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第三十四話:媚薬【後編】最期の日

このシリーズの完結編になります。では続きをどうぞ。


 夜が明けた。“お告げ”の日からとうとう三日目の朝を迎えた。今日で“嵐”が終わる。その日も朝早くからプリエッツェラが朝食の準備をしていた。彼女は出来上がった料理を皿に乗せて食堂に運ぶ。熱々のスープやトーストが湯気を立てている。冷めないうちに、と皆を呼びにいこうとすると

「おはよう」

 ゲアンが一番に現れた。

「おはよう、早いのね」

 少し驚くプリエッツェラに

「君の顔を早く見たいから」

 と側に来てゲアンが頬に接吻。プリエッツェラは緩んだ目でやわらかく微笑した。

「もう朝ごはんできてる?」

 寝ぼけまなこでアークが食堂に入ってきた。何故か彼も今朝は早かったが、半分夢の中にいるようにふわふわとした足取りだ。

「ええ、もうできてるわ。座って待ってて」

 プリエッツェラの声も上の空に、アークはふらふらと一日目から座っている一番端っこの席に座った。プリエッツェラが呼びに行く前に、今度はバドとレミアが現れた。二人は仲良く向かい合って座った。とくにレミアはその位置が好きだった。いつでも“彼”を見ていられる。

「あれ、仲直りしたんだ?」

「ああ」

 いつもの笑顔で答えるバドを見て、アークは嬉しくなって自分も笑った。最後に長老が来て皆で食事を始めた。

 風の唸りがいくつも重なり、煽られた窓がガタガタと音を立てる。

「今日でやっと三日目かぁ、本当にこの嵐は今日治まるのかなぁ」

「治まるわ。“必ず”」

 プリエッツェラはきっぱりそう言い切った。

「そうですか……」

 怖……っ、と額に冷や汗をかきつつも、アークは外が気になって窓に手を伸ばした。

「おっと、窓を開けないでおくれ!」

 すかさず長老が叫んだ。

「え? ちょっとだけ……」とアークが窓に手を伸ばしたまま振り返ると

「嵐が止んでからにしておくれ」

 ぴしゃりとそう言われ

「は、はぁ……」

 仕方なく手を下ろして諦めるアーク。まぁいっかという顔をして席に戻り、隣の席のゲアンに話しかける。

「早く明日にならないかなぁ、やっと明日船で帰れるね、先生?」

「そうだな」

 食事が終わると皆、食堂から出て行った。片付けはいつもプリエッツェラが一人でやっているので長老もいない。そこにゲアンだけは残っていた。彼が立ち上がるとプリエッツェラがそこに歩みより、彼の胸に身を寄せた。ゲアンの腕が優しく彼女を包み込む。

「明日、ここを発つの?」

 彼の胸に顔を埋めながらプリエッツェラは尋ねた。

「ああ、だが必ずまたここへ戻ってくる」

「本当?」と言ってプリエッツェラが顔を上げる。水色の瞳が驚きに見開かれていた。信じられないというように。

「本当だ」

 確かな返事をしたゲアンに

「嬉しい!」とプリエッツェラは喜んで彼をぎゅっと抱きしめた。







 部屋に戻るとバドがまた咳を始めた。苦しそうで、一緒にいたアークは見ていられなくなる。

「本当、大丈夫? やっぱオレ、先生呼んで来る!」

「待て! もう治まったから平気だ」と無理して咳を堪えながらバドが言う。

「でも……」

「いいから、知らせるな」と言ってバドは部屋から出て行ってしまった。





 流し台に寄り掛かって、バドは静かに呼吸を整えた。ふと目の前の鏡を見てぎょっとした。!?――自分の後ろに怪しい影が映っている。驚愕に見開いた目で素早く振り向くと

「プリエッツェラ?」

 背後にいたのはプリエッツェラだった。それを見ても動悸の余韻は、しばらく尾を引いていた。彼女が彼の顔を心配そうに見詰める。

「気分でも悪いんですか?」

「いや、大丈夫」

 言ってバドはすぐに咳込んだ。

「まぁ大変、風邪かしら? すぐにお薬を持ってきますね」

「薬はいい。それよりコップを……」

 喉にまた咳が込み上げてくる。

「分かったわ」

 プリエッツェラは急ぎ足で厨房へ行き、コップを持って戻ってきた。それをバドに渡す。

「ありがとう」

 受け取ってバドは、うがいしてから水を飲んだ。さりげなくプリエッツェラが彼にタオルを差し出す。

「ありがとう」

 受け取ってバドは口を拭いた。

「まだ付いてるわ」

「え?」

「貸して、拭いてあげる」

 タオルを受け取るとプリエッツェラは「届かないわ、もっと低くして」と言い、バドは屈んで頭を低くした。途端二人の顔が近くなる。プリエッツェラの瞳が美しい宝石を眺めるように恍惚とした。

「綺麗な瞳……」

 陶酔したような声が零れる。

「この瞳の色は珍しいか?」

「いいえ、グレーの瞳は珍しくないわ」

 彼の口元に優しくタオルを当てるプリエッツェラ。弱い力で、そっと、そっとその唇を拭う。

「何してるの?」

 鋭い声がして、バドが振り向いた。その後ゆっくりとプリエッツェラも振り向く。どうかした? と問うように、罪の意識を持たない目で年下の“女”をしたたかに見返した。

「レミア?」

 最悪の状況にバドは青ざめる。悪いことをしていたわけではないが、こんな状況を恋人に見られていいものではなかった。

 レミアがプリエッツェラの持ったタオルを凝視している。咄嗟にバドは説明した。

「オレの口に付いてる汚れを彼女に拭き取ってもらってたんだ」

「鏡があるのに?」と指摘されて言葉に窮するバド。

「……見落としてたんだ」と言い訳する。

「だからってそんなに顔を近付けないでよ!」

「……」

 重たい沈黙の後レミアは耐え切れなくなったのか、逃げるように廊下に飛び出した。

「レミア!」

 バドが追いかけて廊下にいた彼女を見付けると、その細い手首を掴んだ。

「離して!」

 レミアは振り払って逃げようとするが振り切れず、そのまま手首から引き寄せるようにしてバドに抱き締められる。

「離してよ! やっぱりあの女のことが好きなんでしょ? 本当はあの時……キス……してたんでしょ」

 彼女の目にじわりと涙が滲む。

「そんなことしてない!」

「嘘よ……」

 レミアは俯いて嗚咽を上げた。

「本当にしてないんだ。信じろよ……」

「本当に?」

 ぐすっと鼻をすすり、顔を上げて彼の顔を覗き込む。彼女を見詰める彼の真剣な眼差しがそこにあった。途端、彼女は頬に涙の後を残した顔で、キランと瞳を瞬かせた。……ああ、この変わりようだ、とバドはなかば呆れた。

「当たり前だ。オレはなぁ……」と言いかけてすぐに躊躇い、言葉を飲み込む。

「何? 最後まで言って?」

 “続き”が聞きた〜い。好奇心をくすぐられ、すっかり気持ちが高ぶってしまうレミア。“それ”をなかなか言い出せないバドがかわいく見えてしまう。珍しく狼狽えるバドの図。レミアにはそれが堪らない。うふふっ。バドは決まり悪そうに目線を脇に外した。やがてその目線をレミアに戻してから、しかし細めた目で不機嫌そうな顔で彼は言った。

「こんなこと言わせるなよ……オレはなぁ……」

 瞼を閉じ

 息を吸って――

「お前にぞっこんなんだ。だからお前以外の女に興味はない」

 へえ〜、とはレミアは言わない。純粋少女な彼女は感激して

「バド……」

 赤茶色の大きな瞳を潤ませた。が、すぐに

「もう一回言って?」

 とリクエスト。きらきらした瞳で言う。

「は? もう言わない」

 バドはそっぽを向いた。口を閉じてだんまりを決め込む。

「ねぇ、お願い。もう一回だけ聞かせて〜?」と胸の前で手を組んでかわいく甘えるレミアに

「言わない!」

 とバドは拒否。しかしレミアはすっかりご機嫌になっていた。

 居心地悪そうにバドが先に歩き出す。レミアが小走りで彼を追いかけ、その腕にしがみつく。大好きな彼の腕に掴まりながら嬉しそうに廊下を歩くのだった。

 自分の部屋の前にやって来ると、そこに立ち止まってバドが言った。

「こっちの部屋でまた、この前のゲームをやろう」

「……」

 え? もっと別の言葉を期待していたレミアはがっかりした。

「オレはゲアンを呼んでくるから道具を用意しておいてくれ」

 レミアが何か言う前に、バドはさっさと行ってしまった。







「ゲアン、入るぞ?」

 言ってバドはドアを開けた。するとゲアンがベッドに俯せになっている。ノックの音に気が付かなったのはこのせいか。

「起きてるか?」

 ん〜、という呻くような鈍い声が返ってきた。

「オレたちの部屋で、一緒にトランプをやらないか?」

「トランプ?……」

「ああ」

「先に行っててくれ、後で行く」

「分かった」

 バドが先に部屋へ向かい、後からゲアンもやって来る。トランプを持ったレミアが来て道具も揃い、いざ

「じゃあ始めるよ」

 アークが言った。





 ゲーム一回戦終了後。

「先生また負け〜!? 何のカード持ってたの?」とアークがゲアンの手札を覗いた。

「え〜〜何でこんなに良いカード使わなかったの!?」

「……」

 その後何回プレイしてもゲアンがミスばかりする。

「また〜? 先生、弱すぎ!」

「負けた……」

 そのやりとりも何回目やら。レミアとバドは不思議そうに顔を見合わせて首を傾げるのだった。

 そこへノックの音がした。

「はぁい!」

 とアークが明るく返事して腰を上げる。はいはいはいはい〜と唄うように軽い足取りでドアを開けると

「夕飯ができましたので……」

 プリエッツェラが呼びに来たので、彼らはそこでゲームを止めて食堂に向かった。





 スプーンが床に落下して、ゲアンがそれを拾った。

「待って、今きれいなのに取り替えるから」

 プリエッツェラが別のスプーンを持ってきて交換する。それから和やかに談笑しながら食事を終え、皆ぞろぞろと椅子から立ち上がった。するとガターン! と派手な音がして、皆の視線がそこに集まる。

「痛ぅ……」

 と痛がっているのはゲアンだった。彼が今、椅子にぶつかってどこかぶつけたらしい。

「大丈夫、先生?」

 大きな音がしたので心配して声をかけるアーク。

「お前、まさか……」

 バドが何か勘付いたようにそう漏らし、ゲアンに猜疑の眼差しを向けた。いっぽうゲアンは、心配顔で見詰める仲間に「大丈夫だ」と言って苦笑し、そのまま何事もなかったように食堂から出て行った。「大丈夫〜?」とアークがそれに続く。プリエッツェラは食べ終わった食器を運んで厨房に消えた。

 誰もいなくなったのを確認するとレミアはバドの側へ行き、彼の手に触れた。

「ごめんレミア、先に行っててくれ。ゲアンと少し話したいことがあるんだ」

「話? 分かったわ……」

 真剣な目で言われて仕方なくレミアは食堂から出ると、左側の廊下を寂しそうに一人で歩いて行った。





「ゲアン、話がある」

 食堂を出て右側にも廊下が延びている。そこを歩いていたゲアンに追い付いてバドが言った。

「話?」

「お前の部屋で話そう」

 部屋に着いて中へ入ると、ゲアンが少し不機嫌そうに切り出した。

「何だ、話って?」

 腕を組み、バドを邪魔者扱いするような目で見てゲアンが言った。その彼をバドは厳しい目で見据える。

「お前、目がほとんど見えてないだろ?」

 その指摘の後に僅かだが間があった。

「見えてるよ」

 そう答えるが早いか、バドが拳を突き出した。その拳がゲアンの顔面に命中する――そのぎりぎり手前で停止した。

「やはりな、瞬き一つしなかった。見えてないからじゃないのか?」

「……」

 普段のゲアンなら避けることも可能なはず。しかし今の彼は避けようとしなかった。いや、避けるもなにも、“気付けなかった”と言うのが正しい。

「ここへ来てからお前は日に日にやつれていっている」

「気のせいだろ」

 ゲアンは苦笑した。

「話はそれだけか? 済んだらもう行ってくれないか」と煩わしそうに部屋からバドを追い出そうとする。

「プリエッツェラと会うのか?」

「関係ないだろ!」

 バドがドアに鍵をかける。

「何してるんだ?」

 ゲアンが怪訝そうに眉を潜め

 静かにバドが言う。

「上着を脱げ」

「何でだ?」

「いいから脱げ」

 バドの語気が強くなり、ゲアンは不承不承ながらもシャツの上に着ていた服を脱いだ。

「それもだ」

 その下のシャツを見てバドが言うが、ゲアンはそれを脱ごうとしない。それを見てバドが痺れを切らす。

「何してる、早くしろ!」

「お前、そんな“趣味”があったのか?」

 思わずゲアンは失笑するが

「……」

「おい、やめろ!?」

 無理矢理バドにシャツを脱がされる。

「う゛っ!?」

 半裸になったゲアンの上半身にくっきりと青くなった跡がいくつも見付かり、それを目の当たりにしたバドは青ざめた。

「魔物の仕業だ……」と驚愕を口にする。

「何言ってるんだ! これはプリエッツェラが……」

 言い終わらぬうちに彼は驚愕に目を瞠った。バドが彼の裸の胸に顔を近付けて、青い痕が著しい部分の臭いを嗅いだ。

「媚薬の香りだ……」

 胸から顔を離して、独り言のようにそう呟く。

「彼女の付けている香水だろ?」

「心を惑わす誘惑の香りだ」

「ただの香水だ!」

 バドが身を起こして真っすぐに立ち、数センチメートル上からゲアンを見下ろした。

「お前は気付いていないようだが、お前がやつれて輝きを失うほどプリエッツェラは輝きを増している」

「そんなのただの思い過ごしだ!」

 ゲアンは強く反論するが

「思い過ごしなどではない。お前は彼女に生命力を吸い取られている」

 直視するバドの双眸に狼狽えた。彼の双眸がゲアンの目を通過して、その奥にあるものまで見ているようで怖かった。

「彼女の姿を鏡に映して見てみろ。あれは人間ではない。映るのは“黒い影”だ」

「黒い影?」

「そうだ」

 低声でバドは言った。

「噂で聞いたことがある。この世のどこかに何年経っても若さと美貌が衰えない少女が存在するという話を」

 “噂”と聞いてゲアンは眉を潜めた。信憑性のない噂か、そう思い。

「それがプリエッツェラだというのか?」

「その少女が誰かはわからないが、“美を喰らう魔物”は存在する。その魔物は美しい男を好み、その生命力を体内に吸収し、それが蓄積されるとその姿は、この世のものとは思えないほど美しくなる」

 間を空けて彼は言った。

「――プリエッツェラのように」

 ゲアンが熱り立つ。

「彼女は普通の人間だ!」

 冷厳とした表情を崩さずにバドは言った。

「その魔物の特徴をもう一つ教えてやる」

「金髪で水色の目だとでも言うのか? “プリエッツェラのように”!」

「いや」

「では何だ!」

「もう一つの特徴は媚薬だ。初香で恋に落ち、中香で誘惑し、終香で再起不能にする」

 淡々とそう話すバドの話を聞きながら、ゲアンは切れ長の美しい瞳を細めた。

「さっきオレの体に“誘惑の香り”がすると言っていたがそれはどんな香りなんだ? 何故お前はそれが誘惑の香りだと知っている?」

 懐疑するゲアンの目にも動揺を見せずにバドはそれを述べた。

「誘惑の香りは薔薇の芳香(かおり)に似ている。嗅ぐと心拍数が上昇し、三分も嗅げば相手の虜になり理性を失う。それを知っているのはオレが昔、媚薬の香りを嗅いだことがあるからだ」

「媚薬の香りを嗅いだのに、何故お前は何ともなかったんだ? 今もその香りを嗅いだのに」

「オレには免疫がある。昔、飲んだ媚薬の解毒剤ハッケルの実の」

「ハッケルの実? それはどこにあるんだ?」

「フロー山だ。しかしその効果が得られるのは、媚薬を嗅いでから48時間以内だ。フロー山はここから何十キロメートルも離れた場所にある。ましてやこの嵐では無理だ。ハッケルの実は諦めるしかない」

「終香で再起不能になると言ったな?」

「ああ」

「お前がそれを嗅いだなら、どうやってハッケルの実を飲むことができたんだ?」

「仲間が取って来てくれた。命懸けで」

「命懸け? そんな危険な場所にあるのか?」

「フロー山が危険なのではない。その時オレたちがいた場所が吹雪だったんだ」

「そうだったのか」

「彼女のおかげでオレは目を覚まし、あれから随分と長生きできた。もしどこかで彼女に会ったら“ありがとう”と伝えてくれ」

「!?」

「彼女はオレと同じ、魔物ハンターをしている。名前はルフィーだ。――オレが生きているうちには会えないだろう……」

「やめろ! お前が死んでからの話なんて聞きたくない!」

「オレだって言いたくて言ってるんじゃない。だがもうオレは、いつ死んでもおかしくない状態なんだ。今伝えておかないと……」

 バドは遠くを見るような目で虚空を見詰め

「バド?」

 その目が涙に濡れた。ゆらゆらと瞬きを散らし、透明の雫が左目の下瞼からこぼれ落ちた。

「本当は死ぬことなんて考えたくない。お前やアークや……レミアと離れたくない」

 眉が下がり、悲しそうに歪んだ目から涙が溢れて頬を伝う。彼の笑顔や真剣な顔、怒った顔しか知らないゲアンは言葉が出なくなる。初めて見る彼の涙に胸が締め付けられ、自分も悲しみに顔を歪めていた。

「ゲアン」

 言ってバドはゲアンの肩に両手を置き、その額に自分の額をくっつけて話し始めた。

「お前はオレの大事な“弟”だ」

「バド……」

 まるで最期の言葉のようにそれが響き、ゲアンの胸はうち震えた。

「こんなことでお前を死なせはしない……」

 バドは決意を込めて堅く瞼を閉じた。再び瞼を開けてゲアンを見詰めると、彼の唇が記号のような無機質な語句を紡いだ。まるで“さよなら”を言うように。

「縛」

「!?」

 ゲアンの身体が瞬時に固まった。動の自由を奪われ、声帯を震わせることも叶わず声も出せなくなる。唯一動くのは目の周辺だけ。その目線の位置は、窓を背にした部屋の中央に固定されていた。奥に、閉じたドアが見えている。

「媚薬の香りは嗅いだ時から体内で変化する。終香に変わる前に相手を倒せばお前は助かる。必ずオレがお前を救ってみせる……」

 声が出せないゲアンが、冷や汗の滴る顔で必死に何かを訴えようとする。しかし無情にもバドは部屋から出て行ってしまった。





「あっ、バド! どこ行ってたの? 超〜暇なんだけど〜」

 自室に戻ったバドを見て、アークは何の疑いもせずそう言った。それには構わず、バドが部屋に置いてあった姿見を抱えて持ち上げる。

「どうしたの、そんなの持ち出そうとして。何に使うの?」

 何の警戒心も持たずに近付いてきた少年にバドは呪文の語句を紡いだ。

「縛」

「!?」

 途端身体が石化したように固まり、声も出せなくなるアーク。彼の固定された目線がバドを捕らえて大きく見開かれる。滴り落ちる汗が、恐怖の雨となって彼の顔を濡らした。

「すまん」

 そう言い残すとバドは、姿見を持って部屋を出て行ってしまった。





 ゲアンの部屋に戻ると、バドは姿見を倒して床に置いた。それから懐に手を入れて護身用のナイフを取り出すと、その刃先を指先に食い込ませた。混じり気のない鮮血が傷口から滲み出す。その血が滲んだ指を鏡に当てると、彼はその面に文字を書き始めた。途中かすんで書けなくなると、さらに傷付けて続きを綴っていく。そして全て書き終えると、その姿見を起こして部屋の中央に配置した。文字を書いた面をドアに向けて。

「ゲアン、オレにもしものことがあったら……二人を頼む」

「!?」

 行くな!――とでも言うように、ゲアンが力を込めて目を見張った。全身が石にでもなったようだ。身動きはおろか、声一つ出せなくなっている彼は、そうやって目でしか感情を表すことができなかった。しかしその訴えも虚しく、バドは彼を置いて部屋から出て行ってしまった。





 バドはある部屋の前に来て立ち止まった。いないな?……。周囲を窺ってから、その部屋のドアを二回軽くノックする。

「はい」と出て来たのは――

 プリエッツェラがドアを開けて顔を出した。この美貌が生命力(たましい)を攫っていくのか。オレには無効だが、とバドは胸裡で呟いた。

「ゲアンが倒れたんだ。すぐに来てくれ!」

 急かすようにバドはそう言った。プリエッツェラは慌てたように

「分かったわ」と言ってすぐにドアの外に出て来た。バドは彼女を伴ってゲアンの部屋へ向かった。

「さぁ、早く!」

 部屋に着くなりバドが勢いよくドアを開け、プリエッツェラをその中へと押し込んだ。即ドア閉め、そこを隔てて外部からの侵入を遮断する結界を張る。

「う゛っ!?」

 途端プリエッツェラが目を剥き、低い呻き声を上げた。

「どうしたんだ、プリエッツェラ?」と冷笑を湛えながらバドが問い掛ける。

「あ゛あ゛あ゛あぁ――!」

 バドが用意しておいた鏡を見て、プリエッツェラが虚空に爪を立てて苦しみもがく。激しいその形相は醜く歪んで、美しい女性の姿を見る影もなくしていく。

「!?」

 動きを封じられた中でゲアンの視界が、逃れられぬ恐怖で塗り潰されていく。彼の目を覚まさせるためにバドがそうした。とは言え、それは荒療治にしろあまりにも残酷すぎた。

「それは“真実”を映し出す鏡だ」

 もはやあの美しい“プリエッツェラ”の姿ではないモノに向かって、朗々たる声でバドが言った。

「キ……貴様、何者ダ……!?」

 髪や身体、衣服を残して、もっとも美しく、ゲアンが愛してやまなかったあの顔から崩れていった。ゲアンはもはやその顔を幻想の中でしか見ることができない。それどころか今見ている醜い化け物の姿のほうが、記憶の中に色濃く刻印されていた。プリエッツェラの衣装を身につけた、彼女とは異なるモノがその空間に踊っている、その光景が。

 ついにはプリエッツェラを形成していたもの全てが消え、彼女が居た場所に人でなきモノだけが残った。

「あれだけの美貌を手に入れるとは、どれだけ多くの人間を犠牲にしてきたことか……」

 左手首に嵌めていた革の腕輪を外し、バドはまた記号のような語句を紡いだ。

「“魔神召喚<リヴィト・エ・マシパト・ジニエ シクロ>”」

「ケッケッケッケッ。貴様ノ身体ニ乗リ移ッテヤル!」

 人でなきモノの中から楕円系の黒い影が飛び出した。ほぼ同じくして、バドの左手首の封印の印が光りを放つ。その光りが小さな魔法陣を形成し、その中から小さな頭のようなものがぬっと現れる。それが芽吹くように魔法陣の下から上がってきて、徐々にだが時間にして一瞬で拡大していき、ついには天井を突き破ったかと思うと、目の前に魔神が出現していた。頭部から腰にかけては人型で、関節と胴体の一部が固い鎧を纏ったような鱗状の組織に覆われている。足は無く、変わりに爬虫類の尾が発達して巨大化したようなものが蜷局(とぐろ)を巻いていた。その身体が腕を組んで宙に浮きながら、下にいる者を見下ろしている。

「何ダコイツハ!?……」

 言いようのないその魔神の威圧感に、同じ魔族であるはずのモノが、恐怖を抱き狼狽える。

魔神シクロよ、その魔物を闇に葬れ」

 低かったがその声が魔神に届き、魔神シクロは

「ハイ 御主人様(マスター)」と答える。その声はあまりに低音で悍ましく、室内をビリビリと振動させた。脳髄までもが揺さぶられる。

 勝ち目がないと判断した“影”が隙を狙って逃げようとする。その姿を魔神が見逃すわけなけがなかった。主人の命令は絶対。シクロが片手を天に掲げると闇の空間が出現した。まるで竜巻のように渦を巻いている。それが中央に大きく口を開けた。

「グア゛ア゛ア゛ア゛ア゛――――ッ!」

 その中に“影”が吸い込まれて行く。影は必死で逃れようと渦の中から頭部を出してはまた吸い込まれ、また頭部を出しては吸い込まれることを繰り返した。その度発する「ア゛ア゛!」「ア゛ア゛!」「ア゛ア゛!」という叫びが、耳に纏わり付くような不快感を与える。しかしそれは数瞬の出来事だった。やがて力尽きた影を渦巻き状の空間がペロリと平らげてしまった。中央の穴が塞がり、ただの渦を巻いた闇だけが後に残る。さらにそれをシクロが手も使わず、蝋燭の火を吹き消すようにふっと簡単に吹き消した。

「アイツハ闇ニ葬ッタ ダガコノ俺ヲ呼ビ出シタコトニヨリ オ前ノ寿命ハ更ニ縮マッタ……」

 嘲笑うように魔神がそう言い、バドは

「戻れ!」と魔神に向かって強く命令した。魔神シクロが不気味に笑いながら、光を放つ主人(バド)の手首の印の中へ帰っていく。巨大な身体が、光源となっている小さな魔法陣の中にすっぽり潜っていった。その姿が埋もれて完全に見えなくなると同時に光も消えた。バドの手首に印だけが残る。彼は素早くその印を隠すように革の腕輪を嵌めた。その直後――

「ぶほっ!」

 咳がバドを襲った。口から大量の血が吹き出す。彼は見開いた目で虚空を見ながら、乱れた呼吸を整える。

「!?」

 ゲアンの目も見開かれた。彼はバドの魔法で声が出せない。目の前で大切な親友が苦しんでいるのに何もしてあげることができない。バドが彼にかけた魔法は時間が経つと自動的に解ける魔法だった。しかしその間かけられた本人は、その魔法を解くことができない。

「はあはあはぁ……」

 バドがゲアンの側に行き、その魔法を解く。

「解」

 そう発した直後、脱力してバドの体が斜め前方に傾く。

「バド!?」

 すぐにゲアンが腕を伸ばして、彼の体を受け止める。

「ふっ、オレはまだ生きているな……」

 ゲアンの肩に凭れて顎を乗せ、バドは面白がるように自分の不幸を嘲笑った。

「アークの魔法も解いてやらないといけな……っ!」

 バドの喉にまた咳が込み上げてきて、虚空に血飛沫の花が咲く。

「悪いなゲアン、オレの咳のせいでお前の背中が血まみれだ……」

 バドが寄り掛かるのをやめて、ゲアンから体を離す。

「……」

 ゲアンが向き合って顔を見ると、バドの口の周りが血で汚れていた。彼のやつれた笑いが、ゲアンを絶望へと(いざな)う。

 何で、何でこんな……! 怒りと悲しみが同時に込み上げてきて、バドの行いも自分の行いも許せなくなる。

「バド、何故オレなんかの為にあんなことをした!? オレの命より、お前の命のほうがずっと大事なのに……。

 もともとオレはとうの昔に、道端で狼にでも喰われて死んでいてもおかしくなかった。それがここまで生きてこれただけでも充分だった。それなのにお前は、命を削ってまでオレを……

 お前に寿命を縮めさせてしまったオレに、生きる資格などない!」

 彼がそう叫んだ瞬間。バドの掌がしなって横に薙ぎ払われた。それが打撃となってゲアンの頬に当たる。強い衝撃で一瞬彼の顔が殴られた方向に歪み、その勢いで首もしなり、噛んでしまった口の中から滲み出した血が口の端から氷柱のように垂れ落ちる。ゲアンは殴られた頬を手で押さえて俯いた。

「目を冷ませ、ゲアン! お前にはこれから、オレができなくなってしまったことをやってもらわなくてはならないんだぞ? アークもレミアもまだ子供だ。面倒を見てやる必要がある。あいつらに何かあった時、お前は助けてやらなければならないんだぞ。お前がしっかりしなくてどうする。あの子たちを預かると決めた時点でお前にはその責任があるんだぞ? 過ぎたことをいちいち悔やんでいる場合か!?」

「……」

 ゲアンもあの二人とさほど歳は変わらない。バドもそれはわかっていた。だが、ここで彼が潰れてしまってはいけなかった。厳しいことを言ってたとえ憎まれようとも、バドは彼を立ち直らせなければならなかった。バド(かれ)亡き後のために……

「ゲアン」

 彼を殴ることは辛かった。すぐに謝って抱きしめたい。だがその甘さが、彼もバド自身も駄目にしてしまうかもしれない。曖昧にしてはいけなかった。言葉の持つ意味の重さを。

「命の重さを天秤にかけるな。オレの命も、お前の命も、どちらも大切な命だ。それなのにお前は、命を削ってまでお前を助けてやったオレを“無駄死に”させるつもりか?」

 困ったように眉を下げ、しかし笑ってバドは言うのだった。オレはお前を恨んでなんかいない。だからお前も笑え、と言うみたいに。

「今あるお前の命は、助かるべくして助かった命だ。それを助けなかったらオレは、たとえ今より長く生きられたとしても、“魂”が死んでいた。ゲアン、オレがお前を助けたことを責めないでくれ」

「バド、オレは……」

「もう言うな」とバドは片手を上げてゲアンを制した。じゃあオレはアークの所へ行ってくる、と言ってドアに向かう。

「待て、オレがやる!」とすかさずゲアンが呼び止めた。その時――

 建物全体が不気味に振動を始めた。天井から埃が降ってくる。地震か? しかし揺れは一向に治まらない。

「様子が変だ。早く二人を連れてここを出よう!」

 バドは部屋に張っていた結界を解除した。ドアノブに手をかけて動きが止まる。

「どうした、バド?」

 不思議に思ったゲアンが側に来ると

「っ……」

 バドが胸を押さえて動けなくなっていた。

「大丈夫か!?」

 とゲアンが彼の肩に手を乗せた。バドは何も言わずにその上に自分の手を重ねた後、我慢しきれなくなったのか、力尽きたようにずるずると床にしゃがみ込んでしまった。

「おい!」

 バドは苦しそうに胸を押さえながら、衰弱して瞼が下がった目で言う。

「先に行ってくれ……オレは後から行く。レミアとアークを頼む……」

「っ……!」

 自身に判断が下せずその場に足が留まってしまうゲアン。今ここでバドを置いて逃げるのは苦渋の選択だった。

「何をしてる。オレひとりにかまっている場合か!? もたもたしてると全員逃げ遅れるぞ!」

 建物が崩れてしまったらお終いだろう。誰一人として助からない。既に壁や天井のそこかしこに亀裂が生じていた。何かに掴まらなければ立っていることさえ危うい。

「オレのことはいいから、早く二人の所へ行ってくれ! オレは後から行くから心配するな! いざとなったらここを吹き飛ばしてでも逃げる。だから、二人を連れて、できるだけここから遠くへ逃げろ!」

 バドの必死の訴えにゲアンは奥歯を噛み締め、必死で自分の感情を押し殺した。

「絶対だぞ? 絶対死んだら許さないからな!?」

 死ぬなよ、バド! そう願い、彼に背を向けてドアに向かう。そしてドアを開けると

「レミア?」

 ドアの前に今にも泣き出しそうなレミアがいた。

「アークが部屋で動けなくなってるの。助けてあげて!」

「わかった。今行く」

 ゲアンがそう答えると、その肩越しに床に蹲るバドの姿を発見した。レミアの目が驚愕に見開かれる。

「バド!?」

 慌てて駆け寄るレミア。

「どうしたの、バド? なんでこんなに血だらけなの?……」

 袖口や服のあちこちに血のような染みができている。彼のそんな姿を見てすっかり動転してしまったレミアの体や声が震えた。

「レミア、ゲアンと一緒に早く逃げろ」

「……いやよ!」

 レミアは目をぎゅっと瞑り、頑なにそこから動かぬ態度を示した。

「キャッ!」

 その体をいとも簡単にゲアンが抱き上げる。

「降ろして!」

 言うのも聞かず、そのまま部屋を出ていく。

「降ろしてよ! バドがまだ部屋に残ってるじゃない!?」

 レミアが足をばたつかせて必死で喚き立てる。

「静かにしろ!」

 ゲアンが一喝した。その鋭い怒声が一瞬にしてレミアを黙らせた。彼女は驚いて茫然となり、抗うことも忘れたように大人しくなる。そのまま大人しくゲアンの腕に抱えられながら廊下を進んで行った。窓ガラスが割れ砕けて床に散乱していた。天井だけでなく壁が崩れ落ちて瓦礫が降ってくる。ゲアンはそれを避け、または身を挺してレミアを守りながら進んでいく。そしてアークの部屋にやって来ると、アークはギンギンに見開いた目で部屋に立ち尽くしていた。その目は脅えきっていたが、震えることすら敵わずに血走り、異常なまでの汗が顔や服を濡らしていた。ゲアンが「解」を唱えて魔法を解くと、アークは一瞬びくっとしてからすぐに口から言葉を迸らせた。

「先生!? オレ、バドに……」

「話は後だ。来い!」

 あの……。アークは同時に、レミアが何故ゲアンに抱き抱えられているのかなども気になったが、神経が張り詰めた状態のゲアンに聞く勇気がなかった。黙って付いて行くことにする。

 廊下が波打つように揺れていた。壁が軋んでみしみし鳴っている。もうすぐ建物が崩れていく。そう感じた。

「アーク、ぼうっとするな。出口まで突っ走るぞ!」

 ゲアンの声にはっとしてアークは頷くと、出口を目指して駆け抜けて行った。







 玄関の扉は何の抵抗もなく開いた。嵐が止んで嘘のような静寂が広がっている。家から飛び出し、アークが途中振り向いて背後を見ると長老の家がどんどん崩れて地面の割れ目に潜り込んでいくのが見えた。

「先生、バドは!?」

「いいから、黙って付いてこい!」

 事情を知らないアークは不服と不安の眼差しでゲアンを見る。もどかしさを抱えたまま彼に従って走っていった。長老の家から数百メートルほど離れた位置まできてやっとゲアンが足を止めた。レミアを降ろし、その隣にアークを立たせ、二人に「囲遮壁」の呪文を唱えてバリアを張る。

「いいか、絶対にここから動くな? 爆発が起こるかもしれない」

 言って一人、長老の家に戻って行く。家全体が大きく傾き、地面の割れ目に呑まれていく。

「バド!」

 周りを見渡すがバドの姿は見付からず、そうしている間にも家がさらに奥へと沈んでいく。既に半分以上が地中に埋もれた。

「バド――――ッ!」

 ゲアンがほとんど悲鳴に近い声で叫ぶ。もう一度叫ぼうとして息を吸った。

「まだいたのか!?」

 ふと聞き覚えのある声がしてゲアンは一瞬息を止めた。素早くその方向に顔を向ける。

「バド!? 生きてたんだな……」

 そこに親友の姿を発見して、ゲアンは深い安堵の溜め息を漏らした。しかし感動の対面とはいかなかった。バドの鋭い声が飛ぶ。

「レミアとアークはどうした!?」

「二人とも遠くで待たせている」

 一瞬目を丸めるが、落ち着いた声でゲアンはそう答えた。振動はまだ尚続き、地面が揺れ続けている。

「ここは危険だ! すぐに出るぞ!」

 二人は待たせている仲間のもとへ向かって駆け出した。町の建物などがどんどん崩れていくその光景は、模型が壊れていくように無機質なものに見えた。何かが足りない。

「妙だな。オレたち以外、誰も外に出てこないぞ」

 違和感を覚えてゲアンが呟く。

「悪の根源が倒され、魔法が解けたんだろう。オレの時がそうだったように……」

 遠い過去を見詰め、独り言のようにバドは言った。

 レミアとアークにかけた魔法を解除して、彼らは船に乗り込み海に出た。ビワールの町から遠ざかる。

「先生、あの家で一体何があったのかオレたちにもちゃんと説明してよ」

 アークにはわからないことばかりだった。突然バドに石のように固まって動けなくなる魔法をかけられたり、ゲアンが助けに来て魔法を解いてくれたかと思ったら今度はバドを置いたまま「逃げろ!」と言ったり。そもそもなんでそうなったのか。プリエッツェラや長老はどうなってしまったのか。二人はどこに消えたのか。謎だらけである。

「オレにもよくわからない」

「え、わからないってどういうこと?」

 予想外な返答をされ、困惑してしまうアーク。先程までいた町があった場所、それを覆っていた霧、それすらも消えてしまった。後にはただ空だけが見渡せる景色が広がっていた。まるであの町で経験した全ての出来事がただの夢だったかのように……。それを見ながらゲアンが言葉を紡いだ。

「あの家には魔物が住んでいた」

「マジで!? で、どこにいたのその魔物? その魔物ってどうなったの?」

「バドが倒した」とゲアン。

「マジで? でで、どんな魔物だったの?」

「お前たちも“会っている”」

 アークとレミアはそれを聞いてぞっとした。まるで幽霊でも見てしまったような心境になる。しかし好奇心旺盛なアークはおっかなびっくり尋ねた。

「誰誰? もしかして、やっぱ長老?」

「いや」とゲアンは否定して首を横に振った。そして冷然と

「プリエッツェラだ」

 そう告げた。

「……」

「嘘っ!? あんなに綺麗だったのに?」

 ゲアンから齎された衝撃の発言にレミアは言葉を失い、アークは少し残念がる。

「あの美しさは作られたものだった」

 その魔物に殺されかけた張本人でありながら、ゲアンは淡淡とそれを語った。

「じゃあ、本当はどんな姿してたの?」

「最後に見たのは黒い影だった」

「黒い影?」

「そうだ。あの美しい姿が真実の鏡を見た瞬間にドロドロに溶けていき、そこから黒い影が現れ……」

「そうだったんだ」

「その影がバドを襲い――」

 続きを言おうとした瞬間。

「もういいだろう、その話は! オレもお前も無事だったんだ」

 バドの鋭い怒声がそれを制止した。彼のその苛立つ様子を見たレミアは、何か暗い兆しが迫りつつあることを感じていた。




くさッ!と思わず鼻を摘んでしまいたくなるようなくさ〜い台詞を言わせるのが密かな愉しみです。今回は言わせまくり、キスシーン多すぎ?でお前は啄木鳥かっ!?って感じでしたが、いかがだったでしょうか?やっぱ不評だったかな…


ではまた会う日まで(暗い)

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