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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
北の国『カイド』
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妖精の森

 やっとの思いで砂漠を抜け、森にたどり着いた雄介は水を探し求め森の散策を始めた。


「ヒャッハァァァー!! 水をよこせぇぇーー!!!」


 ハイテンションだ。先程まで死にそうだったのにすごい勢いで走り回っている。少しタフ過ぎではないだろうか。そしてそんな世紀末的な雄叫びを上げながら森の中を探ること数分、雄介はある出会いを果たしていた。


「おい、そこの人間の小僧! さっきから何回も呼んどるじゃろうが! 返事せんか!」

「……」


 ここは妖精の森。人里からここまで来るには険しい砂漠を越えなければならないため、この森には人が訪れることはまず無い。


「無視するでない! 人間の言語に合わせて喋っとるから通じてないわけじゃあるまい!」


 目の前には妖精が飛んでいる。妖精なんてもちろん地球で見ることは無い。そんな存在を目の前にして雄介もさらにテンションが上がる……はずだったが、なにやら様子がおかしい。


「いや……あの……」


 雄介は躊躇いがちに口を開く。


「……なんでそんなことに?」


 この妖精明らかにおじいちゃんな上に見事なスキンヘッドだ。さらにステテコパンツでランニングシャツで腹巻だった。白い口髭と顎髭がふさふさである。

 メルヘンな森の空気をこれでもかという勢いで破壊していた。おかげでテンションは急下降だ。


「……来い、水くらいなら飲ませてやる」

「あれ!? スルー!?」


 その後雄介はツッコミを完全スルーした妖精に森の中心、妖精達の村まで案内してもらい、村の中心から出る湧き水を飲ませてもらっていた。


「いやー! ありがとうねじっちゃん!」

「ふん、礼には及ばん」


 雄介は砂漠を歩く際脱いで肩に掛けていた学ランを尻に敷き、近くにあった切り株に座っている。


「でもあと一歩で死ぬところだったからさぁ、なんかお礼がしたいな」

「いいからお主が何者かを教えんかい! なぜお主は妖精族の言葉を喋っておる! 今では人間で喋れる者などそうはいないというのに」


 そう言われて雄介は首を傾げる。自分では普通に日本語を話しているつもりだからだ。少し考えているとやがて一つの結論に行き着いた。


「俺の名前は猿飛 雄介! たぶんこことは違う世界から召喚された。この森には砂漠を必死に歩いてたら迷い込んだんだ。そして俺が妖精の言葉を話せるのは忍法『自動翻訳』の力だと思う」

 

 忍法『自動翻訳』

 

 雄介が高校一年の時、英語の授業で自分のあまりの英語力の無さに打ちのめされ考案した忍法だ。ここまで来ると忍法要素はどこにも無いのだが、雄介は細かい事は気にしない。

 

 これはありとあらゆる言語の読み書きを可能にしてくれる、という一見優れた忍法だ。ただしこれも欠点がある。

 ……異なる言語で一斉に話しかけられた場合、処理が追いつかず頭に負荷がかかり気絶する。


「じどう……? 違う世界? どういうことじゃ?」

「んーまあ信じられないか。っていうかよくこんな素性の知れないやつをここまで案内したね?」


 雄介はふと疑問に思った事を尋ねてみた。妖精はそれにうむ、と答える。


「ワシは敵探知の魔法が使えるんでな。危険な存在が近くにいるかがわかる。お主には反応せんかった。それになにやら死にそうじゃったし、見捨てる訳にもいかんしな」

「腐っても妖精か……」

「誰が腐っとるか! ええからお主のことを詳しく教えんかい!」


 それから雄介は自分の世界の事、魔方陣でこの世界の上空に召喚された事、それをなぜか使えた自分の忍法で乗り切り、歩いてここまで辿り着いた事を話した。


「それで思うんだ。俺はやっぱり貧乳より巨乳が良い。俺の友達はなぜか怒るんだけどさ、やっぱり小学生はいけないと思います」

「待て待て! 話が逸れとるぞい! 周りには女もおるんじゃから自重せい!」


 確かに周りを見てみると女の子の妖精がいて、顔を赤らめているようだ。恨めしげにこちらを見ている妖精もいる。貧乳だったようだ。

 

 とりあえず雄介は最後に念のため自分に敵意が無いことを伝え、そういえばと妖精に名前を尋ねた。


「そういや、じっちゃんはなんて名前なんだい?」

「おお、失敬。ワシはゴンザレスというものじゃ。この村の長老をやっておる」

「ぶち壊しだ!! ゴンザレスってなんだよ!! アメリカ人でもそうそう見ないぞ!」

「なんじゃ!! ワシの名前を馬鹿にすると許さんぞ!!」


 そして口喧嘩を始めて数分、言いたい事を言って落ち着いた雄介が本題を切り出した。


「なぁ、とりあえず今後俺はどうすればいいかなゴンちゃん?」

「勝手に略すな! ったく……まずお主はどうしたいんじゃ?」

「んー、とりあえず俺は元の世界に帰らなくちゃならないよ。爺ちゃんが待ってるんだ。」

「そうは言われてもこんな相談は初めてでのぉ。そんな事が現実にありえるとは……しかしお主が嘘を吐いてるようにも見えんしなぁ。とにかくまず情報が少ない。そこからじゃないかの?」

「そっかぁそうだよな……」


 うーん、としばらく悩んだ末に雄介は考えをまとめた。よし、と小さく呟いた後、勢い良く切り株から立ち上がりゴンザレスに向かって宣言する。



「俺、とりあえずこの世界を旅するよ! そして情報を集めて元の世界に帰る方法を見つける!」

「……何年、いや何十年かかるかわからんぞ?」

「そんなの知ったこっちゃないね! 何気に憧れてたんだよ。世界中を旅するなんてロマンがあるじゃないか」

「最終的に帰る方法が無かったら……?」


 ゴンザレスのその問いに対して少し溜めた後、雄介はこう答えた。


「……とりあえず腹が減った……まるで、そう……あ、だめだ、思いつかない……」


 そしてそのまま空腹でその場に倒れこんだ。


「えぇ!? ちょっとええ空気じゃったのに!!」


 その後、ゴンザレスに木の実をもらい復活した雄介は、切り株に座り直し、ゴンザレスからの勧めでさらにいくつか木の実を食べていた。


「これ美味いね! なんかリンゴみたいな味がするな!」

「それはピクルの実といってな、ちなみにワシの体重はそれ3個分なんじゃ」

「某有名キャラ!?」


 そして木の実を食べ終えた後、雄介はゴンザレスに向かって口を開く。


「でも何もせずってのはやっぱり気が引けるよゴンちゃん」

「ゴンちゃん言うな。ええんじゃ、困っておる者には無償で手を差し伸べるのが妖精の美徳なんじゃ」

「そっかぁ……なんか出会って一日も経ってないのにほんと世話になった! ありがとな!」


 そう言って雄介は立ち上がり、再度妖精達に礼を言って立ち去ろうとすると、周りの妖精達がざわめき始めた。


「ん? どうしたんだみんな?」

「……どうやら敵が来たようじゃ」

「敵?」


 雄介の問いにゴンザレスが険しい表情で答えた。ピリピリとした空気が周囲からも伝わってくる。


「ああ……しかもこの感じはお主と同じく人間のようじゃな」

「人間か…人間自体はここにはよく来るのか?」

「どれだけ人里から離れとると思っとるんじゃ。人間が最後に来たのなんてお主を除けばかれこれ十数年前じゃわい」

「そうなのか……それで? どうすんの?」


 雄介は周囲の空気を感じ取りながらも、表情と声色を変えずに尋ねた。その問いを受けゴンザレスは大声で周りの妖精に指示を出す。


「ワシが様子を窺ってくる!! お主達は森の奥に隠れておれ!!」


 周りの妖精達はそれを聞き即座に森の奥に移動を始めた。ゴンザレスが意外にしっかり長老しているのを見て雄介は小気味良く口笛を吹いた。


「ゴンちゃん見た目によらずやるねぇ」

「……お主は一体どうするんじゃ?」


 ゴンザレスは怪訝そうな顔で雄介に尋ねた。雄介はズボンのポケットに手を突っ込みながら尚も軽い調子で答える。


「俺はゴンちゃんと一緒に行って、泣き叫ぶ侵入者の目をえぐり取り、少しずつ切り刻んだ後に燃やして土に還すよ」

「思ったよりえぐい!! 様子を窺いに行くだけと言っておろう! お主も森の奥に隠れておれ!!」


 怒鳴ってくるゴンザレスを軽く手で制しながら雄介は笑った。そして全てお見通しと言わんばかりの余裕の表情でゴンザレスに指摘する。


「なに言ってんだよ、戦る気まんまんじゃんアンタ。殺気がだだ漏れだぜ?」

「ぬぅ……」


 指摘されて苦々しく顔をしかめるゴンザレス。そんなゴンザレスに雄介は言葉を続ける。


「俺は強いよ。俺の忍法は最強なんだ。足を引っ張ることだけは無いさ」

「……」


 その言葉を受け、黙りこくるゴンザレスだったが、やがて顔を上げ答える。


「わかった。そうまで言うなら止めんわい。お主にやったピクルの実の分、しっかり働いてもらうぞ」


 雄介はその答えを聞き、にやりと笑った。そして自信たっぷりに言い放つ。


「ああ!! チ○コもぎ取った後、つま先から少しずつミンチにしてやるよ!!」

「やめてあげて!!」



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