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紅蓮

作者: Nastur kyo

冒険なんて物はどこにだって転がっている物だ。

ただそれに気付けるか、気付こうと行動するか。言ってみればそれだけの差で誰もが冒険という物に触れることができる。

そしてかれらも。冒険へとその身を投じるのだった。

  * * *

とある寂れた登山道にて。剣士らしき青年が6体のゴブリン相手に戦闘を繰り広げていた。……なにやら叫びながら。

 「のおおおおおおお!! 一人で6体を相手とかっ! 赤くなってもかなわなくねえですかああああ!!」

愚痴だった。結構余裕がありそうである。

ゴブリンたちだが、前衛が剣持と棍棒もち、ナイフもちの3体。中衛に槍持ちが2体。後衛に弓持ちが1体という組み合わせであり、お約束ではあるもののびっくりするぐらい武器の質が悪かった。

そんな相手に負ける道理はないはずなのだろうが、やはり数の差という物はどうともしがたいようで、戦いは一考に進んでいない。

前衛の間から槍が。その後ろから矢が彼を襲う。そのためそう簡単には近づけない。

 「ちっくせううううう!! 誰だ誰だ。こんな難易度設定をしたのは! 責任者呼んで来いよっ!」

再び飛び出す悪態。やっぱり少しいや、結構余裕がありそうである。

ゴブリンズから繰り出される斬撃、打撃、突撃、射撃。一つ一つはそうたいしたことも無いがやはりこうも連続してやられるとイライラとしてくるものだ。とはいえここは戦場。命の奪い合いをしているさなかに冷静さを欠くということが死に直結するということくらい彼にも分かっていr……

 「どらっしゃああああ!! うっっっぜえええええいよおまいらあああああ!! 自重、自重しろよYOUUUUUUUU!! ったく、なんなの?死ぬの?そりゃ殺すけどさ。あははははははっ! ……はぁ」

分かっていr……

 「よし。よおしよしよし。お前たちがその気ならいいだろう。味あわせてやるぜ。本当の恐怖ってやつを名!! イイイヤッホオオオオオウ!!」

分かっているはず……だと思っていたがそうではないのかもしれない。ってかあいつバカだろ?

 「それじゃあ、やっちゃってくだせえ、先生! グヘヘヘヘ」

やけに作った感じの安っぽい台詞を吐きながらやけに綺麗な魔法陣を宙に描く剣士の彼。その魔法陣が光を発し周囲に広がり収縮した。そして現われたのは……

 「!! ……マ、マスター……」

一人の少年の形を取り、マッハで、それはもう見事なまでの俊敏さで剣士の青年の後ろに隠れてしまった。というか背中に文字通りへばりついている。どうやら少し震えているようだ……。

 「……ああ。ええっと、ルー? 戦ってくれないの? お前ってさ、ほら。イフリートじゃん? 強いじゃん? 相手ゴブリンじゃん? 雑魚じゃん? モブじゃん? 俺一人じゃん? ちょっと6対1はきついと思うんだわ。 だから、な? ちょっとそろそろ戦えって!? 切実にプリイイイーズ!!」

 「マスターなら一人でも大丈夫です!!」

 「いや、そういうこと言ってんじゃ」

 「マスター! ゴブリンが来ます!! 気を付けて」

 「気を付けてじゃなくてせめてゴブリンたちに火をつけて!! イフリートだろ!?」

 「……熱いのはちょっと……」

 「ばかなっ!? お前、今全国の召喚獣ファンの皆さんに喧嘩売ったぞ! いいのかよ」

 「ぼ、僕は。マスターさえいてくれれば……ぽっ」

 「ぽっ。じゃねえだろうがああああ!! お前、男じゃん! 女だったらイフリーテじゃんよ!! 見た目ばっちり女の子だけど胸も無ければついてるもんもちゃんとあるんだろ?」

 「はう! セ、セクハラですよ! マスター!!」

 「やかましいわ! どうせならもっとセクハラってくれる!! あとで」

青年が剣を水平に構え力を貯める。渦巻く魔力が体から腕へ、腕から剣へと伝わり最終的に剣を小さな竜巻が覆う風に見える。

 「なんかものすごい。めっちゃものすごい不本意だが、これからルーをおしおきしなきゃなんねえからな。消えてしまいなっ!! 【暴牙嵐刻刃ぼうが らこくじん】!!」

かまえた剣を振りぬく。その刹那、収縮した嵐が荒れ狂いながらゴブリンズへと向かい切り刻む。

 「ゴ!!」

 「ブ!!」

 「リ!!」

 「ン!!」

 「ズ!!」

 「……。……。……」

その圧倒的な力によってゴブリンズは戦場の露と消えt……

 「おいいいいいいいっ!! 待って! 待ってくださいよマジで!」

そしてこの先も彼らは冒険を繰り替えしてゆk……

 「だっかっらっさああああああ!! おかしいだろ? おかしいよな? なんだよあのやられ方、ネタじゃねえか! 使い古されたネタじゃねえか!! しかもっ! 最後の奴、めっちゃ困ってたし、最終的にあきらめてなんも言わなかったし! そこんとこまで考えてやれよおおおお!!」

……ちっ

 「さすがはマスターですね! すごかったです!」

我がことのように喜びながら剣士の青年へと話しかける少年。ものすごく目がきらきらしているような気がする。まるで恋する乙女だ。

 「何がさすがはマスターですね! だよ。戦いを観察する余裕があるんだったらさ、戦っておくれよ。お前がしっかり戦えるようにならないと。俺があいつに燃やされちまうんだから」

 「……ごめんなさい」

 「まあいいさ。少しずつやっていきゃどうにかなんだろ」

 「が……、がんばります」

 「話は終わりだな。……なら」

きらりと光る剣士の目。そう錯覚してしまうほど黒い笑みを彼はうかべながら少年へと近づいていく。

 「な、なんですか? マスター」

 「……おしおきタイムの、始まりd」

 「……たく、なにやってんのよ、あんたたちは」「

そこに響く第3の声。声からして女性であるが。前例も相まってまったくもって信用ならない。

 「でたああああああ!! でやがったあああああ!! こ、殺される、燃やされる、いろんな意味で枯らされるうううううう!!」

姿のない声に怯える剣士。だが、その声はそんな彼のことなど気にしないようだ。……あくまで声だけは。

 「ち、ちょっとマスター。何があったんですか? 燃やされるって? それに、いろんな意味で枯らされるってどういうことですか!? も、もしかしてレアちゃんと……」

 「おい、お前今何想像した?」

 「レ、レアちゃんともしたんなら。僕も……」

 「もしもし? もしもしも? もしもしもし? もしかして変なこと想像したんじゃないだろうな? やめてくれよ、俺の寿命が縮んじまうだろう」

 「へえ、あたしとなんだって?」

剣士と少年の前に炎が吹き上がり、やがて形を成していく。今度は正真正銘少女である……と思う。

 「いえべつにたいしたこといってませんからお?もうこんな時間化よしそれじゃあいくかってことだからまた今度お会いできたらお会いしましょうではさようなら!」

言うだけ言って少年を抱え脱兎のごとく駆け出す剣士。だが、

 「マスター……」

 「いや何ほのぼのしてんだよ! 殺されるって! 燃やされるって!」

 「こんな風にね」

 「燃えているううううううう!!」

召喚獣相手に逃げ延びることなどできなかったようだ。……ふふふ。

この物語はそんな召喚剣士、オミナス・オルドレッドの心の成長を描いたコメディーなシリアス。略してコメアスである。

 「……で? あたしとなんだって?」

 「レアちゃん、やっぱりすごいね。炎が生き生きしてるよ!」

 「……そうね。あんたはそいつに抱っこされて生き生きしてるわ」

 「えへへ」

 「もう、本当に女の子みたいね。ったく、いつになったら一人前に戦えるようになるんだか」

 「マスターは無理せずやればいいって言ってくれたから……。マスターだけは僕を、僕の炎を綺麗だって言ってくれたから。僕……、頑張るよ」

 「そいつはあんたに甘いから……」

 「レアちゃんだってマスターから可愛いって言われてるでしょ? ……いつも照れ隠しで燃やしてるけど」

 「……」

 「もう、素直じゃないんだから。契約精霊のみんなも言ってたよ、レアちゃんはマスター相手だとすごくツンデレになるって」

 「分かってるわよ……」

そんなイフリートとイフリーテの会話の最中、オミナス君はずうっと燃え上がっていた。

 「……震えるぞハート、燃え尽きるほどヒート、刻むぞ怒りのビート! 轟け、俺のシャウト!!」

 「あああああああああつうううううううういいいいいいいいわああああああああ!! 熱いわ! 燃えるわ! それにめっちゃ怖いわ! いくら、いくら俺が完全炎体制の防具つけてるからって遠慮なさすぎだろ!! ゆえに許さんぞお前たちいいいいいいい!!」

 「えっ!? 僕もなんですか?」

 「あら、元気そうね。じゃあこれならどう?」

 「裁きの時はきた。怒りの炎よ焦がせ、あるいは癒しの炎よ熱せ。かの者は有罪か否か。【ギルティ・オア・ノット】!」

 おいちょっとまt……」

 「ギルティ!!」

 「ぎいいいいいいやああああああ!! 熱い! 熱いしそれに!! お前が判決出してるじゃんかよ! 何がギルティ・オア・ノットだよ! 裁判官はどこだ! 陪審員は、どこなんだあああああ!?」

 「ち、ちょっとレアちゃん! さすがにこれは……」

 「いつも……ルーばっかり可愛がりすぎなのよ」

 「燃える! いや燃えている!! 俺は! 俺は人間を止めるのか!?」

 「え? なんだって?」

 「……何でもないわ。そろそろいいかしら」

次の瞬間、それまで燃え盛っていた炎が跡形もなく消え去った。

 「もや……され……る」

残されたのは力なく倒れ伏すオミナスだけだった。

 「ほら、なにやってるの? ルー、帰るわよ」

 「え? ……でも、マスターが……」

 「大丈夫でしょ? あれだって演技だし」

 「え?」

 「なん……だと……。お前、魔眼の持ち主か?」

 「あんなに生き生きとボケをかますやつがボロボロなわけないでしょうが」

 「ちぇ、可愛くないやつめ。これじゃあ俺がお前とにゃんにゃんできる日なんていつやってくるのか分かったもんじゃあねえな」

 「なによ、あたしとにゃんにゃんしたいわけ?」

 「もちろんだ!!」

 「……そう」

 「……今日は野営のてつだいまでしてあげるわ。そう……簡単に行くと思わないでよね」

 「レアちゃん……。素直になればいいのに。……マスターも」

 「何言ってるんだ? 俺が素直になったら今頃お前ら何て……グヘヘヘヘ」

 「燃やすわ」

 「すみませんっした!」

 「え? え? どういうことですか?」

この物語はそんな召喚剣士、オミナス・オルドレッドの心の成長を描いたコメディーなシリアス。略してコメアスである。……が、今回はシリアスはない。断じてまだないわけではない。ありはする。……本当だぞ?

 「行くか」

ひょいと立ち上がるオミナス。服を払って登山道を歩き始めた。

腕の中には少年、後ろからはそれを不機嫌そうに見る少女が続いている。彼はそれを面白そうに見ながら歩を進めていくのであった。


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