第四十七話:孤島「墓」
あ、明けちゃった。。。
えーとおめでとうございます。新年でございます。今年もよろしくお願いしますm(_ _)m
更新がかなり遅くなってごめんなさい!
あとがきに雑談載せたので、ついでにどうぞ(^_^;)
「まさか“こんなこと”になるとは……」
虚空に視線を漂わせて、ゲアンが呟いた。仲間たちが皆やりきれない表情を浮かべている。そこに“彼”の姿はなく、それがこの沈黙の理由だった。
「ちょっと見に行ってくる」
そう伝えると、ゲアンは一人、部屋を後にした。
ゲアンはある建物の前にやって来た。中へ入ると初老の神父が神の像を磨いている。
「何かご用ですか?」
手を止めて神父が振り向いた。
「人を探しに来たのですが」
近付いて尋ねると、神父は柔和な微笑を浮かべた。
「ほぉ、それはどのような方ですか?」
「私と同じくらいの背格好で、顎に髭を蓄えた青年なのですが」
「顎に髭?……」
神父はしばし考えると
「ああ、その方ならさっき、ここを出て行かれましたよ」と高らかに言った。
ゲアンが建物の裏に回ると墓所に出た。先程の神父に教えてもらったのだ。その一角でしゃがみこむ人物を見付けると、ゲアンは近付いた。
「カザル」
カザルは振り向いた。だがすぐにまた前方に視線を戻してしまう。ゲアンは歩み寄り、彼の肩にそっと手を置いた。
「何を眺めているんだ?」
背を向けたまま、カザルが答える。
「ライザが眠る場所だ」
彼の視線の先にあったのは、棒が刺さった地面だった。一本の棒が印のように立てられている。なんという簡素な造りだろう。その周辺にもいくつか同様のものが並んでいた。
「彼女には身内がいない。ここは、“そういう人間“が眠る墓所だ」
「そうか……」
「彼女はオレにとって身内のような存在だった。こんな寂しい場所に埋められるなら、オレの家の墓に入れてやりたい……」
知り合って間もない間柄ではあるが、彼が情の深い人間だということはわかっていた。できれば自分もそうしてやりたいと思うゲアンだったが――
「彼女は明日ここに埋められる」
言うとカザルは振り向いた。
「お前に頼みがある」と真っ直ぐな瞳でゲアンを見据える。
「なんだ?」
「手伝ってほしい事がある」
誰もが寝静まる頃。闇の中に現れる人影があった。月光に晒され、顎に蓄えた髭が浮かび上がる。その人影は裏の柵を飛び越えて、墓所の敷地内へと入っていく。そこへもう一つの人影が。
「誰にも見られていないな?」
先に来ていたほうが言った。
「ああ」
もう一人が答える。そこへまた別の人影が柵を飛び越えてやって来た。
「これで全員だ。人数が多いと目立つので、“あの二人”は置いてきた」
「よし、では始めるぞ」
三人はさっそく作業に取り掛かった。
「一人は見張りをやってくれ」
「じゃあ、ゲアン、頼んでいいか? オレは穴を掘る」
「わかった」
一角に青白く発光する物体があった。それは顎髭の人物があらかじめそこに用意しておいたもので、夜間に咲いて発光する夜光草の一種だった。
「ここが掘る場所だ」と言って顎髭の人物が目印に置いていた花を脇に寄せると、一本の棒が剥き出しになった。
「慎重にやれよ。この墓地は死体が直に埋まっている」
「魔法でやれば早いんだが……」
「魔法?」
「ああ、魔法で地割れを起こしてやれば、わざわざ掘り起こす手間が省ける」
「そんなことが可能なのか?」
すかさずゲアンが言い放つ。
「やめておけバド、地面のあちこちに皹が入っていたら怪しまれるぞ」
「手加減してやれば大丈夫だろ」
う゛~ん、とゲアンが唸る。
「やるならすぐにやれ。運び出す時間がなくなる」
顎髭の人物が言った。
「少し離れてろ、カザル」
言ってバドは、意識を集中させる。間もなくして地面に小さな亀裂が生じた。そこにスコップを当てて状態を確認して、首を傾げるバド。少し加減しすぎたか。そう苦笑して再度試みる。と、次第に地面に新たな亀裂が生じ、隆起して丁度いい按配の穴が、地面に口を開けた。
「!?」
暗闇に順応してきた目でそれを見て、カザルはまるで手品でも見たように驚愕した。
「見事だな……」とゲアン。
「だろ?」とバドは口角の上がった口で、得意げに微笑した。
三人は口を開けた地面の中から何かを引きずり出した。それを毛布で包む。次にそれを運んで柵の前まで来ると、協力して柵の外へ運び出し、荷馬車に乗せてそこを後にした。
三人が乗った荷馬車が停まったのは、ある墓所の前だった。そこは先程の墓所とはまるで違い、立派な墓石が並んでいる。
「ここだ」
“キャスレー家の墓”――そう刻まれた墓石の前でカザルは足を止めた。
三人はカザルの先祖が眠る棺の傍らにライザの遺体を置いた。
「二人とも手伝ってくれてありがとう。おかげで今日は助かった。これはほんの気持ちだ。受け取ってくれ」
カザルがゲアンたちに紙幣を差し出した。
「気持ちだけで充分だ」
「そうだ、これは受け取れない」
ゲアンたちはそれを断るが
「好きなように使ってくれ」
強引に手に握らされてしまう。
「どこへ行く?」
立ち去ろうとしたカザルをゲアンが呼び止め、一瞬立ち止まるカザルだったが、彼はまたすぐに歩き出した。
「待て!」
すかさずゲアンが駆け寄り、彼の肩を掴む。
「“王”の所か?」
「離せ!」
カザルは振り向き様にゲアンを見据えた。
「王は危険だ。分かってるだろ?」
「金がいるんだ!」
カザルが苛立たしげに言い放つ。
「妹の医療費か?」
「こっちの問題だ。お前たちには関係ない!」
「他に方法はないのか?」
「あったらそうしている」
「いったいどのくらいかかるんだ?」
「年間で家が一軒買えるぐらいだ」
「そんなに……」
ゲアンは愕然とした。
「ふっ、これで分かっただろ? まともな仕事ではいくら働いても追いつかないということが。王に身を売る以外、方法はないんだ!」
「……」
解決策が見出だせず、ゲアンが苦悶の表情を浮かべる。
ふとカザルが片方の口角を上げて自嘲するように言った。
「軽蔑しただろ? 王の愛人をやって金をもらってるなんて」
「そんなことはない」
「気を使わなくていい。オレだって自分に失望している。あんなことをしなくてはならない自分に」
「妹のためなんだろ?」
「そうだ、だがそれがどれだけ屈辱的かわかるか? 王のせいで病気になったのかもしれないというのに、そいつの手を借りなければ妹を救えないということが……!」
自分も一度だけだが王の相手をしたゲアンには、その行為が屈辱的だということはわかる。だがカザルは妹のためにそれを続けている。しかもその相手が禍を運んできた悪の元凶かもしれないというのに。その屈辱は計り知れない。彼にかける言葉が見付からなかった。
「すまん、お前には関係のない話だったな」
「いや、そんなことはない」とゲアンは首を横に振った。
「皮肉にも妹が病にかかったのは奴が来てからだ」
ライザも言っていた。この国に起きた二つの禍。余所者に国を乗っ取られた王。そして二人の兄妹の妹を襲った病。彼等だけが不幸になったと。
カザルが続ける。
「いっそのこと王が魔物だったらすぐに殺すことができた。しかし奴は人間だ。オレは人間を殺すことはできない」
それは法律がどうとか、そんなことは関係ない。彼の優しさだろう。
「だからオレはこの国にいる。
戦争のないこの国に……」
愛する妹を病魔に犯す禍をもたらしたかもしれない憎むべき相手でも、人を殺すことはできない。彼はどれだけ悩み苦しんだだろう。ライザの言葉ーー“青き瞳の天使、地に舞い降りる時、闇を照らし世を救う”ーーという、救世主の出現を求めてしまう彼の気持ちが切ないほど伝わってきた。その言葉通り救世主となって彼等兄妹を救ってあげたい。そう思うゲアンであった。
バドが口を開いた。
「次の支払いはいつだ?」
カザルが淡々と答える。
「今月末だ」
バドは
「まだ時間があるな……」
思案げに頷き、視線を虚空に流した。
「あまり遅くなると王が眠ってしまう。もう行く……」
カザルがその場を去ろうとすると
「行くな」
バドが呼び止めた。
「?」
立ち止まり、嘆息するカザル。振り向かない彼の背中に声が飛んでくる。
「王の所へはもう行くな」
「ではどうしろと言うんだ! オレに妹を見捨てろというのか!?」
カザルが勢いよく振り向き、殺気立った眼でバドを睨むと、バドは言った。
「“死神”を探し出すんだ」
「!?」
「禍根~(略)」にまつわるトークをちょこっとだけ・・・
ファンタジーを描こうと思ったものの、作者はカッコいい名前を考えるのが苦手です。なので今作の場合、エピソードごとにイメージを決めて、例えば「飲料」「デザート」などからチョイスした単語を文字ったりしてネーミングしています(汗)
今回の「孤島」のエピソードは、「タバコ」関連からネーミングしました。
島名:シガーレイド→シガレット(タバコ)
人名:カザル→キャスター(銘柄)
キャメル→キャメル
モルブ→マルボロ
ヴァーニー→バージニア
ライザ→灰皿
こんな感じです。。
ちなみに「バド」はバドワイザー(飲料関連)、「ドチュール」はドトール(飲料関連)、「ルフィー」はミルフィーユ(デザート関連)を文字った名前です。
ではでは次話もよろしく。