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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
北の国『カイド』
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フラグ・ブレイカー

 雄介とゴンザレスは侵入者の下へ向かうべく森の中を歩いていた。実戦の経験など無いというのに雄介からは緊張が窺えない。


「で、相手の数は?」

「十人じゃな。恐らくなかなかの手練じゃ」

「……割と多いな。なあそういや、ゴンちゃんって戦えんのか?」


 雄介は隣で飛んでいるゴンザレスを見やりながら尋ねた。その質問を受けてゴンザレスは不敵に笑う。

 

「見くびるなよ? ワシはこう見えても若い頃はブイブイ言わせとったんじゃ!」

「若い頃っていつ?」

「六百年前ぐらいかの」

「途方もねえな!! そしてやっぱりジジイじゃねえか!!」

「なんじゃと!?」


 ギャーギャー言い合いながらそのまま歩き続けていると、敵らしき集団が見えた。全員頑丈そうな鎧を身にまとい、腰に長剣を提げている。

 

 雄介とゴンザレスは不思議に思った。あんな重装備で砂漠を越えることなど不可能に近い、それに全員疲弊している様子が見られなかったからだ。


「おいおい……あの格好でここまで来たのか?」

「むぅ……妙じゃな……何かに乗ってきたとしてもあの装備じゃ熱に耐えられんじゃろうし」


 対する相手の軍勢もヒソヒソと何か会話をしている。そのままお互い警戒しながら一歩ずつ近づき、ある程度の距離を残して立ち止まった。そして先頭の男が口火を切る。


「やあやあこれはどうも。先客がいたとはね。君はなぜこんなところにいるんだい? 少年」


 先頭の男は鎧に他の男とは少し異なった装飾をしている。状況から見てもこの集団のリーダーはこの男で間違いないだろう。

 

 この男は金髪の長い髪を後ろで一つに束ねており、その目つきはいやらしく陰険さを感じさせる。その見た目だけならまだしも、キザったらしい口調と言い回しが鼻につく。

 一言でいけ好かない男だと判断した雄介は、吐き捨てるように言った。


「迷いこんじまってね。それで? あんた達は何しに?」

「迷いこんだ? ここに? ……君には関係の無い事だ。今なら見逃してあげるから大人しく出て行くといい」


 面倒な相手だ、なかなか口を割りそうにない。


(こういう一発目の敵はコテコテのやられ役が来るのがお決まりだろうが。見られたからには生かしておけないとか、冥土の土産に教えてやるとか言えや)


 雄介はそう内心で舌打ちしながら、尚も強気に続けた。


「……埒があかないな。とりあえず無力化してから無理やり話を聞きだすパターンに変更だゴンちゃん!」

「……最初からそのつもりじゃったろうが」


 それを聞いた敵の男はニヤリと顔を歪め、笑い出した。


「ククク……じじいの妖精とガキで我々相手に何かできるとでも?」

「できるんだなそれが! なぜなら俺は最強の忍者、猿飛 雄介だからな! あとこの妖精はゴンちゃんだ!」

「ゴンちゃん言うんじゃない!」

 

 雄介は両手を広げ、大仰に振舞いながら名を名乗る。そして隣から聞こえてきたゴンザレスの言葉を無視して尋ねた。


「さぁこっちは名乗ったぜ。そっちも名前くらい教えてくれよ」

「いいでしょう。冥土の土産に教えてあげますよ」

 

 男はそんな雄介の思惑通りの言葉を口にした。雄介はニヤリと口元を歪めるが、男はそれに気づかず名乗り始める。


「我々はこの世を人間だけの真の理想郷に創り変える崇高なる組織『スクラン』! そして私はその幹部、ジャック・グティレス! 基本、人間には手を出していないのですが、我々の理想のために邪魔をする者は死……」

「名乗りが長いんだよ!!」 

「ええ!?」


 このジャックという男、思ったより自分の世界に入り込んでしまっているようだ。恥ずかしくはないのか、と雄介は思わずツッコミを入れてしまった。そして気を取り直し、ジャックに向けて宣言する。


「それにもう勝負は着いちゃったんだなぁ、これが」


 雄介は右手を顔の高さまで持ってきて、親指と中指を軽く合わせる。指パッチンの体制だ。ジャックは笑みを崩さない。


「勝負は着いた? くだらないハッタリだ。まだ何も始まっていないじゃないですか」


 隣のゴンザレスも雄介の考えが読めずに、様子を窺っている。そんな2人に雄介は大声でこう告げた。


「お前のフラグは頂いた! くらえ! 忍法『フラグ・ブレイカー』!!!」


 そう言って雄介はパチンと指を鳴らした。そうすると、スクランの連中の方からなにやらベキッ、ゴキッ、バキャッと鈍い音が鳴り出し、ジャックを含める全員が悲鳴を上げた。


「なんじゃ一体!?」

「うわぁお……自分で考えといてなんだけど結構えげつないな……骨折れる音ってこんなんなのか」

「ええから説明せい! 今何が起こっておるんじゃ! そしてこれワシの出番無くなるんじゃないかの!?」


 忍法『フラグ・ブレイカー』


 雄介が中学三年生の時に考え出した十の忍法の一つ。


 これは目の前で何か明確なフラグを立てた者、立った者の『骨』を指パッチンする毎にランダムにへし折る、という忍法だ。

 フラグではなく骨が折れる。恋愛フラグを完全スルーするイケメン鈍感野郎には死を、というテーマの下に作成された。


 使用可能時間はフラグを立ててから一時間、発動範囲は半径20メートル以内。ちなみに今回は軍団のリーダーがあんな名乗りをしたため、全員にフラグが立ってしまった。

 

 そしてもちろん欠点がある。無差別で発動するので、ヒロインとイチャイチャした後なんかに使ったらフラグごとヒロインをブレイクしてしまう。

 いろいろと使用条件が難しい忍法だ。


 雄介が己の使った忍法について説明していると、左腕を押さえて蹲っていたジャックが立ち上がり叫んだ。


「こんのぉ……ガキがぁ!!」


 右手で剣を抜き、襲い掛かろうとするジャックだったが、雄介が再び指を鳴らすと鈍い音と共に悲鳴を上げ、そのまま前のめりに倒れた。駆け出そうとしたところで足のどちらかが折れたようだ。


「……とりあえずもう大丈夫かな? 思ったよりシリアスムードで疲れたよゴンちゃん。ちなみにこいつ女体化の魔法とかかけたら可愛くならんかな?」

「そんな魔法使えるやつここにはおらん。だいたいお主そっちもいけるクチだったのか?」

「拷問するなら可愛い女の子の方が良いんだよ! 俺は変態という業を背負った紳士だからな!」

「つまり変態じゃろうが!!」


 ぐへへ、と下衆な笑い声が辺りに響く。いつからこの男はこんな風になってしまったのだろうか。


 そんな雄介を見てゴンザレスがポツリと呟く。


「締まらんのぉ……しかし……」



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