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第三十話:媚薬【前述】中つ国の使者

 夏はいよいよ本番を迎え、灼熱の太陽が身を焦がす。その中にいても肌が黒くならない日焼けとはほぼ無縁の体質のゲアンの白い肌は、夏空の下で異彩の美を放っていた。彼はこの日ドチュールと同じフェイカ大陸の南東に位置する国ビーシャに、ドチュールの使者として訪れていた。頼まれた文書を渡して手続きを終え、王宮の回廊を渡って出口に向かう。その途中で何人かとすれ違い挨拶を交わした。

「誰……」

 ドレスを身に纏った若い女性が、虚空を見詰めて呟いた。

「今の方は誰……誰なの、お兄様っ!」

 隣にいる彼女の兄らしき男性がそれに答える。

「ドチュールの紋章が見えたから、ドチュールの人間だろう」

「ドチュール……何をしてる方なのかしら。お名前は……」

 胸の前で手を合わせ、恍惚として溜息を漏らす女性。彼女の頭の中には、先程挨拶を受けた男性の顔が浮かんでいた。

「ああ、何ておっしゃるのかしら……」

 はっとして目を見開く。

「お兄様、聞いてきて!」

「え? 俺が……」

「早く! “あの方”が行ってしまうわ。お願い!」

「……」

 男性は不承不承ながらも、妹が言った“あの方”の所へ向かった。名前を聞いて戻ってくる。

「ドチュールの使者だそうだ。普段は民衆を相手に講師をしているらしい」

「まぁ、それでお名前は?」

「“ゲアン”というそうだ」

 妹はまた恍惚として虚空を見詰めて呟いた。



「ゲアン……」







 噂は国境を越える。ゲアンが使者としてビーシャを訪問した日のことが、ドチュールで王室勤めの女達の間でちょっとした噂になっていた。

「ビーシャの女がゲアン様に一目惚れしたらしいわ」

「まぁ、それで?」

「役人の兄に頼んで近付いたらしいわ」

「それでそれで?」

「あっさり振られたそうよ」

「まぁ、可哀相に」

「ゲアン様は“勇者”の使命を背負った独身主義者だから」

「あんなに魅力的でらっしゃるのに……美しすぎる勇者というのも罪なものですわね」

「本当――」

 “罪よね〜”と声を揃える女達。


 この噂を流したのはゲアンではない。更にその内容も事実とは多少異なっている。実際にはこうだった。ビーシャの女性が自分の兄に頼んでゲアンに声をかけさせた。その後女性は自ら近付き、ゲアンを食事に誘った。ゲアンはそれをやんわり断っただけで、彼女を振ってもいなければ、告白されてもいなかった。噂というのは怖いものである。

 その噂をドチュールに持ち帰ったのはある男だった。世界各地をぶらぶらと放浪しているその男は、各所で仕入れた(ネタ)を売って商売にしていた。その仕入れ先は酒場が多く、今回もそうであった。あの日ビーシャの女性の兄は、酒場に行った。そこに偶然居合わせた放浪者の男が聴いてしまったのだ。女性の兄は仲間と数人で飲んでいた。酒の酔いが回ってくるにつれて饒舌になっていく。その勢いで彼はぽろっと喋ってしまった。妹の話を。それを放浪者の男が偶然耳にしてしまったというわけだった。

 これは使える、と男は睨んだ。そしてこの噂をドチュールの噂好きな女に売り捌いたのである。男は、その後のことはなんの責任も負わない。話の内容がどう捩曲げられようとも。




このエピソード(媚薬)忘れてました。ネタ帳見て「あ?…」て気付き急いで書き直し…。前回とどう繋げるか悩む。

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