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一の札~犬神~その2




「だから、今の時代は絶対ミニスカートよりロングスカートなんだって!ほら、なんて言うの?逆転の発想?まぁどうでも良いけどさ。とにかく俺はロングスカートがフワッ、と風に揺れてなびくその瞬間にこそトキメキを感じるわけよ!おっと、勘違いするなよ?ミニがいけないって言ってんじゃないぞ?たださぁ、もうありふれすぎてると思うわけよ。ちょっと例をあげるだけでもミニスカメイドとかミニスカ教師とかミニスカウェイトレスとかミニスカスチュワーデスとかミニスカ巫女とかミニスカ看護婦さんとかミニスカシスターとかもう何でもかんでもミニミニミニミニ………もうあれだ。今の世間はとりあえず女性のスカートはミニが至高って言う偏見に摂りつかれていると思うんだけどその辺スオっちはどう思う?」

 

「色々言いたい事はあるけど一言で言ってやる。―――――――――」

 

 周防は軽く息を吸い込んで

 

「黙れこのクソメガネ貴重な昼休みに無駄な体力使わせるなつーか三時限目と四時限目が体育でしかもグッダグダの長距離走だったっつーのになんでそんなに元気なんだテメェ!!」

 

 と怨念を込めて言い放つ。

 

「………スオっち、それ一言じゃなくね?」

 

 が、全く効果が見られない。

 お願いだからもうマジで黙ってくれクソメガネ。

 

 そう言うと、周防は力尽きたように机の上に勢い良く突っ伏した。これでも体力には結構自信がある方だが、流石に10キロ以上を無休で走らされれば大抵の男子高校生はこうなると思う。

 周防だけでなく、男子のほとんど(女子はテニスだった)は同じ様に机に突っ伏すか、イスにもたれてうだーってなっているか、もうTPOとかどうでも良くなったのか床にうつ伏せになって寝転んでいる奴もいるくらいなのに、周防に話しかけてきた茶髪の黒縁メガネ(伊達)。通称、伊達メガネの「ガネ」は、とってもハイな(ウザイ)テンションで周防に絡んでくる。

 疲れすぎで頭がかわいそうな事になったのかと思いきや、こいつはいつも、少なくとも学校にいる間はこんな異様なテンションを放っているのだった。それこそ、教師の間で「超問題児(ブラックリスト)」に乗せられる程度には。

 

 こんなのが水泳部の次期主将候補で、事実上水泳部のナンバー2なのだから、周防は思わず神様は何か大きな失敗をしているんじゃないかと考えてしまう。

 

 そんなクソガネは(ただでさえ鬱陶しく感じるのに)周防の両肩に手をやり「なぁなぁスオっち~」と、ユサユサと駄々っ子のように周防の体を揺さぶり始める。

 正直今すぐ顔面をグーで殴って黙らせたいが、今日に限ってはそんな余裕などない。

 なにせこれから、長距離走よりもダルいイベントに参加しなければならないのだから。

 

 

 

 

 

 周防の家に大婆が帰ってきて三日たったある日の夜―――先輩から周防の携帯にとある電話が掛かってきた。内容は当然のように「化け学部(ばけがくぶ)」の事で、なんでも「二日後、化け学部として最初の実習を行う」と言う。

 詳しく話を聴くと、町外れの森に潜む怪異の謎を解き明かしに行くので、放課後現地に集合するようにとの事だった。

 電話越しに聞こえる先輩の声は妙に高く、フンフンと鼻を鳴らしてこの上なくはりきっていたのだが、周防としては正直気が進まなかった

 恐いとかそういうのではなく、理由は単に、子供の頃、その森に入った事があるから。というものだ。

 

 当時まだ子供だった周防は、妖怪が出ると言うその森にちょっとした探検気分で出かけた事があるのだ。

 

 内心ビクビクしながらも草の根を掻き分けながら前へ前へと進み続け、子供ながらにあちこちを調べまわったのだが、当然のように成果はゼロ。

 一日かけて見つけたものは、森の中心に建っていた小さなお堂一つだけ。それも、隠されていたとかそういうのではなく、普通に町の歴史書にも乗っているものでしかなかった。

 それよりも苦い思い出となっているのが、半袖短ズボンで行った事による蚊やアブの被害で、両手両足、顔面にいたるまであちこちを刺されて赤く()れ、見るも無残な事になったのだ。

 

 そんなこんなで、周防はあの森に対して良い思い出がない。適当な理由を付けて断る事が出来ないかとも考えたがなんとこの先輩、自分よりも先に母親にアポを取り、OKを貰っていたのである。

 こうなってはもう断れない。文句を言おうにも、周防はあの普段はおっとりしてる癖に時々鬼子母神のようなオーラを放つ事があるあの母親に頭が上がらないのだった。たしか大婆と物怖(ものお)じせずに会話ができるのも、周防の母だけだったような気がする。

 

 

 ……なんでこんな歳になってまで冒険ごっこをしなくちゃいけないのだろうとも思うが、決まってしまったのだから仕方ない。とりあえず休める時に全力で休んでおこう。英気を養おう。と考えて、鞄からゴソゴソと小さな風呂敷に包まれた弁当箱を取り出そうとして

 

 

 

 

 パサリ。とその拍子に周防の鞄から床に何かが落ちた。

 

 

 

 

「ん?スオっちそれ何?」

 

「は?」

 

 床に落ちた「それ」を、何の気なしに拾い上げてみる。

「それ」は縦十二センチ、横五センチ位の長方形の紙だった。手に取って初め分かったのだが、結構分厚い。画用紙二枚分位はあるかもしれない。

 驚くほど真っ白な色をしている「それ」を、周防は怪訝な目で見つめる。

 

「………なんだこれ?」

 

「しらねーのかよ!」

 

「つって言われてもなぁ。こんな紙入れた覚えねぇし……思い当たる節がねぇ訳じゃないけど……大婆とか」

 

 周防はすぐに大婆のことを脳裏に思い浮かべる。あの人ならば、周防に気づかれないうちに怪しげな物体を鞄の中に入れることも可能だろう。現に、過去に何度かそういった事はあった。具体的に言えば、大量の緑葉りょくようが鞄の中に敷き詰められていたり(明らかに鞄に入る許容量を超えていた)水筒の中身がいつもの麦茶からただの水に変わっていたり………他にも色々とある。

 大婆に、不気味だからやめてくれ、といくら文句を言っても効果がないし、母親に言っても「大婆様のやる事だからねぇ」と、少しも改善される余地がみられない。

 まぁ、と言っても変な文字(というか呪文)も書かれて無ければ特に変わった材質でもなさそうなので妹が工作に使った画用紙が紛れ込んだという線も無くはないのだが。

 

「ああ。大婆ってスオっちんちの婆さん?不思議な術を使うとかっていう……たしか妖怪なんだっけ?」

 

「……テメェはもう少し「気」ってモンが使えないのかクソメガネ。つーか人の親戚を勝手に妖怪(ばけもの)扱いしてんじゃねぇテメェとからんでるだけで俺まで先生達に(悪い意味で)注目されてんだぞ!!」

 

「えー?でもでも、若い頃はメッチャクチャ美人だったって聞いたぜ?それこそ待ち行く人々老若男女が思わず見惚れるような大和撫子で、毎日毎日デートのお誘いがあって大変だったって」

 

「人の話を聞けボケ馬鹿ゴルァア!!何でいきなり明後日の方向に話題が飛んでんだ!?」

 

「いや、スオっちが「気を使え」って言ったから」

 

「誰が「大婆に」気を使え、なんて言ったよ!?「俺に」気を使えよ!!ってか、そもそもその大婆の過去バナって誰から………」

 

 直後、聞かなければ良かった、と周防は後悔した。

 

 

 

 

「誰って―――――――――大婆さん本人だけど?」

 

 

 

 なんでもない風に、なんの躊躇いも無く、少しの配慮もせず言い放ったメガネに、その証言に、周防はわりと本気で頭を抱えた。

 


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