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Uー20  作者: 壱厘
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元親友と幼なじみ

 三年前の戦争、その戦場となり今もまだ廃墟として放置されている街の中に俺たちは集まっていた。今日はここで〈解放軍〉の臨時会議が開かれるのだ。


 〈解放軍〉。

 俺たちを兵器のように扱う帝国に対抗し、俺たちは戦争での魔法の不使用を求めて戦っている。〈解放軍〉の指導者(リーダー)は姫、もとい天川(あまかわ)真珠(しんじゅ)。俺の隣りで難しそうな表情をして黙りこんでいる少女だ。ちなみに俺、左川(ひだりがわ)柾人(まさと)は姫の護衛兼補佐のようなものである。


「どうしたんです、真珠さん?

白のことでも考えているんですか?」


 一応疑問形で聞いたものの、ほぼ確信していた。姫は帝国軍に残ったあいつの幼なじみだ。そして、今日話し合われるのは「獅子神白による被害とその対策について」。ようするに、白を殺すための話し合いなのだ。これは考え込みたくもなるだろう。


「ん……まあ、ね。だって変でしょ?

 私たちは、みんなが戦わなくてもいいようにってがんばってるんだよ。なのに私たちが、邪魔な人を殺そうとしてる。

 別に、しろだからとかそういう訳じゃない。今現在帝国軍にいるみんなは私たちと同じ立場で、だから護ってあげたいのに、実際には傷付け合ってる。

 どうすればいいのか、分かんなくなっちゃうよ……」


 だからしろも、一緒に来てくれなかったのかな――姫の、小さな呟きは微かに俺の元に届いて、そして消えていった。

 俺たちが帝国軍を脱走した時、当然のように姫は白に共に行こうと誘った。しかし、あいつはそれを断わった。

 理由は姫や白の元親友である俺でも知らない。何か深い理由があるのかと聞いても、あいつは何も答えなかった。

 意味なくそんなことをするとは思えない。ただ、姫を悲しませたことが俺はどうしても許せなかった。だからその日から、俺はあいつを「元親友」と呼ぶようになったのだ。


「俺は真珠さんのやってることが全て正しいとか、そういう風に保障することはできません。

 けど、俺はどんな場合でも、真珠さんを選びます。俺は、いつでも真珠さんの剣ですから」


「ち、ちょっと、なんてゆーか、真顔で言われると恥ずかしいかも……。

 嬉しくないわけじゃないんだけどっ!」


「そうですか? 別に俺は恥ずかしくなんかないですよ。正直な俺の本心ですから」


 姫はぱたぱたと顔の前で手を振った。本当に恥ずかしいらしい。俺と姫の二人きりなのだし、そこまでだろうか?

 ちなみに、俺と姫は付き合っているわけではまったくない。俺は完璧に姫に惚れているが、姫は単純に友達とかそんな感じにしか思っていない。悲しいことに、まだ姫のなかでは白のほうが重要らしい。こちらもあくまで友人らしいが。


「そういえば真珠さん、どうして白なんです?」


「ふぇっ? どういうこと?」


「いえ、帝国軍でも白は強い方です。けれど、実際、原形六人の明石とか白の部下の犬道とかのほうが直接被害は大きいですよね?

どうしてここで白の話になるのかがわからなくて……」


「ええとね、朝顔くんの部隊〈イスナ〉に羽場くんって子がいるんだけど、知ってる?」


湖陰(こいん)さんの……?

うーん、知らないですね。白と何か関係があるんですか?」


 湖陰朝顔は〈解放軍〉の一部隊である〈イスナ〉を預かる寡黙な青年だ。俺の一歳年上で、その確かな実力で部隊員からの信頼も厚い。もちろん俺や姫も彼を頼りにすることはままある。


「うん……一週間くらい前に、見回りに出ていた羽場くん達が行方不明になったの。それで調べてみたら、しろが羽場くん達を捕まえたらしいって魔法に出たんだ。羽場くん達は隠れ家の場所とかも知ってるし、何よりみんなが安心できるように急いで救出しなくちゃでしょ?

 その上で最も障害になるのは誰かって話しらしいよ」


「だから白ということですか。無理に戦う必要もないのに。危険因子を消しておこうとでも? そう簡単にどうにかできる相手じゃないことくらい、わからないんでしょうかね。

 誰が言い出したのか教えて貰いたいものです。こんな馬鹿な話。実際に手を下すのが誰だか聞いてみたいですよ。

 本当に嫌われてますね、獅子神白は。流石は『裏切り者』といったところでしょうか」


 <解放軍>はみんなを助けるためのものだった筈なのに。ただ誰かを助けるということに必死になれなくなってしまったのは、いつからだろう。

 同じ三年前の戦争の被害者でありながら憎むべき帝国軍に留まった白に、見当違いの怒りを向けるものは多い。選択は自由だというのに。まあ、立場上彼らを一概に否定することもできないのだが。


「……かつての仲間と刃を向け合っているのは、俺たちも同じなのに」


 そう、否定はできない。白に殺された仲間だって大勢いる。けれども、一方的なその主張に怒りを覚えることもあるのだ。

 元であれ、俺の親友なのだから。


「ねえ柾人、しろが死んだら嬉しい?」


「そんなわけ、ないですよ。でも……」


 もし俺があいつを殺すとなれば、躊躇なく首を落とし、その心臓に剣を突き立てるだろう。姫の目指す未来、すなわち俺の目指す未来の邪魔にしかならないから。

 そして白も、その時がくれば同じ選択をするだろうから。


「私もきっと柾人と同じこと考えてるよ。

でもね、そんな日が来ないといいと思う。だって、嫌だよ……しろ

は、大切な友達だもん。

ねえ、柾人……ダメだよね。私は<解放軍>のリーダーだから。こんなこと考えちゃダメだよね。

でもっ……」


 姫の言葉とほぼ同時に、一人の少女が部屋に入ってきた。古風な家政婦装束、というよりは所謂メイド服を身に纏っている。


「リーダー、会議の準備が整いました。部隊長の皆様がお待ちです」


「う、うん。分かったわ。わざわざ呼びにきてくれてありがとう」


「い、いえっ、リーダーのお役に立てたなら本望です!」


 姫がやや緊張で顔を強張らせつつ、それでも笑顔で少女に礼を言うと、少女は恐縮しながら部屋を出ていった。幸い、話は聞かれていなかったようだ。問題ないと思うが、姫は聞かれたくない話だったろう。

 少女の様子はオーバーリアクションに思えるかもしれないが、〈解放軍〉ではあれが当たり前だ。俺も脳内では姫なんて呼んでるしな、と小さく呟く。


「真珠さん……」


 俺は少し不安になって、呼びかけてみる。俺と同い年の少女はどれだけのものを背負っているのだろうか?

 姫は俺の声が聞こえなかったかのように歩き出し、表面上は元気いっぱいで俺を呼んだ。


「よし、じゃあ行くよ柾人!

今日はこれから長いと思うけど、精一杯がんばろっ!」

 基本的にこの作品は一人称の、視点が切り替わる形で書いていこうと思っています。こちらの方が、文章トリックのようなものがやりやすいと思うので。分かり難くならないようには注意します。

 書き方のアドバイス、感想お待ちしています。


次回投稿は一週間以内には行います。


<次回予告>

 二人の会話に出てきた人物の一人が登場します。<魔法>についても少しずつ明らかになっていきます!


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