第六話:引力【離別編】
予定外の新キャラ登場でちょっぴり遊んじゃいました(>_<)
「あっ、バド!?」
アークが叫んだ。仲間達と宿屋に入ろうとした所へ丁度バドが歩いて来たのである。
「オレ達はここに泊まるが、お前はどうする?」
ゲアンが尋ねると
「オレもここに泊まる」
バドは静かにそう答えた。
彼らは店の中に入り、受付を済ませる。
「女子は向こうの部屋に行ってくれ。男子は二手に別れよう」
いつものようにゲアンが促し
「え? みんな一緒じゃないの?」
アークは疑問の表情を浮かべた。
「一部屋にベッドが二台までしか無いらしい」
「そうなんだぁ……」
アークは団欒が好きなので少しがっかりした。
「じゃあ、アークとアールが同じ部屋でいいか?」
アークとアール・グレイが頷く。
部屋割りが決まり、それぞれの部屋に別れた。
寝床に着くとゲアンは隣りのベッドで目を閉じて仰向けになっているバドに声を掛けた。
「バド」
「何だ?」
バドはきつくそう返した。普段微笑の堪えない彼から笑顔が消え、何かに苛立っているようにも見える。
「何かあったのか?」
「別に」
バドはそう冷たく言い放ち、反転してゲアンに背を向けた。
「そうか……おやすみ」
翌朝、彼らが店を出ると
「姉さん!?」
店の前にビアーナが立っていた。昨日と同じ服を着て、やつれたようにも見える。
「いつからそこに……」
「バド、もう行ってしまうの?」
力のない表情でビアーナは言った。
「ああ」
バドは彼女と目を合わせずにそう答える。
「行かないで! お願い!?」
ビアーナは駆け寄り、バドを抱き締めた。
「!」
バドは拒絶するように彼女の身体を自分の身体から引き離す。
「いやっ!」
彼女は激しく抵抗し、再び彼に抱き付いた。
「絶対に行かせない!」
「……」
それを見ていた仲間達は皆唖然とした。
「何だか、恋人同士みたい」
ジャスミンがぼそっと呟く。
「……」
レミアは切ない瞳で彼らの様子を見ていた。
「姉さん、離してくれ!」
「いやよ! あなたのいない生活なんてかんがえられない!」
ビアーナは爪を立てたり、精一杯の力を使って必死でバドにしがみついた。
「もう……いい加減にしてくれ……」
込み上げる感情を抑え、それに堪えるように彼は声を吐き出した。
ビアーナの手が緩む。
「バド、お願い。私の側にいて? 離れたくないの……お願い!」
彼女は泣きながら哀願し、彼にすがりついた。
バドは彼女の震える肩に手を乗せる。
「姉さん、オレは姉さんの“恋人”じゃないんだよ」
「――!?」
ビアーナはあまりの絶望で地面に泣き崩れた。
一行は自家用の船に乗り、その町から遠ざかって行った。
彼らがその町を訪れたというのが、そもそも奇妙な話だった。依頼とその町は全く関係がなかったからである。行きはバドが梶を操っていたが、その行く途中で不思議なことが起きた。そこから発する目に見えない何かに引き付けられたのである。そしてその町に入った結果あの再会という劇的な出来事に出くわした。
「バド、これで良かったのか?」
「何故そんなことを聞く?」
バドは鋭い目でゲアンを睨んだ。
「せっかくお前は本当の家族に会えたのに、また離れ離れになってしまったから……」
「姉さんのことか?」
「ああ……お前はあの人を拒んでいたが、あのまま家族との暮らしに一生を捧げても良かったはずだ」
「お前は知らないからだ! オレの姉さんはなぁ、オレのことを弟して見ちゃいない」
「どういうことだ?」
「見てるだけでも分かるだろ? オレへの異常なまでの執着心、オレを見る眼差し、言動、全てが普通じゃない。オレは弟ではなく――“男”として見られている」
「そんな、お前のことを弟として溺愛しているだけじゃ……」
「だからって“あんなこと”!?」
バドはその先の言葉を飲み込んだ。
「もういい……とにかくあんなことは早く忘れたいんだ!」
初めて見せるバドの取り乱した様子に、ゲアンもその様子を見ていた仲間達も心配になった。
「分かった。その話はもうやめよう」
ゲアンはそれ以上そのことを追求するのはやめた。バドは沈黙したまま依頼された土地へと船を進める。
まるで奇妙なあの“引力”を断ち切るかのように……
是非、次話も御覧くださいませ。