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シンクロニシティ

作者: 新里泰久
掲載日:2026/05/16

「今日も、まったく同じ色だ……」(……これで今週に入って5回目だ。偶然で済ませるには、さすがに確率がおかしすぎるだろ)


満員電車の揺れに耐えながら、僕は目の前の光景に息を呑んだ。

僕が今日締めているのは、少し派手なマスタードイエローのネクタイだった。


そして、目の前の座席に座る女性が広げている文庫本のカバーも、寸分たがわぬマスタードイエローだった。

窓の外を流れる景色も見ずに、僕はその鮮やかな黄色を凝視した。

心臓の鼓動が、電車のガタゴトという走行音よりも大きく響いていた。


「それは気のせいじゃないのか?」(……サトシはそう言うけど、マスタードイエローのネクタイと文庫本カバーが被る偶然なんてあるかよ)


同僚のサトシが、会社のデスクで缶コーヒーを片手にニヤニヤと笑った。

僕が真剣に悩んでいるというのに、こいつは他人事だと思って面白がっている。

窓の外からは、初夏の眩しい太陽の光が差し込んでいた。


「お前が自意識過剰なだけだよ、きっと」(……いやいや、月曜は青、火曜は緑、水曜は赤。全部、僕のネクタイと向かいの席の彼女の小物が一致してるんだって!)


サトシは呆れたように肩をすくめ、パソコンの画面に目を戻した。

だが、僕には彼女に後をつけられた記憶もなければ、彼女の家を知っているわけでもなかった。

ただ毎朝、同じ電車の同じ車両で向かい合うだけの関係だった。


「だったらさ、明日は絶対に誰も持っていないような変な色のネクタイで行けよ」(……なるほど、その提案は悪くないな。彼女がストーカーかどうかも、それでハッキリするはずだ)


サトシは親指を立てて、悪戯っぽいウィンクをしてみせた。

確かに、それが一番手っ取り早い確認方法、いや、偶然かどうかの証明になるはずだった。

僕はその日の仕事帰り、紳士服店に立ち寄って、普段なら絶対に選ばないネクタイを買った。


「よし、これならどうだ」(……こんなド派手な色の小物を、普通の女の子がパッと持ち歩いているはずがないもんな)


クローゼットの前で、僕は目がチカチカするような蛍光ピンクのネクタイを締めた。

鏡に映る自分の姿は、どう見ても怪しいパーティーの司会者のようだった。

僕は少しの気恥ずかしさを覚えながら、いつものように家を出た。


「あ……」(……うわ、マジかよ! 彼女がバッグから取り出したの、ネクタイと全く同じ蛍光ピンクのマイボトルじゃん!)


向かいの座席に座る彼女を見た瞬間、僕の心臓がドクンと跳ね上がった。

彼女はいつも通り、静かにそこに座して僕をチラリと見た。

僕は鳥肌が立つのを感じながら、彼女が電車を降りるのをじっと待った。


「あの、すみません!」(……あー、ついに言っちゃったよ。後悔してももう遅い、突き進むしかない!)


僕は意を決して彼女の後を追い、少し早足でその背中に声をかけた。

彼女は驚いたように足を止め、ゆっくりと僕の方を振り返った。

駅のホームを行き交う人々の雑音が、急に遠ざかったような気がした。


「はい、何でしょうか?」(……あれ? 全然警戒されてないぞ。むしろ僕が声をかけるのを待っていたような顔をしてる?)


その目は丸く見開かれていたけれど、すぐに悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた。

僕は一歩踏み出し、胸元の蛍光ピンクのネクタイを指差した。

心臓がバクバクと音を立てるのを自覚しながら、僕は彼女に問いかけた。


「毎朝、僕のネクタイとあなたの持ち物の色が同じなのは、どうしてですか!」(……よし、ストレートに聞いたぞ。さあ、どんな言い訳でも聞いてやる!)


彼女は僕のネクタイを指差し、楽しそうにクスクスと笑った。

そしてバッグから、僕がモニター応募した企業の社員バッジを取り出した。


「それ、周囲のデバイスと波長を合わせて、自動で色を変える『感情同調型スマートウェア』なんです」(……ええっ!? じゃあネクタイ側が彼女の持ち物の色を読み取って、勝手に変色してたってこと!?)


僕が毎朝「今日はこの色」と選んでいた感覚すら、ネクタイの脳波誘導だった。

すべてがひっくり返った衝撃に呆然とする僕に、彼女はさらに一歩近づいた。


「でもね、この機能、持ち主と対象の『心の相性』が95%以上一致していないと発動しないんです」(……え、それって、僕と彼女の相性が運命レベルで最高ってことじゃないか!)


彼女の顔が、夕焼けのようにほんのりと赤く染まっていくのが分かった。

不気味だった日常の謎は、一瞬にして甘い奇跡へと変わった。


「実験は大成功です。……ねえ、明日の朝も、同じ色にしてくれますか?」

(……最高のハッピーエンドじゃないか! 明日の朝が、今から待ち遠しくてたまらないよ)


彼女は上目遣いで僕を見つめ、嬉しそうに微笑んだ。

僕はしっかりと頷き、彼女の手をそっと握りしめた。

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