郎!」
小さな衝撃に、ロブスタンが前のめりにのけ反る。
茂来武彦には両手両足がふさがっていても、できることが三つある。一つは命乞いをして相手を辟易させること。
二つ目は……これだ。
尻の上から生えた尻尾が丸まり、ロブスタンの腹を殴打していた。
尻尾。アンドロイドの尾と違うのは、コネクタボディ付きのコードではなくて、もふもふの狐の尻尾である点。
種族の枠組みの内に、多くの形態を持つ『幻界種』の一種。膨大な生体電気を使役する狐人間――かの者を鳴神狐、と人は呼ぶ。
それが武彦の種族だった。狐の尻尾は恥ずかしいので、普段はちょちょいっと隠しているのだが。
話は戻り、尻尾パンチをお見舞いしたところで、できることの三つ目。
空気を引き裂くように、バチチッと紫電が散る。
鳴神狐の発する全身放電が、ロボットアームの回路を焼き焦がし、内外ともに破壊した。
「クソッタレめ……!」
距離をとるロブスタン。
(もう逃がさない)
武彦はワンステップで間合いを詰めると、思いきり拳を叩き込んだ。
吹き飛んだロブスタンが、今度は反対側の壁を壊して外へ飛び出ていく。
その後ろでは、飛行兵器ロビン・フッドMXが威容を見せつけていた。
「これで済むと思うなッ!! 俺は怪人の一人にすぎない! 我々、悪行秘密結社・研究会は必ずお前たちを、がふ、が、学園を支配してやる!」
「無理だな」
装備したガントレット底面から、ぽんと銀球を排出させた。
特殊金属の球体は、瞬く間に野球のボールサイズに拡張し、電磁浮遊によって手の上に移動する。
それを強く、握り込む。
「僕たちがいる限り、学園の平和は揺るぎはしない!」
「ほざけ!」
ロビン・フッドMXに滴っていた水滴が残らずに蒸散した。周囲に現れたふしぎな蜃気楼は、熱量の変化を表している。
「戦艦級のバーナーソードだッ! 頭の先から焼かれるがいいわぁ!!」
ボッ! と双頭の艦首の間から火焔が吐き出された。それでも負けることはない。英雄は負けてはいけない。
どれだけ相手が強大であっても。英雄の必殺技は敗れない鉄則がある。
「レイボルツ――」
勝利の秘訣は自分を信じること。足を踏み込み、握った銀球に雷電を相乗させたら、ただ、
「――ストライク!」
投げつける。
手元を離れた銀球が雷をまとって飛び、熱波を貫いた。威力はまだ落ちない。雷弾は飛行兵器に直撃。
「おのれ。おのれアンビスゥううッ!」
誘爆を起こすロビン・フッドMXを背後に、武彦は仲間の元へ戻ったのだった。
工場の屋根では、ルカルカとシエシエが仲睦まじくトランプをしていた。二人が言うには、他は「お疲れ」と言って先に帰ったそう。
笑える話だ。
いや。本当は笑えないのだが。なぜかしら、頬が引きつるように笑えてきてしまうのだった。