表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/52

第四話:引力【予感編】

 ここはラフェ―レオの町。

「ゲアンは今日の夕方頃に帰って来るはずだ。それまでは自由行動にしよう」

 バドが言った。

「アール。私、久しぶりに踊りたいわ」

「よし、じゃあやるか。――バド、オレ達はその辺で芸やってるから!」

 とアール・グレイはそう告げるとジャスミンと一緒に駆けて行った。

「芸?」

 二人の芸を見たことがないバドは疑問の表情だった。

「そうだよ。アールが笛を吹いて、ジャスミンが踊るの!」

 瞳を輝かせながらアークが教える。

「そうか……」

「あっ!? 待って待って、オレ客引きやる〜〜!」

 二人の後を追い、アークも走って行った。

「……」

「……」

 レミアがそこに残り、バドと二人だけになった。

「オレ達も客引きやるか?」

「……」

 バドの提案にレミアは微妙な表情をした。

「う゛〜〜ん……」

 困ってバドの眉が下がる。レミアはしっかり者だが、知らない町で一人にするわけにもいかない。が、どうしたものかと。

「じゃあ、こうしよう」

 




 二人は賑やかそうな通りへとやって来た。

「今から適当に話を合わせてくれ。頼んだぞ?」

 小声でバドがレミアに伝え

「え、ええ……」

 レミアは頼りない返事を返し、さっそく彼らは“それ”を始めることにした。

「なぁ、知ってる!? 今日、この町で超〜〜〜美人なダンサーがショーやるんだってぇ!」

 と以上に上機嫌なバドの演技。

「へ―え、すごいわあ!」

 棒読みのレミア。

「……」 

 会話が途切れた。

 指をくわえた幼い子供がそれを珍しそうに眺めている。

「『どこでやってるの?』だ」

 すかさず小声で助言するバド。

 さっきの子供は母親に連れられて行った。

「どこでやってるのぉ!」

「パン屋の側って言ってたよ!」

「へ―え……」

 とここでまた会話が途切れた。周囲の反応は曖昧だったが、かまわずその不自然な会話を続けようとするバドは小声でレミアに促した。

「『早くみたいね』とか何か言ってくれ……!」

「早く、そのダンス見たいね!」

 堅いレミアの台詞が痛々しかったが

「早く行かないと始まっちゃうよ〜!」

 と一生懸命なバドだった。

 その不自然な会話で締めくくると、二人はその通りから素早くエスケープした。




 次に二人は別の通りにもやって来た。石造りのもとは白い壁だったであろう建造物が立ち並ぶ町並み。何色ともつかぬ黒ずんだ石畳。古びたような風景が続いていた。ひっそりと静まり返り、湿気を帯びた空気を漂わせている。

「人がいないな……」

 愕然とするバドだった。今の時間、その通りは無人だったのである。

「あっ! あの店は?――人がいるかも」

 レミアが飲食店を見付け、二人はそこに入ることにした。

 中へ入ると木材を組んで作られた椅子とテーブルが並んでいた。そこにいたのは旅人風の男性と歳がばらばらで数人の男女。同じ服装で、いかにも仕事の合間に来た人風だ。

「ごめんなさい」

 勿論入ってすぐにレミアは、謝ったが

「気にするな」

 バドはそう返し、二人はそこで寛ぐことにした。

 空いていた隅っこの丸いテーブルの席に向かい合わせで座る。バドが珈琲、レミアは紅茶を頼んだ。

 レミアはカップを両手で包み込むように持って飲む。バドは頬杖を突き、レミアがゆっくりとカップを傾け――途中でバドの姿が視界に入り、レミアは少しドキッとした。

「何か、これってデートみたい……」

 レミアはなんだか照れくさかった。彼女はデートというものをした経験がない。だが、憧れてはいた。

「デートしようか?」

「え?」  

 予想外のバドの言葉にレミアは驚いた。大きな瞳をさらに大きく見開く。

「……」

 バドは珈琲を飲み干すと、また頬杖を突いた。柔らかな表情をしている。それは見詰められると溶けてしまいそうなほど甘く、香り付けの洋酒のように仄かに喉を熱らせる魅惑の表情だった。

「本当に?」

 純粋なレミアには少し刺激が強かったが、同時に今の彼の言葉を確かめようと、半信半疑で尋ねてみた。彼の答えは

「ああ」

 という短い返事だった。切れ長の美しい瞳で優しく微笑している。

「……」

 レミアは動揺して細かく瞬きした。胸が高鳴る。顔が熱くなるのを感じ、赤面していないか気にするが、興奮して慌ててしまう。気が付くと紅茶をあっという間に喉に流し込んでいた。その様子を微笑ましく、バドは眺めている。

「どうする?」

 そして聞き返す。彼のその問いかけが妙に大人の雰囲気を漂わせているように感じられ、レミアはますます緊張してしまった。彼の美貌は全てにおいて殺人的だ。それは容姿だけではなく、深みのある声は優雅な響きで胸郭を刺激する。透き通るようなグレーの瞳は水晶のようだ。均整の取れた体型、所作の一つ一つも男性的だが妙に色気があり、綺麗すぎてまともに見れない。これほどの美貌の持ち主に……

「……」

「やめるか?」

「えっ……」

 一瞬でレミアの表情が哀しい表情へと変わった。窓の奥に広がる絶景を眺めていた少女の目の前のガラスに亀裂が生じる。それは彼女の憧れを意味していた。

「じゃあ行こうか」

 バドが立ち上がる。とガラスは元通りになっていた。それを開け、外に広がる絶景を目にした瞬間が訪れる。彼の言葉は本当だったのだ。

「?」

 衝撃の後に衝撃が続き、彼女は困惑してしまう。すぐには話を飲み込めず、結局どどうなったのか分からず、不安な瞳で彼を見詰めた。

「デートだぞ?」

 穏やかに彼が微笑み、その一言でレミアの瞳は一気に輝く。

「ええ」

 と彼女ははにかんだ。


 


 二人が店を出ると通行人の数がいくらか増えていた。

「ねぇ」

「ん?」

「私達、恋人同士に見えるかしら?」

 恥ずかしそうにバドに尋ねるレミア。こうして男性と並ぶといよいよデートなんだという実感が湧いてくる。

「う〜ん、どうかな?」

 バドは少し首を傾げ、微妙な答えを返した。

「じゃあ、これだったら?」

 レミアはすねたように大胆にもバドの腕に掴まる。

 バドが優しく微笑した。

「これなら見えるよ」

 それを聞き、レミアはやっと満足気に笑った。







 初めてのデートですっかり夢気分のレミアだったが、黙ってバドに付いて来るといつの間にか殺風景な所に来ていた。店や民家からどんどん遠ざかっている。街のはずれもはずれ、平らにならしただけの小石混じりの道が続き、脇には草が生い茂る。

 どうやらそこは土手のようだった。

「バド、これ以上行っても何もないわよ?」

 家々などの建物が小さく見える。繁華街をデートするんじゃなかったのか? とレミアは少し不満気だった。

「何もないほうがいいんだ」

 バドはそう笑顔を返し、更に奥へと進んで行く。その奥に草原を見付けると彼はそこで足を止めた。

「ここにしよう。ここならのんびり寛げる」

「そうね……」

 レミアはふとデートってこういうものなのかなぁ? と心の中で呟いた。

「こういう静かな所でゆっくり話をしたかったんだ」

 草むらの上にバドが腰を下ろし、レミアはその左側に座る。彼が髪を掻き上げると左耳にしているピアスが揺れた。

「素敵なピアスね」

 レミアはその稲妻型のピアスが揺れる様子をぼんやりと眺めた。

「そうか?」

「ええ……それ、誰かにもらったの?」

「ああ、知り合いからな」

「そう……知り合いって“女の人”?」

 なんとなくだったがレミアはそう尋ねていた。そのピアスは彼にとてもよく似合っている。デザインも中性的で、自分が選んで買ったといってもおかしくない。だが、そう尋ねていた。

 彼は躊躇いもせず

「ああ」

 そう答えたが、レミアには含みがあるように感じた。彼の瞳が過去とおくを見ているように見えたから……

「その人、バドの恋人?」

「いや、恋人ではない。ただの知り合いだ」

「本当にただの知り合いなの?」

 問い詰めるように聞いてくるレミアに、バドは少し戸惑う。レミアは好奇心ではなく、ただ、気がかりだったのだ。

「本当だ。何故そんなに疑う?」

「何となく聞いてみただけよ」

 実際そうだった。自分でもよく分からない。だからなんだというわけでもないはずだ。恋人だったとしても……

「そうか」

「……」

 そこで会話が途切れる。その後に沈黙が流れた。清々しい、少し肌寒い風が吹きぬける。

 ――その沈黙が

「何でもらっ……」「レミアは……」

 打ち切られた。二人が同時にしゃべろうとしたのだ。

「ふふっ……先に言っていいよ」

 バドは楽し気に笑った。

「――何で、そのピアスもらったの?」

 レミアは無意識に、僅かだが口を尖らせる。その“無意識”が、素直な彼女の感情表現だった。

 バドの表情が変わる。風により流れてきた雲が影を作り、文字通り雲行きが怪しくなったことを演出した。

「魔物に取り憑かれていた彼女をオレが助けたんだ。その時のお礼にもらった」

「それってもしかして、その“腕”の……?」

「ああ」

「!?」

 レミアは気まずくなった。聞いてはいけない事を聞いてしまったような気がして。

「あの頃のオレは自分の力を過信しすぎていてな」

 その空気を解きほぐすようにバドは優しくレミアに微笑みかけた。柔らかなその笑みは、どこか陰りを帯びているようにも見える。

「ハンターになって日も浅い頃だった。あまりにも順調に仕事が片付き、オレは物足りなさを感じていた。その時丁度ある噂を耳にした」

「噂?」

「――ある町で凶悪な魔物に取り憑かれている女性の噂だった。霊媒師が悪魔祓いを行ったが追い祓えずに困っていると。ハンターにも依頼したらしいが、皆失敗に終わりお手上げ状態だった。それを聞いたオレは迷わず依頼を引き受け、その町に直行した。“オレなら出来る”そう思っていた……」

「……!?」

 その時、彼の目を見てレミアは鳥肌が立った。それを語るバドの目がまるで別人のように見えたからである。それが魔に対するものなのか、彼自身に対する怒りなのかは分からなかったが、何か強い思いが込められているように感じさせた。

「しかし違った……魔物やつの強さは予想を遥かに超えていて、倒せないと判断したオレは――この腕に封印した」

「他に倒せる人が現れるのを待つことは出来なかったの?」

 溜まらず嘆くように、レミアは彼に哀れな視線を向ける。

「そんな時間は無かった。あの時助けていなければ彼女は死んでいた」

「そうだったの……」

 何故救った人が犠牲にならなくてはならなかったのかとレミアは彼の悲劇を酷く悔やんだ。

 ふとバドは表情を緩める。

「次はオレが質問してもいいか?」

「え? ええ」

 彼がまた微笑みかけてきたので、レミアはドキッとした。

「レミアとゲアンはどうやって知り合ったんだ?」

「私が住んでいた港町にゲアンが来ていて、その時助けてくれたの……」

 その事を口にした途端“あの頃”を思い出し、レミアは口ごもった。

「……」

 バドはそんな彼女を静かに見守っていた。彼女が話しを再開する。

「私、魔女の娘でしょ? だから苛められてたの。ほとんど町ぐるみで差別を受けてた……クスッ」

 何故かレミアはそこで笑った。哀しいのに何故だろう。今が幸せだから、過去の不幸が滑稽にでも感じたのだろうか。

「でもね、ゲアンに会って救われたの。普通の人として扱ってくれて……この人に付いて行けば自分の運命を変えられるかもしれない! そう思ったの。あの時が始めてだった。人に優しくされたのは……」

「そうか」

 バドは優しく小さな微みを浮かべた。

「バドはゲアンとどうやって知り合ったの?」

 レミアは軽く首を傾げる。

「オレの師匠が、山で倒れている子供を発見して連れて帰って来たんだ。それがゲアンで、その時オレ達は知り合った」

「そ、それって“誘拐”なんじゃ……!?」

 レミアは青ざめた。

「いやっ、そうじゃないんだ! すまん、オレの説明不足だった……」

 慌ててバドは訂正し、苦笑した。

「?」

 レミアはまだきょとんとしている。

「その時ゲアンの住んでいた村は魔物に襲撃され、あいつは最後の生き残りとして逃げ延びることを託された。その途中で力尽き、倒れているのを師匠が助けたんだ」

「そうだったの……全然知らなかったわ。ゲアンにそんな哀しい過去があったなんて……」

「その時ゲアン(あいつ)は十歳の子供だった。しかしそんな悲惨な目に遭遇しながらもゲアン(あいつ)は立ち直った。いつしか不幸に浸るのをやめ、自分のような被害者を出さないようにする為、勇者になった。その志は立派だ。だがゲアン(あいつ)は自己犠牲心が強すぎる」

「自己犠牲心?」

「ゲアン(あいつ)は人を救うために自分の命を惜しまない。いつでも命懸けで悪に立ち向かう」

「それならバドだって、女の人を助けるために魔物を腕に封印したんでしょ? あなたも自己犠牲心が強いじゃない」

「オレは死ぬ気でなどやっていない。“勝つつもり”でやった。封印これは他に方法がなかっただけだ」

「……」

「……」

 その時の悲劇を何故、彼はピアス(かたち)として残しているのか。特別な理由があるのかもしれない。しかしレミアは聞こうとはしなかった。

 彼女はそっと封印のしてある彼の左腕を持ち上げた。手首に嵌めた幅の広い革のブレスレット、その下には封印が……

「痛くないの?」

「ああ」

「そう……」

 レミアはその腕を静かに下ろした。大きな掌は逞しく見える。しかし手首の封印が彼を縛り付ける呪縛のようで、彼を弱らせている気がした。

 ゆっくりと彼女が顔を上げると彼と目が合った。

「……」

「……」

 二人はそのまま見詰め合う。

 レミアはバドの透き通るようなグレーの瞳を。

 バドはレミアの大きな赤茶色の瞳を。

 

 レミアが先に口を開いた。

「バド」

「ん?」

「髪、長いわね。私と同じぐらい?」

「そうだなぁ。少しだけレミアのほうが長いが」

「ちゃんと見せて?」

 そう言うとレミアは、大胆にもバドの上着の襟の内側から隠れた髪を前に引き出した。落ち着いた茶でストレートの髪は意外と長く、襟足の長さは鎖骨の辺りまであった。

「長い……!?」

「……」

「あっ、ごめんなさい!」

 無言のバドを見てふと我に返り、慌ててレミアは彼の襟足の髪を戻そうとする。

「?」

「どうした?」

 手が止まった彼女を不思議そうにバドは見詰めた。

「う、ううん……あ、あのね……」

 レミアは急に恥ずかしくなり、赤面した。

「ん?」

「……」

 レミアは何か言いたそうだが、無言で首を横に振る。

「どうした?」

「……」

 レミアの顔は更に赤くなった。接近すると恥ずかしい。でも近付くと“好い香り”がして離れたくなかった。

「?」

 バドは自分で髪を整える。するとまた

「好い香り……」

 つい彼女は口に出した。

 ――言っちゃった!?

「好い香り? この香水のことか?」

「香水?」

 「ああ」と彼は頷いた。

「香水付けてるんだ? 好い香りね……」

 恥ずかしそうにレミアが言い、バドは微笑した。

「この香り好きか?」

「ええ……」

「嗅いでみるか?」

「ええ……」

 ――えっ? え゛え゛〜〜〜っ!?

 自分で返事しておきながら、レミアは焦った。

 バドが髪を後ろに流し、耳を出す。

「この辺」

 と彼が言ったのは耳の後ろだった。レミアはドキドキしながら鼻を近付ける。するとまた

 ――好い香り〜!

 その香りに酔い痴れた。

「くんくん……」

 また嗅ぐ。

 ――うあぁ〜〜何て好い香りなの〜!?

 彼女はすっかり虜になっていた。

「気に入ったか?」

 顔を斜めに傾けていたバドが横を向く。顔が近くなり、レミアは更に意識して鼓動が激しさを増した。息遣いも聞こえてきそうなほどの距離。レミアは恥ずかしいのに目を逸らさず、バドも無言で彼女を見詰めていた。

 しかしその瞳からは何も読み取れない。

「バド」

「ん?」

「こういう時、バドはどうするの?」

「こういう時って?」

バドが首を傾げる。

「だから、その今みたいに目と目が合ったりした時……」

俯きながらレミアは言った。

「……」

バドの問うような視線に、もじもじしながらレミアは言葉を続けた。

「例えば……キスするとか」

言っちゃった!

思い切って言ったものの、レミアは恥ずかしくなって彼から目線を外した。するとバドは柔らかく微笑した。

「恋人になったら教えてやるよ」

「何よ、それ〜〜?」

 レミアが口を尖らせバドを睨む。そして何か閃いた。

「そうだわ。さっきジャスミンのことを“超美人”だって言ってたけど、ジャスミンのことそんな風に思ってるの?」

 と探るようにバドを見詰めるが

「美人だと思うだけだけどな」

 とあっさり答えるバド。

「本当にそれだけ?」

 レミアがまた問い掛けるが

「ああ」

 答えは同じだった。

「ふ〜〜〜ん。そうなの〜〜」 

 それを聞いてレミアは密かにはにかんだ。

「ふっ!」

「?」

「ふふっ!ふふふっ……!」

 突然バドが吹き出した。

「バド?」

 レミアは不審な眼差しで彼を見た。

「ふっ!?……ふふふ! あははは!」

 とそれを見て更に激しく笑い出す。

「ちょっと、どうしたのよバド? 何で笑ってるの!?」

「ふふふふ……レミアの顔見てたら……ふふっ! お、おかしくて……」

 バドは笑いすぎて苦しそうに腹を抱えた。

「酷い……何それ? 最低……っ!」

 レミアは今にも泣き出しそうになり顔を歪めた。

「ふふふふ……!」

 バドはまだ笑っている。

「私の顔ってそんなに“おかしい”!?」

「ふふっ……え?」

 彼がレミアの顔を見ると、大きな瞳から一筋の涙が流れ頬を伝った。

「あっ? 違うんだレミア! オレは君の顔の表情がころころ変わるのがおかしくて……それで笑ってたんだ!」

「ぐすっ……そうなの?……」

 レミアの瞳に大粒の涙が溢れている。

「ああ、だから泣かないでくれ……?」

 バドはすっかり困り果てた。

「分かったわ……ひっく……」

 バドは優しくレミアの頭を撫で、慰める。

「バド……」

「ん?」

「私って、幼い子供みたいでしょ?」

「そんなことはない……きっと純粋なだけだ」

 彼は優しく微笑した。

「バドは大人の女性が好きなんでしょ?」

 赤く泣き腫らした目で彼を見るレミア。

「別にそういうわけではないが……」

「じゃあ、年下でも好きになる?」

「年は関係ない」

「10歳も年が離れていても? それでも好きになる?」

「ああ」

「そう……」

 悲しみに暮れていたレミアの表情が和らぎ彼女は、はにかんだ。するとバドは彼女の頭の上に軽く手を乗せるとそのまま立ち上がる。

「そろそろ行くか」

「え?……」

 レミアはまた哀しい顔をした。

「もうすぐゲアンが戻って来る頃だ」

 レミアは立ち上がるとバドの腕に触れた。

「さっき言ってたこと教えて?」

「え?」

「“恋人になったら教えてやる”って言ったこと」

「……」

 バドが彼女を見下ろすと大きな瞳で彼を見上げていた。

「……」

 彼は長身の身体を前に傾ける。近付く彼の顔にレミアは硬直して佇む。彼は彼女の髪にキスをした。頭上に僅かだが、その感触が伝わる。

「また今度な」

 彼はそう付けたし、レミアはただただ唖然とそして茫然と立ち尽くしていた……

 


 



是非、次話も御覧くださいませ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ