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第三話: 《王家》 誇り【王子編】

「大変お待たせ致しました」

 ゲアンが馬車へ戻ると、待ちくたびれていたルドは居眠りしていた。

「ん……終わったのか?」

 ルドは目を覚まし、伸びをした。

「では、出発致します」

 ゲアンが馬車を出す。時折ルドが方向を知らせながら進み、やがてスターフォックス城前にある森へとやって来た。

「うわっ……何か急に寒気がしてきた」

 その辺一帯が異様な空気に包まれ、ゲアンもそれを感じていた。

「大丈夫ですか、ジェラルド様?」

「ああ……とにかく、この森を抜けたらすぐだ。急いで行ってくれ! 何か……嫌な予感がする」

「かしこまりました。では飛ばしますので、しっかりとお掴まりください」

 ゲアンは馬車の速度をあげた。




 やがて森を抜けるとそこに予想もしていなかった光景が広がっていた。

「こっ……これは!?」

 ルドは慌てて馬車を降り、辺りを見渡した。そこに以前の姿は残っておらず、城やその他の建物全てが破壊され、辺り一面焼け野原と化していた。

「何故……こんなことに……?」

 その悪夢のような光景にルドは呆然と立ち尽くしていた。ゲアンが馬車を停め、そこに降り立つ。

「!?」

 はっとしたルドは家族の名を呼び、そこら中を探し始めた。

「……」

 しかし返事は無く、やがて彼は崩れるように地面にしゃがみ込んだ。

「こんなやり方、とても人間の仕業とは思えません」

 ゲアンのその言葉にルドは苛立ち、立ち上がった。

「では、いったい誰がやったというのだ!? 人間以外に誰がやる!」

「“魔”の仕業かと」

「……魔の仕業!? 魔物がやったと言うのか!?」

「はい、その可能性が高いかと思われます」

 ゲアンは凜とした眼差しでそう答えた。しかしルドは信じれなかった。彼は魔物という物を実際に見たことがない。話には聞いたことがあったが、そんな得体の知れない物のせいにしてこの事を片付けたくはなかった。

「それなら、その魔物とやらをここへ連れて来い。このオレがそいつを仕留めてやる!」

 そう言った時だった……




『消エテ無クナレ』




 不気味な声と共に唸るような雷鳴が鳴り始める。空に暗雲が現れ、みるみるうちに辺りを暗くした。

「今、何か言ったか?」

「いいえ、わたくしは何も」

 ゲアンがそう答え、ルドは冷や汗を掻く――その瞬間、稲妻が光った。

「危ない!?」

「あ゛ああぁぁ……!?」

 ルドの頭上に雷が直撃してきたが、バリアにより跳ね返る。

「間に合ったか……」

 安堵したようにゲアンが言った。

「?」

 ルドは顔を上げ、無事だったことに戸惑っていた。

「ジェラルド様、ここは危険です。後はわたくしに任せて、早く安全な場所へお逃げください!」

「……」

「さぁ、早く!」

 ゲアンはそう促すがルドは動こうとしない。

「ふざけるな! オレは家族やこの国の人々の仇を打つんだ。よそ者のお前になど任せられるか!?」

「ご理解ください! 今は……」

 再び雷鳴が鳴り響く。 

「うるさい! 大体、さっきから魔物がやったなどと訳の分からぬことを……!?」

 雷鳴の音が激しくなり、ルドは息を飲んだ。




『醜イ……』




 さっきの不気味な声がする。

「?……」

 ルドはゲアンと目を合わせ青ざめた。するとゲアンは彼の前に手をかざす。

「何をした?」

「バリアを張りました」

 冷静にゲアンはそう答えたが、ルドはますます困惑した。

「お前……いったい何者だ!?」

 その時、辺りが一瞬激しく光った。その直後、先程よりさらに強力な稲妻がそのバリアを直撃する。

「!?」

 そのあまりの衝撃に耐え兼ねてバリアが軋み、亀裂が生じた。

「ジェラルド様、これ以上強力な稲妻が来たら今度こそバリアでも防げません! 早く、お逃げください!」

「黙れ!? 逃げてなどいられるか!」

 次の瞬間、再び稲妻が光った。そして間隔も空けず、すぐに雷は落ち……

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ…………!」

 ゲアンを直撃し、彼はその場に倒れ込んだ。

「ゲアン!?」

 ルドの周りには一際厚くなったバリアが張られていたが、今の落雷のショックを受けてバチバチと音を立てている。




『次ハ オ前ダ』

 

 

 

 その声がした途端、真っ暗な空から一筋の光が差し込んできた。その光が地面に倒れたゲアンの身体を包み込む。

「ゲアン!?」

 ゲアンの身体がぴくりと動く。

「フォ……ガード……」

 そして彼はゆっくりと瞼を開き、起き上がった。

「いったいどうなってるんだ!? お前は今、雷に打たれて死んだはずじゃ……?」

「死ぬ寸前に助けられました」

 落ち着いた声でゲアンは答えるが、ルドは腑に落ちずに眉を潜める。

「助けられたって……誰にだ?」

わたくしの師にです。今、天から差し込んだ光は彼によるものです」

 ルドは辺りを見渡した。しかし彼ら以外に誰も見当たらない。

「どこにいるんだ?」

「ここにはいません」

「どういうことだ? いないのにどうやって助けられたんだ!」

「彼の力を持ってすれば離れた場所への魔法の使用も可能なのです」

「今度は “魔法” か?  理解に苦しむ……」

 魔法の認識も薄かったルドは更に困惑した。すると真っ暗な空に再び一筋の光が差し込み、それが序々に広がって行った。




『ゲアンよ、時は満ちた。今こそ私と力を一つにし、悪を葬り去るのだ』



 その声がしたのは空からだった。

「何だ今の声は!?」

「今お話した私の師、フォガードの声です」

 ゲアンがルドの周りに新たにバリアを張る。そして鞘から剣を抜き、天に掲げ――そこへ空からの光が集中した。

「今度は何が始まるんだ……!?」

 ルドはどうしていいのか分からず、それを黙って見ているしかなかった。

 雷鳴が再び鳴り始め、その低音が大気を震わせる。その音はルドの脳裏に最悪の事態を予測させ、その不気味な前触れにこれまでにない恐怖心を与えた。





『撃て――――っ!』

 



 フォガードの掛け声でゲアンは剣を振り下ろす。その剣先から反射した光は“ある方向”に衝突した。




『後悔サセテヤル……思イ知レ――ッ!』

 


 

 激しく空が光り次の瞬間、稲妻が空からジグサグに降りて来る。

「!」

 その稲妻とゲアンの放つ光りが衝突した。ゲアンは呪文を唱え、再び剣を天に掲げると天の光がそこに降り注ぐ。そして先程より多く力を溜め込んだ。





『いかん! その剣では、それ以上持たぬ。撃て!』

 



 ゲアンの剣が軋み、とうとう亀裂が生じた。

「うおおおぉぉ――――っ!」

 ゲアンはついに剣を振り下ろした。剣先から彼とフォガードの魔力を込めた光が形の無い悪の根源に向かって飛んで行く。




『己――――ッ!』

 

 


 同時に空から激しい怒りを表すかのように巨大な稲妻がジグサグを描きゲアンの放った光に向かって走る。それらは激しくぶつかり合い、次の瞬間……



 

 空一面が真っ白になった。









「……う゛っ!」

 呻き声とともにゲアンが瞼を開ける。

「ゲアン!?」

 それを心配そうにルドが見下ろしていた。

「ジェ……ラルド……様」

 身体中が軋むように痛い。ゲアンは自分が地面に倒れていることに気付いた。

「良かった……もう、目を覚まさないのかと思った……」

「……」

 ゲアンは痛みを堪えつつ俄かに顔を歪めながら起き上がった。

「おい、無理するなよ?」

「敵は……敵はいったいどうなったのですか!?」

 危機迫るようにゲアンは尋ねるが

「もういない」

 ルドは首を横に振った。

「……」

「お前が倒したんだ。覚えてないのか?」

「ええ、情けない話ですが全く……最後に攻撃したことまでは覚えているのですが、その後どうなったのか……」

 それを聞いたルドは目を細め、静かに言った。

「情けないのはオレのほうだ」

「そんな、あなたは必死で戦おうとしたではありませんか?」

「戦ったのはお前だ」

「そうですが……」

「分かってるんだ。オレは口先だけで何もしちゃいない。あんな強大な敵に立ち向かおうなど愚かすぎた」

「ジェラルド様……」

「ゲアン、お前には本当に感謝している」

 ルドは穏やかに微笑し

「実はあの後、生存者が見付かったんだ」

 手招きすると、どこからともなく老夫婦が現れた。

「オレ達はこれからも、この地で暮らすことにした。そして最期は――この地に眠りたい」

「そうですか。私もあなたのお側で力になりたいのですが……」

 沈んだ口調でゲアンが言うと、ルドは軽く微笑んだ。

「気にするな。お前にはもう充分助けてもらった。後はお前の自由にしてくれ」

「ありがとうございます……ではわたくしはこれで」

 ゲアンはお辞儀して馬車へ向かった。

「ゲアン」

 ゲアンが振り返る。

「はい」

「お前は“勇者”か?」

 伺うような眼差しでルドは訪ねるが

「そうかもしれません」

 ゲアンのその答えに眉を潜めた。

「何故、そう曖昧なんだ?」

「肩書きだけの勇者にはなるな――というのがわたくしの師の教えでして」

「そうだったのか……だが、お前にはそう呼ばれるだけの価値がある」

「そう言って頂けると光栄です」

 ゲアンは青く凜とした瞳を細め、微笑した。

「ゲアン、お前のことは一生忘れない。お前がオレをここに連れて来なかったらオレは……!」

 再びルドの中に悔やむ思いが込み上げ、彼は拳を強く握り締めた。

「これが運命だったのかもしれません」

「運命?」

 ルドは疑問の表情でゲアンの顔を見た――穏やかで、憂いを秘めたような瞳。

 それからゲアンは語り始めた。

「私は十歳の時、住んでいた村を魔物により滅ぼされました」

「!?」

 あまりの衝撃にルドは言葉を失った。ゲアンは話を続ける。

「その時私は最後の生き残りとして逃がされ、生き延びることを託されました」

「……」

「しかし私の脳に焼き付いたのは惨劇と絶望でしかなく、私はその時――『世界が崩壊した』……そう思いました」

「!?」

 ルドはぞっとした。その時のゲアンの瞳は哀しむというより冷酷で、殺意を感じさせるほど凍り付いて見えた。

「お前もオレと同じ目に遭っていたのか?……」

 ゲアンは少し目を細める。

「ええ、しかし決定的な違いがあります」

「決定的な違い? 何だそれは?」

「あなたは逃げなかった。しかし、私は逃げた――ということです」

「しかしそれは、お前が生き延びるために逃がされたから仕方のないことではないか!?」

 ルドは否定して声を荒げたが、ゲアンは静かにこう言った。

「そう、仕方がなかったのです。そして私はその罪を背負い……“生かされている”のです」

 それは、あまりに絶望的な言葉だった。

「それは罪なのか? オレは違うと思う。それはきっと……お前に与えられた試練だ!」

「……」

「“生かされている”なんて言うな!それではまるで “死にたい” と言っているようにも聞こえるぞ!?」

 吐き捨てるようにルドは叫ぶ。

「――そうです。私はあの時、本当は死んでしまいたかった」

 ゲアンは消えてしまいそうなほど儚げな瞳をした。

「ゲアン……」

 それがあまりにも哀れでルドはゲアンを抱き締めた。

「お前は、その気持ちを押し殺して生きて来たんだな……」

「あまりにも重荷でした……しかし私の身代わりになって助けてくれた母の死を無駄には出来なかったのです。――私は運命を受け入れました」

「ではもう“死にたかった”なんて言わないでくれ」

「……」

「お前がいてくれたから今のオレがあるんだ!」

「ジェラルド様……」

「だってそうだろ? 道を外しかけていたオレをここに連れ戻し、最後まで見放さずに助けてくれた。そのお前が“死にたかった”なんて言うのはやめてくれ!」

 そんな絶望的な言葉は言って欲しくない。心からルドはそう思った。

「分かりました」

 ゲアンは静かにそう言い、穏やかな笑みを浮かべた。

「つい弱音を吐いてしまいました。申し訳ありません――あの惨劇以来ほとんど感情を失ったと思っていましたが、ここに来て再びあの悪夢を思い出し、感情的になってしまったようです。どうか、お許しを」

「もう、そんなこと考えるなよ?」

「はい。ご心配をおかけしました」

「もう大丈夫だな?」

 ルドは安堵し、微笑んだ。

「お前とこんなに話せて良かった。ありがとう」

「とんでもない。こちらこそ、お礼申し上げます」

「いつかまた会えるといいな?」

わたくしが役目を果たし終えた時、またお会い致しましょう」

「ああ、では頑張ってくれ。陰ながら応援している」

「ありがとうございます。では、お元気で……」

 ゲアンは一礼し、そのスターフォックス王国の跡地を後にした。





是非、次話も御覧くださいませ。

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