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第十五話: 《婿探し》 婿役のいきさつ【対戦の結末】

6・8あ、ありえない設定ミスに気付き、急遽修正しました!(汗汗) 剣を握っているのに“あの技”をさせてしまったので……

5.9 付け足した部分と思い出せず復元できなかった部分を足したら、消える前より3000文字近く減ってしまいました(T_T)  小ネタ(恋愛)も加えたので是非読んでやってくださいませ。

 ――こ、この光景は前にも見たことがあるぞ!?


 対峙する敵を前に、トレゾウの記憶の断片に彷彿とした何かが蘇る。

 そうだ! 蛇メタルに立ち向かうダムネズミ……

 あの時ダムネズミ(あいつ)は勇敢だった。適うはずもない敵を相手に怯むことなく立ち向かい――むき出しにしたあの大きな前歯を忘れはしない。今のオレが置かれている状況はまさにその時と同じ。

『蛇メタルに立ち向かうダムネズミ』とはまさにこのこと!

 勝手にことわざを作るトレゾウ。

 彼は自分を奮い立たせ、前進した。中段に構えた剣で、敵であるゲアンの下腹部目掛けて突き刺しにかかる。そこは鎧の保護がされていない箇所だ。

 その猛獣さながらの突進をゲアンは身を翻してかわし、それを予測していたトレゾウはそこで急停止すると

「っ!」

 そこからゲアンの身体を軸にして、階段を駆け上がるがごとく飛躍する。その時ゲアンの手首にトレゾウの体重が一気に圧し掛かり、ゲアンは顔をしかめ、思わず握っていた剣を手から離した。

「うりゃあぁぁああ〜〜っ!」

 その彼の脳天目掛けてトレゾウが剣を振りかぶる。

「キャ!」

 思わずレミアは目を瞑り、顔の前に両手を当てる。

「やっ!」

 パルファムも同じようにするが、開いた掌の指の隙間から目を丸くして覗き見ていた。

「……」

 馬車から見物する姫君は緊張と興奮が高まった。

「あっ?」

 アークだ。次に見た光景に釘付けになる。

「白○取りっ!?」

 ゲアンが頭上に振り掛かる剣を見事、その両手で挟んで受け止めていたのだ。

「キャー素敵よゲアン! 惚れちゃいそう〜〜」

「そんなこと言ってる場合じゃないんだけど」

 目をハートにしてゲアンに黄色い声援を送るパルファムに呆れて、冷たい視線を送るアークだったが

「あ」

 次にゲアンがとった行動に顔が歪んだ。

「痛い……たいたいたいたいたいたい〜〜!」

 思わず悲鳴が漏れる。ゲアンが両手で剣を挟んだまま、それを横に移動させたのだ。 

「くくくく……!」

 トレゾウが負けじと移動したその剣をゲアンの額に戻す。

「……っ」

 それをまたゲアンが額から遠ざけるように横に移動させ、トレゾウが戻し……が繰り返され

「ああぁぁあ……!」

 悲痛などよめきが巻き起こる。誰もがその光景に顔を引き吊らせた。ゲアンが剣を挟んだまま移動させる度に、その掌に鋭利な刃が食い込むようで痛々しかった。

 と、ふとした瞬間そこへ風が舞い踊った。それを正面に受けたゲアンの髪が舞い上がり、額をさらけ出す。 

 次の瞬間。ゲアンの手と手の間を剣が擦り抜け――

「あ」

 彼の額に直下した。

「キャアアァァ!」

 そこから鮮血が飛沫を上げ、溢れた血液が鼻筋を通って屈折し、頬を伝う。 

「いやっ!……」

 その惨事を見ていられなくなったレミアはその光景に背を向け、泣き付くようにジャスミンに身を預ける。

「待て!」

 審判役の兵士が鋭い口調で制止すると、対戦はそこで一時中断された。

 即、介添人のバドが治療に向かう。

「ザックリいったな」

 地面に座したゲアンの額患部を見てバドは苦笑した。直径5センチほどの傷口からは、ザクロのように赤い血がどくどくと流出していた。彼はそこに手をかざし、治癒魔法を放つ。徐々に傷口が塞がって行き、やがて完治すると王室が用意した清潔な布で血糊を拭い去る。

「ありがとう」

 治療を終えると早くもゲアンの意識は戦場へと向かっていた。さっそうと立ち上がる。

 本来の趣旨とは無関係に、彼はこの戦いを楽しんでいた。久方振りに出会った強敵に傷を負わされ、血が騒ぐ。彼の日に当たると金色を帯びるベージュ色の髪に残った血痕が生々しく、勇ましい。その髪が風に舞い、黒いスクエア型眼鏡の全貌をさらけだした。その奥にある切れ長で青い瞳に宿る勇壮な光が映し出される。それは彼が持つ『勇者』の肩書きには不似合いで、いささか冷酷そうにも見えた。かといってそれは決して邪悪なものではないはずなのだが、そう感じさせてしまうのは彼が持つその美貌が反映したためだろう。

 彼は戦場に向かって一歩を踏み出した。

「待て」

「?」

 呼び止められて振り向くと、バドが近付いてきて眼鏡を外した。

「何故、外す?」

 ゲアンは数回瞬きした。突然ぼやけた視界と不意にバドがとったその行動に困惑してしまう。

「掛けなくても気配で分かるだろ」

「そうだが……これでは、こっちが不利になるじゃないか」

 ゲアンは不満気に小首を傾げ、少し口を尖らせてバドを睨む。

 バドは彼に詰め寄った。

「こうでもしないとトレゾウ(あいつ)はお前に勝てない。――お前が勝ったら“意味がない”だろ?」

「……」

 確かにそうだった。この対戦は姫の婿を決定する最終関門と言っていい。トレゾウは姫のことを気に入っていたし、姫自身もこの対戦に勝てば彼を婿にすると言っていたのだ。ここはゲアンがトレゾウに勝ちを譲るのが妥当だろう。それで万事収まりが着くというもの。

 と分かっているのだが

「……」

 わざと負けることが不服なゲアンであった。瞳に不満の色が浮かぶ。

 すると不意にバドが何かを差し出した。

「?」

 受け取ったゲアンの手にずしりとした鉄の重みが伝わる。それは鉄製の兜だった。

「トレゾウ(あいつ)は一度痛い目に遭うと死に物狂いで反撃するからな。頭をかち割られないようにそれを被っておけ」

 こんなものを被ったら更に視界が狭まる上に、重さで動きまでもが鈍くなる。もしかして、バドはオレのことが嫌いなのか? 

 ふとそんな考えが思考の片隅を過ぎるゲアンだった。

「お前ら! 何をイチャついてる(?)」

 痺れを切らしたトレゾウの怒気を孕んだ声が飛ぶ。

「では、うまくやってくれ」

「……」

 悪意を持ってか否か、微笑でバドは送り出した。



 ゲアンは兜を抱えて位置に着くと、そこで兜を被った。途端、鉄の囲いが出現し、視界と音を遮断する。

「ほぉ、今度はそれを被って完全防御か」

 だから強くなったとは微塵も思っていないトレゾウの言葉だった。

 審判役の兵士が下がり、対戦者同士が剣を構える。

「始め」

 対戦が再開した。

「キェエェェ〜〜ッッ!」

 トレゾウの人間離れした(※妖怪です)裂帛の叫びが響く。ゲアンはまず防御体勢をとった。黙っていてもトレゾウの容赦ない攻撃が繰り出される。首だけを狙った連続攻撃だ。

 ゲアンは最初それを防御することしかできなかった。

 ――こういう状況に陥った時の訓練もしておくべきだったな……

 と苦笑し、今更ながらに痛感した。

 そんな彼に無邪気な破壊者トレゾウの攻撃が続く。疲れを知らないのか、その攻撃の手を一向に止めようとしない。それもでたらめではなく、確実に狙った部位を捕らえようとする。その時繰り出される“切る”、“刺す”、の連続攻撃を防御しながら、ゲアンは身体で感じとった。次第に迫る瞬間の微かな空気の流れ、気配を感知できるようになってきた。いつの間にか避けることは可能になる。このまま行けば……

 そう思ったが、“負けなくてはならない”と強く暗示をかけて思い止どまる。そんな彼の葛藤も露知らず、相変わらず勢いが止まらぬトレゾウだった。狙うのはやはり首だ。わざと負けるにしろ、致命傷を負わされることを避けたかったゲアンは、トレゾウから離れるように背後に引かれた線に向かって後退した。

「おっと、逃げるのはナシだぞ」

 それを許さぬトレゾウが飛来して前に立ち塞がり

「……っ!」

 思わず、頭の中で舌打ちするゲアンだった。



 その対戦が始まってから既に三十分が経過していた。制限時間を示す松明は未だ赤々とした炎をくゆらせているが、いつしか雲行きが怪しくなっていた。上空に暗雲が浮かび、地上に闇を作り始めたのだ。

「曇ってきたわね」

「……」

「遠くで雷鳴ってない?」

「やだ。私、雷が苦手なのに……」

「え〜〜っ、あたしも雷怖ぁ〜〜い!」

 それを見上げた仲間達から、不安の声が飛び交う。

 すぐさま伝言役の兵士が姫君の下へと駆け付け、帰途を勧めるが

「まだ遠くだし。続行して」

 と軽く受け流され、姫君はまたすぐに見物体勢に戻ってしまった。

 仕方なく兵士は引き下がり、対戦を続行された。

「あなたはどっちが勝つと思う?」

 兵士がいなくなるとすぐ、姫君は侍女に問い掛けた。

「……」

 侍女は言葉を詰まらせる。本当は王室勤めの女性にも好感度の高いゲアンを応援していた彼女だったが、今その意思を示すわけにはいかなかった。ゲアンはこの姫君を振った男だ。幸いにもこの時優勢なのはトレゾウであったし、その様子は剣術に疎い素人の目から見ても歴然としていた。もちろんこう答える。

「私は、あの少年が勝つのではないかと思います」

 少年とはトレゾウのことである。

 気持ちとは裏腹なことを言いながらも、そう答えた彼女の言葉に白々しさはでなかった。

「そうよね〜〜?」

 姫君の表情が輝いた。それは得意気で『私の目に狂いはなかった』とでも言いたげな、喜悦に満ちた表情だった。




 この間も雷鳴は唸りを上げていた。対戦も続き、位置を変えながらトレゾウは攻め続けていた。

「防御ばかりするな。つまらないじゃないか」

「……」

 トレゾウは駄々をこねた。玩具で遊ぶ言葉のように無邪気な調子ではあったが、ゲアンはそれを相手にはしていられない。


 ――あの線を越えなくては……


 その間も響いていた雷鳴は、地面や空が割れてしまうのではないかというほどの低い轟音を響かせ、すぐにまた伝言役の兵士が姫君の下へと駆け付けた。

「まだ行けるわよ」

 しかし彼女は強情で、淡泊にそう受け流されてしまった。そんな彼女のわがままに伝言役の兵士は頭を抱えるばかりだった。

 雷鳴はいよいよ本格的になって行くが、かえってそれはいい演出効果となってしまい、姫君マージュの闘争心を掻き立てた。気分は高揚し、盛り上がるばかりである。

「キャ!」

 侍女がつい悲鳴を上げた。ふいに白光が一帯に広がった瞬間だった。その後、間隔を空けてから雷鳴の轟音が鳴り響く。それは不気味に落雷が起きることを暗示させているようだった。姫君はあんな調子だったが側にいた侍女はすっかり怯えていた。落雷の度にびくっとしてしまう。

 そして、ふいにまた辺りに白光が広がった。その直後――

 今までにない凄まじい炸裂音とともに轟音の(やいば)が、ある一点に直撃した。ジグザグを天に描いたような、その見事な雷光が直撃した先は剣だった。

 天に向かって掲げられたその剣を握り締め、屹立するのはトレゾウだ。雷電の放射熱により、剣は墨化し、彼自身もまた鎧ごと焼け焦げ、煙が発生していた。彼はそのまま燃え尽きてしまったかのように直立不動となっている。

「なんてことだ!?」

「可哀相に。衝撃のあまり、身体が硬直してしまったんだな……」

 その姿を目の当たりにした者からは、そんな哀れむ声が上がった。

 誰もが彼の絶命を悟ったが……

「?」

 その身体が微動した。

「おぉ……」

「動いたぞ!?」

 左右に首を曲げるトレゾウ。

「周りに落ちると危険だから、避雷針になった」

 ケロッとした口調でそう言った彼だったが、身体には応えていたようで、顔を引き吊らせていた。普通の人間であればまず即死だったが、彼は妖怪である。その可能性をどこまで秘めているものか、彼自身も知らなかったが……ただものではないことは確かだ、ということにしておこう。

「生きてたぞ!?」

 周りにいた者はその生還を褒め称えるかのように感嘆の声を上げた。

 その様子を見ていた姫君はすっかり感動してしまっていた。

「なんて勇敢なの! 彼こそ私が求めていた理想の男性像そのものだわ……」

 と大絶賛だったが

「姫、それよりも早くここから離れないと危険です!」

 伝言役の兵士に叱るように促される。



 トレゾウは墨化してしまった剣を道具係に差し出した。

「これじゃあ使えない。替えてくれ」

 とツンとした表情で訴えるが

「馬鹿を言うな! この雷で続けられるわけがなかろう。試合は中止だ!」

 と叱責された。

「松明はまだ消えてない!」

 と反駁するトレゾウだったが

「松明は関係ない!」

 と一蹴され、あっさりとそれは棄却されてしまった。


 この後伝言役の兵士の懇願するような説得により、姫君がようやく折れ、その対戦は幕を閉じた。




 

 城に戻るとさっそく、姫君とトレゾウの婚約を祝う宴の準備がなされた。姫君はその身支度に、トレゾウも男性の召使に連れられて支度に向かった。トレゾウはぶっきらぼうな表情で召使いの後ろを歩く。白亜の壁が続いていた。この国の王の好みなのか、城内は白を基調とした造りが目立っていた。白い廊下を進む途中、壁に立て掛けられた何枚もの肖像画を目にした。下に歴代の王の名が記されている。それをぼんやり眺めるトレゾウは


 ――みんな同じ顔だ


 と思った。

 いくらか進み、まず案内されたのは風呂場だった。そこに入った途端、無言だった二人の男性召使いが口々に言った。

「どうしたらそうなるんです?」

「煙突からでも落ちたんですか?」

 トレゾウの煤けたように焼け焦げてボロボロの服と身体を見て、二人は疑問の表情を浮かべた。

「雷に撃たれただけだ」

 あっけらかんとした口調で言ったトレゾウのその話をどこまで信じて良いものか分からなかった二人は

「あはははは」

 笑っておいた。



「お前ら、いつもこんなにちまちまやってるのか!?」

 広い浴場でトレゾウの憤慨した声が反響する。彼の身体を入念にスポンジで洗う二人の召使いに切れていた。

「そうですが……何か?」

「無いのか!? ゴシゴシタオルっ!」

「?」

「?」

 二人の召使いはきょとんとした。

「ゴシゴシ……何ですか?」

「何ですか?」

 同じ言葉を返され

「お前ら双子かっ!?」

 余計に苛立つトレゾウだった。そんな悪戦苦闘を続けながらも、風呂から上がったトレゾウは、結果的にはもとの肌より白くなっていた。薄いガウンだけ着せられ、次に案内された部屋で正式な衣装に着替えることになった。さっきの召使い達がまた担当し、衣装を用意した。


 ――やっぱりこういうのを着せられるのか……


 用意されたのは白いタキシードとそのアクセサリー類で、そのことを窮屈にも感じたが、それよりも…… 

「……」

「……」

 急に無言になり、たんたんと作業を続ける二人の召使いがだんだん絡繰り人形に見えてきた彼は

「……っお前ら! 気持ち悪いから、何かしゃべれ!」

 そのことに憤慨した。

「しゃべれと言われましても……」

「何をしゃべればいいですか?」

「……っっ」

 噛み合わない二人の召使にすっかりペースを狂わされたトレゾウは、そのやり取りを完全に放棄した。




 主役の姫君とトレゾウが支度を終えて着席すると宴が始まった。それは正式な発表をする前祝いのようなもので、城内にいる者達だけで行われた。

「これでこの国も存続することができる」

「マージュも良い男性ひとが見付かって良かったわ……」

 国王は国の存続に安堵し、王妃は娘の婿が見付かったことを喜んだ。

 その宴は規模を縮小していながらも、充分盛大なものだった。広間に何台もの丸いテーブルを並べ、クリスタルグラスに注がれたワインやシャンパン、大皿に盛った鳥の丸焼き、色彩鮮やかな野菜や果物の盛り合わせが次々と運ばれる。それらを輝かせる天井のシャンデリアの灯。その煌びやかな光景に、目を奪われたのはアークだけではなかった。

「オレ達には贅沢すぎるよね? なんかちょー浮きまくりなんだけど」

 そう言いながらも損しないようにと喜びながら料理を味わうアークだった。

「クスッ」

 そんな彼を見ていつになく上品に笑うジャスミンだったが、口には出さないがらも食する度、感動の連続だった。

 この頃ゲアンは、国王に呼ばれて席を外していた。

「あ〜〜ん。ほら、口開けて。食べさせてあげる」

 地元か? というほど緊張感のないのはパルファムだ。彼はアール・グレイを新たな標的に、スプーンで苺を差し出した。

「いえ、結構です」

 大人の対応を心掛けるが、額から冷汗が出るアール・グレイだった。

「……」

 緊張してなかなか食が進まないのはレミアだ。頬杖を突いている彼女に優しい声が掛かる。

「これ、美味しいぞ?」

「えっ……?」 

 さりげなく気を配ったのはバドだった。年下で不安になりやすい彼女を和ませようとしたのだ。緊張を解きほぐそうと柔らかな微笑を送るが

「!?」

 レミアは悩殺されてしまった。彼女の大きな赤茶色の目が瞳孔まで開く。

「ん?」

 バドは小首を傾げ、その瞳を見詰めた。

「……!」

 しどろもどろになったレミアの目が泳ぎ


 ――直視しないで!


 声に出さずに目でそう訴える。

 彼の瞳は綺麗すぎたのだ。切れ長で透き通るようなグレーは、まるでガラス細工のようだった。深く入った目頭と全体を結ぶ鋭角なラインが鋭い印象を与えつつ、そこに男性的で大人の色気が混ざっている。それに三秒――いやもっと、見詰められた途端恋に落ちてしまいそうだった。

「……」

 その瞳が逸らされる。彼は軽く脇を見て笑った。

「?」

 レミアは何故そうしたのか分からず、困惑してその様子を見詰めた。

「どうしたの?」

 そう尋ねる彼女を見ずに笑う彼は照れていた。嬉しくて、つい幸せな笑みが零れてしまうのだ。だが、その真意を解せないレミアは不安気で泣きそうだ。それがまた可愛くて仕方ない。

「ふ……何でもないよ」

「?」

 レミアは首を傾げるが、いつの間にか気持ちが安らいでいた。




 姫君の隣りでトレゾウはやはり料理を楽しんでいた。彼は緊張というものを知らない。一国の姫君を横にしても食欲旺盛だった。

「このフルーツ、シュワシャワしてうまいな」

 とぼやきながら果物の盛り合わせをほとんど噛まずに飲んでいる。

「あんまり食べすぎると酔っちゃうわよ」

「へ?」

 姫君の言葉にトレゾウはフォークを握る手が止まり、ぽかんと間の抜けたような表情になる。

「そのシロップ、“お酒”が入ってるから」

「?」

 トレゾウは驚いた表情をしたはずだったが、酔っていたので瞼だけ置いて行かれたように眉だけ上がっていた。

「ひゃはははは!」

 それを見た姫君は馬鹿笑いし、はっとしてそれに気付いてから、恥ずかしそうに口許を手で隠す。

 和やかな時が流れ、このまま何事もなく無事にこの祝宴が終わるはずだったが――


 間もなく事態が急変する。それもあっけなく……




 相変わらずフルーツ盛りを食べ続けていたトレゾウだったが、次第に異変に気付き始めた。

 景色がブレる。焦点が合わない。何だか揺られているような感覚。意識が朦朧とし、声が遠くに聞こえる。その視線を姫君に移動させると



 笑っていない。


 歪んで行く。


 怯えるように


 目が、口が開かれる。



「あなた“誰?”」



 自分を見詰める姫君の絶望する表情がはっきりと目に映しだされる。 トレゾウはふと視線を下に移して驚愕した。

 フィンガーボールに映った自分のその姿は、トレゾウ――その人ではなく


 “ニナ”だった……



   

嗚呼、やっと10000アクセス超えた…orz


何故か前話のアクセス数があまり増えずに最終話ばかりが増え続け、その差がどんどん広がっていくという不思議な現象が……(-_-;)

できれば飛ばさないで読んでください〜(ToT)/

そこは繋がってますから〜!!(泣)

   

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