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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
北の国『カイド』
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明滅覇陣烈閃光

 ソフィアとの邂逅から時は遡る。

 雄介は襲い来るサメを退けた後、体の痛みに耐えながら川から上がり、四つん這いになりながら自らの行動を後悔していた。


「クソ……ひりひりする。学ランも消し飛んじまったしズボンは濡れてて寒い……踏んだり蹴ったりだ」

「さっきまでのあのテンションはどこに行った……それより、今のあの技は一体なんなんじゃ?」


 ゴンザレスは雄介の使用した技が気になって仕方がなかった。自分の魔法が全く効かなかった相手を、わずか数秒で跡形も無く消し去ったという点もだが、他にも突如半裸になっていたりと不可解なことが多すぎた。


「ちょ……ゴンちゃん後にしてくんないかな?今そんな余裕が……ゴンちゃん回復魔法とか使えない?」

「生憎じゃが回復魔法は使えんなぁ。回復魔法の使い手はかなり数が限られ……ん?」


 何かに気がついた様子で、遠い方を眺めだしたゴンザレス。雄介は「くそっ、オロナイン……オロナイン的な物この世界にあるかな?」と呟いていた。


「おいユースケ。なにやら遠くの方で魔物が大量に移動しとる。何かあったのやも知れんぞ」


 ゴンザレスの敵探知にどうやら何か引っかかったらしい。しかし、雄介は怪訝そうな顔でゴンザレスを見る。


「ほんとかよ? さっきダメダメだったじゃん?」

「な! 今度は間違いないわい! さっきのはあれじゃ……たまたまじゃ! それより行くぞ!」

「え!? どこに? あとなんで?」


 ゴンザレスの突拍子の無い発言に雄介は戸惑いながらも立ち上がり問う。


「恐らくこの動きは何かを追っておる。ワシらのような旅人が襲われているのやも知れん。見に行くぞ」

「えー……やも知れんって……体が痛くてしばらく動きたくないんだけど」


 雄介は拒否しようとするが、ゴンザレスは聞く耳を持たない。雄介の顔の前まで移動し、右手の人差し指をピっと立てながら前に突き出す。


「困った時はお互い様、という言葉があるじゃろう。とりあえず見に行くだけじゃから行くぞ!」


 雄介がやっぱりどこの世界でもその言葉あるのかとのんびり考えていると、突如体が浮き出した。ゴンザレスの風の魔法だ。


「うわっ!! 寒い!! ちょっと待て!!」

「問答無用!」


 ゴンザレスは何やら雄介がギャーギャー言っているが全て無視し、無理やり雄介を連れ、魔物の下へと向かった。


 そしてとある平原の上空へと辿り着いた雄介とゴンザレスは、フードを被った人物が大量のゴブリンの群れから逃げているところを発見する。

 ゴンザレスはプルプルと震えている雄介に声をかける。


「ユースケ! 見ろ、あれを! 誰か襲われておる! 剣を背負っているところを見るに冒険者じゃろうか。助けに行くぞ!」

「くっそ寒い! ちょっと慣れてきたけどまだ寒い! でもここまで来たらなんか逆にテンション上がってきたぜゴンちゃん!」

「その意気じゃ!」


 寒さと痛みで壊れ気味のテンションになってきた雄介。先程それで痛い目を見たのに懲りない男である。そして二人は作戦を立てる。


「もう一発ぶっ放してやるよ! ゴンちゃん! 俺は地面に降りたらあいつを上にぶん投げる! そしたらゴンちゃんは風の魔法で俺の真上にあいつを運んでくれ!」

「承知!」


 そこまで話したところで、冒険者が躓いたのか転倒してしまった。一刻を争う事態に二人は慌てて行動に移す。


「ゴンちゃん! 降ろしてくれ!」

「よし行け!」


 ゴンザレスは風の魔法を解除し、雄介をゴブリンの前に降ろす。勢い良く降ろしたのでズズンという大きな音と共に砂煙が舞い上がる。その音と砂煙にひるんだのか、ゴブリン達は足を止めこちらを警戒するように見ていた。

 

 視界が晴れていく。冒険者の下へすぐさま駆け寄った雄介はそのままその体を素早く抱え上げ、上へと放り投げた。


「ゴンちゃん!! 頼んだ!!」


 冒険者が何か言っていたが、雄介のテンションは最高潮に達しており、耳には全く入ってこなかった。雄介はゴンザレスと冒険者が自分の真上に移動したのを確認し、忍法を発動させる。


「忍法! 『明滅覇陣烈閃光』!」


 その瞬間、雄介の体は光を放つ。体から百万を超える細かいレーザーが四方八方に射出され、周りの全てを削り取っていく。

 ゴブリン達は一瞬のうちに全滅。地面を抉り、遠くの森をも巻き込んでいた。

 空へも乱れ飛んでおり、直撃した鳥が何羽か蒸発していた。安全な場所は雄介の頭上の限られた一部分だけだ。

 そしてレーザーの射出が収まり、静寂が訪れる。雄介は何も言葉を発さず、その場に立ちつくしていた。


「君は……一体何者なんだ?」


 後ろから声をかけられ、雄介は振り向く。そして自らの行動を全力で後悔しながら声を絞り出した。


「グスッ……エグッ……あ、あのぉ……ゥッ、うぅ……オロ、ナイン……もっでばぜんがぁ……?」


 雄介はギャン泣きしていた。表情こそ見えないが冒険者はおそらくドン引きしていることだろう、どことなくそんな感じが出ていた。せっかく助けたのにあんまりではないかと思いつつ、雄介は言葉を続ける。


「グスッ……うし、切り替えろ俺……やぁ、怪我はありませんか?」


 雄介としては最大限の爽やかな笑顔を浮かべて言ったつもりだったのだが、痛みのせいか笑顔は完全に引きつっているし、上半身は裸でプルプル震えている。どう考えても格好悪い、むしろ気持ち悪い。


「なに今更格好つけとるんじゃ。全然決まっとらんぞい」


 そう言ってゴンザレスが呆れた顔で降りてくる。ゴンザレスはそのまま雄介の隣に移動し、冒険者の方を向く。


「お初にお目にかかる。ワシは妖精のゴンザレス。そしてこっちの気持ち悪い男はユースケじゃ。世界を旅して回っておる。お主の名を尋ねてもよいかの?」

「じじい! 誰が気持ち悪いだって!? ちょっと自覚あるんだから余計に傷つくだろうが!」


 そんなやり取りをしていると、冒険者はクスリと笑った。そしてフードを取り、顔を見せる。


「僕の名前はソフィア。ソフィア・スチュアート。騎士になるため、王都に向かう途中なんだ」


 雄介は一瞬で目を奪われた。鮮やかなショートカットの金髪に碧眼、なのにどことなく顔つきは東洋人に近い。整ったその顔立ちはまるで二次元の美少女キャラがそのまま画面から出てきたようだった。

 

 ぶっちゃけかなりタイプだ。その澄んだアルトボイスは耳に心地良い。そしてよく見ると小さく、身長は150センチ程度というところだろうか。そして一人称は僕……とそこまで考えたところで雄介はある可能性に気づいた。


(ん? 最初は超絶美少女かと思ったが……これ超絶美ショタの可能性もあるのでは?)


 まさか、と思いチラリとソフィアの胸の方を見たが、案の定ペタンコだった。


(おいおいまじかよ! 俺のボーイミーツガールは? いや待て、まだ貧乳のボクっ娘という可能性が……)


 雄介は頭を悩ませた。さすがにショタに手を出せるほどの上級者ではなかったからだ。「くそ! もうちょっと修行を積んでいればショタにも覚醒できたかもしれないのに!」と後悔しているとゴンザレスが声をかけてきた。


「ユースケ、ええ加減に説明してもらうぞい。さっきの技は一体何なんじゃ?」

「ああ、そうだよ。僕も気になっていたんだ。あんな技を使えるなんて君は一体何者なんだい?」


 ゴンザレスに続けてソフィアも質問を飛ばしてくる。雄介は思考を一旦中断して説明に応じることにした。足を肩幅まで開き、胸を張り堂々と答える。


「俺は史上最強の忍者だ! そんでさっきの技は……うん、技名はあんまり触れないでおいてくれ」


 忍法、『明滅覇陣烈閃光』


 オ雄介が中学二年生の時に考えたリジナルの十の忍法。ネーミングの痛々しさは考え出した時期からしてお察しである。

 

 これは上半身の毛穴という毛穴からレーザーを四方八方に射出するという恐ろしい忍法だ。人間の毛穴は全身に約五百万個あるという諸説があり、上半身だけでもかなりの数だ。現代兵器も真っ青である。

 

 そしてもちろん欠点があった。レーザーが毛穴から射出される……厳密には毛穴の奥からではなく表面から射出されており、体に直接触れている訳ではないが、簡単に言えばレーザー脱毛のようなものだ。

 周辺組織が焼かれ、上半身を針で突き刺されたような痛みが襲う。毛はツルツル、そして服を着ていたらもちろん弾け飛ぶ。

 

 しかも今回は短期間に二発も使ったので、毛穴へのダメージは凄まじかった。思わず泣いてしまった。しかし生物が蒸発するようなレーザーを放っておいてその程度で済むのだから忍法さまさまと言うべきか。


 唯一の救いはこの忍法を完成させる前、髪の毛と眉毛が危ういと気づき、範囲を上半身(首から下)にしておいた事だ。

 

 技名を伏せてそこまで説明すると、二人は苦笑いしていた。


「やっぱりいろいろとデタラメじゃなぁお主」

「うん。にわかには信じられないけど……でも目の前で起こったことだし……というか忍者って?」


 ソフィアは雄介が異世界から来たことをまだ知らないので、当然そんな疑問を雄介に投げかける。


「あー……そうか……どっから説明しようかね?」


 頬をポリポリと掻きながら雄介は考えた。


(そういえば、今まで一気にここまで来たから疑問にすら思わなかった。俺の忍法って一体なんなんだ?)


 どういった原理で発動しているかなどさっぱりわからない。この世界で言う魔法のようなものか……しかしそうだったとしても元々魔法なんて雄介は使えない。それに二人の様子を見るに、これは相当変わった力のようだ。

 

 雄介は一度整理してみることにし、今の疑問も交えこの世界に来た経緯をソフィアに話した。


「んー……異世界から……ね」

「まあワシも最初は信じられなかったがの。それでユースケの技についてじゃが、わからん。元の世界に帰る方法と同じく今は情報が少なすぎるわい」

「だよなぁ」


 三者で頭を悩ませていると、雄介は先程スルーしていた発言をふと思い出した。


「そういえばソフィア……さん?」

「ソフィアでいいよ。なに?」

「んじゃソフィア。騎士になりたいんだって?」


 自分で言ってハッと気づいてしまった。騎士ということはますます男の可能性が高い。


(とうとう覚醒の時が来たか……)


 雄介がそんな覚悟を決めていると、ソフィアは頷いて質問に答えてきた。


「うん、そうだよ。そのために王都に……!? しまった!!」


 初めは笑顔で話していたのだが、急遽何かを思い出したように大声を上げたソフィア。雄介とゴンザレスは驚いてどうしたのかソフィアに尋ねる。


「どうしたんじゃ?」

「なんか、なんとなくわかってしまったんだが、一応聞いておこう」


 ソフィアはわたわたと慌てながら答える。


「明日! 明日正午に王都が騎士団で六日間歩いて入団試験が!!」

「なに言っとるんじゃ!?」


 なんとなく事情を察した雄介がゴンザレスに内容を翻訳する。


「明日の正午に、王都で騎士になるための試験があるんじゃねえの?」


 ゴンザレスはチラリとソフィアの方を見た。ソフィアは慌てながらも懸命に首を縦に振っている。間違い無さそうだ。


「王都ってどこにあるんだ? ゴンちゃんは……森にずっといたから知らないか」

「いや、これでも長老になる前はいろいろな所にお忍びで行ったからなんとなくわかっとる。それにこの鞄には一応地図も入れてきたからいざとなったらこれを見ればええじゃろ」

「服の替えだけじゃなかったのかその鞄……あー、そういえば俺、鞄さっきの川に置いて……いや、レーザーで吹っ飛ばしたんだった」

「しかし王都か……かなり場所が離れとるぞ? なぜお主はこんなところにおるんじゃ? あととりあえず深呼吸したらどうじゃ?」


 ゴンザレスの言うことに従い、深呼吸をするソフィア。少し落ち着いたのか、ゆっくりと恥ずかしそうに口を開く。


「その……実は迷ってしまって……」

「……ちなみにどのくらいさまよっとるんじゃ?」


 ソフィアは俯き、黙って左手を広げ、右手の指を一本立てた。それを見てゴンザレスは一瞬考え、唖然とする。


「この近くに六時間で辿り着けるような町は無かったはず……っということは六日!? 六日も迷っとるのか!?」


 ソフィアはシュンとした様子で力なく頷く。どんどん小さくなっていってるように見える。このまま消えてしまうんじゃないないだろうか、と見かねた雄介が口を開いた。


「魔法でぶっ飛ばせば間に合わないか? ゴンちゃん」


 ソフィアもフッと顔を上げ、ゴンザレスの方をどこか期待の篭った眼差しで見つめる。それに対し、渋い顔でゴンザレスは答える。


「正直わからん、今からじゃと……間に合わんかも知れんな」


 それを聞き、ソフィアは肩を落とす。しかし逆に雄介は体が痛むにも関わらずまたおかしなテンションになっていた。


「それは間に合っちゃうフラグだぜゴンちゃん! さぁ行こう! さっさとするんだ! 折っちゃうよ? フラグごとバッキバキにしちゃうよ?」

「な!? 待て! お主その技は反則じゃ!」


 指パッチンをしようとする雄介をゴンザレスは慌てて止める。するとソフィアがポツリと呟くように言った。


「いや、いいんだ。間に合うかもわからないのに会ったばかりの人を巻き込むわけには……また、来年頑張るからさ……助けてくれてありが……って!?」


 いつの間にかズボンのポケットからガムを取り出していた雄介はそれを素早く口に放り込み、立ち去ろうとするソフィアを抱え上げた。お姫様抱っこだ。ソフィアが男である可能性は捨てきれないが、この際気にしないことにした。

 

 素早くばるーんを展開すると、雄介はゴンザレスの方をチラリと見た。ばっちり伝わったようでゴンザレスはニヤリと笑って頷き、風の魔法を発動した。

 ソフィアは抗議の声を上げたが、その声も風に掻き消される。


 三人は風に吹かれ、王都へ。


 ちなみに強く抱きかかえられ、ソフィアがほんのり頬を染めていたことを雄介は知らない。

 

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