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第十四話: 《婿探し》 婿役のいきさつ【対戦の行方】

※復元済→消えてしまった次話のほうはほぼ復元したので、近日公開します。細部が変わってしまいましたが、前回触れなかった部分を加えたりしてるので再読していただけたら何よりですm(__)m

 松明たいまつが燃えていた。地面の安定する場所に台を据えてそれを刺し込み、審判役とは別の兵士が見張っている。松の根に染み込んだ松脂を燃料とするそれは持続時間が長いため、通常より華奢に加工されていた。制限時間はそれの寿命により決まる。風は感じるほどなかったが、それは僅かな空気の振動にも反応して滑らかに揺れた。燃料を燃やす弾ける音は、その命の消滅に向かって躍動しているかのようだ。

 互いになかなか一歩を踏み出さないゲアンとトレゾウ。双方の闘いもその火が燃え尽きるまでのこと。このまま終わってしまえば滑稽なだけだった。

 それが延々と続くかのように思われた。その立ち入る隙のない空間が不意に破られる。

 飛来した。

 先に仕掛けたのはトレゾウだった。地面を蹴り上げたのがいつなのか、凡人の目には確認できなかった。ゲアンの頭上に狙いを定めるその瞬間だけが、一瞬止まったように見える。と同時に、トレゾウが垂直に振り上げた剣に反射した太陽光が放射状に白光を撒き散らす。それを仰ぎ見たゲアンの眼鏡もまた、陽光を浴びていた。


“見るを聞き、聞くを見る”


 研ぎ澄まされた。

 

 視覚ではなく、聴覚とその他の五感を巡らせることで相手の位置と動作を感覚で捕らえ、瞬時に防御体制を整える。

 

 十代に入り、しだいに視力が低下したゲアンに師であるフォガードのその教えはハンデをより軽減させることに役立った。実戦は試合とは違い、どんな悪条件が待ち構えているかわからない。それが闇であったり、また獣のごとく気配を消した不意打ちであるかもしれないのだ。それに対応できるようにするのが“見るを聞き、聞くを見る”という教えだった。それは例え一つの感覚が閉ざされようとも、他の感覚で補えばいいということである。

 頭上に襲いかかる一太刀をゲアンは斜めに構えた剣で受け止め、鋼同士の衝突が青白い火花を散らした。

「あぁ……!?」

 アークやジャスミンはどよめきの声を漏らし、寡黙で冷静なアール・グレーは息を呑んでいた。それでも目を逸らさずに彼らはその闘いに見入っていたが、レミアは恐怖と不安で一刻も早くこの闘いが終わって欲しいと思った。どちらかが倒れるまで終わらないだろう。だが、どちらも死なずに終わって欲しいと願い。

「ゲアンでなければ、今ので死んでいたな」

 関心したようにバドはそう呟き、頼もしいその姿に賞賛し、期待を込めるような笑みを浮かべた。

 彼だけが両者の武勇を目にしたことがある。ここしばらくは目にする機会が無かったため成長のほどを知らないが、知りうる限りで二人の実力は甲乙付けがたいものだった。

 トレゾウの身体が引力に従い落下する。

 そして地面に着地しようとしたその刹那、片手に持ち替えたゲアンの剣が鋭い釜のように弧を描き、横殴りに振るわれた。

 誰もが真っ二つにされたトレゾウの無残な姿を想像する。

「殺す気か?」 

 トレゾウだ。冗談ではない、と顔を引きつらせている。左からの攻撃――自分の右に当たる方向からの一太刀を交わしたトレゾウは、瞬時にゲアンの右肩を軸に、ほぼ平行に飛躍していた。

 これこそ、人間とは異質の妖怪と化した彼に与えられた、並外れた身体能力の成せる技なのだ。

 そして今度こそ地面に足が付いた瞬間。

 防御が空いていたゲアンの左側を首筋目掛けて、トレゾウが斜め一直線に剣を振るう。

「ゲアン!?」

「ニナ……じゃなくてトレゾウ!」

 仲間達の絶叫に似た叫び声が飛び

「っ……!?」  

 “彼” の息が止まった。

 ゲアンはトレゾウの攻撃を鉄製の鎧の腕部分で防御し、トレゾウはゲアンの右に移動した剣の一撃を左脇腹にまともに食らい、それが肋骨に響いたため、一瞬の呼吸を止めたのだった。激痛に顔を歪ませ、目には涙を浮かべている。

「く……そ……っ」

 トレゾウは地面にくずおれた。

「トレゾウ!?……」

 仲間達から悲鳴に似た不安の声が巻き起こる。

 ゲアンは剣を地面に突き刺し、介添人のバドを呼んだ。

肋骨ろっこつか……」

 トレゾウの怪我の具合を看てバドが呟く。鎖帷子チェーンメイルを着ていたため大事には至らなかったが、見事に切り裂かれた皮の鎧が、鋭い剣の切れ味とその衝撃の強さを物語っていた。

「……くっ」

 トレゾウの口かられるうめき声は生々しく、その苦痛を伝えたように見ている者の顔までも歪ませた。

 バドは介添人のみ許可された治癒魔法を彼に施す。

 そして数分ほどして患部から手を放すと言った。

「もう大丈夫だろう」 

 それを聞いたトレゾウはゆっくりと上体を起こす。

「直った」

 けろっとした顔で彼は言うと確かめるように軽く飛び跳ねた。それを見た仲間達は安堵する。

 対戦を再開した。

「今度はさっきみたいな手には乗らないぞ!」

 長身のゲアンを鋭く見据え、トレゾウは宣言した。

 眉を吊り上げ、人差し指をゲアンに向けて突き出す。意気込んだその強い眼差し、様子ともにどこか憎めない。そこはやっぱり“ニナ”と同じだ。

「痛いのは嫌いだからな」

 続けて真剣にそう言ったのはギャグではない。本人はいたって真面目だった。

「……」

 ゲアンは一瞬無表情になるが、ふと鼻で笑った。

 それに不快感を覚えたトレゾウは鋭い眼で睨み返す。

「何で笑う?」

 その問い掛けがゲアンには何故か少し愉快そうだった。

「身体はある程度、痛め付けたほうが強くなることを知っているか?」

 その発言に思わずトレゾウは眉を潜めた。

「お前そんなキャラだったのか……?」

 訝しげに、そして退き気味にゲアンを見詰め、完全に警戒しきっていた。

「勇者がそんな残酷なこと言っていいのか? 勇者が人をいたぶっていいのか!?」

 最後の言葉は吠えていた。それは強い警戒心の表れだ。

 彼は実戦では負けたことがほとんどない。それは―― 

 “痛いのは嫌いだから”まさにそれが理由だった。そうならないようにと今までやられる前に敵を打ちのめしてきたのだ。そして、この男――ゲアンとはもうやりあいたくはなかった。やればまた痛い目に遭うと確信してしまったからである。

 はたから見ても完全に逃げ腰のトレゾウにゲアンは微笑した。

「これは試合だからな」

 実に愉快そうだった。その笑みがトレゾウには、だんだん悪魔の微笑に見えてきた。

「お前……っ、本性を現したなっ!」

 大魔王にでも遭遇した時のように鋭くそう吐き捨て、勇敢に剣を構えたトレゾウだったが……

「はっ!?」

 そうしてみて初めて気が付いた。

 ――はめられた!?……と 

 しかし、気付いた時には遅かった。ゲアンの構えた剣と視線は完全にこちらへと向けられていたのである。

 


(下記)いつだったかこんなこともありましたが、再執筆し終えましたので、続けてお読みになれます。↓↓

※5・6 本日誤って投稿済みの第十五話を削除してしまいました。現在記憶を辿りつつ、再執筆中です。大筋・結末などは変わりませんが、記憶の範囲内なので細部が変わってしまうと思います。途中までしか読んでいなかった方ごめんなさい!(T_T)号泣

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