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第十一話: 《婿探し》 婿役のいきさつ【声】

 バドが部屋に戻るとパルファムはベッドから手足をはみ出して豪快なイビキを立てていた。ゲアンは静かに目を閉じて眠っている。バドはドアを閉めた。するとゲアンが寝返りを打ち、瞼を開けた。

「悪い、起こしてしまったか……」

 バドは静かに詫びた。するとゲアンはベッドから起き上がり、眼鏡をかけるとドアまで歩いて来た。

「どこへ行くんだ?」

「付いて来てくれ」

 ゲアンはそう答えたが、無表情で意思もなく動いているようだった。

「おい、待て!」

 ゲアンは黙って受付を通り過ぎて行き、慌ててバドは店員に外出許可を得る。

「ゲアン!」

 店を出ると闇夜に消えかけたゲアンの後ろ姿が見えた。近辺に佇む店は全て閉店し、家々の窓からは僅かに灯が漏れていたがそれ以外は闇に包まれていた。道の脇に一定間隔で並ぶ街頭が灯っていたが赤い石畳は闇に溶け込んでおり、だいぶ視界が悪かった。その闇の中をためらいもなくゲアンは突き進んで行く。バドはそれを奇妙に感じていたが黙って付いて行ってみることにした。

「?」

 やがてゲアンは足を止めた。そこは町外れの教会で、彼はその扉を開けて中へと入って行く。そこは無人の廃墟だった。

「何故こんな所を知っている? ここへ来たことがあるのか?」

 そうとしか思えなかったが

「いや、初めてだ」

 ゲアンは否定した。

「何故ここへ入ったんだ?」

 再びバドは尋ねるが

「分からん」

 ゲアンはそう答えた。部屋の中は暗く、僅かに月明りが窓から差し込んでいるだけだった。冷たい空気と静けさが漂う。時間が経つに連れ目が慣れてきて、ぼんやりと室内が見えて来たが灯がないとほとんど何も見えない。ゲアンが動きだし、しゃがんで何かを拾った。それは蝋燭だったらしく、手をかざして魔法で彼は火を灯す。

「よく、そんなもの見付けたな」

 バドは思わず感心したが

「何もかも“この時のため”に用意されている」

 淡々とだが意味ありげにゲアンは言った。

「この時のため? どういうことだ」

 バドは不思議に思い、尋ねるが

「そんな気がする」

「……」

 何だ気のせいか? と問い詰めるのをやめた。

 ――風が吹き抜ける。窓が軋む音が響き、どこからともく不思議な声が聞こえて来た。



『ゲアン、そしてバドよ……』



「フォガード!?」

 バドは叫んだ。懐かしいその声は彼らの師の声だった。ゲアンはやっと目が覚めたように鈍い反応を示す。


『そうだフォガード(私)だ。私がゲアンの身体を操り、ここまで“誘導”した』


「そうだったのか……」

 どうりで様子がおかしかったはずである。


『いいか、よく聞け』

 フォガードの低く凛とした声が風が吹き抜けるように不思議な響きを立てる。バドとゲアンは冷静にそれを聞いていた。


『私はこの世に存在しなくなった』


「!?」

 その言葉は衝撃的だった。


『私は異世界で魔物と戦うために肉体から魂だけ抜けだしていた。それがあまりに長引いたため、我が身は朽ち果て、屍となった。そしてあの世へ行き、そのことにより力を増した』


「死んで力が増したのか?」

 

『そうだ』


「……」

 それについてバドは何か考えを巡らすように沈黙した。

「バド?」

 くうを見ながら思いに耽る彼の表情から、それが思わしくないことだとゲアンには予想が付いた。



『忠告しておく』



「何だ?」

 ゲアンが鋭く聞き返す。


『どんなことがあろうと惑わされるな』

 それは漠然としていたが彼らの心に強く響いた。


『信じる心を失った時、“ひずみ”が広がり魔物がやって来る』



「歪みとは何だ?」



『空間がゆがめられて出来たものだ。その歪みに邪悪な念が溜ると魔物が誕生することもある』 


 ゲアンの脳裏に過去の記憶が過ぎる。

「もしかしてドチュールの……!?」 (※第二話参照)



『そうだ』


 あの時遭遇した魔物はまさにそれだったのだ。人間の邪悪な念により生まれた――魔物やつはそう言っていた。それが特殊な現象ではなく……こうしている間にもどこかで邪念により生まれた魔物が猛威を奮っているのかもしれないということなのか。

――途方もない話よ

 そう言っていたのは単なる脅しではなく、事実だったというのか? やはり“あれ”で終わりではなく……

「その歪みを塞ぐことは出来ないのか?」

 悲劇を食い止めなくてはならない。そのためにゲアン(かれ)は勇者になったのだ。希望を捨ててはいけない。その方法さえ分かれば……



『――残念ながら、それは不可能に近い』

 返ってきたのは絶望的な答えだった。



「何故だ!?」

 ゲアンは聞き返す。



『その歪みを塞ぐには、この世から邪念を一切絶たねばならないからだ』



「……」

 ゲアンは言葉を失うが、バドは冷静だった。

「その歪みは何故出来たんだ?」



『魔物がこの世界に入れるよう……“人間”が作った」


 二人は驚愕した。

「人間が……!?」

「どういうことだ!?」



『人間の中には魔術を使う者が存在する。それを欲や恨み、憎しみを晴らすために禁断魔法で魔物を呼び出し、それを何度も繰り返すうちに異世界とこの世界との間に歪みが出来たのだ』



「フォガード、あなたがこの世にいなくなった今、オレ達にこの世界を救うことはできるのか!?」

 ゲアンは声を荒げた。



『惑わされるな!――言ったはずだ……どんなことがあろうと惑わされてはならない。お前達はこれから邪悪な魂に導かれ、悪の根源へと向かうことになる。それにより救われる者もあるだろう。しかしそれは全ての人間ではない。お前達にできることは魔の存在を減少させ、侵略を阻むこと。誰もがこの状況を人間が悪化させたと認めはしないだろう。だがお前達がしようとしていることを無駄だと思うな!必ずそれを――天が見ているのだから……』

 フォガードの声はそこで途切れた。





是非、次話も御覧くださいませ〜☆

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