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光の姫巫女  作者: 水月華
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act.1



 星が、(きらめ)いた。

 太陽が地平線の彼方に姿を隠し、夜闇が世界を覆い尽くしてから、既に幾許(いくばく)かの時が経過していた。

 数時間もすれば世界に朝が訪れ、また夜が巡り来る。

 それは不変であり、過去から現在へと続く世界の(ことわり)


「――それで、本当にここなのであろうな?」


 暗闇の中、男の胡乱げな声が響く。 


「ええ、ここで間違いないはずです」


 もうひとりの男が、彼の問いに答えるように大きく頷いた。

 確信に満ちた答えに満足したのか、最初に口を開いた男はそのままもうひとりの男にいくつかの指示を出す。

 もうひとりの男はすぐさま片方の手の平を上に向け、何事かを呟いた。

 すると、彼の手の平の上方に光の球体が出現し、ぼう、と周囲を照らし出した。

 光の球体を出現させた男は、眼鏡をかけており、ローブのようなものを着込んでいるようだった。

 指示を出した長髪の男は眼鏡の男よりも長身で、華美ではないが上質な服を身に纏っている。

 どちらが上の立場にあるかなど、誰に言われずとも明白だった。


 彼らがいるのは、ある寂れた教会の前。

 外壁はところどころ崩れ落ちており、蔦が絡まっている。入り口であろう木製の扉も朽ちかけていて、この場所が長い間使われていなかったことを物語っていた。

 彼らの姿はあまりこの場所に似つかわしくないが、幸運なことに、この場にいるのは彼ら二人のみ。彼らの動向を見守る者など、誰一人としていないのだ。


「あと、どれほどなのだ?我とて暇ではない。そう長くは待てぬぞ」

「既に前兆は現れています。夜明け前には結果が出るかと」

「ふん、長い話だ。――だが、待つ他あるまい」

「ええ……ようやく、ですからね」


 ここで会話が途切れ、静寂がその場を支配する。しかし、彼らにとっては瑣末なことだった。

 もうすぐだ。もうすぐ、待ち侘びた“彼女”が現れる。

 それは神に愛されし者。

 世界の、光。


「光の、姫巫女――」


* * * * * *


「……え?」


 誰かに呼ばれたような気がして、望月(もちづき)陽菜(ひな)は後ろを振り向いた。

 振り返った先には誰もいない。ただ見慣れた風景がそこにあるだけだった。


「なあんだ……気のせいか。そりゃそうだよね、ここには私しかいないんだし」


 陽菜は肩にかけていた鞄をかけ直し、ぐるりと周囲を見渡した。

 今年の春から大学生となった彼女にとって、ここはアパートと学び舎を繋ぐ通い慣れた道でしかない。大通りからやや外れた位置にあるこの路地は、夕方になれば人通りも少なくなるので、一人で帰ることを寂しく思いはすれど、誰もいない状況を不思議に思うことはなかった。


「でもやっぱりここ一人で帰るのやだなあ。ううっ、やっぱり友里(ゆり)と一緒に帰れば良かったかも!」


 友里、とは陽菜が大学に入ってから仲良くなった友人である。

 彼女と陽菜のアパートは比較的近い位置にあるため、二人で帰途につくことが多いのだが、今日に限って別々になってしまった。先程の出来事もあり、仕方が無いこととはいえ、悔やまれる。


「うん、早く帰ろう。正直ちょっと怖かったし!」


 そう呟くと、陽菜は止まっていた足を動かし足早に家路につく。

 しかし、しばらく進んだところで、突然の頭痛が陽菜を襲った。


「――っ!?」


 思わず足を止めて痛みが過ぎ去るのを待つも、ズキズキと脈打つようにやってくるそれは一向に引いてくれず、それどころか徐々に強くなってきている気がする。

 たまらずその場にしゃがみ込むと、陽菜は頭を抱えたまま苦しげに息を吐いた。


「は……っ、一体、どうなってるの……?こんなの、今までなかったのに……っ!」


 このままでは帰宅するどころか、立ち上がることすらできそうもない。

 誰かが通りがかることを期待して痛みに耐えながらも顔を上げた陽菜だったが、眼前に広がるのは見慣れた路地ではなかった。


「……えっ!?な、なに、これ……」


 視線の先にあったのは、ぐにゃりと歪んだ世界。比喩的表現などではなく、文字通り景色が歪んでいるのだ。

 頭痛のせいで意識が朦朧としているのかと思い、急いで辺りを見回してみたが、どこを見ても結果は同じだった。


「なん……で!?やだ、やだよ!なんなのこれ!」


 一体何が起こっているのだろう。

 理由すらも考え付かない今の状況が恐ろしくて、陽菜は泣き出しそうな表情で震える自分の体を抱き締めた。

 その瞬間、陽菜の体全体が光を帯び始める。


「えっ!?」


 驚愕に目を見開き、陽菜は自分の体を見下ろした。

 そこで、陽菜は光っているのが自分の体だけではないことに気付く。

 陽菜の足元を中心にして光の輪が出来始めていたのだ。それは徐々に広がっていき、直径一メートルほどの大きさの円になった。円の中心には五芒星が描かれている。

 それを陽菜が確認すると同時に、陽菜の体と足元の光がいっそう強く輝き始めた。


「きゃあああああああっ!」


 視界が、光に呑み込まれる。

 その光に耐え切れず、陽菜はそのまま意識を手放した。


 ――遠のいていく意識の中、誰かが自分の名前を呼んだような気がした。

異世界トリップ&逆ハーレムが好きすぎて始めてみました!

設定不足等あると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。


今回はプロローグ的なものですね。

逆ハーレムになるのはまだまだ先ですが、少しずつ甘くしていきたいと思います!

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