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拝啓、目が見えなくなった僕へ

今はただガラスの扉を閉めて、

僕の目に映らなくなった君はどうなってしまったのかな。


僕の名前は陽太。

僕のヒロインの名前は月ちゃんだよ。

混ざり合う僕らが変わる物語。

とくとご賞味あれ。


あれはそう、いつだったか。

春の日差しが眩しくて、あったかい日だった。

僕の目に一輪の花が映り、僕の世界は変わり始めた。

いい意味にも、悪い意味にもね。笑


どこから話そうか。ああ、ここにしよう。

あの日はそう、入学式から一週間経った日だった。

無邪気に笑う君を見つけた僕は、陽気のせいなのか君を目で追いかけていたんだ。


ああ、これは陽気のせいだね。

だって僕は、人を好きになったことも一目惚れもしたことないんだから。

変わるなんて、思ってもいなかった。

たまたま陽気に照らされて、こんな気分になったんだろうな。

そう思っていた。


まあいいんだ。

今日から少しずつ思い出としよう。


話しかけようとしたけど、ああ、まだ知り足りない。

やめよう。毎回こんな展開だ。

僕は君と話してみたいけど、君の周りには人が多すぎて、僕は嬉しくなるよ。


ああ、君ってふわふわした花みたいだなあ。

僕の目に虹がかかるようだよ。


ずっと見ていたのが気づかれたのか、目がぱちりと合う。

普通は逸らすのだろうけど、僕は見惚れていたんだ。

見つめ合った時間はコンマ一秒にも満たないかもしれないが、僕の中では無限に時間が流れているようだった。


くだらな。


そう聞こえたんだ。

周りを見ても、誰が言ったかわからない。

僕は嫌な気分になって、机に突っ伏した。


君と関わり始めた時の話をしようか。

あれはそう、結構月日が経った夏だったよね。

暑くて暑くて、寒かったりもしたなあ。

思い出すだけで楽しくなってさ。

一生忘れられない思い出だよ。


「ねえ、あなた、いつも私のこと見てるよね?」


月が話しかけてきたんだ。


「え!そんなことないよ!僕はただ……そう!窓の眺めを見てただけだよ!」

「嘘ばっか。じゃあ、なんで毎回目が合うのかなー?」

「えっと、それは……」

「ほら、やっぱり!なんで毎回見るの?私の顔変?なんかついてたりする?」

「え、いや、あの……」

「なに?はっきり言ってよ。気になるじゃん」

「見惚れちゃってたんだ」

「え?そうなの?笑 私、面と向かってそんなこと言われたの初めてだよ。嬉しいこと言ってくれるね。えっとー、陽太君だよね?」

「僕のこと知ってたの?」

「そりゃー、毎回目が合ってればね?笑 ほら!次の移動授業遅れちゃうよー?可愛い私が一緒に行ってあげよっか?」

「いや、いいよ。行こ!」

「何それ。笑 いいって言って、行こって言ったり変なの。笑」

「あはは、暑いからおかしくなったのかも」

「まあいいや。行こっか」

「ああ!うん!」


昼休みに君は言ってきた。


「そういえばLINE交換しよーよ。してあげるよ、特別に。笑」

「え、まじ?嬉しい!」

「喜びすぎでしょ。笑 面白い」

「そりゃーね、嬉しいよ」

「よし、おっけー!じゃ、じゃーね」


あっさり終わったなあ。

まあ、交換できて嬉しいなあ。

でも、なんか苦しいなあ。

疲れてるんだな、きっと。


あれからちょくちょく話すようになって、LINEでも話すようになった。

俺としては面倒くさいような気もする。

なーんてね。僕はそんなこと思ったりしないけど、ふと考えたりもしちゃう時ってあるよね。


さてさてさて。

月日は変わって文化祭の時期だ。

あの時期って、ほら、楽しいような辛いような?

みんな、みんな、みんな、混ざり合うような感じで、俺としては見ていて心地いいんだよなあ。

続きを見ていこうか。


「ちょっと待って!材料足りないじゃん!」

「うわー、ほんとだー。だるすぎだろー、おい」


賑やかなクラス。

そんな中、僕はみんなを見つめていた。


楽しそうだなあ。

僕も入れてもらおっかな。


鬱陶しい。きもいな。


なんだ?またこの声だ。

なんで僕に毎回悪口を言うんだろう。

面と向かって言ってくれた方が楽なのに。

みんなが明るいからって、聞こえないように言ってくるのはタチ悪いよなあ。


まっ、いーや。

僕は僕のすることをやるだけだし。


「あ、ねえ陽太、材料ないから買ってきてよ」


ふと月に言われる。


「えー、僕今看板作ってるのに?」

「あー、わかったわかった。一緒に行けばいいんでしょ」

「え、まあそれならいいかもな」


心の中でつぶやく。


「えー、なになに?月、陽太君と仲良いの?」

「詳しく聞かせてよー」


野次馬がわらわらと湧いてくる。


うわあ、月かわいそう。

僕のせいでごめんねえ。笑


滑稽だな。これだからたまらない。


後ろから聞こえた。

後ろには男子の軍団、いわゆる一軍の奴らがいる。

笑いながらこっちを見ていたりして、僕は心底呆れた。


やっぱりこいつらだったのか。

なんで陰口なんだろう。


はーあ、まあ楽しいからいいや。

月と買い物に行けるなんてね。


スーパーに寄って話す僕ら。


「そういえばさ、陽太って私のこと好きなの?」


急にふっかけられた。


「え、急だね。まあ好きではあるよ。一目惚れしたしね」

「ふーん、そうなんだ。私、今フリーだからチャンスかもねー」

「え、それは僕に狙えってこと?」

「自分で考えたらどうなの?笑 一目惚れ君。笑」


毎回毎回煽ってくる月を見て、僕はいつの間にか恋に落ちていたようだ。


「ああ、じゃあもう今言うよ。タイミングとかムードもへったくれもないけど、僕は月が好きなんだ。僕と付き合ってよ、月」

「やっと言った。意気地なし」


ふいっとそれだけ言って、月は去っていく。

返事をもらえない僕。

風が吹いて髪が揺れ、少し顔が見えた月は肌が白いが頬が紅く、まるで雪の中に光る紅葉のようだった。


スーパーから帰ってきた僕たちに待っていたのは、疲れ果てて倒れていたクラスメイトたちだった。


月は思わず言った。


「え、なにこの景色。地獄絵図じゃん。笑」


その一言でみんな目が覚めたのか、


「何が地獄絵図だ!」

「聖域とでも呼べよ!」

「そーだそーだ!」

「てか聖域ってなんだよ。笑」


と、ふざけ合ういつものクラスに戻っていた。


月の影響力はすごいなと、改めて僕は思ったんだ。

僕はこの景色を見て、ふとどこかで見たような、懐かしい思い出と化していた記憶を少し見たような気がした。


付き合ってからというものの、付き合ったのか?

月は前みたいに煽るのではなく、むしろ逆の、甘えてくるタイプになっていた。


まさかの付き合うとデレデレタイプなの?

あんなにツンツンしてたのに変わりすぎだろ!


と、一人でナイスツッコミをしていた時、月が来た。


「何一人で動いてるの?笑」

「う、いや、これはただ運動してただけだよ」

「嘘ばっかり。笑 陽太のことはよくわかってるから、嘘は私に通じないよーだ」


ああ、やっぱり可愛いな。

愛しささえも覚える。


でも、なんだろう。

今は気持ち悪い。

気分が悪いんだ。


吐き気を催して、すぐさまトイレに駆けつける。

トイレから出たあと、月は心配そうに僕を見つめて抱きしめてくれた。


懐かしいような気持ちと、壊れたような気持ちが出た。


やっと来た文化祭は、お化け屋敷、わたあめに射的、縁日とか、色々月と回ったんだ。


でも僕は途中から気分が悪くなって、月に慰められても癒されるどころか、吐き気は強くなる一方だった。

月は仕方なく、友達と回ることにしてもらった。


なんだろう。

最近俺は冷たくなってるような気がする。

俺の周りが凍るような、そんな気分ですらある。


最近頭の奥が痛む。

ガラスにヒビが入るような音が聞こえた。

気のせいだろう。


僕は気づいたら保健室のベッドで眠りについていた。

帰りに月とアイスとか買って、一緒に帰った。

そんな、回れなかった辛い思い出だ。


こうして僕の楽しい文化祭は終わった。


文化祭が終わってから、普通の日々がやってきた。

退屈な授業、退屈な時間。

だけど隣の席が月なのが唯一の救いだ。


月はこっそり僕に紙を渡してきたり、イタズラをしてきたり、とても面白かった。


放課後、一緒に帰っている時、月に前見た映画の話をした。


「え、見たっけ?やばい、全然記憶ないんだけど」


月はポカンとして、はしゃいでいた。

月らしいなと思って、その日はそのまま話して帰った。


初めて月の家に行った日。

月の家族が優しく歓迎してくれて、僕はとても嬉しかった。

犬にほっぺを舐められたり、月のお母さんのご飯の味は、今でも忘れられないいい思い出だ。

できるなら、もう一度食べたいと切に願う。


月とは遊園地にも行ったね。

僕は絶叫系弱いの知ってるくせに引っ張って

無理やり乗せるんだもん

死にかけの僕に大爆笑してる月

そのあと2人して笑い合ったっけ

幸せな思い出だったなあ

できればもう一度だけ戻りたいよ

幸せだったよな月


さあ、ここまでのお話はお楽しみいただけたかな?

ここからは付き合ってちょうど六ヶ月、冬のさむーいさむーい、世間一般的には楽しい時期のお話だ。


あの時の俺は気づかなかったんだ。

サンタクロースの存在とかね。

まあ無駄話はよして、次に行こう。


「あーさっむ。まじ寒いね、陽太」

「ああ、そうだな、月」

「なんか最近、陽太男らしくなったよね。前まで月ー!って感じだったのに、今は余裕みたいな感じー?このこのー!」

「はは、まあ付き合って半年もすれば変わるだろ」

「まあねー。でもなんだか最近冷たいような気もするけどね!」

「あはは、寒気のせいだろ。苦しいのはきっとそうだよ。俺も最近寒くて苦しいから」

「そんなもんなのかなー。あ、ここまででいいよ。今日もありがとね、家まで送ってくれて!」

「ああ、じゃあまた明日学校でな」

「ねえ、陽太?」


変にもじもじしている月。

どうしたんだろうか。


「ああ、どうしたんだ?」

「好きだよ。大好きだからね」

「ああ、知ってるよ。ありがとな。じゃあまた学校でな」

「あ、うん……」


やっぱり最近の陽太はおかしい。

なんであんなに冷たいんだろう。

まさか倦怠期かな?

えー、どうしよう。辛いなあ。


陽太を目で追いかけて、月は家に入った。


そういえば。


ずっと前から頭の奥で何かが軋む音がしていた気がする。

気のせいだと思っていた。


だけどあの日。


確かに何かが割れる音がした。

そこから先の記憶が曖昧なんだ。

何をしていたのか。

思い出そうとしても霧がかかったみたいに思い出せない。

まるで夢の中を歩いているように。


ふと目が覚めた時には、月は変わっていたんだ。


「あ、おっはよー!よーた。今日もかっこいいねえ。今日は撫でてくれないの?」


なんだろう、これは。

なんでこんなに甘えているんだろう。

てか、よーたってなんだ?

初めて聞いたぞ、そんなこと。

話し方も甘くて、色っぽい声になっているし。

どうしたんだろう。


クラスに行くと、明るいクラスはなく、しんとしている。


あれ?

寒気のせいかな?

みんな暗いような。

たまたまかな?


ふと、こそこそ話している声が聞こえる。


「最近、陽太怖いよな」

「どうしたんだろうな」

「昔は優しかったのに、今は怖いよな」


そんな話し声が聞こえた。


そんな日々が一週間続いたある日、僕は教科書を忘れて隣の子に話しかけた。

隣の子はひどく怯えたような顔でこっちを見て、教科書を渡したきり机に突っ伏していた。


流石におかしいと思った僕は、月に聞いてみた。


月は、


「何言ってるの?いつものことでしょ、よーた」


と、意味のわからないことを言い、僕は頭が混乱していた。


「あ、そういえば今日も家来るでしょ?」


月にそう言われ、何かが引っかかったが、家に行くことにした。


家に着くなり、月の家には誰もおらず、

「お茶入れるから待ってて」

と、次の部屋で待たされた。


見渡すと、机に一つのノートがあった。

開いてみると、それは日記帳だった。


悪いと思いつつ覗いてみると、


四月二十四日。

いつも目が合う男の子に話しかけてみた。

その子はおどおどしていて、見ていて面白かった。

一目惚れと言われてびっくりした。

昼休みにLINE交換した。


五月五日。

今日までずっとLINEが続いている。

学校でも普通に話すようになって、少し私が意識しているのかもしれない。


六月七日。

文化祭準備で材料が足りなくて、陽太と買い物に行った。

陽太は焦ったいから、早く告白させようと唆した。

結果告白されて、私はとても嬉しかった。


九月七日。

最近陽太はおかしい。

前まで僕とか言っていたのに、急に俺とか言い始めた。

男の子だから心境の変化かな?


十二月二日。

陽太は変わった。

様子がおかしいし、私のことを私として見ないで、まるで何かがそこにいるかのような目で見ている。

とても怖い。

どうしたんだろう。


十二月十日。

最近陽太が怖い。

話しかけてもどこか違う人のよう。

私が好きなのは陽太なのに。


十二月十五日。

今日泣いてしまった。

いつもなら慰めてくれるのに、

陽太は笑って私をみていた。


十二月十九日。

最近は陽太のことじゃなくて、

よーたのことばかり考えている。


なんでだろう。


でも、考えるだけで苦しくて幸せ。


十二月二十二日。

あたしが好きなのは、よーたって気づいた。

なんで早く気づかなかったかな。

早く会いたい。

早く声を聞きたい。

全てが愛しい。

明日が楽しみ。


なんだこれ。

僕にはこんな記憶はない。

むしろ楽しい記憶しかないはずだ。

混乱して眩暈がする。


そんな時、月が入ってきた。


「あれ?これ見ちゃったの?よーた。もー、悪い子だなあ。それはあたしの秘密のノートなのに」


話し方も変わっている。

慌てて僕は逃げようとしたけど、足がもつれて転んでしまった。


「何してるの?今日のよーた、おかしいねぇ」


うすら笑う君の顔が、とても恐ろしい。


「君は誰なんだ!」


思わず叫んでいた。


「あれ、もしかして変わっちゃったの?あたしを変えたのは、よーたでしょ?覚えてるよね?あたしたちは同じなんだから」


頭痛が響き、声が聞こえた。


そうだな。

俺とお前は同じ。

そこにいるお前も同じなんだよ。


一瞬記憶が蘇った。

いや、蘇ったんじゃない。

流れ込んできたんだ。


泣き叫ぶ月と、笑う俺。


「もっと好きって言えよ」


と、僕ではない声が叫んでいた。


全て思い出した僕の目の前の景色は奈落。

周りが何も見えない。

声はする。

どこかで僕を呼んでいる声が。


僕が眠っている間、僕じゃない何かが生きていたのか。


だけど僕の目には、もう何も映らない。

君ももう、知らない別の何かへと変わり果てた。

僕の知っている月はもういない。

僕ももう、僕じゃなくなった。

世界が見えなくなった。


あたりは真っ暗。

まるで奈落だ。

どこを見ても、何を見ても見えない。


そんな僕の世界。


ああ、今どんな気分ですか?


拝啓、目の見えなくなった僕へ。

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